穏やかな日々
ドォ―――ン! ドォ―――ン!
山に響く銃声。
パニックの影響は、俺が今いる山の生態系も変えたんだ。
人間が減ったから野生動物が増え過ぎちゃったんだよ。
食べ物が足りなくなると、町の畑も当然被害に遭う。
まぁ今の世界の人間と同じだよな。まるで。
だから数を減らす為に頑張ってるのが、俺を含む川越町の猟師チ-ムだ。
平均年齢65歳と言う高齢の師匠達。腕は一級品だと思う。
肉は保存が効くので、多めに狩っても喜ばれる。
今日は罠で仕留めたシカ1頭と、銃で仕留めたイノシシ1頭をゲット。
血抜きは終わってるから、足の速い部位を捨て軽トラに載せて持って帰るつもりだ。
さて。
先ずはこんな生活を始めた頃の話をしよう。
◇◇◇
もう半年ほど前になる。
俺達は目指していた目的地、川越町へ着いた。
一切トラブルが無かった訳ではないんだけどな。
間も無く町が見えるというタイミングで、ワゴン車の前にイノシシが飛び出し衝突。
デカいイノシシだったから、フロント大破。自走不可能。
移動手段を失って途方に暮れてた。
そこにたまたま通りかかったのが、川越町の永井 瑛太さんだ。
町の代表者の息子さんで、柔道の段持ち。35歳、独身。
マッチョなイケメンだ。
そんな瑛太さんが軽トラで、俺達を街までピストン輸送してくれたんだ。
動けないワゴンは此処でお役御免。
後日、邪魔にならない場所に数人がかりで移動したよ。
短い期間だったが大活躍した車。本当に残念だった。
よし。話を戻そう。
無事に川越町に入る事が出来た俺達は、此処まで来た経緯を永井町長に説明。
瑛太さんの口添えもあって、町に住む事を承認されたんだ。
俺達は子供も多かったので、好意的に対応して貰えたんだけどな。
元々若者が減少していたし、パニックでさらに住民が減ってたみたいだし。
そんなタイミングでの移住希望者なので、歓迎されて当たり前だよなぁと今なら思う。
住む家も空家を2軒与えられたんだぜ。
家具も揃ってたし、生活必需品も完備。
井戸水も使えるし、久しぶりにお風呂にも入れた。
至れり尽くせりな状態で、町民生活がスタ-トしたんだ。
他の住人の方々は、何かと力になってくれてさ。
野菜やお米なども頂いたんだよ。
もうここまでして貰うと、俺達も街の為に働かなきゃいけない。
という事で、町長や町民の方々に相談して仕事を手伝う事に。
ちびっ子達は、遊ぶ事と老人の話相手。
11歳以上の子供は、農作業のお手伝い。
ケイコさんは婦人部? のお仕事。
実は細かい事は知らないんだよね。多分裁縫とかじゃないかと。畑に居るのもたまに見るけど。
俺は猟師兼、自警団の予備隊員。
元々町に駐在さんが居たのだが、パニック時に亡くなったらしい。
だから今は有志で町の安全を守ってる訳だ。
俺が予備なのは新入りだからかなぁ。いきなり重要な役割を任せられないだろうし。
まぁ人付き合いが苦手で、輪に入れないのも原因だと思うけど。
コミュ症ってなかなか治らないんだよ。子供には慣れたけどさ。
という訳で寡黙な人の多い猟師に立候補した。
山に入れる事も大きな理由だけどな。
始めて2ヶ月間は、練習以外で猟銃は触らせて貰えなかったけどね。
そりゃあ素人がいきなり猟銃を持つだけでも大変なのに、いきなり実戦に投入出来るわけがない。
仲間に当たったら怪我ではすまないしな。
俺も懸命に努力して色々な知識を得た。
師匠達怖すぎて挫折しそうになったけどな。スパルタなんだよ。
最近やっと追込み猟に参加出来る様になり、半人前ぐらいに慣れたと思ってる。
◇◇◇
とまぁ半年近く前から始まった川越町での生活。
本当に平和だし、日々が充実していると思う。
でもさ。変化はして行くもんなんだ。
先ずは子供達の事なんだけどな。
俺達以外にも移住者は増えてさ。その中にお子さんを亡くした方も多く居たんだ。
そんな人達の癒しになったのが、うちの子供達だった。
数ヶ月も過ぎた辺りで、町長さんに呼ばれてさ。
子供を引き取りたいと、申し出る家族がいる事を伝えられたんだ。
勿論、本人の意思で可能であればと言う話。
俺も幸せになってくれれば良いと思って、希望者の方々と触れ合う場を設けたんだ。
最初は施設育ちだから慎重になっていたんだけどさ。
意外とすんなり話は決まって行ったんだよ。
最初のひと月で5人。次の月に7人。もう大半の子供が引き取られて行った。
同じ街だから顔は見るけど、全員が幸せそうな顔してたよ。
俺はやっぱり親には慣れないんだなぁって思った。
今残ってるのはリーダやってた4人だけ。
他の子より年長だから、色々と難しい年頃なんだろう。
俺は干渉しないから楽なのかも知れないな。
それでだ。ケイコさんとメグミちゃんは隣に住んでたんだけどさ。
俺と......男女の関係にはなりませんでした。知ってたけど!
