簡単に壊れるもの。
ゾンビ騒動から1週間。
町の人達は平穏を取り戻しつつある。
ただ山には大きな変化があったんだ。
「はぁ。今日も罠には獲物無しか」
あれだけのゾンビが通過したので、動物達にも影響があった事は間違いない。
師匠達もそれについては理解していたんだよ。
でも7日経っても戻って来ないのは何故なんだろう?
暫くの間は干し肉があるので、町の人が困る事にはならない。
でも俺としてはさぁ。仕事をしてないみたいで嫌なんだよね。
と不満を言っても現実は変わらない。
町へ帰って師匠達に相談しよう。
◇◇◇
俺が家に帰ると家の中は無人。
ゾンビ襲来以降、エリ、アキラ、シンジ、カオリの4人は、町長宅へ通うようになった。
エリとカオリは、ケイコさんや蝶々夫人に家事などの教育を受けたいらしい。
アキラとシンジは、瑛太さんから柔道を習いたいと相談を受けた。
一応保護者である俺に話はあったが、全て決まった後に聞いても意味無いだろうよ。
特に反対する気は無いが、腹が立ったことは覚えている。
ここ数日は家にも帰って来ない。それもあの子達が決めた事ならそれで良い。
何だか久しぶりに1人になったんだ。
あれだけ孤独が楽で良いと思っていたのに、少し寂しく感じる自分が居る。
何だかさ。繋がりってこんなにも簡単に壊れるもんなんだなって感じた。
そのまま夕方まで家で仮眠をした後、後藤師匠の家に向かう俺。
「こんにちは。師匠居られますか?」
「はいはい。あら? とうまくん。主人と一緒じゃ無いの?」
「はい奥様。今日は1人で山に入ってましたんで」
「そうなのね。主人は町長さんの家に呼ばれて行っているわ。急ぎなら行ってみたらどうかしら?」
「いえ。特に急ぐ用事でも無いので、また時間の空いた時に伺います。失礼しました」
この時、何か疎外感を感じた。ああもう。被害妄想だよこれ。
あの日以降、師匠達からは何も話して貰えていない。
正直な話、町長や瑛太さんを調べる手段が俺には無い。
尾行なんて街に居たら目立つし。
せめて何か動きがあれば良いんだけどな。
俺は後藤師匠に会う事を諦め、罠の仕掛けを持って山へ戻った。
◇◇◇
翌朝。
何時もの様に仕掛けを見に行く。
すると予想外の獲物が罠にかかっていた。
「......おいおい。足だけ置いて行くなよ。なんて言ってる場合じゃないな」
罠にかかっていたのは、足と言っても人間の物だ。
生きた人間の足じゃ無いけどな。
俺は血の跡をすぐさま追った。
幸い標的は直ぐに見つかり、始末することが出来た。
だがこの分だと、山にまだゾンビが残っている可能性が高い。
そこで俺は考える。
町長が怪しいと言われてるのに、報告を上げても何も動かない可能性がある。
なら瑛太さんに言う? それも無いな。信じたい人だが、今は信用が出来ない。
ここは無難に師匠達に報告? 何故かあれから避けられている気がするし保留。
問題があれば既に報告されてるだろう。
「ふぅ。山に泊まり込むか」
答えはシンプルで単純に出た。
キャンプ用品は自前があるし、今ならゾンビ対策に罠も作れる。
今いる付近は俺でも1人で見て回れる。
他のエリアは師匠達が居るし。俺が行っても邪魔にしかならん。
そうと決まれば直ぐに準備して折り返そう。
◇◇◇
その日から俺は山に籠るようになる。
テントの周囲を1周する形で深めの穴が掘ってあるので、普通に夜も寝る事が出来るんだ。
シカなら飛び越えるだろうけど、イノシシやゾンビは落ちるし。
この辺りはクマも居ないしな。掘るのは本当に重労働だったけどね。
それにしても山で銃声が鳴らない。
未だに別のエリアにも動物は帰っていなのだろう。
待つしか出来ないので暇だ。
最初は1泊したら、一旦家に帰ってたんだよ。
でも段々面倒になってさ。
川があるから洗濯も出来るし、身体も洗える。
食べ物も7日は過ごせるぐらい持って来てある。
元々キャンプが好きだし、こう言う生活に憧れていたんだよね。
問題があるとすれば、数日に1体はゾンビが穴に落ちてる事。
何で俺に気づくのか分からないけど、夜にテントを襲いに来るみたいなんだよ。
大きな音も出していないし、光も消しているんだけどさ。
