脱出
外に出て分かったんだが、この気温の上がり方は異常だ。
雪はかなり溶けているし、昨夜も雪が降った様子が無い。
空を見れば雲に切れ間が見えるから、いよいよ冬が終わりを迎えたんだろう。
でもこのタイミングは、やめて欲しかった。
昨年もそうだったが冬の終わりは、急激に雪が溶けるから危険なんだよ。
気を付けないと、普通に落下するし。
ビッチとゴボウ医師の作業もあっという間に終わり、俺とりょうたは安全確認をして回る。
もう雪に足を踏み入れただけで、腰ぐらいまで沈む場所もある。
これで陽が当たれば、一気に状況は悪化するだろう。
「本格的にマズいな。こんな雪道を走れる車両があるのか?」
まだ固い雪なら走行自体は問題無いだろう。
でもこれじゃあ、車両も雪に沈むんじゃないかな。
俺は先に、りょうたを建物内に帰す。
彼の身長では、この状態の雪での活動は危険だからな。
片桐さん達の状況を、聞きに行って貰ったんだよ。
少し不満そうだったが、引き受けてくれた。
彼なりに俺の力になりたい事は分かってる。
でも怪我はして欲しくないから勘弁して欲しい。
今は焦っても仕方ないからさ。
状況次第では、直ぐに出発も出来ないだろうしな。
だから俺は、昨日のゾンビ達を確認しに向かった。
向かった先で見た光景は、もう言葉に出来ない。
あえて表現するなら、底なし沼に埋まったみたいな?
ものすごい数のゾンビが沼に捕まってる感じ。
あのまま雪が溶ければ、直ぐに動き出すのは間違いない。
何体かは既に這って動いてるしな。
俺達にとっては幸運だけど、明日になればそれも逆転しそうだ。
片桐さん達の居る場所に逃げるという手もあるが、やっぱり悪手だろうな。
下から引きずり込まれる可能性の方が高いし。
俺は頭を抱えながら、建物内へ戻ったんだ。
◇◇◇
「ナミ。どうだ? 何か連絡来たか?」
「とうまさん。待ってました。やっぱりあっちも苦戦してるみたいですよ。でもナツミちゃん達とは合流出来たそうです」
「食料については言って無かったのか?」
「それもありましたね。林さん達のチ-ムが見つけたって言ってました。だから先ずは、そっちを先に済ませるそうです」
優先順位的にそうなるよな。
ここに来た一番の目的は、食料の確保なんだから。
車両は移動時間の短縮と物資の移動の為。
俺達は最悪、見捨てて行っても文句は言えないんだ。
その事は俺の仲間達も理解している。
だからと言って、何もしない訳にも行かないけどな。
「分かった。じゃあ俺達は援護しようか。身体を休めたら、外の状況を確認。ゾンビが動き出すようなら、ここの2階から敷地内のゾンビをおびき寄せる。危なくなったら、全員で車両に閉じこもる事」
「「「了解 (です)!」」」
休憩中にゴボウ医師には、車両に付いている武器を確認する様に頼んだ。
使えるなら儲けもの。
皆緊張はしているけど、悲壮感は無い。
時間が経過すると共に、建物内の気温が上がって来た。
もう暑くて上着も脱いだよ。
いよいよ静かな時間も終わりだな。
俺は皆に合図をし、武器を持って2階へ上がる。
やはり雪が溶けるスピ-ドが早い。
もうシャ-ベット状に近い場所も見える。
「さて。いっちょ行きますか!」
俺達はゾンビへ向けて拳銃とライフルを発砲。
ドォ――ン! パン! パン! ドォ――ン!
静かな敷地内に銃声が響く。
這い出て来たゾンビ達が一斉にこちらを振り返り、ゆっくりと移動を始めた。
ウゥウウウ。
低い声がこちらまで聞こえて来る。
「狙わなくても当たる。出来れば足を狙ってくれ」
撃てば当たるんだから、無理にヘッドショットを狙う必要も無い。
今必要なのは、出来るだけ動きを止める事。
問題は弾が尽きるまでに、片桐さん達の作業が終わるかどうかだ。
俺達のギリギリの戦いは続く。
◇◇◇
何度も交代しながら休憩も取る。
それでもゾンビは増え続けるばかり。
もう撃つ意味も無いかも知れない。
そのまま夜になり、子供達と女性陣は就寝。
頑張って見たものの、ゾンビの勢いを止める事は出来なかったよ。
今は非常口側へ回られない様に、チマチマ排除するのみ。
ちょうど倒れたゾンビが壁になってくれてるけど、いずれは乗り越えられてもおかしくない。
建物はそれなりに頑丈だから、崩れる心配はないけどな。
「これ生きて出られますかね?」
「これだけ雪が溶ければ、走って逃げる事も考えないとな。その場合、群れを突っ切る必要はあるけど」
「はぁ。あの車両を動かせれば、良いんですけどねぇ」
「でもAAVだっけ? あれでゾンビを乗り越える事出来るか? あんな数だぜ? ひっくり返る未来が見えるんだけど?」
あの水陸両用車って車輪が片側6輪あるんだよ。
それにベルトが付いてて、頭に浮かぶイメ-ジ的には戦車に近い。
スピ-ドも遅そうだしさ。何体か轢いても、その内乗り上げて終わりだと思う。
頑丈だから壊される事は無いだろうけどな。
ゴボウ医師とそんな会話をしながら、お互いに数時間ずつ交代で仮眠をとる。
そのまま夜が明け、ハッキリとゾンビを見るとウンザリする。
ああ。無駄に天気が良いから、顔もはっきり見えるなぁ。
え?
