036、兄と姉と妹と弟で食卓を
私気づいちゃった。姉も尊いということに。
いや、前に会った時も思ったけどね、改めて感じたというか、萌えた。
今、目の前で、赤毛の素朴な少女が赤子と戯れておる。
「ユリシスくん、いないいな~い……ばあ!」
「ぷやー!」
「あはは、反応がいいなあ……お姉ちゃんだよお、わかる?」
「あー!」
「わかるんだあ。ユリシスくんは賢いねえ」
うわああぁぁ何なのこの光景……! 姉ユリアは菩薩なの? 手遊びまで始めた。
「はい、いーち、にーい、さーん」
「あ、ぅ、あ、ぅ」
おててとおててを合わせてシワ合わせ~って、尊!!!!
スマホ、スマホ、カメラ、カメラ起動、ムービー撮らねばムービーを……て、この世界、写真ないんだったああ!
くぅ、タイショー家の始祖は異世界転移者なんだよね?! 発明しとけよ写真くらい!
いや、無茶ぶりだって分かってる。私だって写真機はつくれない。そもそも現象を説明できない。異世界転生とかの話で写真をつくっちゃう人はきっと特殊な訓練を受けているに違いない。ちくしょーい! うらやましーい!
「私の滾る心よ鎮まれ……ユリシス可愛い。姉も可愛い。それでいいじゃないか」
「エアリーにも分かるか。ユリアの良さが」
「ええ、兄よ。我が姉ながら、なんという萌えの塊なんですかね。私をキュン死させる気ですかね」
「やらんぞ」
「嫁にですか?」
「ぐ────無理だ! ユリアが欲しければ俺を倒せ!」
兄はシスコンである。そんな気してたけど、やっぱそうだった。
そして私もユリアは俺のものな気がしてきた。今なら北斗兄弟ばりに争える。
さて、そのような不毛なことを言っている間に昼食の時間だ。
ギルさんとこの干物を焼こう。廃材置き場で拾ってきた鉄板が大活躍だ。
焼きながら麹と味噌の動画をじっくり堪能。出来上がった味噌は素朴な田舎風味噌。ちょい赤寄りかな。
味噌汁をつくる。昆布、鰹節、煮干しで出汁をとる。出汁をとったら取り出して乾かす。捨てるの勿体ないからね。乾いたら【脱穀製粉】で粉々にすれば、今後は出汁粉としてマルチに使える。
豆腐レシピが生えていたので豆腐動画視聴。それとまたギルさんちの乾燥ワカメを入れて、豆腐とワカメの味噌汁の、完成です!
雑穀粥と煮豆動画を観ながら野菜を切り、野菜サラダもできた。
動画はね、二回目からは視界の片隅、小画面にして観れるようになった。これで、作業しながら動画視聴可だ。ステルス進化ありがたし。
食卓に、できたて料理が並んだ。
「ぽやーん」
お、ユリシスもお腹すいたかな。
「俺も混ぜろってさ」
え? あの「ぽやーん」の中に、そんな意味が……? 同じ食卓に着きたいってユリシス言ってるの?
くっ、兄の【真眼】に嫉妬しちゃう。いいなあツーカーで。
「ユリシスくんなら、エアリーちゃんが起きるちょっと前にマンマしたよ。ふふ、お姉ちゃんが抱っこしてあげる」
姉ユリアも、すっかりユリシスと仲良しだ。
寝る前に、頭フワフワながらもミルクの用意と替えのおしめを出しておいて良かった。兄はともかく、姉も赤ちゃんのお世話、手慣れてるなあ。
そのことを訊いたらば、
「冒険者ギルドには託児所があってね、お子さんがいる冒険者さんたちが利用してるの。私、時々お手伝いしてるんだ」
とのこと。
「そうなんですね。お給金は出ないのですか?」
「依頼として受けねえと報酬は出んぞ」
「私は冒険者ギルド職員見習いだから、お給金に含まれてるの。どれだけ手伝っても、十日給金固定ね」
冒険者ギルドに育児依頼ってのは、たまにあるらしい。
兄も、姉を育てた時に利用した。
それは冒険者が受ける依頼であって、姉ユリアのようにギルドの職員──姉の場合は見習い──だと、一定の給料内に託児所スタッフの給金も盛り込まれている、と。
「託児所は冒険者ギルドの善意だから。無いギルドもあるぜ。むしろ、託児所あるギルドの方が珍しい」
「そうなんですね。余裕が無いとできないサービスだ。考えた人も、広めた人も優秀だよ」
