誤解
「まさか助けて頂くとは、思ってもいませんでした」
委員長からの第一声がこれ。
俺はそれに対して白けた声で返す。
「俺ってどう言うイメージなんだ?」
「他人に興味なくて、自分の大切なもの以外を排除する人です」
おう。
大体間違ってはいない。でも排除はしてないだろ。
これはあれだな。
マジマさんの死に対して思うところがあるんだろう。
「ナミがどう思ってるか分からないが、俺はマジマさんが死んだ事を残念だとは思ってるぞ。ただ選択した結果だから、終わった事だと思ってるだけだ。知り合いの死なんて、いちいち気にしてたら精神が病む。悲しむなとは、言わないがな」
「......意外です。でも私は、そんな直ぐに割り切れませんが」
「経験の違いだろうさ。ナミ達があそこに籠ってる時、俺は地獄を見たからな。だから自分に不要な物は、自分から切り捨てて来た。これからもそうするけどな。誰かに期待して裏切られるのは、もうコリゴリだから」
「じゃあ私は必要なものなんですか? 期待しちゃいますよ?」
「はいはい。勝手にしろ。お前がそんな言い方する事にびっくりだ」
気持ちの籠ってない言葉にいちいち反応できる程、俺は誰かに期待はしていない。
それよりも今後の対策を考える方が大切だ。
あの変異種の犬達は、運動能力が上がっている様に思える。
身体が腐ってないゾンビ犬と考えれば良いのかな。
動いてるものは何でも喰いそうだし、何も知らずに出会ったら危険だ。
よく二人とも無事だったもんだよ。
「ナミ。あの群れからどうやって逃げたんだ?」
「たまたまゾンビが居たんですよ。そいつに押し付けて逃げちゃいました」
何だそれ。
もっとこう頭脳戦みたいなの無かったのか?
ほとんど喋る事も無かったから、勝手なイメ-ジで委員長呼びしてたんだが。
単なる不思議ちゃん疑惑が発生したぞ。
とりあえず、りさちゃんに委員長の怪我の具合を見てもらおう。
見た感じ大丈夫そうだけど、流石に服の下は見れないしな。
今後の事はそれから話し合えばいいか。
◇◇◇
りさちゃんの診察の結果、負傷は逃げる最中に転けて捻挫。
手や足に擦り傷。噛まれたりは、していなかったとの事。
ほほう。りさちゃん先生!
俺のシャツを白衣的に着る必要はあったのかな?
少し大きめの感じが可愛いけども!
そしてりょうた。
何があった? ほっぺが赤いぞ?
まさか覗きか⁉ いかんぞ! まだお前には色々早い!
「えっと。とうまさん。ヤヨイとヤナギ君の誤解は解かなくても良いんですか?」
「必要ない。事実を知ろうとしない奴に、何でわざわざ俺が歩み寄る必要があるんだ? 俺はどう思われようが気にしないし、離れて行く奴を止める気も無い。時間の無駄だ」
「でもでも。あのゾンビ犬達と戦うのに、人数が必要ですよ?」
「それこそ少人数の方が戦いやすいだろ。数の力は偉大だが、努力の足らない奴がどれだけ集まっても意味がない」
「し、辛辣です。わ、私も努力しますから、見捨てないで下さいね」
「頑張れば良いんじゃないか? 別に期待はしていない」
少し面倒な匂いがして来たな。
こいつは1人になるのが怖いんだろう。
だからビッチに寄りかかってたのかな。
だからと言って俺達に依存されても困る。
変な方向に歪まない様に、注意しておいた方が良いかもしれない。
俺のそんな危惧が現実になろうとは思いもよらなかったが......。
やっぱり近い地域で活動していると、現場で出会っちゃうこともあるんだよ。
その時に委員長がこちらに居るのを見て、ビッチが逆上したんだ。
「何でアンタがその男と一緒に居るのよ! 私達を裏切ったの?」
「違うわ。アンタ達が私を切り捨てたんでしょ!」
なんて取っ組み合いの喧嘩が始まったんだよね。
ゴボウはアワアワするだけだし、とりあえずゾンビ犬が集まるから間に入る俺。
そこで何を考えたか、委員長が俺の腕を組むもんだからさ。
「そんな男の女気取り⁉ 馬っ鹿じゃないの⁉ どうせ都合よく使われて捨てられるだけよ!」
「馬鹿はアンタじゃない! とうまさんを信じないで、クズ男の言いなりな癖に!」
こいつら好き勝手言いやがって!
ん?
遅かったか。
ウォオオ―――ン! ウォン! ウォン!
俺は腕に引っ付く委員長を担ぎ、近くの建物目掛けで猛ダッシュ。
ゴボウ医師とビッチも驚いて着いて来る。
ゾンビ犬も俺達も雪に足を取られて、なかなか前に進めない。
でも相手は動物だ。
人間に比べれば適応能力の違いを見せて来る。
「お前らも生きたかったら急げ! もう囲まれるぞ!」
俺は飛びついて来るゾンビ犬をバットで叩き落とす。
雪の中から飛び出してくるから、なんかモグラ叩きやってるみたいだよ!
