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こんな悪女はお嫌いですか?  作者: フオツグ


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3/5

「貴方様の隣に立つだけで心が踊って」

 俺の元に舞踏会の招待状が届いた。

 社交場から離れた俺に毎回律儀に招待状を送ってくる、奇特な人からだ。

 いつもなら直ぐに欠席する旨を伝えるのだが、今回は違った。ローゼの本性を暴く、絶好の機会だと思ったのだ。

 俺は主催者に許可を得て、準備を進めた。



 舞踏会当日。

 俺はローゼと共にダンスホールへ足を踏み入れた。

 ローゼは俺の左腕に腕を絡ませ、俺を見上げて言った。


「まさか、貴方様が舞踏会へ参加されるとは思いませんでした。パーティーはお嫌いだと聞いていましたので」

「フン。たまたまそういう気分だっただけだ」


 俺は冷たくそう返した。


「この舞踏会に私の義妹(いもうと)が来るか確認してましたね」


 俺は驚いて、ローゼを見た。ローゼは微笑みを消し、じっと俺の顔を見つめていた。

──今日の計画がローゼに知られている? どこから漏れた? いや、それよりも、どこまで知られている……?

 俺とローゼは暫く見つめ合い、腹を探り合う。

 すると、ローゼはパッといつもの微笑みを顔に貼り付けた。


「ふふ。少し妬いてしまいますね」


 結局、ローゼが俺の計画をどこまで把握しているのかは探れなかった。だが、今更あがいても遅い。準備は万全だ。


「──ミイラ公爵だ」


 そんな呟きが俺の耳に届いた。


「彼が社交場に出て来るなんて珍しい」

「隣にいるのは義妹を散々いびった挙句、殺人未遂までした悪女だとか」

「金を出して迎えた嫁がそれでは、ミイラ公爵とはいえお気の毒ですね」

「愛のない夫婦でも顔さえ良ければ救いがありましたのに。公爵のあの顔では……ねえ?」

「因果応報とは正にこのこと」


 こそこそ、くすくすと俺達を見ては笑っている。相変わらず、噂好きな連中だ。全く嫌になる。


「ローゼお義姉様! お久しぶりですね!」


 空気を読まずに話しかけてきたのは、人懐っこそうな少女。ローゼの義妹──ライラックだ。

 彼女の横にいる不服そうな顔の青年はローゼの元婚約者だろうか。


「ライラック様、ビルネ様、お久しぶりですね」


 ローゼは微笑んだ。


「ご結婚されたそうですね。お二人の幸せを心からお祝い致します」

「ありがとうございます! 無事運命の人と結ばれることが出来ましたわ! それもこれも全て、お姉様のおかげですわ」


 ライラックは隣にいる青年の腕にしがみつき、無邪気に笑っていた。

 ローゼは俺に顔を向けた。


「アプフェル様、紹介させて下さい。義妹(いもうと)のライラックと、ヴァイス家の次期当主となるお方、ビルネ様です」


 こいつがローゼの元婚約者──ビルネか。調べによると、かなりのボンクラのようだ。

 ライラックに現を抜かし、婚約していたローゼを蔑ろにしたどころか、勉学も疎かにしていたらしい。そんなのがヴァイス家の次期当主など、聞いて呆れる。


「アプフェル・ツィノーバーロートだ。ご結婚、心よりお慶び申し上げる」


 俺は定型的な挨拶をした。


「よく顔を出せたものだな、ローゼ」


 ビルネは俺を無視し、ローゼをぎろりと睨みつけた。


「ライラを殺しかけておいて、へらへらとしやがって。お前が階段から突き落としたせいで、ライラは二度と歩けなくなるところだったんだぞ!? 今日のところは見逃してやる。今直ぐここから立ち去れ」

「おや、舞踏会はまだ始まったばかりですのに……」 

「お前がいると、ライラが怖がって舞踏会を楽しめないんだよ! 普通は言われる前にお前から立ち去らないといけないんだぞ!? 昔から気の利かない女だな!」


 ビルネの手がローゼに伸びる。


「──礼儀がなっていないな、ビルネ・ヴァイス」


 俺はローゼとビルネの前に割って入った。


「それと、口の利き方に気をつけろ──俺の妻だぞ」


 俺が少し声を低くして睨みつけると、ビルネとライラックは小さく悲鳴を上げた。

 ローゼはすかさず俺の視界に入り、頭を下げた。


「申し訳ありません、アプフェル様。義妹(いもうと)達は舞踏会に舞い上がっているようでして……。どうか無礼をお許し下さい」

「……フン。次はない」


 俺はそう言い捨て、その場を離れた。ローゼは義妹達に一礼して、俺の後ろを追いかけてくる。


「恐ろしい顔……。あんな人と結婚させられたなんて、お義姉様、可哀想!」


 口ではそう言いつつ、ライラックはへらへらと笑っていた。


「ライラは優しいな。あんな女を心配するなんて」


 ビルネはだらしない顔でライラックの頭を撫でていた。

 とんだ茶番だと、俺は鼻で笑った。


「義妹と義弟が失礼致しました」


 ローゼは改めて俺に頭を下げた。


「貴様に謝られる筋合いはない」

「しかし、お気を悪くされたでしょう。今日はもうお帰りになられますか?」

「まだダンスすらしていないだろう」

「おや、お誘いして下さるので?」


 ローゼはくすりと笑った。


「なんだ。俺と踊りたくないのか?」


 俺は手を差し出した。

 ローゼは目を丸くした後、嬉しそうに手を取った。


「まさか。貴方と踊れる日が来るなんて、まるで夢のようですわ」


 ローゼは俺に手を引かれるまま、ホールの中心へと歩いた。

 ミイラ公爵と腹黒悪女のダンスに皆が注目しているのがわかった。

 ああ、嫌になる──俺は目を瞑った。


「旦那様」


 ローゼの呼びかけに、俺は目を開けた。目の前にローゼの顔があった。


「私だけを見ていて下さいね。貴方の妻は私なのですから」


 俺を好いていると錯覚するほど、耳障りの良い言葉達。全て、偽りだと言うのに。


 俺とローゼは緩やかに踊り出す。

 俺達の様子を伺っていた人々は、直ぐにローゼに釘付けになった。

 無駄のない足運び。完璧にリズム。髪の先から爪の先まで神経が通っているような、優雅な所作。どう見られるか、どう思われるか、全てが彼女の手のひらの上だった。

 俺はローゼにリードを〝させられていた〟。だが、悪い気はしなかった。ローゼがあまりにも無邪気に、楽しそうに笑っていたからだ。

──ローゼは元婚約者とダンスしたことがなかったのだろうか。まあ、他の女に目を奪われるような男だ。踊らせてやる価値もない。


 俺は久々のダンスを楽しんだ。これがローゼとの最後のダンスになるだろう。そう思うと、

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