いざ自衛隊基地へ
いきなりの提案ではあったが、出発準備は進めて来たんだ。
後は諸々の準備と住民の理解を得るだけ。
タケシはしっかりとそう言う部分にも目を向けていたので、人を率いる事に向いていると思ったよ。
集められた住民にも危機感を共有し、俺達の出発にも協力的になってくれた。
持っていく為の物資も集めてくれたし、本当に助かった。
自衛隊基地へ向かうメンバーは、片桐さんを含む警官が3名。住民代表で妹ちゃんとケン。
そして助っ人枠で俺達6人。合計11名だ。
病院の防衛は残りの警察官と元罪人、そして住人からの有志が担当を任される事になる。
見送りの際、必死で妹ちゃんに声をかけるタケシに、皆で大笑いしたよ。
かなりの塩対応で可哀想だったけどな。でもあの渡してる物って何だろう? 気になる。
出発して直ぐに驚いたのは、りさちゃんが1人で歩いていた事。
こっそり聞いたら、委員長と一緒に毎朝雪道を歩く訓練をしていたらしい。
俺は少し寂しかったが、負担を考えるとありがたかったよ。
気温も春並みに暖かいので、急がないと雪解けで余計に歩きにくくなるだろう。
幸い道案内を片桐さん達がしてくれるので、道に迷う心配はないけどな。
まだまだ遠い道のりだ。
出来れば変なトラブルが無い事を祈ったよ。
◇◇◇
1日目、2日目と特に目立ったトラブルも無く、今の所計画通りに進めている。
気持ちにも余裕があったので、ゾンビ相手に少し特訓の成果も試したりもした。
でも接近戦は油断が出来ないよ。
掴みかかるゾンビをかわすまでは良いけど、投げようとしたら変に力が入る。
ゾンビの身体って腐ってるから脆いんだよ。
そいう意識が働いて掴みに行っちゃうんだ。
だから相手を握る力が強いと、ゾンビの腕が抜けちゃって......。
「下手くそ」 「それは柔道だな」
なんて辛辣なお言葉を頂きましたよ。
当たり前だけど、そうそう簡単に会得出来るわけなかった。
いずれは褒めて貰える様に頑張るつもりだけどな。
委員長、ビッチ、りさちゃんも、妹ちゃんから何やら指導を受けていた。
女性同士、仲良くてよろしい。
こっちは何故か片桐さん達に、柔道も教えられてるんだが?
動きは違うけど、何か通じるものがあったんだろうかね。
ケンは片桐さんと意気投合してるんだよ。
俺は警官達に、しごかれてますけど!
そして3日目。
立ち寄った街で変異種に遭遇する。
ゾンビ犬5匹だ。
群れとしては少なかったが、脅威であることは変わらない。
流石にまだ接近戦は心許ないので、俺は相棒の金属バットで対応。
警官チ-ムは警棒で戦ってたよ。
ケンのあれは棒? それとも杖? 柄が付いてるから、杖だよな?
見慣れない武器を持ってる。
妹ちゃんは......いつも通り投げてるな。
委員長達やゴボウ医師を心配したが、皆で連携して対応してるよ。
ビッチがサバイバルナイフでチマチマ切り刻み、その隙をついてゴボウ医師が鉄パイプでぶん殴る。
りょうたが囮になり、入れ替わった委員長がナイフを突き入れて。
正直、良い連携だと思った。
りさちゃんは、妹ちゃんの側にいるから大丈夫。
大体20分程でゾンビ犬は沈黙。
人数はこちらが多かったから、人的被害も無くて済んだよ。
それにしても実戦から遠ざかっていた割には、うちの仲間達は動けてるなぁ。
俺が動けて無いのか? 後で聞いてみよう。
もっと気になるのは、妹ちゃんが背中に担いでる長物。
あれって俺の想像通りなら日本刀だと思うんだが......。
「なぁ妹ちゃん。その背中の物使わないのか?」
「馬鹿弟子。ナツミ師範? とお呼び。これ折れるから使わない」
「分かったよ、師範ちゃん。それって日本刀だよな?」
「......まぁいい。にぃが無理矢理渡した」
チョット日本刀を見てみたいけど、大切そうだからやめておこう。
嫌がってる割に、宝物のように扱ってるし。
ケンが確か師範代しか使えないって、言ってたような気がする。
ケンってさ。熱くなると話が長いから、よく覚えて無いんだよね。
普段が無口だけに、ギャップが激しいんだよ。
今は暑苦しい男だと分かってるけどな。
急いではいるけど、立ち寄る街で時間のある限り物資も探している。
持てる物も少ないし、調達できる物はありがたいからさ。
そんな旅路の5日目。
この日もトラブルは無く、今日の寝床を探していたタイミングだった。
1人の警官が、見た事の無い人間を連れて戻って来たんだ。
警官は片桐さんと少し話をし、俺達も呼ばれてので説明を聞きに行く。
「どうやらこの街にも、生存者のコミュニティがあるらしい。詳しい話は本人から聞こう」
