表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/151

尊い犠牲?

 皆と無事合流は出来たが、街での休憩は取りやめた。

 雪が溶けた事でゾンビが出て来る心配もあったが、それよりも深刻な問題が発生。

 

 もうね。

 

 街の中が水浸しなんだよ。

 それも泥水でいっぱい。

 こんな道も走行は出来るけど、泥濘(ぬかるみ)にハマって動けなくなる事は避けたい。


 だから都市部からは離れる事にしたんだよ。

 今は道路上で休憩中だ。


 何人かは周囲の警戒をし、その他の人間は今回の報告を聞く。


「じゃあ我々から報告をしよう。先ずは見ての通り、移動用と運搬用の車両を手に入れる事が出来た。但し燃料はあまり無い。一度帰ってからの課題として覚えておいて欲しい。それから......」


 片桐さんの報告通り、車両3台は確保できた。その内の1台、4輪駆動車には無線搬送装置もあった。

 広域無線は聞かれる心配があるので使えないが、短波無線なら、仲間とのやり取りには使えるだろう。

 更に驚く事もある。中型トラックには、衛星通信移動局装置が搭載されていたんだ。


 上手く使えば、様々な情報が入手できる可能性も出て来たんだよ。

 拠点防衛を考えるなら、これほど幸運な事は無いだろう。


 次に妹ちゃん達からの報告。


 彼女たちはやはり雪道に苦戦し、ゾンビから逃げる形で中央の大きな建物へ逃げたらしい。

 でもそこで終わらないのが、妹ちゃんらしいと思う。

 何と自衛隊仕様のライフルなどを入手。弾薬もかなりの量を探し出したらしい。


 それだけでなく、自衛隊員の迷彩服まで持って来たらしいよ。

 装備品までは流石に持てなかったようだけど、防弾ベストはあったな。

 女性達の着がえが必要だったから、ついでだったみたいだけど。

 きっと荷物持ちのケンが頑張ったんだと思う。


 そして最後に、林さん達の報告だ。


 彼らもゾンビに襲われそうになり、逃げた先の建物が偶然にも備蓄保管庫だったらしい。

 ちょうど近くに居た警官の1人に、助けを求めたと言っている。

 でも不思議だよな? じゃあ何で内藤が犠牲になったんだ?


「林さん。そちらへ助けに向った事は、部下から報告を聞いている。だが、その時にはもう内藤さんがいなかったと聞いたんだが? 一体、何があったのか教えてもらえないだろうか?」

 

 これは事前に俺と片桐さんで聞こうと思っていた事だ。

 答え次第では拘束の可能性もあると、片桐さんは言った。

 さて。何を話すんだろうか?


「彼は仲間を生かす為に犠牲になりました。尊い犠牲です。私達には祈る事しか出来ませんが」


 顔を歪めてそう言った林。

 周囲の男性達は、少し震えている様にも見える。

 何が尊い犠牲なんだ? こいつ等宗教の信者なのかな?


「内藤さんが犠牲になった事は分かっています。ですが詳しい状況を聞かせて下さい」


 少し詰問口調で片桐さんが言う。

 するとケロッとした顔で、林が語り始めた。

 何だコイツ? この感じ丸川先生に似てるかも知れない。


 林の話す内容は、先程とあまり変わらなかった。

 移動時に足元から手が伸びて来て、引きずり込まれそうになったんだと。

 そこで()()()()()()()()()()()約束通り、内藤が囮になったそうだよ。


 聞けばこのやり方で、彼らのグル-プは生き延びて来たらしい。

 もう既に次の人間も決まっていると、林は笑顔を浮かべながら言った。

 もうそこまで聞いて、俺も黙っている訳にはいかない。


「アンタそれ本気で言ってるんだな? じゃあ聞くが。その尊い犠牲に、アンタの順番はあるのか?」


「君は何を言ってるんだね? 私が居なくなれば、コミュニティが維持できない。私が居たから、皆が生き残れたんじゃないか」


 俺は片桐さんの顔を見た。

 片桐さんは何も言わず頷いてから、部下に指示を出す。


「この男を拘束! 以後話す事も許さん!」


「お、おい! 何をする! 私にこんな事をすれば、アンタ達が危険な目にあうぞ!」


 警官に拘束され、何処かへ連れていかれる林。

 例えこんな世界でも、狂った指導者など必要ない。

 それを黙って見ている男達。


 なんだ。やっぱり不満があるんじゃないか。

 あの男にどんな魅力があったのか知らないが、何故誰も逆らわなかったのか?


