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終末に向かう世界に希望なんて見つかるのだろうか?  作者: 早寝早起き
第5章:集団闘争サバイバル編
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兄妹再び

 逃げている間、ずっと恐怖が消えなかった。

 夜も彼らの襲撃に怯え、碌に睡眠もとれない。

 食事も食べたら直ぐに吐いてしまう。


 俺はあの場所で、何を食べさせられたんだ?

 仮眠中にあの子の笑顔が夢に出て来る。

 ゾンビより生きた人間の方が怖い。

 悪意よりもタチの悪い何か。


 俺は悪夢から逃げる様に移動し続けた。

 他者と関わる事が怖いから、次第に移動は夜が中心になったよ。

 その分危険は伴うが、どうせ眠れないんだ。


 昼間に短い時間の仮眠をとる生活。

 どんどん感覚は鋭くなり、ゾンビと戦う事も苦痛に感じなくなった。


 俺もあんな鬼に変わってしまうのか?


 そんな恐怖がいつも付き(まと)っていたんだ。

 

 でも生き残ると決めた以上、克服しなければならない。

 俺は猟師の頃を思い出し、ひたすら強さを求めた。

 だから我武者羅に戦ったよ。


 何度も危険な目に遭いながら、少ない食料を探し食いつなぐ。

 もうあれから何日も経ったが、未だに身体が食べ物を拒絶する。

 それでも絶対に吐かなかったよ。


 恐怖に打ち勝つ為に。





◇◇◇





 そして俺は戻って来た。

 苦い記憶のある場所へ。

 元々倒れ無ければ、ここに向かうはずだったから。


「やっぱり冬の影響は大きいな」


 俺が目指した目的地は、あの食品加工工場。

 もう食糧を得るのが難しいからな。

 少しでも可能性のある場所にやって来たんだよ。


 まぁ皆んな考える事は同じみたいで、門は破壊されているし、建物も劣化が激しい。


 まだ生存者が居るかどうかも怪しい。

 そんな印象を受けるほど、(さび)れていたんだ。


 それでも俺は中に侵入する。

 もう誰も入らないだろうけど、望みがない訳じゃない。

 この建物で気になる場所があったんだよ。

 

 この場所にあの兄妹を送り届けた際、一晩だけ滞在した。

 あの時、寝られないから敷地内を歩いたんだよ。

 その時に変に記憶に残った建物がある。


 避難者が居る建物から少し離れた場所にあって、重そうなシャッターが閉められた工場。


 俺も学生時代に色々バイトしたんだけどさ。

 こう言う工場で働いた事もあったんだよ。

 

 そこもそうだったんだけど、今は工程別に作業を分けて効率化を計っているんだ。


 ここは全部で6つの建物がある。

 事務所棟、保管倉庫、製造工場が4つ。

 これは案内板に書いてあった。


 皆が狙うのは保管倉庫だろうけど、移動される前の製品は溜め置かれているだろう?

 ゾンビに襲われる危険性があるから、時間の掛かる場所は敬遠されるんだ。

 組織的に狙われていないならね。


 パニック時、どうなったかわからないけど、残ってる可能性はあると思う。


 この内、事務所棟と保管倉庫は見る必要が無い。

 だから警戒はしつつ、目的の工場へ進む。

 その道すがらチラッと見たけど、保管倉庫と手前の工場2つは荒らされていたよ。


 でも少し奥にある残り2つの工場は、シャッターが閉まったままだ。


 建物は崩れかかってるけどな。


ゴロンッ。


 ゾンビか⁉︎


 瓦礫の転がる音で俺の警戒心はMAX。

 しかし何も出てこない。

 今動くのは危険か?


 そう思い暫くその場で注意深く確認する。


「お、お兄ちゃん?」


 聞き覚えのある声がする。

 どう言うタイミングの良さなんだ?


 子供に良い思い出が無い俺は、喉から思うように声が出ない。

 わかるだろ? もう呪われてるみたいに、関わって良い事が無いんだし。


 腕に鳥肌が立ってるよ。

 

「と、とうまお兄ちゃんでしょ」


 そう言いながら、小さな影がこちらへ出てくる。


「そこで止まれ!」


 俺は殺気だっだ声で叫ぶ。

 子供を使った罠の可能性もある。

 例え見知った子供でも、今の俺は信用が出来ないんだ。


「ぼ、僕だよ! りょうただよ! 覚えてないの?」

「だからなんだ? 何の為に声をかけた?」

「りさもいるよ? 助けてくれないの?」

「母親がいるだろ。何故俺に助けを求める必要がある? 悪いが関わるつもりはない」

 

 会話を続けながら、人が隠れられる場所に視線を走らせる。

 襲われたら直ぐに迎撃できるようにな。

 でも今のところ気配はしない。


 こんな子供が1人で外へ出て来てるのか?

