思わぬ収穫
出会いたく無い物って言うのは、どうしてこうも現われるものなのか?
委員長もりょうたも、それなりに動けるようになった頃。
周囲に響く銃声で、俺達に緊張が走った。
ドォオオオン! ドォオオオン!
距離的にはまだ離れているが、わざわざ銃を使うんだ。
それなりの相手と誰かが戦っている事は間違いない。
「俺が偵察に出る。お前たちはどうする?」
「僕が行きたい!」 「じゃあ私はお留守番で」 「はやくかえってきてね」
という事で、りょうたを連れて行く事に決めた。
もう過保護は辞めて、本人の意思で動く様に言っているんだ。
外での活動の際も、俺は出来るだけ手助けはしない。
実際に経験をすれば、それが自信にも繋がるものだからさ。
拠点を出て数十分。
銃撃戦のあっただろう場所まで到着。
既に離れてしまっているらしく、戦闘跡はあるものの姿は無い。
もう銃声も聞こえないから、どちらかが逃げたのか?
でも俺は元猟師。
痕跡を探す事ぐらいは、簡単なんだよね。
「この足跡は、アイツか⁉ いや......これって群れか?」
「どうしたの? 何か見つけたんでしょ?」
「りょうた。ここからは、危険かも知れない。どうする?」
「とうまお兄ちゃん。僕は大丈夫だよ。邪魔にならないように頑張るから」
俺の想像する相手なら、戦闘は絶対に避けたい。
普通なら関わらない選択をするべきだ。
だけどこの辺りは俺達も探索する場所。
何も知らないで遭遇するのも怖い。
俺1人なら何とか対応出来るけどな。
ここは無理を承知で、確認だけでもするべきか。
「絶対に俺から離れるなよ。危ないと思ったら、安全な場所に隠れてろ」
「う、うん。僕なら狭い場所にも入れるから、ちゃんと隠れられるよ」
よし。
なら足跡が向かう方向へ行こう。
◇◇◇
慎重に後を追う俺達2人。
かなり激しく争ったようで、周囲の建物にも破壊の痕が見てとれる。
足跡的に、人間が十数人はいるな。
銃を持っている集団なら、頭に浮かぶのは公安警察か。
彼らもプロだが、相手は人間じゃない。
勝てるのか?
ドォーン!
「絶対、単独で戦うな! 距離を取れ!」
グォオオオー!
指揮官と思われる男の声、銃声、獣の叫びが戦闘の激しさを想像させる。
俺とりょうたは、比較的高い建物に入り、その様子を観察。
黒い制服が公安警察だな。
あんな銃を持っていたのか。
かなり大型のライフル銃で、変異ヒグマを撃っていた。
やはり組織的に動く警察は、変異ヒグマ達に負けてない。
それでも撃退するまでには、至っていないけど。
「とうまお兄ちゃん。あの人達大丈夫なの?」
「ただ戦うだけならな。でもあのままなら、戦況はヒグマに傾くと思う。アイツら体力が無尽蔵だろうし」
時間が経つにつれ、やはりヒグマが優勢になってくる。
ただのゾンビなら良かったんだけどさ。
ヒグマって頭良いんだよ。
例え変異していても、それは変わらないようだ。
公安警察に合わせる様に、動きが変化していく。
凶暴で動きが早く、更に頭良いとか反則だろ!
実際に対峙している公安警察も動揺しているしな。
ああ。
これはもうダメだな。
たった1人ヒグマに捕まっただけで、一気に戦況は動く。
大型の獣に襲われてるんだ。
どれだけ訓練していても、その恐怖は伝染する。
だって捕まるって事は、食べられる事なんだから。
どんな歯をしているのか?
