表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/151

雪面に咲く花

 俺達が自衛隊駐屯地の探索を開始したのは午前中だったが、今日は特に気温が上がっていた。

 厚着をしているので、少し汗を掻くぐらいだ。

 その為、足元の雪が溶けて歩きにくい。


「足元に十分気を付けてくれよ。動けなくなるからな」


 俺は仲間達にそう声をかける。

 流石にりさちゃんには辛いので、委員長と交代で抱っこして移動だ。

 もう靴もズボンも水分が沁み込んで気持ち悪い。


 それでも広い敷地内を歩いて、割り当てられた建物を目指す。

 ちょうど入り口を入った正面に、連なった大きな建物があったんだが、そこには行かない。

 片桐さんが言うには、その大きな建物に隊員の宿舎などが集まっているらしい。


 多分上官たちの執務室とかがあるんだろうと、俺は想像しているけどな。

 時間があれば、今回の手掛かりを探したいんだけど。

 今は目的の物を探すのが優先。


 なので入り口を入って、左側に進んだんだ。

 右側の方が建物が多いので、他の2チ-ムにそっちを任せたんだよ。


 まず目に入ったのは、だだっ広い何も無い広場?

 駐屯地には訓練の為のグラウンドもあるはずなので、ココがそうなのかもしれない。

 俺達が目指すのは、その広場を抜けた先にある建物だ。


「見えてるのに、なかなか進みませんね。あ~、私も抱っこで移動したい」


 委員長がそんな事を言っているが、俺は華麗にスル-した。

 せっかくご機嫌な天使を抱っこしてるのに、余計な事は言えぬ。

 今は急いでるから、とっとと歩くんだ!


 もう雪道を歩きなれた俺達でもこの調子だから、妹ちゃんチ-ムや男性チ-ムも大変だろう。

 まだ俺達がこちら側を担当したから、これ程では無いだろうけどな。

 

 かなり苦労したが、目的の建物には無事に到着。


 しかし建物内への侵入場所が、なかなか見つからない。

 窓も完全に封鎖されてるんだよ。


「あまり使いたくなかったが、委員長頼めるか?」


「かしこまりです!」


 音が響くからこの手は使いたくなかったが、グズグズしてられないのでライフルを使う。

 片桐さん達には事前に伝えてあるので、トラブルと勘違いされる事は無いだろう。

 

ドォ――ン! 


 バキッと言う音をたて、窓をふさぐ木材が弾け飛ぶ。

 そのままガラスも貫通して、大きな穴が空いた。

 その場所をゴボウ医師が鉄パイプで突いて、人が通れる大きさにする。


 残りの俺達は周囲を警戒。

 不測の事態に備えた。


 ......静かだ。



 暫くそのまま動かずにいたが、問題なさそう。

 

 いよいよ中の確認をしようと、全員が動き出した時。


「と、とうまさん。あれって......」


 俺の後ろを指差し、声を震わせながら言う委員長。

 

 振り返って俺が見たのは、あまりにも異様な光景だった。




 ―――雪面から次々と突き出る無数の腕。



 それはまるで、花が咲く様に広がって行くんだ。

 

 あっという間に、広場を埋めて行く無数の腕。


 風に吹かれるように揺れる掌は、こちらを誘っている様にも見える。

 

 俺は、身体の芯からゾッとした。


「は、早く中へ! グズグズしてたら、あれが這い出て来るぞ!」


 一体どれだけの人間が、ここで犠牲になったんだよ!

 あんな数に囲まれたら、どれだけ頑張っても生きて出られない。

 俺は先に仲間達を建物内へ入れ、探索を頼んだ。


 この建物への出入り口を何かで封鎖しなければ!


 とりあえず外側は、雪を掘って穴を作っておく。

 少しでも時間稼ぎが出来れば、活路を開けるからな。

 その後は、ゴボウ医師と協力して中から物を積んで窓を封鎖。


 今の状況なら、這い出て来ても動きは遅いはず。

 ぬかるみで足を取られるしな。

 それにしても俺達が歩いていた真下に、あれ程の数のゾンビが居たなんてな。

 よく無事に通過できたもんだ。


 でもこの状況を知らせる手段がない。

 何も知らされずこの場所に来たら危険だ。

 

 こんな時に連絡を取れる手段があれば......。


 ん?