 どう言う状況なんだよ。


「お母さん達、僕らを置いて行ったんだ。何も食べる物がないから、りさも元気が無くて.......うわぁあああん」

 

 そう言って泣き出す、りょうた。

 なんか俺がいじめてるみたいだ。


「大きな声を出すな。ゾンビが集まっちまうだろ。と、とりあえず俺が見える位置まで出てこい」


 りょうたは必死に泣くのを堪え、ふらふらとした足取りで俺の前に歩いてくる。


 もうあまり記憶にないが、かなり痩せ細っている。

 服もぼろぼろで、武器なども持っていない。


「妹はどこにいる? 大人は誰もいないのか?」

「いるけど、食べ物も分けてくれない。大人なんて嫌いだ!」

「そうか。なら妹をここに連れて来れるか?」

「わ、わかった。待ってて」


 子供相手にきつい事を言っていると思う。

 でもこの状況でも安易に信用出来ないんだよ。

 子供を見捨てる大人を助ける気もさらさら無いし。


 これでここの生存者がついて来たら、俺は完全に敵になるよ。

 それがりょうたの意思じゃなくても。


 待っている間に、目的の工場を調べた。

 全てのドアは鍵が閉まっているし、大きなシャッターも動かない。

 でも壁にある橋子(はしご)を登れば、窓から侵入出来るかな。

 橋子から窓まで距離はあるが、手をかける場所さえ有ればなんとかなる。

 猟師修行で木登り頑張ったからな。


 その間は無防備になるし、涼太が信用出来るなら、見張りを任せても良いかもしれない。


 そこまで考え終わった頃、妹を背負ったりょうたが戻って来た。


「マジかよ。あんな状態の子供を見放すのか......」


 もう見ていられなかった。

 死んだように動かない妹を背負う子供。

 例え罠でもコレは放っておけないだろ。


「りょうたはコレを食え。りさはこっちへ」


 俺は壊れ物を扱うように、りさちゃんを受け取る。

 軽い。もう手足も骨みたいに細い。

 水筒の水を少しずつ飲ませてみると、喉が小さく動く。


 大丈夫。

 まだこの子は諦めていない。

 俺は缶詰の肉を咀嚼してから、りさちゃんに食べさせる。


 固形物を詰まらせたら、今のこの子は死んでしまう。


「りょうた。うまいか?」

「うん。おいじいよぉおお」

「そうか。よく生きてたな。お前は頑張ったよ」

「ひっぐ。りさ死んじゃうの?」

「死なせない。だからお前も生きろ。強くなれ」


 何か俺の中で上手く言えない感情が動いたんだ。

 まだ子供と関わるのは怖い。

 今も意識しないと身体が震える。


 でも自分の前に消えそうな命があって、それでも生きる事を諦めない姿を見たんだよ。


 見捨てる事は簡単。

 今更、良い人にはなれないけどな。

 違うのはこの子達は俺を裏切ってないから。


 俺が助ける事で不幸になる可能性もある。

 その時はまた恨まれるかな?

 まぁ良いさ。その時は俺の気まぐれって言うから。


「落ち着いたら、ここで何があったか教えてくれ。でもその前にやる事はあるけど」


 2人を置いて行くのは不安だが、俺は予定通り工場への侵入を試みる。

 ちょうど死角になってるから、事務所棟からも外部からも見えないんだよ。

 心配なのはゾンビだが、見える範囲には居ない。


 だから、りょうたに見張りを頼み、俺は橋子へ登った。


「良かった。まだ使えるな。登った瞬間、落下したら泣く」


 橋子は少し錆ていたが、崩落する程でもなかったよ。

 慎重に橋子を登り腕の力だけで、窓枠まで移動。

 そこまで来れば足場もある。

 音は多少出るが、思い切ってガラスを割った。


ガシャン。


 窓を開けて中を確認。


 薄暗いが差し込む光で何とか見える。


「ゾンビはいないみたいだな」


 窓の内側には細い通路があり、そのまま侵入可能。

 空気の入れ替えなどで使うものだろう。

 通路の端に下へ降りる為の橋子も見えた。


 あまり待たせる訳にも行かないので、さっさと中に入る事に決めた。


 中は熱気が篭っているが、防犯性は抜群だ。

 念の為に歩きながら音を出す。

 動く物はない。


 そのまま一階へ躊躇せず降りて、工場内を歩く。


「ビンゴ! あるじゃん缶詰! 錆がなかったら、充分食えるだろコレ!」


 俺が見たのはコンベアのラインだ。

 製造された缶詰がコンベアの上に大量にあった。

 本来は作業員が籠などに入れて保管庫に移動するんだろう。


 そこまで確認したところで、俺は再び2人の元へ戻った。


 そして妹を背中に背負い、紐で縛って固定。

 りょうたは身体の前にしがみつかせて、無理やり橋子を登った。

 少し苦しそうだったけど、これしか方法が思いつかないから勘弁して欲しい。


 中にさえ入れば、暫くゆっくり出来るんだから。

 苦労したのは二人の重みで窓までの移動が大変だった事。

 気を抜けばみんな仲良く落下だからな。


 無事に辿り着いた時、思わず叫びそうになったよ。

 二人は衰弱気味だったから、コンベアの上に寝かせる。

 固い床より弾力もあるしな。


 居づらい大人がいる場所より、此処は安全だ。

 問題なのは水の確保だが、それは俺が探しに行けば良いだろう。

 この子達の着がえなんかもいるよなぁ。


 それに衛生状態が悪い。

 風呂も入れないんだから仕方ないけどさ。

 最悪は川の水を煮沸して拭かせようか。


 そんな事を考えていたら、何だかおかしくなって来た。

 何やってんだ俺? 今更子育てか?

 違う。これは俺が人間でいる為に必要な事なんだ。


 偽善でも良いじゃないか。

 それで俺の精神が安定できるなら。


 こうして俺と兄妹の生活が始まったんだ―――


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