表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/151

簡単に壊れるもの。

 ゾンビ騒動から1週間。

 町の人達は平穏を取り戻しつつある。

 ただ山には大きな変化があったんだ。


「はぁ。今日も罠には獲物無しか」


 あれだけのゾンビが通過したので、動物達にも影響があった事は間違いない。

 師匠達もそれについては理解していたんだよ。

 でも7日経っても戻って来ないのは何故なんだろう?


 暫くの間は干し肉があるので、町の人が困る事にはならない。

 でも俺としてはさぁ。仕事をしてないみたいで嫌なんだよね。

 と不満を言っても現実は変わらない。


 町へ帰って師匠達に相談しよう。





◇◇◇




 

 俺が家に帰ると家の中は無人。

 ゾンビ襲来以降、エリ、アキラ、シンジ、カオリの4人は、町長宅へ通うようになった。

 エリとカオリは、ケイコさんや蝶々夫人に家事などの教育を受けたいらしい。

 アキラとシンジは、瑛太さんから柔道を習いたいと相談を受けた。


 一応保護者である俺に話はあったが、全て決まった後に聞いても意味無いだろうよ。

 特に反対する気は無いが、腹が立ったことは覚えている。

 ここ数日は家にも帰って来ない。それもあの子達が決めた事ならそれで良い。


 何だか久しぶりに1人になったんだ。

 あれだけ孤独が楽で良いと思っていたのに、少し寂しく感じる自分が居る。

 何だかさ。繋がりってこんなにも簡単に壊れるもんなんだなって感じた。


 そのまま夕方まで家で仮眠をした後、後藤師匠の家に向かう俺。

 

「こんにちは。師匠居られますか?」

「はいはい。あら? とうまくん。主人と一緒じゃ無いの?」

「はい奥様。今日は1人で山に入ってましたんで」

「そうなのね。主人は町長さんの家に呼ばれて行っているわ。急ぎなら行ってみたらどうかしら?」

「いえ。特に急ぐ用事でも無いので、また時間の空いた時に伺います。失礼しました」


 この時、何か疎外感を感じた。ああもう。被害妄想だよこれ。

 あの日以降、師匠達からは何も話して貰えていない。

 正直な話、町長や瑛太さんを調べる手段が俺には無い。


 尾行なんて街に居たら目立つし。

 せめて何か動きがあれば良いんだけどな。

 俺は後藤師匠に会う事を諦め、罠の仕掛けを持って山へ戻った。


 