 あれがあれば連絡は取れるかも。



「ヤナギ君。この建物内に無線があるはずだ。使用できるか分からないが、探してくれないか?」


「なるほど。車両にも無線ついてますもんね。分かりました」


「すまん。でも気を付けてくれよ? この中も安全かどうか、分からないからな」


 妹ちゃん達はどうか分からないが、片桐さん達が車両を発見していれば連絡は取れるはず。

 

 今はそれを信じて、目的の物を探そう。


 俺は委員長達が向かった先へ走った。






◇◇◇






 俺達の入った建物は、残念ながら備蓄品は無かったよ。

 でも良い物を見つけたとゴボウ医師が言う。

 それで案内されたのが、1階にある倉庫だ。


「これは装甲車両か? ヤナギ君。これが何なの?」


「いやいや。これがあれば脱出できるし、中に無線もあるじゃないですか?」


「えっと。誰が運転するのかな? こんな物普通に運転できないだろ?」


「え⁉ ま、まぁとりあえず中へ入ってみましょうよ」


「うわあああ! これってAAVじゃないですか! 何で此処にあるの⁉」


「ナ、ナミ。急にどうした? AAV? 何だそれ?」


 そこから委員長が力説を開始。

 何処から仕入れた知識か知らないが、目の前の車両は水陸両用車らしい。

 AAVはその愛称で、水陸機動団にしか配置されてないとか何とか。


 そんな事を聞いても、チンプンカンプンすぎて理解出来ん。


 とにかくデカくて、人も沢山乗れるトラックで良いんじゃね?

 とか思ってる事は、口には出せないけどな。


 しかも説明が長いんだよ。

 やれ装甲が何ミリあるとか、12.7mm重機関銃があるとかさ。

 素人に使えるもんじゃないっての!


 水陸両用って言うなら、乗車できれば逃げる事も可能かもしれないけどさ。

 こんな時に自衛隊が生きていれば、何の問題も無かったんだがな。


 それでも車両の中には入ったんだよ。


 一応燃料であるディ-ゼルはある。

 でもさっぱり動かし方が分からんと言う事態。

 流石の委員長も、こればかりは分からないそうだ。


「でもこの中の方が安全だろう。広いしな」


 俺も天使とりょうたから、キラキラした目で見られてるから困ってるんだ!


 無理だから! 普通の車なら運転できるけども!


 そんな時、適当にスイッチをいじっているゴボウ医師。


 壊さないか心配だったが、何と電源が入ったんだよ。


ジィ―――


 無線機から流れる音がする。


「ヤナギ君! それで連絡とってみてくれ!」


 俺はゴボウ医師に任せた。

 周波数さえ合えば、連絡が付くだろう。

 ただ片桐さん達が、車両を手に入れてないと繋がらない。


 だから各自で休憩を取りながら、ひたすら待つだけの時間が続いた。

 外があの状況だから、のんびりできる時間が貴重なんだよ。

 ここまで来るのに、かなりの体力を使ってるしさ。


 ヤナギ君も休ませないといけないので、俺達も交代で無線機をいじる。


 しかし時間だけが過ぎて行き、一度外を確認したら陽が落ちていたよ。


 幸いゾンビ達は、この建物には来ていない。

 まだ這い出ていないのかも知れないな。

 この日の俺は久しぶりの安全な空間で、気が緩んでいたらしい。


 身体を揺すられるまで、自分が何時寝たのか分からなかったんだ。


「.....うまさん。 とうまさん! 起きて下さい!」


「す、すまん。寝てたのか俺」


「連絡つきましたよ! 片桐さん達と!」


 大はしゃぎのゴボウ医師。


 そうか。無線が通じたのか。


「今、朝なのか?」


「はい! 明け方に呼びかけがあったんです! あっちは動く車両を手に入れたって言ってます!」


 まだ運はあるようだ。

 回らない頭では、皆のテンションについて行けない。

 無理やり身体を起こし、俺は皆に指示をする。


「ふぅ。とにかく、何時迎えが来ても良い様に、安全な退路を確保しよう。誰か外へ出られそうな場所を見つけたか?」


「それなら、私が見つけた出入り口が使えると思うわ」


 ビッチが得意げに言うので、車両から出て確認に向った。

 向かった先は建物の裏側にある非常用の出入り口だったよ。

 確かにここなら、安全に出る事が出来るな。


 だが問題がある。

 ここ1階だよな? と言う事は外は雪だ。

 

「2階へ上がって外へ出て、扉の前を掘り起こそう。今なら雪も溶けてるし、倉庫にスコップぐらいあるだろ」


 言い出しっぺのビッチは強制参加。

 ペアのゴボウ医師もセットでな。

 りさちゃんと委員長が無線前で待機だ。


 俺とりょうたは、周辺の安全確保。


「何だよ不満そうな顔して。いつも俺がやってるんだから、夫婦で働いても罰は当たらないぞ?」


「だ、誰が夫婦よ!」 「そ、そうですよ」


 もう早く、くっついちまえよ。

 

 周りは公認カップルだと思ってるのに、本人達に自覚がない。

 

 さぁ。

 

 生きてここを出るぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