031、お嬢様は下のことを考える
また、微妙な……。
下ネタ好きですねえ
ええ好きですがなにか
ぶっちゃけ、さくさく書けた。
子供部屋は、渡り廊下の先のダイニングがある階、お日様の当たる角部屋にあった。
「レオくん、こんにちは。お邪魔してます」
「あー、えあり、こんちゃ」
お先にレオノスくんがいて、小さな椅子に座り、キッズテーブルでお絵描きをしているようだ。
部屋の中、明るい色の壁紙に、背の低いチェストや玩具の棚、そしてアウロくんのベビーベッドがある。
「アウロくんも、こんちゃ」
「おう、う、うっ、うおん」
今日も元気なオットセイだね。立派な伏臥上体そらしを披露するアウロくんの隣へ、ユリシスを、そっと寝かせ────起きなかった。ふう、一安心。
マリアさんはその間に、子供用のハンガーラックから一着の服を手に取ったようだ。私に見せてくれる。
「エアリーちゃん、こっちに来て、これにお着替えしましょう」
そう言って着せてくれたのは、五歳児にピッタリのワンピースだ。
「え、え、え、これ」
「私が幼い頃に着ていた服よ。少し手直ししたの。うん、十分、着れるわね。あげるわ。他にも手直ししているのがあるけど、もうちょっとかかりそうなの。取り急ぎ、今日は一枚だけでも着て帰ってね」
襟元や胸元にレースが施され、可愛い釦や刺繍にリボンまでもがあしらわれた余所行きっぽいお洒落服……お高いのでは?!
大店のお嬢様の所持品だよね。私には分不相応だ。
「あの、あの、こんな高級品は」
「似合ってるわ。夜なべして縫い直した甲斐が有ったわね。エアリーちゃん、私の努力、無下にする気?」
「はうあっ、いや、そんなことは」
「うふふ、ちょっと脅しちゃった。でもね、本当に似合ってるのよ。この服、私のお気に入りだったの。エアリーちゃんが着てくれたら嬉しいわ」
レオにもアウロにも着せれないし、三人目は女の子がいいなあとまで嬉しそうに語るマリアさんには、勝てないでしょう。
「ありがとうございます。大事に着させていただきます。そうだ、今日はジェントリ市場へ行くのでした。丁度いいかもです」
「あら、それって川上の、アルテミス通りの」
「それです、それです。アルテミス通りって言うのですか」
「ええ、アルテミス通り。貴族街にあるアポロン通りと対になるよう造られたって、私が幼い頃、それこそ、その服を着ていた頃に発展したストリートよ」
この世界には神様がいっぱいいるが、前世にも聞いたことのある神様もいるらしい。
道路や橋、地名や建物など、人間のつくったものに神の名が使われることが多いようだ。
双子パンダ神も、どこかにいるかもしれない。未だに神殿の噂すら聞いてないけども、どこに祀られているのやら……?
「えあり、こえ、こりぇ、みゆ」
レオノスくんが描いた絵を見せてくれた。
橙や黄や赤が混じったパンケーキみたいな絵だった。
「あったかい色合いですね。美味しそう」
正直にそう言ったら、レオノスくん、満面の笑みというかドヤ顔で「うひひ」と笑った。
それ、どういうリアクションやねん。可愛いけどもさ。
この部屋でもお茶菓子をいただいていたら、マリアさんが下着や靴下やスパッツやらもくれた。
洗い替え無かったから、嬉しい。
私からは今日の授乳のお礼と、試作のパンを渡した。
「まあ、柔らかい……!」
イースト菌が良い仕事してますけえ。
その内にラグお爺ちゃんが量産してくれると思うので、よかったらお店で売り出して下さいな。
「きちんと契約しましょうね」
にっこり言われた。
この日も、お昼ご飯までご馳走になり、そこで布オムツの話題になって、もう少し機能的なのないですかねと聞いたらば……。
「いや、ちょっと、待、待って下さいよ」
と、ケミスさんが慌てて紙とペンを用意した。
「もう一回、お話まとめて」
「えーと、描きましょうか?」
「お願いします!」
ちょっとザラついた紙に、万年筆みたいなペンで布オムツの絵を描いた。
成形オムツとオムツカバーが別れていて、成形オムツは吸収帯なのでお股に沿った形がベスト。生理用品のパンティーライナーのような形ね。おしっこを吸ってくれて、うんちしても剥がれやすい綿素材がいいと思う。
オムツカバーはT字帯。紙オムツの布バージョン。新生児には外側ボタンで止めて、動くようになったら内側ボタンでもいいかな。
マジックテープってある? この世界に。
「無い、ですねえ……無いです。こんな画期的で機能的なおしめ、有りませんよ」
「この、吸収帯のところの成形オムツ? 生理用品にも応用が利くわね」
なんでも生理用品、紙とか綿とか股に挟むだけらしい。
落ちない? それ。
「中に詰めるタイプもあるわ。私は精霊に頼んで処理してもらうのだけど……」
精霊さんが万能すぎて、えらい。
そうすると、精霊と縁がない女性は、本当に中へ綿詰める手段が最有力候補なのだという。もちろん、挟むタイプもあるけども、楚々と歩く貴婦人に主流で、一般庶民はタンポンってことでファイナルアンサー。
「有りそうで無かった商品です」
「まあ、洗うの面倒ですしね」
「使い捨てにすれば良いのでは?」
「洗えば使えるのに?」
「貴族なら専用井戸がありますから、日々、使用人に洗わせれば良いでしょうね。庶民は共同の水場ですから、洗濯の日しか洗濯できません」
そうくるかー。洗濯くらい毎日しようよとは思うけど、都市の一部でしか上下水道は完備されていないらしい。殆どが井戸。
そして多くの大衆は共同井戸や共同炊事場で、決められた量の水しか使えない。
だから、洗濯の日にまとめて洗濯場で洗う。これも洗える量が決まっている。
「魔法の水は?」
我が家など駄目親父が魔法で水を出してくれるので、それ一択である。
「魔法も精霊も、使える人しか使えませんね。水が出る魔法用品もあることはありますが、高級品です。冷凍睡眠箱と同じくらいの」
王侯貴族しか使えないやつー。
「結論を言うわね。布オムツも、新型生理用品も、貴人向けに売れるわ」
マリアさん、ガッツポーズで断言した。
まあ、エアリー・ブランドは元より王侯貴族用だから、ターゲット購買層は変わってないということで。
「新しくお針子を雇って、パンダの刺繍を練習させなくちゃ」
張り切るマリアさんの横で、ケミスさんが、すっと精霊取引書を取り出し、机に置いた。
あ、はい、署名しろってことね。
こうして私は、少しのアイデア料までいただき、『精霊商店』を辞したのだった。
「まったねー、ゼンダ氏」
「お、いい服着てんじゃん。お嬢様っぽいから危なくね? 気ぃつけて帰れよ」
帰り際、店番である髪の毛もっさりゼンダ氏に挨拶したら、服のことで注意を受けた。
そうだった、いつもの貧乏臭い格好と違い、お上品な装いなのだった。
マリアさんのお古だけど、完璧に補修されたこの服を着ていたら、良いところのお嬢様と間違われるかも。
ただでさえ、ユリシスが攫われそうになったばかりじゃないか。対策しなくては……。
「【安全安眠】【悪意感知】【気配察知】──【世界地図】に【飲食探知】で、塩、塩が欲しい。味噌汁も飲みたいから味噌つくる。あ、出汁も。煮干し、カツオ節、昆布、ワカメ、あるといいな」
安全対策に使える魔法を全部使って、足取り軽く、ジェントリな市場を目指した。




