馬鹿正直に逃げる?
民家で一夜を過した俺達。
今は何時もより少し遅めの朝食を食べている。
昨日寝たのも遅かったしね。
「わぁ! おいしそう!」 「はっぱ?」 「ごはんおいちい」
ワイワイと楽しそうな顔の子供達。
この顔を見れただけで、早起きした甲斐はある。
言わなくても分かると思うが、畑から野菜を頂いたんだ。
キャベツにトマトにキュウリ。ビニ-ルハウスが無かったら、全滅だったと思う。
熟れ過ぎて食べられない物がほとんどだったが、何とか皆が食べれれる分は確保出来たんだよ。
この家には少し古いけどお米もあったので、朝から久しぶり大盤振る舞いしてやった。
野菜にマヨネーズが欲しかったけど、賞味期限の関係で無し。
ドレッシングを持って来た俺って偉くない?
この程度で栄養状態の改善は出来ないけどさ。
食べないよりはマシだと思ってる。
そう言う事も考えて、山近くの街を目指しているんだけどね。
農家も多いしさ。
楽しい食事が終われば、また移動が始まる。
この民家も魅力的な場所だけど、ここは街から近すぎる。
それに遺体もそのままだし、長居するべきじゃないだろう。
◇◇◇
出発準備を終え、再び移動を開始。
現在午前10時。天気は曇り。
冷え込んでいるので、雪が降るかも知れない。
「じゃあケイコさん。行きますね」
「オッケ-。何時も通り後ろから着いて行くわ」
今日の移動で1番の難所だと考えているのは、長良川に架かる長良大橋を渡る事。
橋に良い思い出が無いだけでなく、通行量の多い橋だと知っていたからなんだ。
ちょっと思い浮かべて欲しい。
パニックで混乱する中、避難する為に家族で車を使用し移動。
道は何処も渋滞中。でも市外へ出るには橋を渡らないと行けない。
でも橋の向こうも渋滞していて、なかなか前に進めない。
そこで起こるのが追突事故。警察も来ない。
そんな状態の中、ゾンビに襲われる。慌てて車を捨て逃げ惑う人々。
と此処まで想像したら、今現在通行できる保証は無い。
でも長良橋は中央分離帯ありの両方向に2車線ある橋。
市内へ向かう方の道は空いていたはずだ。
だから長良大橋は逆車線で渡れば、通行できると思ってる。
俺の考えが間違っていない事を祈りつつ、周囲を注意深く観察しながら走行。
前方に大きな橋が見えて来る。
でもさ。俺は見えたんだ。何かが反射した光を。
車のスピ-ドを少し落とし窓を下して腕を出し、手をチョキの形でハサミの様に動かす。
ケイコさんと事前に打ち合わせたハンドサインだ。
内容はチョキが『敵あり』で、ハサミの動きが『突っ切る』だ。
ドア-ミラ-越しにケイコさんが頷くのを確認。
スピ-ドを上げる。この時点でエリは後部座席へ移動。
運転が激しくなっても良いように、床とドア付近にクッションや布団を準備してある。
ゴンゴン頭打ったら痛いしさ。
相手がゾンビでも車内は揺れるから、リーダ-達と決めてあったんだよね。
因みに敵ありのサインは出したけど、ケイコさんは人間相手だと思って無いと思う。
普通ならゾンビだからな。
橋が近づいてくると左の車線には放置車両多数。
進路を反対車線に移し減速せずに進む。
橋の上はほぼ想像通り、大量の放置車両で埋まっている。
でも反対車線には不思議なほど車両が無い。
俺はこの時点で人為的な物と確信。
念の為にバット準備。使わないと思うけど。
躊躇する事無く長良大橋に侵入。この橋は中央付近まで上りだ。
出来るだけ加速したい。橋の中央迄は異状無し。
上りでスピ-ドが少し落ちたが、後半は下りなので逆になる。
此処まで進むと見通しが良いので、橋の終点もよく見える。
やはり居た! 出口付近に乗用車1台、その横に5人程道路上に立っている。
通行止めって訳か。御大層な事で。
でもそれをするなら、車1台じゃ少ないでしょ。
駐車している車は色も形も見覚えが無い。でもあの人影は見た事あるなぁ。
とか考えながら加速。
はぁ。本当に馬鹿の相手はしたくない。
俺はアクセルを強く踏み込み突っ込んでいく。
それに気付いて居ないのか? 男達は両手を広げ横一列に並ぶ。
何がしたいんだろ? マジで。
距離はどんどん近づくが、男達に焦る様子は無い。
ドンッ!
......そのまま何人か轢いた。
止まらずにバックミラ-越しに確認。
4人倒れてる? そんなに当たってないぞ?
車が当たる直前に驚いて逃げだしてたし、怪我も大した事無いだろ。
通過する時に駐車車両をチラッと見たが、運転席に誰も乗っていなかった。
え⁉ 何で乗ってないの?
視線をバックミラ-へ戻すと、猛スピ-ドでバイクが追って来る。
あっ⁉ ケイコさんがバイクをぶつけに行った⁉
おいおい。危ないって。
幸い転げなかったみたいだけど、無茶しちゃ駄目だろ。
もしかして怒ってた?
俺達は一切止まることなく逃げた。
ケイコさんも追いついて来てるのは確認済み。
あちらが動く前に距離をとる。
戦う選択肢は無いって思ってるけどさ。
だからと言って馬鹿正直に逃げる?