いつの間にか瑛太さんと結ばれたみたいでね。
今は町長の家に引っ越して行ったよ。
爆ぜろイケメン! とか思った事は内緒だ。
それでも生活は穏やかでさ。
何時までも楽しく生活出来ればなんて思ってたわけさ。
あの日までは。
カン! カン! カン!
カン! カン! カン!
カン! カン! カン!
時刻は深夜2時。
小さな町に突然響く鐘の音。
この鐘が鳴らされたのは、約1年前のあの日以来らしい。
町民は皆、集会所へ続々と避難を開始。
俺は直ぐに自警団の建物へ走った。
エリ達は起こして、集会所へ避難済み。
「どうしたんですか⁉」
「後藤さんから連絡きた。山から不死者の大群が来るってな」
「後藤師匠、山に入ってるんですか⁉」
「後藤さんは罠師じゃけ。お前もしっとうやろ」
俺にそう言うのは、瑛太さん。
この人が自警団の団長。
今は対策会議の真っ最中なのだ。
当たり前だが、日本の田舎町に防壁なんて物は無い。
せいぜい出入り口に簡単なバリケ-ドがあるだけだ。
人間なら入り込むのは難しくない。
でも今押し寄せて来ると言ってるのは、ゾンビの大群なんだよね。
それも山側から来ると言う話。バリケ-ドは道路側だから防ぎようが無い。
はっきり言うと、完全に詰んだ状態。
「銃の音で散らばるんじゃないか?」
「いや音が響きすぎて駄目だ。それに下手に分散しても後が怖い」
「じゃあどうすんじゃい! 皆に死ねゆ-んか!」
「まぁまぁ。怒っても仕方ないって」
俺は意見せず暫く見ていたが、良い案が出ずに時間だけが過ぎて行った。
このまま何も決まらないと、襲われるのを待つだけになってしまう。
だから俺は手を挙げた。
「すみません。こんな策は如何でしょうか?」
俺は思いついた事を説明。
最初は少し馬鹿にされたけど、最終的にその案が採用された。
色々と抜けている部分を皆で考え、実行に移すために各自が動き出す。
◇◇◇
『ジジジ......作戦開始。作戦開始』
『こちらとうま。了解』
トランシーバーから聞こえる本部からの指示。
俺は了解を伝え、右手の銃を空に向けた。
ドォ―――ン!
発射音が周囲に響く。
空には上に向って白い煙が上がって行く。
そして。
パァアア―――ン!
それは破裂し、赤い光が発光する。
「うわぁあああ。マジで大群じゃん!」
赤い光が山中を照らしたんだけど、もうゾンビが山の様に歩いてた。
動きが冬に比べて早い。
こんな数に襲われたら、川越町なんて一瞬で滅ぶ。
『こちらとうま。標的を確認。次お願いします』
『ポイントAじゃ。了解した。祭りを開始する』
え⁉ 今祭りって聞こえた⁉
自警団のメンバ-も高齢の割に脳筋なんだよなぁ。
今の声は斉藤サンという60代の人なんだけど。
ヒュウウ―――ン!
町とは離れた方向から甲高い音。
ゾンビ集団が反応した事を確認。
バァアアアア―――ン!
