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こんな悪女はお嫌いですか?  作者: フオツグ
番外編

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18/20

「とんだ悪女だ」・2

「……これは一体、何の騒ぎだ」


 俺は困惑しつつ、キーファと共に騒動の中心に足を踏み入れた。


「アプフェル……?」


 イーリスは目を見開いた。


「きょ、今日は忙しいから来ないって」

「少し遅れただけだ。欠席とは言っていない」

「ローゼ様、嘘をついたの……?」


 イーリスはローゼに目を向けた。


「『旦那様はお忙しいようだ』と言っただけです。嘘は言っておりません」


 ローゼはにっこりと笑って答えた。

 イーリスの頭が揺れ、倒れそうになるのを、キーファが咄嗟に駆け寄って支えた。


 俺とキーファがパーティー会場に入った時、突如、肌を打つような音が響いた。音の聞こえた方へ向かうと、今度はイーリスの怒鳴り声が聞こえてきたのだ。俺はいつまでも隠れていられないと思い、姿を現し、状況の説明を求めた。


「ツィノーバーロート公爵様! イーリス様がローゼ様の頬を打ったんです! 証人はここにいる全員です!」


 イーリスの友人の一人──カメーリエが意気揚々と報告した。

 俺はイーリスに目をやる。


「アプフェル……違うの……違うのよ……」


 イーリスは譫言のように否定した。

 俺はため息を一つつき、イーリスを一瞥した後、ローゼに歩み寄った。


「ローゼ──イーリスが頬を打つよう仕向けたな?」


 俺は呆れたように言った。

「えっ?」と俺とローゼ以外の全員が驚きの声を上げた。


「旦那様には直ぐに見抜かれてしまいますね」


 ローゼはフッと顔を綻ばせた。


「俺を引き留めるよう、キーファに頼んだな」

「あら、もうそこまでおわかりに?」

「キーファが白状したぞ」

「おや……」


 ローゼはキーファを困った顔で見た。キーファはローゼに小さく謝った。


「ローゼ、今度は何を企んだ? 何が目的だ?」

「あら、イーリス様の魂の叫び、聞こえませんでしたか?」

「………………」


「全身火傷だらけで帰ってきたアプフェルを見た、私達の絶望や悲しみを知らない癖に!」──はっきりと聞こえた。

 俺の顔を見て恐怖していたのは、そのときの光景を思い出すからだったなんて知らなかった。他の人も同じ気持ちだったのだろうか。俺はあのこわばった顔が嫌で、人を避けるようになってしまったが……。


「貴方様の心にはいくつもの杭が刺さっているご様子。特に、イーリス様に打たれた杭は深い。私が何とかせねばならぬと思いました」

「だから、イーリスに本心を吐露させたと? 頬を打たれてまで?」

「私は旦那様のためなら悪女にだってなれる女です。頬も甘んじて打たれましょう」


──やはり、この女は普通ではない。

 誰が夫と元婚約者の中を取り持つというのだ。

 恐怖以上に、ぞくぞくとした胸の高鳴りを感じていた。ローゼの深い愛を一心に受けているのは、俺だ。


「ミイラ公爵は妻にお熱という噂は本当みたいだな」

「ミイラ公爵とイーリス・ゴルデン嬢が不倫しているという噂もあったが、嘘だったようだな」

「あの噂は二人の仲を引き裂くため、イーリス嬢自身が広めたのだろう」


 周囲の人間が面白おかしく噂する。


「違うっ……私はそんなことしてない!」


 イーリスは必死に否定したが、皆は「往生際が悪い」と笑って、信じなかった。


「噂はイーリス様が広めたものではありませんよ」


 そう断言したのは、被害者であるローゼだった。


「どうしてそう言い切れる?」


 俺が尋ねると、ローゼはくすくすと笑った。


「イーリス様には何の得もないからです。不倫なんて醜聞ですからね」

「得ならありますわ。ローゼ様と公爵様の仲を引き裂くため……」


 イーリスの友人の一人──マグノーリエが言った。


「直ぐわかる嘘に何の価値があると?」

「嘘かどうかわからないではないですか!」

「私はアプフェル様と同じ屋根の下で暮らしているのですよ。アプフェル様の生活パターンは把握しています。仕事以外は屋敷を一歩も出ませんし、来客も数えるほど。不倫をする隙などありません」

「もし、仕事と偽って会っていたら?」

「イーリス様の弟君とは懇意にさせて頂いています。アプフェル様の仕事ぶりは聞き及んでいます」


「二人で会ってるのか?」とアプフェルがキーファを睨んだ。「ただのお茶会です。使用人もいます」とキーファは慌てて弁明した。

 ローゼはそのやり取りを見て、フッと笑った。


「私とアプフェル様の仲を引き裂くなら、私が不倫しているとアプフェル様に吹き込めば良いだけのこと。幼馴染みなのですから、私の言葉よりイーリス様の言葉を信じるでしょう」


──そうとは限らないが。

 もしそうなっていたとき、俺はおそらく、ローゼの言葉を信じただろう。


「わざわざ自分に汚名を着せてまで、私達の仲を引き裂く意図がわかりません。──ですから、一芝居を打つことにしました」

「一芝居……?」

「イーリス様に私を頬を打って頂くのです」


「演技だったのか!?」と周囲がざわついた。

 イーリスは何も知らないようで、ぽかんと口を開けていた。


「あの噂はイーリス様を陥れるためのもの。幼馴染みで元婚約者の妻を叩いたとなれば、不倫の噂も相まって、イーリス様は不倫相手の汚名を着せられます。不倫の噂を流した方は、これを好機と思うでしょう。私がイーリス様と和解の意思を見せたら、必ず〝阻止してくるだろうと思っていました〟」


 その言葉を聞いて、ローゼの隣で顔面蒼白となっている人がいた。


「──カメーリエ様、私の味方をしたのは貴女だけでした」


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