「では改めて話を聞きたい。誰でも良い。話して貰おう」


 片桐さんは、男達を見渡して言う。

 最初は遠慮して、お互いに顔を見合わせていた男達。

 でもそのうちの1人が、今までの事を話し出した。


 彼らのコミュニティが、寄せ集めの集団だった事に嘘は無い。

 ただ女性を守る為、仲間を守る為に、命を投げ出す事が美徳とされていたらしい。

 それを率先して推奨したのが、あの林だった。


 自身も柔道の心得があり、実際に現場に出て働いてはいた。

 だが人数が増えて来ると態度を一変。

 古参を取り巻きに置き、自身がリ-ダ-として振舞う様になる。

 新規で仲間になった人間は、そんな林に文句を言える環境では無かったらしい。


 生贄として選ばれるのは、林と意見が合わない者ばかり。

 その強権は例え古参でも例外は無かった。

 勝手に順番を決められてしまい、反発する人間も居たらしい。

 でもそう言う人間は、何時の間にか見なくなる。


 聞けば探索時に犠牲になったとしか聞かされないんだとさ。


 逆らえば何をされるか分からない。だから従順に従うしかない。

 男達は口々に不満を言い始めたが、俺達はそれを冷めた目で見ていた。

 同情はするが、だから何を言いたいのか分からない。


 俺からすれば、お前達も同罪だろう。

 結局、わが身大事に見捨てたんじゃないか。

 それが普通なら、一緒に暮らすと警戒しないといけなくなるよな。


「話は分かった。それで? 君達はこの後、どうしたいんだね?」


「ど、どうしたいとは?」 「連れて行って貰えないんですか」 「約束が違う!」


 わぁわぁと煩い男達。

 そこで先程までにこやかだった片桐さんが大声で怒鳴る。


「黙れ! 調子に乗るな! お前たちは被害者では無い! 加害者だ! 先ずそれを認識しろ!」


 その声に押し黙る男達だが、1人の男が噛みつく。


「加害者だって⁉ 俺達は被害者だよ! 恐怖に怯えていただけだ!」


 何て言うもんだから、もう失笑だよ。

 だから俺は冷静に言ったんだ。


「その認識がおかしい。恐怖? まぁそれはあるだろう。でもな。お前らも見捨てたんだろ? 見て見ぬふりしたんだろ? 分かってたよな? それを無かった事には出来ないって。その事をちゃんと受け止めないと、一緒に生活できないんだよ。だってお前ら自分を被害者にして、仲間を売る可能性もあるし」


「そ、それは......」


 片桐さんは男たち同士で、話し合いをさせる事にしたよ。

 今の考え方しか出来ないなら、連れて行く事は不可能だ。

 上手く行っているコミュニティを傾けかねないし。

 俺の仲間が危険な目にあう可能性だって否定できない。


 気持ちは分かるんだよ。

 俺だって見捨てた事あるんだから。

 それもあるから、俺は客人でしかないんだよね。


 俺が守りたいのは、仲間だけだからさ。

 誰に何を言われても譲れない。敵対したら容赦なんか絶対しないしな。

 今のコミュニティの人達を同じ様に思えるなら、守る物も増えるかも知れないけど。


 片桐さんは女性達にも話を聞いたけど、代表の内田さんは詳しくは知らない様だった。

 その事を申し訳なさそうに話していたから、妹ちゃんの影響があるのかも知れないな。

 俺の中のイメ-ジも少し修正した。


 大事にされて天狗になってると思ってたし。

 あ......だから指導されたんだっけ? ま、まぁ良い。

 更生は妹ちゃんがさせてくれるはずだ。


 この日は朝までその場を動けなくなったから、俺は妹ちゃんが持って来たと言う銃を見に行ったんだ。

 何故かソワソワしながら、委員長もついて来たんだけどな。


「これがライフルで、こっちは少し小さいな。それと......」


「そ、それは89式5.56mm小銃です! 小さいのが64式7.62mm小銃で、そっちが...きゃあ!? これ対人狙撃銃 M24 SWSですよ!」


 楽しそうに説明してくれる委員長。

 俺が分かるのは5.56mmの弾が、標準の弾だって事ぐらいだから!

 この際、聞いてみようか。


「ナミってなんでそんなに、自衛隊に詳しいんだ?」


「え? それはその......あ、兄が自衛隊員でして」


「はい⁉ 何処の所属なんだ! 生きてるのか⁉」


「わ、分かりません。兄は海上自衛隊に所属してますから。生きてる可能性はあると思ってます」


 個人的な事情は聞いて無かったから、いきなり教えられて俺も驚いたよ。

 てっきりオタクなだけかと思った。

 文学的な方じゃ無くて、こっちかと。


 それなら病院にある地図で、安否の確認してみるのも良いかも知れない。

 俺は帰ったら見て貰いたい物があると言っておいたよ。

 でもそれを聞いた委員長の反応がおかしい。


 何かクネクネしてるし、武器を見てテンションがおかしくなったのか?

 俺は不安だけどな。もしも地図に塗られた色が残酷だったらって考えてさ。

 その時に俺がなんて言葉をかけて良いのか......。


 この後、朝まで交代で警戒をした。


 そして翌朝、再び男達から話を聞く事になったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