「私は内藤と言います。調達時にそこの警官の方とお会いしました。まさか近くに生存者がいるとは思わなかったので、今大変驚いています。皆さんも何か理由がおありでしょうけど、是非私の仲間達にも会って貰えないでしょうか?」
「私達のコミュニティに人材は必要だ。ここは一度、話を聞いてみないか?」
う~ん。
俺としてはまだ少し不安だが、周りから反対意見は出ない。
委員長達は俺の顔を見てるけど、今は助っ人だしなぁ。
人員が必要なのは分かってるし。
「俺も賛成します。罠なら覚悟はしてもらいますが」
「い、いえ。罠などと言う事は絶対にございませんので!」
釘ぐらいは、さしておいた方が良いだろう。
俺達は内藤と言う男の後に続き、生存が居ると言うコミュニティへ向かった。
◇◇◇
案内された場所は、大きめのマンションだった。
なるほど。ここなら雪の心配は無いな。
窓にはテープなどが貼られ、中は見えない。
俺は腰の拳銃を、何時でも抜ける様に準備。
他のメンバ-の顔にも緊張が走る。
しかしそれを見た内藤が、大慌てで俺達を止めて来た。
「だ、大丈夫ですから! ここから仲間を呼びますんで、待って下さい!」
と言ったので、警戒は緩めずにその場で待った。
すると数分で男女がマンションから出て来る。
2人共に疲れた表情だが、今のところは悪い感じは受けない。
内藤は出て来た人達に、何やら話を続けているけどな。
数分待たされたが、内藤が2名の男女を連れて戻って来る。
「大変お待たせしました。こちらがコミュニティ代表の林さんと内田さんです」
「内藤君に紹介されましたが、私が林です」 「初めまして。私は女性代表の内田です」
「どうも。私は片桐と言います。見ての通り職業は警察官ですが、今はどうなんでしょうね?」
片桐さんは少し笑いながら挨拶をする。
それで向こうの緊張も少し解れたようだな。
「ここで立ち話もなんですし、どうぞ皆さん、中へ入って下さい。そこでお話を聞かせて下さい」
代表の林と名乗った男がそう言い、俺達もマンション内へ向かう。
何か視線を感じるので、窓から覗いてるみたいだ。
ここでも嫌な感じは受けないから、大丈夫そうではある。
だからと言って油断は出来ないが。
俺達は室内では無く、廊下にある広いスぺ-スへ案内された。
遮蔽物が無いのが不安だが、警戒はしやすいので良しとする。
そこには長いベンチシ-トがあり、丁度向かい合って話せるようだ。
代表して片桐さんとケンと俺がシ-トへ座り、他のメンバ-は床に座り込んだ。
立ってるのも疲れるし、今は良いだろう。
委員長はライフルに手を掛けたまま、周囲を伺っている。
何かどんどん俺に似てきた気がするよ。
「では改めまして、我々のコミュニティについてお話しします」
対面に座ったのは、先程の3名だ。
内藤も座っているので、それなりの立場なのかな?
彼らは出自も様々で、たまたま出会った人達が集まったんだそうだ。
林、内藤の両名は今いる街の出身。女性の内田さんが違う街から逃げて来たと言っている。
ここには男性が9名。女性が7名の15名が住んでいるらしい。
「失礼だが、ゾンビなどの対応はどうしてるんだね?」
「あはは。みすぼらしいですか? これでも柔道初段持ってるんです」
などと笑いながら言う林。
まぁ人は見かけだけで判断できないし、それは問題ない。
気になるのは食料事情だ。
既にパニックから、約3年は経ってる。
その間、どうやって過ごしていたかが気になる。
片桐さんがそれについても聞いてくれたけどな。
壊滅した避難所などから物資を調達してたみたいだよ。
ただその度に犠牲者が出て、どんどん生存者が減っているみたいだけど。
「この様な世界ですので、覚悟は出来ているんですよ。ただそれでも最近は食料も尽きてきまして」
まぁそりゃそうだろうな。
水は雪がある内は何とかなるだろう。
あまりお勧めはしないが、飲めるだけマシだし。
でも食料はそうはいかない。
俺達も今必死だから、林の言う気持ちは理解できる。
そこで片桐さんが俺達の状況を話したんだよ。
その上で彼らに選択を迫った。
「ですので、受け入れる事は可能なんです。どうですか? 我々に協力頂けないでしょうか?」
協力と言うのは、自衛隊基地への同行の話だ。
基地は広いし、今の人数でも探索するのは時間が掛かる。
それに彼らを受け入れるにも、食料が確保できなければ無理だしな。
「少しお時間をください。貴方方の出発までに答えを出します」
そう言って、林たちは席を外した。
今晩は今いるスぺ-スを借りる事になったので、ゆっくり待つ事は出来るだろう。
さて。
彼らの答えはどう出るんだろうな?




