034、空中浮遊スーパーベビー
翌朝のこと。
この貧民街にも鳥類は棲息しているのか、チチチッという小鳥の囀りで気づいた。
「は……っ! 夢を……見ていなかった」
寝不足でござる。
昨夜、家に帰って駄目親父の駄目っぷりを見たら文句のひとつも言いたくなって、我が家は犯罪者の家系かと、ぶっちゃけたのはいいけれど、だからと言って親父から何か返答を期待している訳でもなく……。
親父が反応する前に、物置部屋へと引っ込んだ。
ユリシスのお世話をしつつ料理レシピ観て、ちょっと食べてから眠くなったので寝たのはいいけど、夜中に目が覚める。
真っ暗だ。だって夜中だもの。えありぃ。
この家には、前世でいう電灯みたいな、明かりを灯す便利なものはない。蝋燭もなければ油ランプすらもなく……。
貧乏だからね!
ここは【五感増強】だ。ねこねこぬこ様、猫の目になあれ~。
よし、バッチリ暗視が効いた。これで暗闇も怖くない。
ふと気配を感じ、そちらを見やるとユリシスも目覚めていた。お目目パッチリなのユリシスーぅ。
かんわゆいお顔を眺めていたら、次第にユリシスとの視線が合わなくなる。
「ん、んんん? ユリシス浮いてる?」
ふわっふわ浮いているのにユリシスは怖がってない。むしろ面白そうに泳いでる。空中を。犬かきの如く手足をバタつかせ、腰もくねらせて。
「きゃふ、ひゃふふっ」
楽しそうだねユリシス。鯉のぼりにも見えるよ。
目をごしごし擦っても、空中浮遊ベビーは現に目の前にいる。
「ユリシスしゅごおい。赤ちゃんなのに、もう、お空を泳げるんだね。素敵バブゥ」
私は褒めて伸ばす教育方針を推奨している。前世の我が子達も同じように育てた。
ユリシスも、のびのび育って欲しい。
ぼんやり光るナニカと戯れるユリシス。
人魂じゃなければいい。明滅しているし、キラキラオーラも解き放っているから、きっと精霊的なサムシングだろう。
「ちょうどいい光源だ」
眩しくもなく、蛍の光のように淡く優しい灯りである。なんということでしょう。猫の目にしなくても視界が確保できてしまうとは。
目が冴えてしまった私は、動画視聴をする。
決して現実逃避ではない。
vol.2『つくってみよう!』がピカピカ光っているのだ。観ねば。観ねばならぬ。
『つくってみよう!』
□ベビージム[材料][動画]
□ベッドメリー[材料][動画]
□ラトル&ローリーチャイム[材料][動画]
□ベビープレイマット[材料][動画]
□おやすみパンダ[材料][動画]
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安心安全な玩具たちキターァァ!!
そうだよね、さすがに新生児から空中浮遊はハードル高いよね。光るナニカがサポートしているとはいえ、こっちから見たら危ない。危険が危ない。
見ているだけでハラハラする。ドキドキしっぱなし。よく動いて活発なのは嬉しいけれど、首かっくんとか、頭打って怪我しやしないかとか、もんどり打って背中グキッとかやらかしはしないかと、姉ちゃんは心配です。
ほら【母子手帳】、私の健康状態が書いてある欄、やばいよ。
『夜更かし中につき不健康・動悸・火照り・肌荒れ・ニキビ』
わあ、ニキビだって。泣いちゃう。五歳児だぞ私。五歳なのに肌荒れ治らない。
ビタミンだ。ビタミンを摂ろう。
姉にも作ってあげた果物と野菜のジュースに、レシピのすりおろし果物と、朝市で買った謎の緑色した野菜を試しに【脱穀製粉】────おお、ドロドロになった!
まさかミキサー? あなたミキサーなのね!
