039、いいぞ、もっとツンデレろ
アウロくんと戯れた後はレオノスくんとも遊んだ。
レオノスくんは不思議な絵を描く子だ。その都度に感想を求められるので、だいたいは「美味しそう」と「あったかそう」で返してしまう。
我ながら適当な感想だと思うけれども、レオノスくんはいつも満面笑みのドヤ顔なので、これでいいらしい。
今日は午後にやってきた私。
『精霊商店』の店長でもあるケミスさんは外出中とのこと。代わりにマリアさんへ、各種ベビー用品を卸す。
商品を出しつつお喋りしている中、つい前世で知った赤ちゃん用品店のマーケティング方法が口をついて出てしまう。
主に、同一店舗を近場に置くことのメリットなのだけど。
興味を持ったマリアさんに「詳しく」されてしまう。
マリアさんのご実家は、この国どの都市にも必ず支店があるというほどの豪商だ。他国にも、主要都市には支店を置いてあるらしい。
要は、これ以上に支店を増やすと物資供給が困難になるからマーケティング規模を拡大できなくて伸び悩んでいるというお話をしていたのだった。
その中で、店舗数を増やす方法として私が提案したのは、同じ都市に同店舗を多重に置くという、一見それ競合して潰し合わないかという方法だったわけである。
これにはちゃんとメリットがある。
一つは、店舗を増やすという目的に沿った利。
もう一つは、同店舗が近くにあるということで、品薄になったものを近所の同店舗から即仕入れできるという利。同じものを売っているのだから融通し合えるのだ。
他にも、集客率の良い店舗に客を集中させ、他の店舗はゆったりと買い物できますアピールするといいということを話した。
毎度のことながら前世知識って、ふとした瞬間にポロリするものなんですね。
「これを実践している店が、前世の世界には沢山ありましたね。赤ちゃん用品店もそうですが、飲食店でも、薄利多売で品物が多い店なんか有利に働くみたいです」
「よく考えたら理にかなってるわ。早速、お父様に伝えてもいいかしらいいわよねありがとう」
早口で有無を言わさぬマリアさんの迫力に、つい頷いてしまった私は有罪でしょうか。産業スパイ的な。
うーん、でも、ここは異世界だから許して欲しい。前世の世界でも普通に公開していた情報だし。
マリアさんは傍にいる精霊に伝言を頼み、更に詳しい手紙を書き上げ、それも精霊に頼んで配達してもらったらしい。
便利だな精霊さんのメール便。
帰りの時間────。
いつもより遅くなったのと世の中も物騒なので、馬車で家まで送っていただくことに。
「さあ、エアリーお嬢様」
ミアさんがメイド服を脱ぎ捨て従者の格好になり、ユリシスごと私を片腕抱っこ。
気づいたら彼の腕の中です。
はっ、いつの間に?!
メイド姿も良きですが、従者姿もまたスマートで洗練された仕草が素敵でして、惚れ惚れ見詰めている間の出来事でした。
私チョロ松。
しかし、なぜに片腕抱っこ?
「前に、ラグバルド様が、お嬢様を抱えてらしたでしょう。あれ、私もやってみたかったのです」
しれっとラグお爺ちゃんに対抗しているミッダンテさん。楽しそうで何よりです。
ゆっくりと馬車は動き出す。ゴミ拾いは出来ないけど車内清掃はできるので【清拭除菌】。空気も浄化され、爽やかな香りが辺りに漂った。
「素敵な魔法ですね。ありがとうございます」
「いえ、乗せていただくからには何かしないと、お、落ち着かなくてですねえ」
ポイント貰えるという打算もあるけど、乗せていただくのだという御礼分の気持ちの方が強い。
馬車はラグお爺ちゃん作成の最新馬車だ。相変わらず揺れも少なく座面のクッション性も抜群なため、うとうとしてしまった。
ミッダンテさんの「着きましたよ」の声で目覚めたら、馬車は本当に我が家の目の前に到着していたわけで。
またもや貧民街をお騒がせしていたみたい。
馬車から降りると、【気配察知】を使うまでもなく、そこかしこからの視線を感じる。
【悪意感知】……危険な悪意は無いけど、妬み嫉み恨み辛みを感知した。
ここは社会の底辺である貧民街なので、小さな悪意は毎日のように感知して慣れっこである。そんなところに貴族の馬車で来ると、普段の倍は嫉妬混じりなチクチクを感知してしまうようだ。
そんなに貴族嫌いですか。貧民街のご近所さんたちよ。
ちなみに馬車から降りる時も片腕抱っこだった。ユリシスはパンダ籠の中で寝ていたので、籠をもう片方の腕に引っ提げながらの抱っこ。
もう、どうにでもして……。
諦めにも似た気持ちで私は帰宅した。ただいま。
「おかえりエアリー! こいつ何とかしろ!」
帰って早々、兄が叫ぶ。
おや、うちに帰ってたの兄。冒険者ギルドの方ではなく。
「義兄よ。私の心は既にユリアのものだ。そしてこの身もまたユリアのものだ。ああ、ユリア、ユリア……私の世界を彩る花よ。美しく気品あるユリアの立ち姿は百合の花にそっくりだ。嫋やかで繊細な君の腰を、この腕に今直ぐ抱きたい。早く私の元へ嫁いで来ておくれ」
そこはかとなくポエミーな台詞が聞こえるけど、あれはマロくんが姉ユリアを口説いているの?