「おいっ! ヤナギ君起きろ! チョットあのゾンビを見てくれ!」
「ふぁ。おはようございます。朝から何事です? ん? え⁉ あれ内藤さんじゃないですか⁉」
どうなってる?
彼らは食料の備蓄庫を発見したはずだよな?
なら何で彼が犠牲になってるんだよ!
俺はヤナギ君を建物内へ向かわせた。
おいおい。
他にもいるんじゃないだろうな?
もう必死にゾンビの顔を確認する。
泥だらけだから、どいつもこいつも同じ顔に見えるんだけどな!
今のところは内藤1人だ。
出会った時に聞いていたが、何故彼らは探索時に被害が出るんだ?
何か嫌な予感がして仕方がない。
俺はゾンビを確認しながら、裏側に回り込みそうなゾンビの排除を続けた。
ダダダッ!
「とうまさん! 内藤さんの件は詳しく分かりませんが、片桐さん達の積み込み作業は終わったそうです! 今からこっちへ回って来るって連絡ありました!」
「分かった! ここからはタイミングを合わせるしかない! ヤナギ君は戻って皆に出発準備をさせてくれ! 俺はギリギリまでゾンビを誘導する!」
◇◇◇
ドォ――ン! ドォ――ン!
ブロロロロ!
微かに聞こえてくる車両のエンジン音。
車側にゾンビを行かせない様に、俺は発砲を続ける!
ドォ――ン ドン! ドォ――ン! パン! パン!
見えた!
「とうまさん! もう皆出発準備終わりましたよ! あっ⁉ 73式小型トラック!」
「......ナミ。分かった。直ぐに行こう」
ブロォオオ―――ン!
非常口から出た俺達は建物沿いを走る。
灰色の4輪駆動車は、ゾンビ達を轢き飛ばしながらこちらへ来る!
キキキ―――ッ!
良く滑りしながら車は停車。
子供達や女性陣を先に乗せる。
俺とゴボウ医師は、周囲に集まるゾンビを必死で排除!
「おいっ! 早くしろ!」
片桐さんが叫ぶ!
俺はゾンビに捕まりそうなゴボウ医師を引っ張り、無理やりこちらに引き寄せる。
そしてドアが開いたまま、車は発進。
分厚いドアでゾンビを退けながら進む車両。そのおかげで俺達もその間に乗車出来た。
「ヤナギ君。怪我は無いか?」
「何とか大丈夫です」
腕や服を捲って確認する俺達。
お互いに噛まれた傷が無い事を確認して、やっと一息ついた。
まぁ乗り心地は悪いんだけどな。
悪路だしゾンビもいるから、真っ直ぐ進めないのは仕方ないけど。
「片桐さん! 他の方は?」
「大丈夫だ。この車より大きいトラックで先に敷地を出たよ」
「それって73式中型トラック? それとも大型かなぁ?」
テンションの高い委員長は置いておくとして、無事に出られてよかったよ。
今回は予定が狂いまくりで、本当に大変だったし。
後は無事に戻る事......それとあの件の確認だな。
幸い別の車だし、あっちと合流するまでに、片桐さんにも伝えておいた方が良いだろう。
今はこのまま、ゾンビから逃げる事が先決だけどな。
しかし戦い慣れても、ゾンビが大群になると怖い。
誘導だけなら難しくないけど、狭い場所なら逃げられないもんな。
生きて出られたことは、本当に奇跡だよ。
もう残弾が無いから、街でゾンビに出会うと危ない。
それも含めて話し合いたいので、基地から離れた際に一度車を止めて貰ったんだよ。
そして来た時に最後に立ち寄った街で、無事に妹ちゃん達や林たちのチ-ムと合流した。
お互いに無事を喜び合ったが、やはり内藤さんの件で、悲しい事実を知る事になったんだ。