そんな訳無いでしょ!
通行止め(笑)の彼らは、葬儀場を出る前に見た集団で間違いない。
感じの悪い奴だから、顔は覚えていた。
後でケイコさんにも確認するけどな。
ちょっと執着心が異常じゃね?
朝なら川沿いの道から民家が見えるから、バイクを発見したんだろうけど。
俺の車を見て家を襲うのを諦めたのかな?
まぁそれにしても、考える事がアホすぎるわ。まだ夜襲された方がこっちは怖い。
警察の検問じゃあるまいしさ。なんで俺達が止まると思うんだ?
その自信が何処から湧いて来てるのか本当にわからん。
普通なら轢かないよ?
でも世の中ゾンビだらけでしょ。
俺からしたらさ。ゾンビも襲って来る人間も一緒だよ。
どうかこれを機に、俺達を襲った事を後悔してくれ。
◇◇◇
あれから1時間。
1度目の休憩場所に到着。
小さな池のある公園の駐車場だ。
追われても良い様に、ルートは選んで逃げて来た。
進む方向を色々変えて、逆に迷いそうになったし。
これで追いつかれたら、その時はその時で腹を括るよ。
「ああ! もっと思いっきりやれば良かったわ!」
「いや危ないでしょ! 見てるこっちは、ヒヤヒヤしましたよ」
「スピ-ド出し過ぎてウイリ-出来なかったし!」
「まったく。どこのスタントウーマンなんです? 普通はやりませんって」
笑い話で済んだから良いものの、転んでたら助けられたか分からないよ。なく
俺も躊躇なく轢きに行った分、フロントがべっこり凹んでるけどな。
「ハンドサインを見て気持ちの準備はしていたけれど、まさか相手が人間なんて思わなかったわ。下りだったから途中で見えたけど。とうまさんって一切躊躇なく突っ込むのね」
「あはは。俺、思うんですよ。ああ言う自分中心に物事を考える奴って、いじめをする奴と同じだなって。だから教えてやるんですよ。やり返されたらこうなるって」
俺も学生時代に、いじめを受けた経験がある。
色々な物を隠されてさ。
直接的な暴力は無かったけど、精神的に辛いと思ったよ。
でもあまり長く続くと逆にイラっと来てさ。
やった奴を含め、クラス全員にやり返してやった。
誰も登校していない時間に教室行って、全員の机の中の物をゴミ袋に積めてさ。
校舎の裏にポイして、家に帰って数日学校休んだんだ。
当然、俺が犯人だと言う奴が居たけどさ。
「このクラスに人の物を隠す奴いるじゃん! なんで疑わないの?」
って周り見ながら大声で言い返してやったよ。
誰も俺と目を合わさないし、心の中でザマァって思ったね。
やってる奴も悪いけど、見ないふり決め込んでる奴も加害者だしな。
自分に問題が降りかかって、初めて理解したはずだ。
何をされたら嫌なのかってね。
その件の後、クラスの人間関係がギクシャクしてさ。
うやむやな感じで、いじめは無くなったんだ。
なんて昔話をケイコさんにしたら、ドン引きされたけどな。
ひねくれた性格なのは自覚しておりますよ。
でも俺の仕返しは地味だと思うんだけどな。
そんなこんなで休憩も終わり。昼食代わりの乾パンも食べた。
此処から向かう場所で本日宿泊する予定なんだ。
まだ安心出来なので、急いで出発する。
街中と幹線道路を避けたいから、進むのは山越えル-トだ。
もう追われるのもウンザリだしね。
目的地の手前にある山だけど、標高はあまり高くない。
そこの頂上付近に展望駐車場があるので、そこを宿泊場所に選んだんだ。
天気の良い日なら、目的の街も見えるんだぜ。
実は密かに楽しみにしているんだ。
子供達にあそこがそうだよって教えてあげたいからさ。
◇◇◇
という事で4時間程かけて、やって来ました展望駐車場。
居ないと思ってたゾンビさんいらっしゃい!
ゾンビって山登るんかよって突っ込みたくなった。
これ以上車のボディも痛めたくないので、バットを持って駆除に回る。
ケイコさんにバイクでおびき寄せて貰い、崖へ誘導しつつ転がして落とす。
数も多くないし、時間も掛からなかったよ。
俺は考える。もしかしてゾンビにも意思があるのか?
今回は明らかにおかしい。
展望駐車場に放置車両は無い。なのにゾンビが居る。
誰かを追いかけてたまたま? こんなグルグル回る道を?
途中で落ちるだろ普通。そんな複雑な動きするゾンビ見た事無い。
襲う対象も居ない場所に留まってる理由は何? 壁も無いのにさ。
ゾンビ化する前の習慣が残ってる?
考え始めたら疑問だらけだよ。
まぁ誰も答えてくれないから、俺の携帯メモに書いておくけど。
ゾンビのせいで予定が台無しだ。
外での食事が車中飯になるし、狭いから俺だけテント泊予定が駄目になるし。
ここ数日トラブルが続きすぎだろ。
もういい加減、何も無く1日を終えたい。
かなり遠回りしたから日数も掛かってるけど、もう間もなく目的地なんだ。
問題が起きなければ、後2日で到着出来る。
せめてこれ以降はトラブルに巻き込まれたくないものだ―――




