【挿話】ギルヴェイ・ユーグ・アソヴィの希望と失敗
ユリシス父ちゃんのエロフな話。
下品な言葉がしれっと出てくるので、ご注意を。
R15なんよ。
ギルヴェイ・ユーグ・アソヴィはアソヴィ家にとって待望の子だった。
アソヴィ家はエルフの家系だ。
先祖代々、父祖の地で暮らしていたが、人間との交流のため、ギルヴェイから三代前の曽祖父が音頭をとって、人間の国──キットラス王国に定住した。
定住してから産まれた、初の赤ん坊がギルヴェイだ。
エルフ族は元来、子供ができにくい種族である。
人間と交接するとエルフか人間どちらかが産まれるが、人間の確率の方が高く、エルフの血は潜性遺伝であった。
そんな中で産まれたギルヴェイがエルフであったことが、アソヴィ家にとって、どれ程の歓喜と幸福を齎したのか知れない。
その証拠に、ユーグのミドルネームは、父祖の地を見出し開墾した偉大なる〈父祖〉からいただいたものだ。
人間の地でも父祖のように、立派な人物となれるよう祈りを込めて……。
ギルヴェイはエルフなだけあって、赤子の頃から足腰が頑丈で強かった。
そう、この世界のエルフはどちらかというと細身のマッチョタイプだ。実はエアリーの想像する、なよなよタイプはあまりいない。
人間の赤子より強く、且つ精霊とも触れ合えるために、幼少期の成長は目覚しい。
ただ、少年期が長かった。そこから青年期を経て大人の体になるまで、更に50年程かかる。
周りの人間の子供たちが次々に成人していくのを、歯痒く思うことしばしば。
ようやく精通した頃、ギルヴェイは王立学園に通うことになる。キットラス王国の最高峰と呼ばれる、王族も通う学園である。
同級生には、なんと王子がいた。まだ立太子していないが、いずれ王位を継ぐであろうとされる王子殿下だ。
他にも有名貴族の嫡男や、魔法騎士団長の息子、宮廷侍従長の息子に魔法研究施設長の息子など、高位身分のご子息たちが目白押しだった。
ギルヴェイは、その物怖じしない好奇心の塊のような明るい性格で、多くの同級生たちと友達になった。
顔が広く社交的な彼は、まさにエルフと人間の架け橋。本人も、そう自覚していたから、困り事や相談事を持ちかけられれば断るなんてこともしなかった。
それが、仇となった。
生来が善性のため、騙してくる相手、嘘をつく相手を見極めれないのだ。
だから、その女生徒の頼みを断り切れず………。
女生徒の名はカスリーナ。
王子殿下の婚約者である公爵令嬢の、妹である。
ふわふわとした濃い金髪をくねらせ、ついでに腰もクネクネさせて両腕で両胸を挟み込んだ女豹ポーズでギルヴェイに頼み事をするのである。
「あの化粧ポーチ欲しいなあ」「私にこのルージュ似合うでしょ、買ってちょうだい」という小さな物欲から始まり、「お願い、ちょっとここで人が来ないか見張ってて」という突発的なことまで。
更に、社交の授業で、「姉が一人だからエスコートしてあげて」や、「ねえ、寂しいの。さわって」という性的接触までエスカレートした。
全てが終わってしまった今ならギルヴェイにも理解できるが、カスリーナは欲望の権化であり、チン下げ女だ。
この王立学園の規則で、不純異性交遊は禁止である。学園には真っ向から合わないナチュラルAV女と言えよう。
不祥事の沙汰は卒業間近に下された。
突如、王子殿下率いる生徒会の部屋に呼ばれ、そこに集う面々と顔を合わせた時、告げられたのだ。
「カシオラス・タイショーが我が婚約者の妹と駆け落ちした。その前に、タイショー家からは勘当されていたから、思い余っての行動だと思ったが……どうやらカスリーナ……我が婚約者の妹という物体だが、こいつは妊娠しているらしい」
