029、最重要機密です
蛙の屁事件の事情を聞き終えたところで、
「ぽぎゃーん」
ユリシス泣いたので、一旦休憩入りまーす。
おしめを替えて……ちょっと焦ってハミちんしたけど笑って許してくれめんすユリシス。
あ、難しい顔しておるわ。ごめん。やり直す。
慣れたとはいえ、長い布を巻くだけの原始的おしめって使いにくいのだよ。
もっと使いやすい現代的な布オムツ求む。
つくってみよう!の項目に布オムツって無いのよね。なんでだろう。
「はーい、ユリシス。お姉ちゃんだぞーお。今日は、なんと、お兄ちゃんと、おっきい姉たんもいます。大盤振る舞いだね。やったあ。普段はいないからレアキャラだぞお」
はあ~ん、ユリシス可愛すぎて変なノリで適当な言葉がペラッペラ出てくるわ。
そしてユリシスを兄と姉にも見せびらかす私。
ほらほら、めんこいやろ。ほっぺなんぞぷにぷにじゃい。ほれほれ、手のひらとかもニクキューのごとしだぞ。ああ、ああ、ここ、ここ、ほれほれにゃんにゃん。
「エアリーちゃんて、ユリシスくんを前にするとおかしくなるね……。あ、そうだこれ……飲んだやつ、ありがとう。おいしかった。けどこれ、ユリシスくんのだよね。盗っちゃってた。ごめん、ほんと駄目なお姉ちゃんで、ごめんね……」
謝りながら哺乳瓶を返してくれる姉ユリア。ちょっと謝り癖が過多な気がするので、ぽんぽんと肩を叩いてあげる。
もちっと気楽に生きな姉。君は良い子だ。そんな卑屈になること、無いんだぞ。親父みてみろ。テキトーに生きてるだろ。あれくらい阿呆でいいんだよ。
そんな気持ちを込めての肩ぽんぽんだ。
「こいつ、あんま動かねえな」
兄に抱っこされたユリシス。微動だにしないから兄としては構い甲斐がないということらしい。
なんだろ。チベットスナギツネみたいな顔をしているユリシス……すん、て感じ。
「男より女がいいってこったな。エアリーなんざ胸ナイじゃねえか。男と変わんねえって。え、姉ちゃん柔らかいって? このムッツリスケベめ」
なああんでユリシスと会話してるかなこの【真眼】持ちめ! うらやまけしからん!
ユリシス、姉ちゃん頑張ってボインになるよ。あと10年待っとくれ。
一頻り、兄姉と触れ合ってから帰ろうとした時、思い出した。
「そういや、ミッダンテさんとマロくん兄弟は何をしにここに来たんでしょう? 何か聞いてます?」
私がやらかした尻拭いしてくれたと思うのだけど、具体的には知らないのだ。
兄姉に尋ねてみるが──「知らねえな」と兄。
「魔法を使ってくれたよ。どういうのか知らないけど……苦しくないかとか、痛いところはないかとか、治癒術師さんとお話するようなこと話したかな」
姉の言葉に、「ふーん」と頷いたけど、わからん。
まあ、後で聞けばいっか。
「またね」と病室を出る。
二人は元気そうだが今日は様子見で、明日にも診察して大丈夫なようなら退院手続きに入るということを担当の治癒術師さんに聞いてから、治療院の出入口に向かった。
「エアリーお嬢様、馬車でお送りしましょう」
ミアさん、玄関先で待っててくれたみたい。爆乳金髪メイドさんの格好で。うへへ。思わずヤニ下がるね。
「キンモッッ」
こら、マロくん。五歳児にキモイはない。
「相変わらずの嬢ちゃんじゃのう。妬けるのう。ミア、ちょっとおっぱい出して揉ましてやるがよい」
「ラグバルド様、滅茶苦茶キモイです」
ミアさん、ドン引きである。
どうしたことかラグお爺ちゃんが暴走気味だ。
「だってのう、イースト菌というやつはパンパンに膨らむんじゃ。やわんやわんボリューミーじゃ。けしからん。はよ、はよせい」
何がだってなのか理解不能だが、イースト菌動画を観たいのは理解した。
さすがにここで上映会は無理なので、精霊商店へ行きましょまい。
親父も一緒に来るかと聞いたらば、「用がある」と、歓楽街の方へ向かった。
ふーむ、あれはパチンコもといギャンブルだな。
パチンコは無いけどチンチロリンなら貧民街でも賽振っているのを見たことがある。
どうせ賭け事だ。そして帰りに酒呑むんだ。ダメ親父めっ。
兄姉のお見舞いするとか真っ当なことしたかと思えば、これだよ。
ぶすくれた気持ちはパンダ籠に入ったユリシスで癒す。
はい、にーぎにぎ。にーぎにぎ。指の先までプニプニやーん。
ふんふわ髪の毛が顎に当たる。心做しかユリシスが、にこっと……天使か!?