頑丈なはずの制服を、紙の様に簡単に引き裂く。
「撤退!」
指揮官がそんな風に叫ぶが、もう恐怖で声が聞こえていない。
散り散りに逃げまどう隊員達を、ヒグマが追いかけている。
もうライフルも放り投げて、子供の様に泣き叫んでいる隊員もいたよ。
「りょうた。大丈夫か?」
「うん。怖いけど、これがこの世界なんでしょ。僕はあんなクマ相手でも負けたくないよ」
「そうか。強いな。りょうたは」
りょうたは、いつも震えていたんだけどな。
普通なら今目の前で起こっている惨劇なんて、見てられないはずだ。
特に今回の相手は、軍隊で戦う様な人喰いの猛獣。
その恐ろしさを体感しても、今の言葉を言える事は誇っても良いよ。
もう子供扱いしちゃ怒られそうだ。
その後、壊滅した公安警察の残骸を残し、変異ヒグマの群は移動して行った。
「あの方向に何があるんだろ」
そんな事を思ったが、俺達には今からやる事がある。
◇◇◇
本来なら遺体は手厚く葬ってあげたい。
でもゾンビ化する可能性を極力排除しないと、安全は保てないんだ。
だから動き出す前に、処理しなければならない。
外の気温が低いので火は熾せないから、手足を折って穴に埋めるんだ。
りょうたは、そんな作業も淡々とこなす。
遺体は荒らしたくないけど、弾薬なども頂いた。
今回の最大の収穫は、大型のライフル銃。
壊れている物を除いても、10丁ほど手に入れる事が出来たよ。それと拳銃も同数。
変異ヒグマは無理でも、ゾンビ犬相手なら充分使える。
あれ以上に数が増える前に、ある程度数を減らしたいからな。
音を出してしまうが、公安警察も俺達に構っている暇は無いはず。
多分変異ヒグマの群れが拠点へ向かったはずだし。
俺がそう考えた理由は、集めた遺体の中に指揮官が居なかったんだよね。
混乱の中、真っ先に逃げたんだろう。
気持ちは分かるが、指揮官なら隊員を逃せよ。
警察って薄情なのか?
まぁ報告も大事だろうけど、それなら隊員に任せても良いと思うんだが。
「りょうた。帰ろうか」
「うん。僕も荷物持つよ」
銃も結構重いんだが、嬉しそうな顔で背負う姿は、やっぱり子供らしい。
男の子だから、銃にも興味あるよな。
でもその銃は流石に使えないぞ?
重いし反動も強いから、下手したら骨折する。
可哀想だから、拳銃を練習させよう。
そんな事を考えながら、帰路を急いだ。
◇◇◇
拠点に戻り、今回みた件を居残り2人にも伝える。
委員長は顔面蒼白。
きっと襲撃を思い出したんだと思う。
「だ、大丈夫なんですか? ここも危ないんじゃ」
「確実に安全な場所はないよ。あんなのに襲われたら、どの道助からない」
委員長はそっけない俺の返答に、相手の恐ろしさを理解したみたいだ。
一応、戦利品は見せた。
扱いは難しいけど、りさちゃん以外は拳銃を持たせる。
ちゃんと訓練はしてもらうけどな。
何だか某ドラマみたいになって来たが、生き残りたいなら何でも試すべきだろう。
人に向けられるかは、本人の覚悟次第だ。
委員長にしろ、りょうたにしろ、まだちゃんと理性がある。
それが良い事でもあるし、悪い事でもあるんだ。
もう普通ではない世界なんだから。
「わたしもほしい」
「は⁉︎ いやいや。ダメだよ」
「ぶぅ〜」
「膨れてもダメ!」
うちの天使は、本気で言ってるから怖い。
オモチャじゃないんだ。
う〜ん。
どっかで探すか。仲間はずれはダメだし。
「甘やかし過ぎですよ。とうまさん」
「そ、そうかな? でもまだ子供だし?」
「何でそれを私にも、してくれないんでしょうか? か弱い乙女なんですけど?」
「ナミは可愛くない。性格がな」
ポカポカと叩いてくるが、お前性格変わり過ぎな。
あの一件以来、何か吹っ切れたみたいだけど。
兄妹が懐いてるから、変に壊れないでくれよ?
この日以降、拠点の中で拳銃の練習を開始した。
弾も補給出来ないから、そう何回も撃てないけどな。
いきなり撃とうとする委員長、銃口を俺に向けるりょうたを慌てて止めたり忙しかったよ。
室内で練習したから鼓膜が破れない様に、耳栓もちゃんとさせた。
刑事ドラマとかでも、ちゃんと射撃練習では耳栓してる。
本来は外で使用する時もするべきなんだよ。
話声が聞こえないと困るけども。
ある程度撃てる様になるまで、二週間程かかった。
やっぱり子供には扱いが難しいんだよな。
両手で持っても拳銃って重いから。
意外だったのは、委員長が割と扱いが上手かった事。
今ではライフルも撃てる様になったんだ。
これで後方からの援護も期待出来る。
是非、スナイパーとして成長してほしいものだ。