カスリーナの扱いが低いな? とは思ったが、敢えて口に出さず、それより何より、級友であったカシオラスが駆け落ちしたことの方が驚いた。
「カシオラスが男気を見せてカスリーナの相手は自分だと言い張り、駆け落ちしたわけだ。が、カスリーナは多くの貴族子息と関係を持っている。誰が父親かなんて、子が生まれるまで判明しないだろう。
────これを見たまえ」
と言って机の上に出されたのは、縁どりがレースに象られた虹色ふわふわファンシーな便箋。
そこに金色のインクで男子生徒たちの名前が書き連ねてある。
丸っこくて読みにくい文字だ。その上で金ピカだから、もっと読みにくい。
なんとか解読すれば、「以上が私を犯した悪漢どもです。処罰して下さい」とある。
「これと同じ便箋で、諸君らの家にも告発状が届くはずだ。あくまでカスリーナの自己告発だが……諸君らにも、身に覚えがあるな?」
王子殿下の鋭い目つき、有無とも言わさぬ空気。
王子の隣に佇む公爵令嬢からも、何とも言えない冷徹な視線が突き刺さってくる。
身に覚えがあるかという問いだが、王子殿下の方で既に調べはついているのだろう。
そして結論も、既に出ているに違いない。
「残念だ。諸君らは将来、我が身に仕える忠臣となるはずだったのに、実に残念だ」
そう首斬りを告げられた途端、背筋が凍った。頭のてっぺんから血の気が引いていく感覚を、初めて知った。
ギルヴェイの名も、そこにある。ご丁寧に、いつどこでナニをしたまで書いてある。
他の面々もそうだ。事細かに日時まで記載があるから、ギルヴェイが見張りを請け負ったあの日、あの時、あの場所の近くの空き教室で、カスリーナは別の男と逢い引きしていたのだと、今、知った。
「申し訳御座いません、殿下っ!」
突然、頭を下げたのは王宮侍従長の息子フロランだ。
美しいプラチナブロンドの前髪が、重力に負けて垂れ下がっている。
彼はこの学園で、学業と共に王子殿下の侍従役を熟しており、王子殿下に一番近かった側近中の側近である。
何を隠そう、ギルヴェイが見張り役をしたのは、彼とカスリーナの爛れた現場だった。
「処罰は追って申し付ける。諸君らは自宅謹慎していたまえ」
側近の謝罪を見事にスルーした王子殿下は、婚約者の公爵令嬢と共に、さっさと部屋を出てしまう。
残った級友たちからは、悲鳴と嗚咽の声が漏れるだけだった。
家に帰ってから謹慎していたら、本当にカスリーナからの告発状が届いた。
それを読んだ年老いた人間の母は、「なんてこと……こんな、恥知らずな……」と破廉恥ショックで倒れ、エルフの父は母の看病についた。
エルフである祖母は、「人間の学園になんか入れるんじゃなかった」と嘆く。
祖母の言葉に気まずそうにしながらも、エルフの叔父が他に来ていた手紙を開いた。
「爺様に連絡しよう。公爵家からの嫌がらせが酷い」
カスリーナの父である公爵から、アソヴィ家が手がける文化事業への横槍が入ったそうだ。それを知らせる手紙だった。
「俺のせいだ──!」
ギルヴェイは自分を責めた。
嫌がらせは、商工会議所や文化振興委員会の事務所にゴミが撒かれたり、怒鳴り込まれ威嚇され脅されたり、文化ホールでは座り込み事案まで発生しているそうだ。
この影響を受けて、エルフとの文化交流である音楽祭、観劇会、食の祭典、技術展覧会などの中止が軒並み告げられる。
公爵が広めたのだろう。己の娘がエルフにされたことを。
────ご令嬢をレイプしたエルフは出ていけ! 犯罪者め! エルフ○ね────!