朝起きたら掘った穴にゾンビが居てビビったよね。
まぁすぐ見慣れたけど。
この周囲にゾンビが居なくなれば、家には帰ろうと思ってる。
でも今のぺ-スでゾンビが現れるなら、帰る訳に行かない。
町へゾンビが向かう事が防げるなら、山で過しても良いだろうさ。
あの町には少なくとも、俺が大事に思う子供達が住んでいるんだし。
本人達がどう思ってるかは関係ないんだ。
でもさ。俺のそんな想いなんて、伝わらないんだよ。
俺が山で寝泊まりを始めて10日程度過ぎた頃、足りない物資を取りに家に戻ったんだ。
折角町まで戻ったから、一応話でも聞いておこうと師匠の家へ向かった。
その途中でエリ達とケイコさんが一緒に歩いてるのを発見。
普通に声を掛ければ良かったんだけどさ。何か久しぶりで気恥ずかしくなっちゃって。
建物の陰に隠れてんだよ。そうしたら話し声が聞こえてさ。
「とうまお兄さんて瑛太兄さんと比べて頼りないよね」
「エリちゃん毒舌。まぁ瑛太さんと比べちゃうとね」「いいなぁ。ケイコお姉ちゃん」
「今なら俺もとうま兄ちゃんなら、いい勝負できそう。こう足払いってさ」
「ええ⁉ アキラは瑛太兄ちゃんに手も足も出ないのに?」
「シンジも変わらないだろ-が! 瑛太兄ちゃんはカッコイイから負けても良いの!」
「「「「アハハハ」」」」
もう目の前が真っ黒になったね。
別に俺なんてただの一般人。特別な技術も持ってない。
だから人並み。そんな事は分かってたさ。
でもほんの少しだけ、期待してたんだよ。
今まで一緒に頑張ったから、評価して貰えてるんじゃないかってさ。
あはは。モブが主人公に慣れる訳無いのにな。
まさか馬鹿にされてるとは思わなかった。
聞きたくなかったなぁ。
その場から逃げようとしたんだ。でも俺の中に、ほんのちょっぴりプライドは残っててさ。
山に帰る前に師匠の家に行ったんだ。
ゾンビの事だけでも言っておこうと思って。
そしたらさ。
これ以上落とされる事があるのかっていう現実が待ってたよ。
「うまく行ってるじゃないか。あれからあの男も町で見ないし」
「ええまぁ。町長に不信感を与えておけば、離れる事は分かってましたしね」
「まぁ口減らし出来なかった事は残念だったがな。息子に嫁、わしに孫代わりの子供も手に入ったし、あの男にも感謝するべきか? アハハハ」
「本当に町長の話術には驚かされますな。もう子供達も町長や息子さんにベッタリみたいですし」
......楽しそうに話す後藤師匠と町長。
探りでも入れているんだと思っていたら、聞こえてくるのは信じられない話。
最初から俺は騙されてたんだな。何が怪しい人物を見ただよ。
口減らしって事は、使えない人間を始末する気だったのか?
ああそうか。そう言う事か。
いらないのは俺か。子供達からもそう思われてるもんな。
ここ数日も何かおかしいと思ってたんだよ。
絶妙なタイミングでゾンビが居るから、動くに動けなかったし。
師匠。アンタが連れて来てるんだな。
疑問に思ってたから、すっきりしたよ。
もうどうでも良いや。
こいつら腐ってる。こんな奴らの為に、俺の時間を使う必要なんてない。
あはは。
人並みの幸せすら長く続かないや。
俺は町の人間にも絶対に見つからない様に山へ帰った。
そしてすべての荷物を持って、皆の前から姿を消した。
◇◇◇
それから約3日間。
俺は山の中を歩いて移動した。
向うのは、この前ゾンビが来た方角。
「やっぱりゾンビは居ないな。その代わり獲物はいるけど」
消えた動物たちは、ゾンビの居ない地域に移動していたんだ。
半人前な俺でも狩れるぐらい警戒心が無い。
1匹でも狩れれば、数日食べられる食料が得られた。
俺は移動しながら保存食も蓄えて行く。
そして川越町を出てから7日後。大きな街が見下ろせる場所に到着した。
地図によると、桜井市らしい。
今は他人と関わりたくないから、行く気は無いけどな。
それに気になる事があるから、暫くはこの辺りに居るつもりだけど。
ああ。楽しみだよ師匠。いや全員グルか。
どうせ追って来るんだろ?
アンタらが来るのを、俺は楽しみに待っているよ―――




