団体行動の難しさ
皆が寝静まった後、俺は何時もの様に夜の警戒をする。
ここ最近は疲れで少しずつ眠れるようにはなったが、未だ数時間置きに起きてしまうんだよ。
今日は神経が高ぶって眠れないんだけどさ。
「とうま。少し話をしないか」
そんな風に誘って来たのは、珍しくケンだった。
普段から特定の話題以外は喋らないから、今日も合気道の事だろう。
「いいよ。どうせ寝られないし」
「とうまは、何故合気道を習いたくなったんだ?」
「皆を守る為って言えたらカッコいいけどさ。動機は自分の為だよ。俺ってコミュティに来る前に、ボッコボコにされてさ。正直、あの時は調子に乗ってたんだ。だから目に見える力が欲しかった......」
あの時は死ぬ気だったんだ。皆を逃がす為に。
それでボコボコにされた時、助けに来た委員長を見て思った。
負けられないじゃないかと。
でも意識を失って痛みで苦しむと、そこから逃げたくなる。
俺は本当に、口先だけの情けない男だよ。
そんな男が生き残ってしまった。
だけど俺の失いたくない人達は、生きていてくれたんだ。
だから今度こそ、自分の手で守れるような力が欲しいと思えた。
そんな気持ちがあったから、リハビリを懸命にやったよ。
顔も身体も指も形だけは治ってくれたし。
だけどさ。
日が経つに連れ、どんどん不安になって行ったんだよ。
ゴボウ医師の前ではそんな顔は見せれないから、いつも笑顔を見せてた。
でも1人になると落ち込んだんだ。何で思う様に動かせないんだってさ。
今でこそ、それなりに動くようにはなったんだけどな。
そんな時に妹ちゃんが敵を投げ飛ばしてるのを見て、俺も覚えたいって思ったんだ。
初めは軽い気持ちだったけどな。
その気持ちが本気に変わったのは、ケンの話を聞いてからなんだ。
合気道が集団相手でも戦えると聞いて、自分が負けた時の事を思い出した。
だからこの技術さえあれば、今度こそ負けないはずだと前を向けた。
「そうか。だが合気道は甘くないぞ? まだまだ今のお前は素人に毛が生えた程度でしかない」
「ああ。十分わかってる。でも今度は諦めない。仲間を守って、世界が終わるまで生き残るつもりだし」
なんて男同士で盛り上がって、結構遅くまで話してたよ。
いつも胸の奥にしまってた気持ちを喋って、スッキリしたけどな。
周りの環境を完全に忘れて。
翌朝の朝食時、全員からニヤニヤした顔で見られた。
片桐さんは俺の肩を叩いて、うんうんってやってるし。
警官は微笑ましい顔で俺を見てるし。
妹ちゃんなんて、鳴らない指笛吹いてたよね。
俺の仲間達も何か言いたそうな顔で俺を見てるし。
その時に初めて、皆に話を聞かれてた事に気づいたんだ。
もう恥ずかしくて、穴があったら入りたいって感じだったよ。
まぁ俺の黒歴史も答えを持って来た、ここのコミュニティの代表によって有耶無耶に出来たけどな!
「おはようございます。昨日は考えるお時間を頂きまして、ありがとうございました。早速ですが、我々の答えをお伝え致します。我々は貴方方と協力をした後、そちらに移住させて頂きたと思います」
「そうですか。良い返事が頂けて良かったです。それでは今後の話を......」
相手の代表から協力をする事が伝えられたので、今度は全員で基地までの段取りを話し合った。
30人近い団体で動く事になるから、お互いの動き方なども打ち合わせる必要があったんだよ。
出来れば誰1人欠ける事無く、病院に戻りたいものだ。
◇◇◇
話し合いは時間が掛かったので、出発は1日遅れた。
急ぐ旅なので俺としては少し不満だったが、人数が増えた事で得られる物があると切り替える。
先頭に片桐さん達警察官。次に新たに増えた男性陣が続く。
間に女性陣を挟んで、最後尾が俺達という隊列だ。
最初の1日、2日は遅れを取り戻す様に急いだことで、かなりの距離を稼げたと思う。
でも3日目になってその反動が出る。俺達と違い体力的な限界が出て来たんだ。
そこで短い休憩を取りながらの移動に変更。
初めての団体行動で、皆に疲れの色が見え始める。
「マズいな。これじゃあ予定の日数で辿り着けない」
休憩中、そうぼやいた俺に周囲の人間の視線が集まった。
「とうま君。これは仕方ない事だ。彼らも一生懸命にやっているよ」
片桐さんが周囲に聞こえる様に言う。
それは分かっているんだけどな。
でも俺達が遅れる事で、病院に残っている人達の危険度が増すんだよ。