続いて花開く様に炸裂する花火。
音と光がゾンビの進行方向を変える。
効果は劇的だった。
今見える全てのゾンビが花火へ向かっている様だ。
俺は一定の距離を保ちながら、本部へ報告を続ける。
上手く行くかは賭けだった。
音に反応するのは分かってるからな。
でも俺が経験したゾンビの習性から、この手なら誘導できると思ったんだ。
花火は子供達を助けた時に一度試しているし、音で集めて移動させるのは食品加工工場で経験したからさ。
それらを自警団の皆の前で話して、今回の作戦を提案したんだよね。
問題は花火だったんだけど、これも直ぐに解決。
だってこの辺りは夏祭りで花火を打ち上げるから。
花火師がいるんだよ。
ああ。だから祭り開始なのかも! って誘導係の俺は必死なんだけどな!
◇◇◇
あれから既に夜が明け、現在の時刻は午前9時。
俺は未だにゾンビの大群を観察している。
町は無事だ。
「しかしどんだけ多いんだよ。まだ集団の終わりが見えん」
他の自警団員も交代で休憩を取りながら、ゾンビの誘導中だよ。
早く終わってくれないと、もう正直眠いんだけど。
方角的に隣県の都市からの移動だと思うが、疑問だらけなんだよな。
集団で動く習性が有るとは言え、この数が何を目的に移動して来たのか?
もし俺達がやっている様に、誰かに誘導されて来たなら......。
念の為に可能性の話はしておいた方が良いな。
『ジジジ......こちら本部。集団の最後尾を確認。現在町近辺を移動中』
『こちらとうま。了解』『了解じゃ。わしゃそろそろ帰る』
『腹減ったなぁ』『ヒヤヒヤしたぜぇ』『あっちいなぁ。喉乾いたわい』
『こちら本部......酒ぐらいは出す。全部終わったらな』
『『%$#&%$......』』
ははは。あー煩い。皆が一斉に反応するから、トランシーバーが雑音だ。
相手をする瑛太さんも大変だなこりゃ。
無線からは楽しそうな声が聴こえるが、ゾンビを刺激したくないので切る。
お酒飲まないしな。
ああ。そう言えば稲垣元気にやってるかなぁ。
お酒で思い出すとは思わなかったけど。
まぁアイツなら生存してるはず。
俺が心配しなくても良い。
さて。此処まで来たら大丈夫だろう。
自分の目で集団の最後尾を確認し、俺も町へ遠回りで帰った。
◇◇◇
危機を乗り越えた街ではお祭り騒ぎ。
騒いじゃ駄目だろうと思うんだけどな。
気持ち的には仕方ないけど。
「よぉ。飲んどるか坊主」
「後藤師匠こそ。顔が赤いっすよ」
「たまにしか飲めんからな。それよりちょっと来い」
「え、え? 痛いっす! 肩が!」
後藤さんに強引に連れて行かれたのは、俺の師匠達の集まる部屋だった。
皆お酒は飲んでいるけど、顔は全く笑っていない。
「えっと。どうしたんですか?」
「はよ座らんか。大事な話があるけん」
俺は言われるがまま空いている席へ座る。
ガラスコップを渡され、焼酎を注ぎ込まれる。
いやいや。俺飲めないんだけど?
とは言えない雰囲気なんだけさ!
「今回は坊主の作戦が上手くいった。しかしじゃ。わしは山中で、おかしな人間を見たんじゃ」
「後藤師匠。そいつが今回の犯人だと?」
「今から話す事は他言無用。まだ確証がないけん。わしらだけの話じゃ」
「は、はい。師匠達がそう言うなら守ります」
「わしが見たのはなぁ......町長じゃ」
......はぁ⁉ どう言う事⁉
後藤師匠も他の師匠も顔が真剣だ。
町に最初の一報を伝えた後藤師匠が見たなら、発見前には山中に居た事になる。
町長が意味も無く山に入る意味は?
何故その話を自警団が知らないのか?
「この話を瑛太さんは知らないんですか?」
「うむ。坊主は勘が良いな。わしは知っとると思っとる」
対策会議でも不自然な態度じゃ無かったんだけどな。
こんな話を聞かされたら、どう接して良いか分からん。
師匠達は言うだけ言って、宴会し始めるし!
俺は重い気持ちのまま、自宅へ帰ったよ。
それが川越町で起こる騒ぎの始まりとは考えることも出来ずに―――




