038、ちょっとよくわかりません先生
「そういえば、何でマロくんは私のことを追いかけ回したのですか? 私のことを導くべき人がどうとか、おっしゃってませんでした?」
当のマロくんは「待ってくれ私のユリア!」と追い縋って退席したので、ミアさんと二人っきりになった。
これ幸いにと、当人に聞きにくいことを、その兄であるミアさんに尋ねてみてもいいじゃない。
と、私の中の中年おばちゃんが囁く。
────誰が中年やねん。
己で言って己でつっこむことほど虚しいものはない。それなのに、なぜこうもすっとぼけてしまうのか。
それもこれも、マロくんが謎の言動を見せるからいけない。マロくんのお兄ちゃん、責任取って説明して下さい。
特に、導くべき人のところ。
「ああ、それは──」と、ミアさん。
「この国に来る前のことです。姦しい女神様方を押しのけて、我が国の主神たる双星神から告げられたのです。
『神の申し子』の末裔が生まれたから、エンダニアへ導け────と」
『神の申し子』ってあれか。うちの駄目親父のタイショー家の始祖だ。異世界から来たとかいうカメラも開発してくれなかった異世界転移者。
で、その末裔というと……。
「私のことですね」
なんてこった。私はエンダニアの主神とやらから、お招きいただいているらしい。
「やはりエアリーお嬢様のことですよね。マロくんは、触って確かめようとしたのですよ。これまでも信者に触れることで、その者が信仰する神の声を届け天啓を授かるということをしておりました。エアリーお嬢様に触れることで主神の意向に従おうとしたわけです。
だからと言って、お嬢様を追いかけ回さなくてもいいのですが……なんせマロくん、幼少期より偏った思想を植え付けられ常識に疎いところがありまして……申し訳ございませんでした。マロくんに代わって、兄である私が謝らせて頂きます」
ミアさんに頭を下げられては私も動揺するしかない。
「あわわ頭上げて下さいっ、謝らないでっ、しつこく聞いてすいませんでした。王族に頭下げられるとか私何様俺様ですかひええ」
「エアリーお嬢様ですね」
「そゆことじゃなくてですね?!」
「ふふっ、私からしたら、そういうこと、なのですよ。貴女は、我が主神が気にかけるほどの人物だ。我等、エンダニアの民は双星神に導かれエンダニアの地に参った。貴女もまた、エンダニアへと招くに相応しい人だと告げられました。
……私は、次期王位継承者に選ばれたけれども、王族ではない。エンダニアには王族と呼ばれる者はいないのです。他国との兼ね合いで、貴族相当の家はありますがね。その中から、代表の意味で王は選ばれます」
だから、どういうことかと申しますと……と、一旦、息を置いてティーカップを傾け、それから、ゆっくりとミアさんは告げる。
「エンダニアの王とは、王であって王ではありません」
ちょっとよくわかりません先生。
授業中のように、思わず疑問を呈したくなった私は、首を傾げる。
そんな私を見てミアさんが、もう少し踏み込んだ説明をしてくれたところによると、エンダニア双星国は双星神が建国した国。だから双星神がトップ。
人を管理するのに人のトップが必要ということで、王様業をする人をエンダニアの民から選ぶ習わし。
代々、選ばれた人の出身家が力を持ち、国と国の外交のため力を持った家が便宜上、貴族家となった。
ミアさんとマロくんは、その貴族家の出身。
「出身の家もそうですが、固有魔法の発現により、個人的にも貴族の称号を得ております。これまた外交の便宜上ですけどね」
だから正式名称は、もっと長くなるらしい。
今でも十分に長いですミッダンテ・ル・トーチ・エンダニアさん。
ラグお爺ちゃんみたいに全部名乗らないのは配慮していただいていたわけですね。ありがとうございます。
ラグお爺ちゃん並の長文になると、絶対、覚えきれない自信ある。
「えーと、私、かなり踏み込んだことまで知ってしまった気がしますので……これ以上はご遠慮したく……」
おかわりのハーブティーを、ごくり、喉を鳴らして飲んでしまった。
いやあ、だってさ、身分隠しのための女装だろうに、その身分を暴露された挙句にエンダニアのあれこれまで聞いてしまって……お腹いっぱいです。
「そうですね。私もここまで話そうとは、当初は思わなかったです」
「ええええ、話したのミアさんなのにい」
「責任を取りましょう」
「どういう意味ですう?!」
さっきから私は動揺してばかりだ。ただでさえメイド姿のミアさんにはトキメキがメキメキなのに、お高貴オーラ的なキラキラビームまで食らってしまい腹はち切れそう。
「貴女と話していると不思議な気持ちになるのですよね。まるで年上の女性と話しているような……」
うっわーああぁぁ! そ、そそ、それは私の前世が中年BBAだと、そこはかとなくバレているってことじゃないですう?!
私の前世のことを知っているのは精霊経由でバレたマリアさんだけだと思いたい。マリアさんがミアさんに話していたら別だけど、マリアさんはそんな告げ口みたいなことしないと思うから、ミアさんは中身BBAな私のおかしな言動を『何か違和感』くらいにしか思ってないのだろう。そうであれ。
この後のお茶は、冷や汗ダラダラしながら飲んだ。
できたら私の中身のことはバレたくない。特にミアさんには、そう思う。
こんな居た堪れない気持ちで飲んでも美味しいお茶でございました。お茶淹れるの上手な未来の王様ってどうよ。女子力高いよ。敵わないよ。
「いらっしゃい、エアリーちゃん。今日は遅かったわね」
ティータイムの後は、子供部屋にお邪魔した。
ユリシスinパンダ籠を置いたら、なんと、籠を背に、お座りするアウロくん。
おちゃんこしておる……!
日々、成長しているのですね。
アウロくん、ユリシスに興味を持ったみたいで、
「あ、あ、うー、あ! ほおうおうおおう」
オットセイの亜種みたいな声を上げている。
ユリシスも楽しそうにしている。仲良しなこって。
テンション上がって今にもお空を泳ぎそうなユリシスだけど、先におまんまもらおっか。
ベビーマット(撥水加工付きのマット。ランダム再生時に出現)の上でおしめを変えてからマリアさんが授乳用ケープを羽織って、お乳をあげてくれた。
ありがてえです聖母。南無南無。
拝みつつ、今日のお礼にベッドメリーを渡した。
「ベッドの手すりに挟めるのね。便利だわ」
「はい。赤ちゃんの視線の先に置いてあげてもいいし、こうして手すりに固定も良し。それになんと、ここ、ここに手をかざせばクルクル回るのですよ」
この世界ならではの特徴だね。電力は無くても魔力が動力だから、『魔力導回路』なるものが玩具に組み込まれているらしい。外からは見えないよう回路部分は加工され、それでもその部分へと触れれば使用者の魔力が魔水晶へと伝わって起動し、玩具が動く。
この仕組みは最新の魔法用品に使われていたりするので、お金持ち豪商の三女であるマリアさんには知見のある技術のはずだけど……。
「高級魔法用品でもない、たかが赤ちゃんの玩具に我が国で最高峰、最高水準の技術が詰まっているだなんて……エアリーちゃん、恐ろしい子……!」
衝撃は与えてしまったようである。