だからどうしても気持ちが焦ってしまう。
この時は一応、頭を下げておいたけどな。
場の雰囲気を悪くしたのは自覚してたから。
だけどそんな俺の気持ちが伝染したのか、俺の仲間達からも不満の声があがり出す。
それは調達時に入った建物での事だ。
一緒に動いていた女性が、ゾンビに襲われたんだよ。
ビッチや委員長が助けに入ったから、事なきを得たんだけどさ。
あまりにも不用意な行動だったので、喧嘩になっちゃったんだよね。
その場は俺も間に入り、何とか治める事は出来た。
でも溜まった鬱憤は吐き出しておかないと、後で爆発されても困るよな。
だから俺は仲間を集めて、事情を聞いたんだ。
すると知らなかった事実が次々と判明。
今回の様な行動は、出発当初から続いていたらしい。
立ち寄る場所での探索時、男性に見られたくない物もあるから、別行動だったんだよ。
不注意な行動も、最初は緊張でもしていると思っていたから、優しく注意していた。
でもその時は申し訳なさそうな顔で謝るが、また同じ行動を繰り返していたみたい。
経験の違いだとは思うが、一緒に行動する彼女達は文句も言いたくなるだろう。
危険なのは本人だけじゃ無いからな。
1人の不注意から、全滅する可能性もあるんだから。
そこでこの事を片桐さんへ説明。
あちらの代表者に事情を聞いて貰う事にしたんだ。
その結果、面倒な事実が分かる。
どうやら生き残っている女性達は、ほとんど外に出た事が無いらしいんだ。
今更そんな事を聞かされても、戻る事も出来ない。
さてどうしたものかと悩んでいた時、珍しい人物が声をあげた。
「私に任せるといい」
ドンッと胸を叩きながら言う妹ちゃん。
スタスタと女性達の集まる場所へ行き、何やら声をかけている。
しかし次の瞬間......。
次々と女性が投げ飛ばされ始めた。
「おいおい。あれって指導だよな?」
慌てて俺達も駆け寄るが、既に全員投げ飛ばされた後。
妹ちゃんも怒ってたのか?
そう思ったんだが、少し違った。
「これは指導。性根を叩きなおす」
鼻息荒く言う妹ちゃんだが、俺達はドン引きだよ。
これには委員長達も同情し、倒れている女性達を助け起こしていた。
あれ?
結果オ-ライなんだろうかね。
何か雰囲気が良くなってる気がする。
そう思ったのは俺だけじゃないみたいで、周りの男達もホッとした顔をしているよ。
多分、男性陣も不満に思っていたんじゃないかな。
男は女性を守る者って言う考え方は嫌いじゃないけどさ。
今はそんな世界じゃないし、女性だって戦えるんだよね。
この場で一番強いのは妹ちゃんだし。
この日から短い期間ではあるが、女性達は休憩時に戦い方を学ぶ事になった。
余計に疲れるんじゃないかと心配したけど、意外とヤル気になったみたいだよ。
そして病院を出発してから13日目。
遂に自衛隊基地が見える場所まで到着したんだ。
◇◇◇
「あの入り口から中へ入れる。ただ私も記憶が少し曖昧なんだ」
低い姿勢で基地の入り口を観察する俺達に、片桐さんが申し訳なさそうに言う。
その事は事前に聞かされているから、特に問題は無いんだけどな。
敷地内の地図なんて元々ないんだし。
便宜上基地とは言っているが、ここは陸上自衛隊の駐屯地。
確か中部方面隊だったはずだ。
雪がまだ積もっているが、大型の車両の出入りがある為、入口はかなり広い。
ゾンビの姿も見えないから、侵入するのは簡単だろう。
外から見えるだけでも敷地が広大で、建物の数も多いんだよ。
俺達の目的は食料の確保と車両の確保だから、手分けして探索する必要がある。
「避難所として使われていたのは、あの三角屋根の建物だ」
「じゃあ、そこは一番後で確認しましょう」
食料が残っている可能性が一番高いのは、避難所になるだろう。
でもそこが一番危険だ。
どれだけのゾンビがいるか分からない。
そんな場所にいきなり入ると、犠牲者が出てしまう。
だから先ず探すのは、備蓄品の保管庫だろう。
次いで片桐さんの言う車両の保管場所。
「車両の方は私達で確保する。だから君達は食料を優先してくれ」
警察組は3名いるので、車両については任せる事になった。
俺達は3つの組に分かれて探索をする。
先ずは林さん達、男性陣9名で1組。
そして妹ちゃんとケン、それに女性7名の9名で1組。
俺達は、いつものメンバ-6名で行動させてもらう。
さて。
いよいよ探索開始だ―――