「おう、うちのギルド長すげーんだ」
聞けば、託児所を最初に考案して始めたの、この街のギルド長さんらしい。
ギルド長さんの話になると、すごく嬉しそうな顔をするなあ、この兄は。
これは……私、挨拶に行った方がいいかも。いつも兄姉がお世話になってますって。
と、そんなことを二人に申したらば、「じゃ、飯食ったら行こうぜ」となった。
早い。行動が早い。さす兄。
でも私、今日も『精霊商店』へ行きたいのだよ。ユリシスのご飯をもらいに。そして商品を卸にね。
その話をしたら、「俺も行く」と兄。
「エアリーちゃんとユリシスくんがお世話になってるなら、私もご挨拶しなきゃ」と姉。
君たちは……いい子たちだなあ! 感動。
親共がアレなのに、よくぞこのような素晴らしい子たちが育った。兄姉の気質もあるのだろうけど、教育をして下さったであろうギルド長さんには、本当に足を向けて寝られない。
「冒険者ギルドは、明日でもいいですか? いきなり行って迷惑じゃ」
「いいぜ!」
だから即返事なんだってばよ兄。
一応、ギルド長さんに話は通しておくと聞いて安心はした。
『精霊商店』へ向かう。
兄姉が一緒だけど、いつも通りのゴミ拾いをしつつ辿り着く。
「こんちゃーす、ゼンダ氏」
「おいーす、エアリー。今日は遅かったな」
「兄姉が訪ねてきましてね」
店番のゼンダ氏に二人を紹介。
「へえ、似てねえな」
だよねー。全員もれなく父方似なのだ。
「あれ? ラグお爺ちゃん来てない」
いつもなら待ち構えているラグお爺ちゃんがいなくて戸惑う。遅くに来たから帰っちゃったかな?
「今日は元より、いらしてないぜ。メイドちゃんは来てるけど」
とゼンダ氏。
そうなんだ。マロくんも一緒だろうか。昨日の追いかけっこのことを思い出すと気まずいのだけど……。
まごまごしている内に「エアリーお嬢様」と、ミアさんに声をかけられる。
相変わらずの金髪ボイン完璧メイドさん具合に目が眩んだ。ぐう……今日も的確に、私のツボを抉ってきやがる……!
「ミアさん、今日は兄と姉と一緒に来ました。ラグお爺ちゃんはお休みですか?」
「ええ、ラグバルド様は他の用事でいらっしゃいません。私はお嬢様の専属にしていただきましたので、いつでも、ご用命下さいね」
上品なスマイルでおっしゃる言葉に、こくこく頷き返した。
兄姉とミアさんが挨拶を交わして、奥に案内される。いつもの部屋だ。
「マロくん、エアリーお嬢様のご到着ですよ」
「あ、兄上、こいつは貴族じゃなくて平民で」
「ですが、今は私が、お仕えする立場なのですよ」
「でも、でもっ……っぐぅ!」
突然、頭を抑えて蹲るマロくん。
────急にどしたん?!
私は焦るばかりだったけど、ミアさんは落ち着いてマロくんのところまで行き、マロくんをギュッと抱き締めた。
「煩わしい声は聞かなくていい。私の声だけを拾え。私が誰かは知っているだろう? マロウス・ル・トーチ・エンダニア────」
ミアさんの口調がミッダンテさんに戻っている。そして、お兄ちゃんしている。
泣く子供を、いい子いい子してあやすように、抱き締めながらマロくんの後頭部を撫でる姿は……お兄ちゃんだなあと思うわけで。格好はメイドさんだけども。
「あのう……治療院で魔法を使って下さった方々ですよね」
「ユリア?」
どうしたことか、引っ込み思案な姉ユリアが、おずおずとだけども、金髪兄弟の間に立って声をかけた。
思いがけない行動。というより、姉ユリアにしては思い切った大胆なことをしていると思う。
だって、彼女はマロくんの腕に触れ、肩に触れと、あちこち撫で回しているように見えるから────。
え、あれいいの? マロくんのツンが爆発しない?
「あの時も、苦しそうだったから……これかな? こっちも? この子達が悪さしてるんですよね。ねえ、やめてあげて。ああ、私の声は聞こえないのかなあ……んんんー、あっ、離れてくれた」
なんのこっちゃい。




