033、進撃の煎餅と衝撃の始祖
とんがりお耳のエルフ、ギルヴェイ・ユーグ・アソヴィさんのお宅にお邪魔している。
乾物屋の二階が、ご自宅だった。
カス二人? 帰った。
ただ、カス男は帰る前に「こいつぁ、慰謝料代わりに貰ってくぜ」と、スルメイカの束を懐に入れていた。
好きなのかね、スルメ。それだけで許せるものだったのかね、お前の心の傷は。
カス女は、「こっち来んじゃないわよ鬼娘!」とか叫んで石投げてきたので、石投げ返したら、「ぎゃっ」脛に当たり悶絶していた。ざまあ。
優しい私は【清拭除菌】してあげて、ついでに雑貨屋で買った軟膏を塗ってあげた。
傷口に、これでもかと塗り込む。
「ぎゃー! 鬼、鬼っ、鬼娘ーっ!」
「手当てしてあげてるのに失敬な」
背中のユリシスなんか、母親の悲鳴を聞いて、きゃっきゃと悦んでいるぞ。
「鬼っ子ども! 地獄に落ちろ! 今度会ったら、覚えてなさいよ……!」
三下みたいな台詞を吐いてから、すたこら逃げたカスリーナだった。
こっちはもう二度と会いたくないでーす。
あ、でも、魔法ポイントが貰えるか。
vol.4『人に会ってみよう!』で、父母は次回よりカウントとあったから、今回カスリーナに会った分が入っている。駄目親父の分は毎日顔を合わせる度に入っている。
現在の魔法ポイント:179
結構、貯まった。次に欲しい魔法は決めているけど、もうちょっと貯めてから取ろと思う。
「いやー、カス共を追い払ってくれてありがとうな。茶でも飲んでけよ」
そんなギルさんの誘いもあり、お邪魔した次第。
「口に合うかは分からんが」と、淹れてくれたのは昆布茶だった。
ぷはー、うめえ。
「お、イケる口だな」
「イケますよ、これ。滋味深いですねえ。煎餅が欲しくなる」
vol.2『つくってみよう!』を漁る。あ、赤ちゃん煎餅のレシピが生えている。前にチェックした時は無かったから、サイレント更新だ。
数十秒、ぼーっとする。動画を見終わった私の両手の平には、黒米と赤米の赤ちゃん煎餅が乗っていた。ワンダースほど。
ゴミ捨て場で拾った木皿に煎餅を置く。大丈夫、【清拭除菌】しまくってあるから、汚くない。それに、【復元復活】もしてあるから、罅や欠けも無い。
「うん、おいしい。ぬれせんみたい。味薄いけど、風味がいい」
赤ちゃん用なので柔らか食感で塩分も控えめなのだろう。でも、胡麻の良い香りが鼻に抜ける。これは美味。お茶に合う~。
「ふむ、いいなこれ。これも乾物か?」
「乾き物っちゃ、乾き物ですね。原材料は穀物ですよ」
製造工程を【動画上映】で観せてあげた。
「なんっじゃこりゃああああーはははは!」
最初は驚きの声が溢れ、徐々に笑いながら観ていたギルさんは、最後には真剣な表情で、「これ、商品化してえな」と呟いた。
「商品化しないか?」と私に相談するでもなく、ただ願望を呟くギルさんに本気度を感じる。
「原材料を仕入れ……流通……コストが……店を抵当に……爺様に借金してでも……」
なかなか物騒なことをブツブツ呟いているなあ。借金させるのは忍びない。
「ギルさん、ギルさん」つっつきながら、「これ、使って下さいな。あと、初期費用を投資します」と、大量に買ってあった黒米や赤米を並べて出す。
それと、いただいていたアイデア料も全額、渡しちゃう。
「んなあ……?! こ、こんなにも、貰えねえ!」
「いやいや、あげませんよ。投資です。商品化して売上が出たら還元して下されば良いのです」
先ずは先行投資が必要だ。商売を軌道に乗せるまで、私はギルさんを手助けしようと思う。
ギルさんがブツブツ言っていたことから判断するに、彼がこの乾物屋をやれているのは爺様とやらのおかげらしい。爺様の恩恵で商売している身なので、自分で自由に使える金がないっぽい。乾物屋の全ての実権は爺様が握っているということだ。
なぜ、こんなことになっているかというと、過去にうちのカス親や級友たちで、いざこざがあったから、らしい。
ギルさん、いざこざの内容は詳しくは語らなかったが、その結果、アソヴィ家は故郷である父祖の地へと帰ってしまったそうである。
「俺だけ、償いでここにいる。人間たちとの、せめてもの窓口でいたいと思ってんだ」
級友たちってのが、人間の友達だということだ。
この国はエルフ族と友好を築いている。エルフ自体、珍しいから狙われたりはするけれど、この国の方針では、エルフは友達なのだ。