ユリシスの全身を、くんかくんかしたのは言うまでもない。
「くああああイースト菌発酵のごとき美味しそうな匂い食べちゃいたい……!」
「ぬう、嬢ちゃん、イースト菌には匂いがあるのかの?」
「ふっふっふっ、パンの匂いといえばそれでしょう。パン屋がイースト菌に支配されたら、そこはもう天国です」
私、超適当なこと言った自覚ある。でもユリシス嗅ぐの、とめられないやめられない。赤ちゃんの匂いって、なんでこんな中毒性あるんだろ。
すーはー、すーすー、はぁぁん。
「クッソキメエッ」
口悪いなあマロくんは。
馬車は一路、『精霊商店』に向かう。
道中は雑談しつつ、眠ったユリシス眺めて癒された。
馬車の揺れは思ったよりも激しくない。お馬さんの常歩で一定だ。
どうして揺れが少ないのか雑談の中で聞いたら、この馬車はラグお爺ちゃんが手掛けたもので最先端技術満載のハイテク馬車だとか。
さすスーパー錬金術師なラグお爺ちゃん。
前世でも、車中や電車で一定のリズムを刻まれての居眠りは心地良かった思い出。
ユリシスはどんな夢を見ているのかなあ……。
私も、うとうとしかけたところで『精霊商店』に着いた。
「よっ、ゼンダ氏」
「よっ、エアリー。いらっさい」
下っぱ店員ゼンダ氏と気軽に挨拶を交わしてから、いつものお部屋で上映会だ。
ケミスさんはお仕事でいないってさ。店主がいないのに勝手していいのかなあ……まあ、ラグお爺ちゃんだからな。名前長い人だからな。
「今、お時間よろしいですかね」
「はいはい、どうしましたミアさん」
「おう、ツラ貸せや」
「なんでやねんヤンキー」
「誰がヤンキーだあ高貴なる俺様に向かってええ」
ええええ、どう見ても金髪ヤンキーだ。マロくん、やっぱ名前長いから高貴なご身分の人なんだね。
……ちょっと私の周り、身分の高い人多くね?
貧民街には底辺ばかりだから、高低差ありすぎだ。
ラグお爺ちゃんにはイースト菌や麹菌の動画を自動ループで観れるよう設定し、私は金髪兄弟とお茶会することになった。
いやはや、金金キラキラ眩しい兄弟ですこと。
ミアさんは心得たもので、私の好きな焼き菓子と、柑橘系の香りがするハーブティーを揃えてサーブしてくれた。
マロくんの前にはココアっぽいものが。匂いは完全にカカオだ。
そこへ更に白い練乳を投入する、だとぉ?
ひいぃ、胸焼けしそう。激甘な香りが漂う。
「治療院でのこと、ラグバルド様が我々のしたことを説明して下さったと思います。それでも疑問はあるでしょう。質問が御座いますれば、お伺いできますよ」
と、ミント入りハーブティーを上品な所作で飲みながら話しを切り出すミアさん。
こういう姿を見ると、ミアさんも高貴なお人だって分かるね。
「お前さあ、俺らがここにいること、疑問じゃないわけ?」
「マロくんはさあ、やっぱ俺様何様王子様なわけ?」
せっかくミアさんが、とっても丁寧に質問受け付けして下さったのに偉そうなマロくん。彼もやっぱり偉い人なのかと思うわけで。
「兄上、やはりコイツ、口悪い悪女です!」
「お互い様だから。ヤンキーくんも口悪いただのヤンキーだから」
「だからっ、俺様を貶すなっつーのおおぉぉ」
面白い人だなマロくんは。
「二人とも仲良しで嬉しいです」
ミアさんの、この余裕さよ。心が雄大だよね。おっぱい大きいし。
胸と心の広さは比例するという説を推す。
「兄上が喜んでくださるのなら……! はっ、べ、別にっ、こんなやつと仲良くなんて、してないんだからな……!」
いやあ、ここでツンデレテンプレートを拝聴できるとは。耳が嬉しいね。
ついでにブラコンかあ。マロくんの属性が増えたぞ。
「弟はいつもこのような振る舞いをする子ですが、神聖力が高く、治癒魔法も得意です。丁度この国にお呼ばれしておりまして、僭越ながらエアリーお嬢様の目隠しにでもなれればこれ幸いと……。ラグバルド様も賛成して下さいましたので、我らの魔法を行使させていただきました」
「……姉から聞きました。問診のようなかたちで魔法を使って下さったと……どういった魔法なのか、聞いても大丈夫ですか?」
「ええ、勿論でございます。ただ、細かいところまでは申せません。特にマロくんのことは最重要機密です」
そう言って人差し指を唇へとあて、「しー」の仕草をするミアさんは、妙に色気があるのでした。
ゼ〇ス好きにはたまらん仕草。
富〇見ファンタジア文庫が好きな文学少女だったエアリーは、心臓を撃ち抜かれたのだった。