そうこうしているうちに、ゴボウ医師がゾンビ犬に捕まる。
ええい。
面倒をかけるなよ!
ゴンッ!
モグラ叩きついでに、ゴボウ医師の腰にしがみ付くゾンビ犬をぶっ叩く。
「す、すみません!」
「死ぬ気で走れ! グズグズするな!」
建物まで5メ-トル。
もう間もなく入れるというタイミングで、今度はビッチが転ぶ。
普段から走り慣れてたら、コレぐらいで転ばんだろうが!
俺は担いだ委員長を建物の方へぶん投げて、ビッチの元へ走る。
「早く立て! 死にたいのか!」
「だ、だって! 腰が抜けて」
ウザい女だなぁ。
俺が群がるゾンビ犬をバットで振り払いながら、ビッチを無理やり引き寄せる。
そのまま担いで思いっきりぶん投げた。
「後はヤナギに助けて貰え!」
もう乗りかかった船だ。
腰のナイフも抜き、俺は臨戦態勢に入る。
動きを止めたらダメだ。
クソッ。
数が多すぎる。何か無いのか!
「とうまさん! こっちです!」
委員長の声に反応した俺は、何も考えずにその方向へ走った。
前方にゾンビが3体。
向かっていた建物内に居たのか?
まぁどうでも良い。
ゾンビを囮にさせてもらう!
俺はゾンビに向って走り、直前で頭から雪にスライディング。
足元を抜けたところで素早く立ち上がり、建物へ走った。
委員長が大きな仕草で入れる場所を示してくれたので、勢いの付いたまま建物内へ飛び込む。
「ゾンビ犬が侵入する前に、早く窓を何かで封鎖しろ!」
「わ、分かりました!」 「分かったわ」 「これ使いましょう」
やはり委員長は使える。
大きめの家具やらソファ-を準備していた様だ。
俺も動かすのを手伝い、間一髪のタイミングで封鎖は間に合う。
はぁはぁ。
息をする度に、あばらが痛む。
また悪化したかも知れない。
なんでこんな事に巻き込まれるかなぁ。
咄嗟の事とは言え、ゴボウとビッチを囮にすれば良かったのに。
俺は甘すぎだ。
口に出した言葉が、自分自身に問いかけてくる。
まだ他人を信じてるのかってさ。
それで大切な物を守れるのかって。
「とうまさん。大丈夫ですか? 酷いですよ。女性を放り投げるなんて」
「お前なぁ。これを狙ったのか? だとしたら覚悟は出来てるか?」
含み笑いを浮かべる委員長が腹ただしい。
基本的に女性に手はあげない。時と場合によるけどな。
ゴボウとビッチは俯いたまま、何か考えてる。
余計なお世話なんだよ。
これで誰か犠牲になれば、苦しむのは委員長だろうに。
ゾンビ犬が諦めるまで、暫くはここを動けない。
無理ならまたゾンビを探して、遠くへ誘導するしかないな。
しかしゾンビ犬は結構強い。
体重が軽いから、吹き飛ばす事は出来るんだ。
でも直ぐに帰って来るから、数が多い程厄介な相手だ。
こちらの体力が尽きれば、あの群れに喰われて終わりだろう。
ヒグマもそうだが、強力な武器が無いと倒す事すら難しい。
冬が終われば普通のゾンビと変異種、そして人間と戦う事になる。
どう考えても俺達の分が悪すぎるだろ。
「あ、あの。とうまさん。ありがとうございました」
「ん? ただの気まぐれだ。無理にお礼なんて求めてない」
「そんな言い方しないでよ。た、助けて貰ったお礼ぐらい受け取りなさい。そ、その。ありがとね」
「はぁ。お礼と悪態はナミに言え。全部コイツが悪い」
「えへへ。なんだか照れちゃいます」
殴って良いかな?
何処に照れる要素があった?
やっぱり委員長じゃ無く、不思議ちゃんだろう!
俺はため息を吐き、立ち上がって外を見る。
だいぶゾンビ犬は減ったようだが、まだ近くにはかなりの数が見える。
今はたまに出会うぐらいだが、こいつら鼻も良いんだろうか?
もしそうなら、匂いを覚えられると拠点まで追って来るかもな。
昼間の吹雪が匂いを消してくれてるんだろうけど。
俺はそんな風に考えつつ、建物内を探索。
物資なども無く、踏んだり蹴ったりだよ。
その代わりゾンビを数体発見したから、俺達の拠点と反対方向へ動く様に誘導。
ゾンビ犬が十分離れた事を確認し、帰路についたよ。
勿論、ビッチ達とはその場で別れる。
なにやら委員長とビッチ達が長い事話していたが、お前らも手伝えってんだ。
ちょっとすっきりした顔の委員長に、拳骨を一発落としておいた。
涙目で抗議する委員長を無視し、天使で癒される俺。
誤解なんてものは、する方もされる方も問題があるんだ。
俺はそれを分かった上で何もしない。
次余計な事をしたら、放り出してやるからな―――