「俺がやらかしたことの尻拭いで、爺様にはいっぱい迷惑かけてよ。だから、恩返ししたくて……俺の力だけで商売してみたかったんだ。ありがとうな、エアリー。儲けたら、金返す。ユリシスにも、会いに行く!」
おお、力強い宣言をいただきました。
「はい。ユリシスを認知していただけて感謝です。養育費も稼いでくだされば光栄です」
「それな!」
だあーははははと笑うギルさんはとても明るい人、いやエルフだ。
ちょっと単純で情に流されやすい性格だからか、うっかりユリシスをつくっちゃったみたいだけど、ちゃんと責任取る気があるようで一安心。
そういや、ユリシスもよく笑う子だよね。新生児微笑かと思いきや、ギルさんの血筋のせいかもしれない。
……将来、不倫して泥沼の人間関係を築くような子になりませんように。
姉ちゃんからのお願い。
「う?」
ギルさんの腕に抱えられたユリシスがこっち見た。
オオルリアゲハ色の瞳が麗しい。美しい。将来、絶対イケメンになる。
ユリシスのぷくぷくほっぺをつっつきながら、私も煎餅動画を観た。
ギルさんが現実で一本見終わるまでに、私はDataで十本観た。
出来上がった煎餅は十ダース分。
これらを試供品として配り、販売路を広げていただきたいと、ギルさんに手渡す。
「エアリー、お前さん、ほんとすげえな。本当にあのカスたちの子なのか、マジ疑う。だけど……タイショー家だもんなあ。そういうことも、あるか」
なんか意味深だなギルさん、気になる。
「父の実家がどうかしましたか?」
「ああ、うーん、これ言っていいかわからん」
「そういう時は言っていいんですよ」
何となくだけど聞いておいた方がいい気がして、さっさとギルさんを促した。
「うん、だからな、タイショー家って、神の申し子と鬼っ娘の家系だろ」
「は? 知りませんが」
「へ? カシオラスから聞いてない?」
「聞くも何も……私が正当後継者だとか……隠れてろとか……名前も、そもそもエアリーだし」
「マジかよ。説明なしか」
「なしですよ。うちの実家、というか先祖、どうなってんですか?」
祖父母のこととか、実はけっこう気になっていたりする。
今はいいけど、父の実家がどういうところかによっては、私は逃げなきゃいけない気がするのだ。特に正当後継者のあたり。
転生したと気づいて三秒で「はよ逃げな」と思ったけど、ユリシスいたので逃げなかっただけで、本音は、よく分からん跡目争いとか血筋とかで何やら巻き込まれる可能性があるなら、サクッと逃げたい。
「んー、エアリー賢いし、知っといた方が身のためかも」
「遠慮せず、どうぞ。我らもう共同経営者じゃないですか」
「いいこと言うなあ! いい響きだ共同経営者……爺様、俺、頑張るよ!」
「はい! その勢いで持ってタイショー家について教えて!」
「おう! タイショー家の始祖は、異世界から召喚された『神の申し子』だ! こいつが、めっちゃくちゃな魔法使うから、その魔法は天外魔法なんて呼ばれてる! で、こいつの嫁が更にめちゃくちゃで、当時、『鬼の狂神』と呼ばれていた国家転覆を謀った犯罪者だ! この二人の血筋だ。タイショー家のやつらは狂人が多い! 常識なんか裸足で逃げてく! 特にカシオラスの妹なんか超やべえ! たしか、次期当主だな! カシオラスは勘当されたから!」
情報が多ーい。その中でも嫌な情報、駄目親父に妹がいる。私からしたら叔母さん。
前世の叔母さんとは、最期まで揉めたから良い思い出がない。
今世の親類も、まともじゃないやつらばっかか……。
「ごめんなさい。一旦、持ち帰らせて下さい」
頭痛いんだよ。
「おう、煎餅開発と販売ルート確保は任せとけ」
頼もしいギルさん。
この後、動画で煎餅づくりの作業工程を頭に叩き込んだギルさんは煎餅の試作に明け暮れ、その合間を縫って爺様の経営するお茶屋さんへ売り込みに行き、店舗に並べてもらった結果────エルフ族の間で、煎餅が大評判になったという。
「んふ~、緑茶に合う~」が決め手だったらしい。
エルフ族、私と感性が一緒のようだ。嬉しや。
さて、この日、衝撃の事実を聞いた私の頭の中は真っ白で、家に帰るまでゴミ拾いを忘れていたほどだ。
家に帰れば、やっぱりその辺で呑んだくれている駄目親父を見つけて、つい、こぼす。
「うちって、犯罪者の家系だったんだね」
と。
魔法ポイント:196