そんな心無い言葉が、アソヴィ家の外壁に落書きされた。
ギルヴェイだけではなく、他の同犯の面々も、似たり寄ったりの嫌がらせを受けているらしい。
「ここにはもう、居れんな。荷物を纏めなさい。父祖の地へ帰ろう」
叔父から連絡を受けた曾祖父である爺様は、キットラス王国に定住した時とは真逆に、この地を離れる決定を下した。
俺のせいで、エルフと人間の交流が断たれた────。
ショックで食事も喉を通らないギルヴェイ。明るかった彼は引き篭もり、日に日に沈んでゆく。
それに追い討ちをかけるかのように、謹慎中のギルヴェイのもとへ王子殿下からの処罰を告げる手紙が届いた。
罰は、卒業見込みの剥奪。希望すれば留年してもいいが、その場合は一年は学園に来るな。二年後から、新一年生と共にやり直せというものだった。
ギルヴェイは卒業を取り消すことを選んだ。退学でもなく、学園に在籍したこと自体、なかったことにしてもらった。
一度だけ、王子殿下の婚約者である公爵令嬢からも、便りが届いた。
お叱りの文かと思ったが、謝罪文だった。
「父である公爵が、アソヴィ家の事業を潰してしまった事を、お詫び申し上げます。
公爵はカスリーナを可愛がっており、カスリーナを汚したと思われる男たち全員に報復したかったのだと思います。
公爵は他にも数々の悪事に手を染めておりましたので、王家が断罪してくれました。
私も少しの罪を背負って、修道院へ参ろうとしたのですが、止められました。
殿下をはじめ、陛下や王妃様まで、様々な方からの説得もあり、私はまだ殿下の傍にいられます。
私は、貴方には、そんなに罪があるとは思えません。他の方々と違って、貴方に邪な気持ちはなかったように思います。
だからと言って、遊びで妹と関係を持ったことは規則と倫理に反しますので、罰を受け入れて下さいましね。
殿下が急なお仕事で、私をエスコート出来なかった時に、貴方は私のパートナー役になってくださったことを覚えておりますか?
妹が勝手に頼んだこととはいえ、貴方は嫌な顔ひとつせずに引き受けてくださいました。
貴方が友達の悩みや相談事に寄り添っているところを、私は見て、知っておりますわ。
いつだって貴方は善意で行動されてます。
妹の方が、よっぽど邪悪でした。妹カスリーナが、貴方にこれまで沢山のご迷惑をお掛けしましたことを、心より謝罪致します」
何だか面映ゆくなる文面で、ギルヴェイの心は少しだけ浮上した。
爺様とも話をした。
「お前、学園では何しとった? 楽しかったことはあるか?」
「俺……人間の友達ばかりつくってた。皆、頭良くて、家柄も良くて、俺の知らないこと知ってて、すごかったから……皆でやった学園祭とか、面白かった」
エルフの食べる物が珍しいってことで、学園祭でイカ焼きとタコ焼きの屋台を出した。
爺様が人間との交易品にしている海の幸、それと緑茶は、徐々に人間たちの間に広まってはいるけど、馴染みはない。
試作のイカ焼きをカシオラスがもりもり食っていたけど、こいつの好みなだけで、学園祭に来る客にはウケないと思っていたら、ソースの香ばしい匂いに釣られてか、客足は上々だった。
「そうか、お前に希望はあるか?」
希望……。
どういう意味かと爺様の顔を見る。
海の色した瞳が、優しく俺を見つめていた。
「やりたいことはあるかと、思ってな」
「ああ、やりたいこと……また、屋台みたいなこと、やりたい」
漠然とした希望を述べたと思う。それでも爺様は真剣に考えてくれて、俺に一軒の店を任せてくれた。
「己を責めるならば、くさくさしとらんで行動せい」
そう発破をかけられての、乾物屋だった。
父祖の地に帰らず、時々に仕入れで戻ることはあっても、殆どを人間の地で暮らす。
この地に暮らせば、人の営みも見えてくる。エルフとは違う人々の、細やかな日常や価値観を学びながら、10年以上が経った時────。
「ギルヴェイ!」
カスリーナが現れた。
カシオラスとの生活は上手くいっていないらしい。愚痴ばかりをこぼし、また物を強請られたり、性的接触を繰り返してくる。
どれだけ邪険にしても、関心なくあしらっても、しつこく、しつこく……寝所にまで入られた。
犯罪だろ、これ!
翌朝には叩き出したけど、まさか、あの一夜で子ができるとは……エルフは、子が出来にくい種族のはずなのに……。
ギルヴェイ・ユーグ・アソヴィ。
好奇心が過ぎた、快楽に弱いエロフである。
カスリーナはカスだけど、色々とスペック高いんよ。