これまでのツンデレ奇行に比べて、かなりプリンス甘味成分が強くなったからなのか、別人に見える。
姉ユリアの方も、「はうっ……はうあ……っ」と、マロくんの甘い口撃に、いちいち胸を抑えて大変そうだ。
顔も耳も真っ赤っかだね。あれはもう手遅れとみた。
「兄よ、アキラメロン」
「誰だ、それ?!」
「大人になったら友達になるものです」
「真実だああうわあああ」
大人になったら諦めて妥協することが多くなるってもんです。【真眼】くんは嘘つかない。私が本気で言っていると分かったようだね。
兄には先天的な能力のおかげで簡単に「わからせ」ができて楽ちんであります。
しかし、その【真眼】くん、私の時だけ妙に勘が鋭くないかね。私の中身が違うと見抜いたりさ。
確か、視界対象の真実の言葉が直感的に分かるとかかんとか。嘘が見抜けるみたいな感じかな。
ユリシスともツーカーだし、うらやまけしからん能力だ。
それでも対象が無い場合は真価を発揮できない。例えば、治療院の代金を払ってくれた人は分からない……て、あ!
「つかぬ事をお聞きしますが」
「何でしょう? エアリーお嬢様」
ぷわっっ、目の前にミッダンテさんのご尊顔があ……!
私ったらまだ片腕抱っこされとるやないかーい。おかしいね。ユリシスはとっくのとうにパンダ籠ごとテーブルに置かれてスヤァなのに。
私を降ろしてくれる気配はないので、このまま喋る。
「先日、兄姉が退院した際、治療費がもう支払ってあったそうです。お心当たりありませんかね?」
お見舞いに行ったのは私だけじゃない。ラグお爺ちゃん、ミッダンテさん、マロくんもいたじゃないかと、今更ながらに思い出したのだ。
「それならマロくんですね」
あっさり分かった。しかしマロくんとは意外。てっきりラグお爺ちゃんかなと思ったのに……と、じっとマロくんの方を見てみる。
「────な、なんだ、そんなこと……フン、お前たち貧乏人に支払える金額じゃないだろう。金持ちで高貴な私が払ってやったのだ。べ、別に同情したとかじゃ、ないんだからなっ」
ツンデレきたぁぁ!
「別にアンタのためじゃないんだからねっ」というツンの裏には優しいデレの心が潜んでいるものなのです。
そして姉ユリアの前では愛の人になったはずのマロくんだけど、選民的な思考はなかなか解けないようで、その辺の複雑な心が私を前にするとツンデレになるらしい。
こーの、素敵なツンデレさんめー。いいぞ、もっとツンデレろ。
「もう、マロくんったら。素直じゃないですねえ。弟が失礼しております。捻くれ者で申し訳御座いません」
「いいのです。これぞマロくん」
「エアリーお嬢様くらいですよ、そんな鷹揚な気持ちで受け止めて下さるのは」
なぜかミッダンテさんが褒めてくれたが、私は単純にツンデレウマーぐらいしか思っていない。
こんな不純な気持ちは明かせないので、そっと笑って誤魔化しておく。
「エアリーお嬢様ったら……離すなってことですかね」
そこはかとなくミッダンテさんによる片腕抱っこの拘束が強まった気がするけど、気のせいですかね?