◇◇◇






 翌朝。

 何時もの様に仕掛けを見に行く。

 すると予想外の獲物が罠にかかっていた。


「......おいおい。足だけ置いて行くなよ。なんて言ってる場合じゃないな」


 罠にかかっていたのは、足と言っても人間の物だ。

 生きた人間の足じゃ無いけどな。

 俺は血の跡をすぐさま追った。


 幸い標的は直ぐに見つかり、始末することが出来た。

 だがこの分だと、山にまだゾンビが残っている可能性が高い。

 そこで俺は考える。


 町長が怪しいと言われてるのに、報告を上げても何も動かない可能性がある。

 なら瑛太さんに言う? それも無いな。信じたい人だが、今は信用が出来ない。

 ここは無難に師匠達に報告? 何故かあれから避けられている気がするし保留。

 問題があれば既に報告されてるだろう。



「ふぅ。山に泊まり込むか」


 答えはシンプルで単純に出た。

 キャンプ用品は自前があるし、今ならゾンビ対策に罠も作れる。

 今いる付近は俺でも1人で見て回れる。

 他のエリアは師匠達が居るし。俺が行っても邪魔にしかならん。


 そうと決まれば直ぐに準備して折り返そう。





◇◇◇





 その日から俺は山に籠るようになる。

 テントの周囲を1周する形で深めの穴が掘ってあるので、普通に夜も寝る事が出来るんだ。

 シカなら飛び越えるだろうけど、イノシシやゾンビは落ちるし。

 この辺りはクマも居ないしな。掘るのは本当に重労働だったけどね。


 それにしても山で銃声が鳴らない。

 未だに別のエリアにも動物は帰っていなのだろう。

 待つしか出来ないので暇だ。


 最初は1泊したら、一旦家に帰ってたんだよ。

 でも段々面倒になってさ。

 川があるから洗濯も出来るし、身体も洗える。

 食べ物も7日は過ごせるぐらい持って来てある。

 元々キャンプが好きだし、こう言う生活に憧れていたんだよね。


 問題があるとすれば、数日に1体はゾンビが穴に落ちてる事。

 何で俺に気づくのか分からないけど、夜にテントを襲いに来るみたいなんだよ。

 大きな音も出していないし、光も消しているんだけどさ。


 朝起きたら掘った穴にゾンビが居てビビったよね。

 まぁすぐ見慣れたけど。

 この周囲にゾンビが居なくなれば、家には帰ろうと思ってる。

 でも今のぺ-スでゾンビが現れるなら、帰る訳に行かない。


 町へゾンビが向かう事が防げるなら、山で過しても良いだろうさ。

 あの町には少なくとも、俺が大事に思う子供達が住んでいるんだし。

 本人達がどう思ってるかは関係ないんだ。


 でもさ。俺のそんな想いなんて、伝わらないんだよ。


 俺が山で寝泊まりを始めて10日程度過ぎた頃、足りない物資を取りに家に戻ったんだ。

 折角町まで戻ったから、一応話でも聞いておこうと師匠の家へ向かった。

 その途中でエリ達とケイコさんが一緒に歩いてるのを発見。


 普通に声を掛ければ良かったんだけどさ。何か久しぶりで気恥ずかしくなっちゃって。

 建物の陰に隠れてんだよ。そうしたら話し声が聞こえてさ。


「とうまお兄さんて瑛太兄さんと比べて頼りないよね」

「エリちゃん毒舌。まぁ瑛太さんと比べちゃうとね」「いいなぁ。ケイコお姉ちゃん」

「今なら俺もとうま兄ちゃんなら、いい勝負できそう。こう足払いってさ」

「ええ⁉ アキラは瑛太兄ちゃんに手も足も出ないのに?」

「シンジも変わらないだろ-が! 瑛太兄ちゃんはカッコイイから負けても良いの!」

「「「「アハハハ」」」」


 もう目の前が真っ黒になったね。

 別に俺なんてただの一般人。特別な技術も持ってない。

 だから人並み。そんな事は分かってたさ。


 でもほんの少しだけ、期待してたんだよ。

 今まで一緒に頑張ったから、評価して貰えてるんじゃないかってさ。

 あはは。モブが主人公に慣れる訳無いのにな。

 まさか馬鹿にされてるとは思わなかった。



 聞きたくなかったなぁ。

 


 その場から逃げようとしたんだ。でも俺の中に、ほんのちょっぴりプライドは残っててさ。

 山に帰る前に師匠の家に行ったんだ。

 ゾンビの事だけでも言っておこうと思って。


 そしたらさ。

 これ以上落とされる事があるのかっていう現実が待ってたよ。


「うまく行ってるじゃないか。あれからあの男も町で見ないし」

「ええまぁ。町長に不信感を与えておけば、離れる事は分かってましたしね」

「まぁ口減らし出来なかった事は残念だったがな。息子に嫁、わしに孫代わりの子供も手に入ったし、あの男にも感謝するべきか? アハハハ」

「本当に町長の話術には驚かされますな。もう子供達も町長や息子さんにベッタリみたいですし」


 ......楽しそうに話す後藤師匠と町長。

 探りでも入れているんだと思っていたら、聞こえてくるのは信じられない話。

 最初から俺は騙されてたんだな。何が怪しい人物を見ただよ。


 口減らしって事は、使えない人間を始末する気だったのか?

 ああそうか。そう言う事か。

 いらないのは俺か。子供達からもそう思われてるもんな。


 ここ数日も何かおかしいと思ってたんだよ。

 絶妙なタイミングでゾンビが居るから、動くに動けなかったし。

 師匠。アンタが連れて来てるんだな。

 疑問に思ってたから、すっきりしたよ。

 


 もうどうでも良いや。

 こいつら腐ってる。こんな奴らの為に、俺の時間を使う必要なんてない。

 あはは。

 人並みの幸せすら長く続かないや。

 

 

 俺は町の人間にも絶対に見つからない様に山へ帰った。

 そしてすべての荷物を持って、皆の前から姿を消した。







◇◇◇





 

 それから約3日間。

 俺は山の中を歩いて移動した。

 向うのは、この前ゾンビが来た方角。


「やっぱりゾンビは居ないな。その代わり獲物はいるけど」


 消えた動物たちは、ゾンビの居ない地域に移動していたんだ。

 半人前な俺でも狩れるぐらい警戒心が無い。

 1匹でも狩れれば、数日食べられる食料が得られた。


 俺は移動しながら保存食も蓄えて行く。

 そして川越町を出てから7日後。大きな街が見下ろせる場所に到着した。

 地図によると、桜井市らしい。

  

 今は他人と関わりたくないから、行く気は無いけどな。

 それに気になる事があるから、暫くはこの辺りに居るつもりだけど。

 ああ。楽しみだよ師匠。いや全員グルか。


 どうせ追って来るんだろ? 

 アンタらが来るのを、俺は楽しみに待っているよ―――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