ぷきゃっといい感じは応用が利くなあ。風の精霊さん、ありがとう。
で、これらを混ぜ併せると、見た目、緑色で青汁そっくりに。
腰に手を当てて、一気に飲む。
「ごく、ごく、ごくごく、ごっくぅぅ……」
まずい。もう一杯。いや嘘、もう飲みたくない。これ苦いわ。
敗因はケールみたいなこの緑野菜だな。
完成品のパンダレシピに余計なものを加えたらいけない。良い教訓になった。
しかし、飲んだら余計に目が覚めたよ。
動画を観よう。ラトル&ローリーチャイム動画だ。
ラトルってのはガラガラのこと。動画を再生するまでガラガラとは知らずに見ていた。
布製ラトルは柔らかくていい感じ。もちろん、パンダ型だ。肉球が刺繍じゃなくてプニプニしたものだ。なんだこのプニプニけしからん。プニプニプニプニプニプニ…………。
ローリーチャイムはボール。パンダプリントの、ソフビ二製に似た手触り滑らか軟らかボールだ。
作業工程の動画を観ると、樹液やらミミズやらが使われているようだが。
材料、いつ手に入れたのだろう?
vol.3『手に入れてみよう!』をチェック。
『手に入れてみよう!』
□ゴールドウッドの繊維
□ゴールドウッドの樹液
□メタルマイマイの殻
□ティラピアの骨×10
□リトル・ドラコの竜鱗
□アップアの皮×10
□魔錫の破片
□オリゴカエタの粘液
□妖精猫のヒゲ
□妖精猫の体毛
□妖精犬のヒゲ
□妖精犬の体毛
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こんなにもチェックが入っていた。
どれもこれも、それと知らず拾った物ばかりだ。
特にリトル・ドラコ、お前だ。知らんよ。ドラコって、ドラレコのことじゃないよね? ドラゴンのことだとは思う。
どこで拾ったのだろう? 廃材置き場にあった鎧かなあ……。
オリゴカエタってあれね。ミミズ。
カラカラリンリン。コロコロコロリン。コロンコロン。リンリン。
ラトル&ローリーチャイムを揺らしてみる。
涼やかで、それでいて、どこか懐かしい鈴の音とチャイムの音が、いと詫びしげに響きますなあ。
「うきゅ」
音に、ユリシスが食いついた。
空中浮遊をやめて、私のところまで戻ってくる。
「ユーリシースーううぅぅ姉ちゃん寂しかったよおおいよおいおいおい」
ぎゅってしたけどユリシスの関心はラトル&ローリーチャイムにあり。
じっと目で追って、耳を澄ましている。
か、かわっ、いひ……!
しばらく、ガラガラユラユラと遊んで、その間にベビープレイマット動画を観る。
大判のバスタオルくらいの大きさのマットだ。パンダの絵がババーン。竹の形のピロー付き。笹葉の形の歯固めとソフトミラーが竹ピローに取り付けてある。
寝転ぶとマットがガサガサ鳴る。新聞をグシャグシャに丸めた時の音のよう。
動画でパンダ神たちが、はしゃいでゴロゴロしているのに笑った。
実際に出てきたプレイマットへ、ユリシスを寝かせる。耳に聞こえたガサガサ音が大変珍しかったらしく、私が手で押さえてガサガサ音を出してあげたら、瞳をキョトキョト泳がせて……可愛いったらありゃしない。天使か。
まだ寝返りはできないけど、(その割に空中では大変アグレッシブで驚きました)音に敏感に反応してくれるユリシスを見て、安心するのだった。
「仰向けが基本の君には、これだ! ベビージムでトレーニング!」
色々なチャームがハードルにぶら下がるベビージムを、足下に置いた。蹴って遊ぶといい。
ベビーキックでチャームが揺れて、音が鳴る。丸みを帯びた星型は振動を感知する度にドレミファ音階を奏で、そのメロディーはキラキラ星だ。
パンダ型チャームは「パパパパーン、ダ!」と叫び、鳥型は「ピヨピヨ」啼く。かわちい。
キックが得意なユリシス、早速、パンダを蹴っ飛ばしている。
パンダ、たまに「ぐふぅ、いいキックだ」「お前の足、嫌いじゃないぜ」「まだまだあ!」「お前の本気を見せてみろ」「ゆくぞ、奥義! 竜巻旋風脚!」と、修行編を交ぜてくる。
新生児って、ここまで動けたっけ?
パンダを狩るほどに。
いや、まあ、ユリシスはエルフだし。ここはファンタジー異世界だし。
人間の赤ちゃんなら、まだまだ寝てばかりのこの時期、エルフなユリシスくんは足腰強くて空中浮遊もできてしまうスーパーベビーということで。
まさか飛べるなんて……天使かよ!!!!




