一難去って。
突然追われると言う出来事があったが、幸運にも退避できる場所を見つけた。
病み上がりの子供達もゆっくりできる。
元気な子は広いスぺ-スを走り回ってるけどな。
それに食料を得られた事が大きい。
少し栄養が偏ってしまうが、食べ物があるだけマシだろう。
俺は何があっても良い様に、車に見つけた物資を積み込んだ。
俺を怖がっていた子供達も手伝ってくれたよ。シクシク。
「とうまさん。此処じゃ駄目なんですか?」
「うーん。防犯上は問題無いと思うよ。でも此処は外が見えないから警戒が出来ない。ゾンビなら大丈夫だけど、急に人間に襲われると逃げるのも難しいと思う」
「私もそれは思った。まぁエリちゃんの気持ちも分かるけどね。食料もあるし」
エリは此処に留まりたいみたい。
まぁ車の移動はしんどいだろうし、落ち着ける場所があるならって思うんだろう。
俺もそれは理解している。安全に寝泊まりは出来るしさ。
でもあの追って来た連中が近くにいる。
いずれは此処も突き止めるかも知れないだろ?
シャッタ-や扉だって無理やりに壊す可能性もある。
もしも集団で襲われたら、俺は子供達を守る自信が無い。
だから俺の考えを皆に正直に話す事にしたんだ。
すると大半の子供は俺の考えに賛同してくれた。
「何で逃げるの? とうま兄ちゃん強いのに」
「一対一ならな。でも複数人相手じゃ勝てないよ」
「ゾンビはもっと多いじゃん! 勝てるよ!」
「あはは。ゾンビは武器持って無いだろ? 人間は武器を持つんだ。だから怖い」
俺はゾンビと戦うのも最初は怖かった事。
それを克服するまで辛い事もあった等を含めて話をした。
戦い方を教えて欲しいなんて言う子もいたけど、もう少し大きくなってからと諭す。
皆との話はその日の夜まで続いたが、何とか此処を出る事に賛成してくれたよ。
◇◇◇
翌朝。
何か違和感を感じ目が覚める。
腕時計を見ると午前6時。
皆はまだ眠っている様だ。
ガチャガチャ。
ん? 何処から聞こえるんだこの音?
寝起きで頭が回らない。
ヒソヒソ。
⁉ 誰か外に居る⁉
俺は静かに立ち上がり、金属バットを持って声の聞こえる方へ移動。
そっと扉へ耳を澄ます。
「鍵合わねぇよ? どうすんだよ」
「おいあの車。誰かいるんじゃねぇか?」
「うちの従業員か? ワゴン車乗ってる奴居たっけ?」
はぁ。この倉庫の関係者っぽい。この声は男だと思う。
マズいな。このまま見つかると、確実に争いになる
不法侵入とか言われても、今更法律も何クソも関係無いけど。
外が見えないのが痛い。
人相が分からんから、話し合いが出来そうかも判断できない。
昨日のガラの悪い奴らだったら最悪だ。
「道具持って来てねぇわ。取りに帰るべ」
「だな。バールか何かでシャッタ-開けられんだろ」
「仕方ないか。守衛のオッサンが生きてたら良かったのになぁ」
聞こえていた声が離れて行く。
逃げるなら今しかない。
俺はゆっくりと皆の元へ戻り、ケイコさんを起こす。
「ケイコさん。起きて下さい」
「ん? 何? もう朝なの?」
「朝です。それに緊急事態なんです」
「へ⁉ と、とうまさん⁉ どどど、どうしたんですか⁉」
まぁ寝起きで俺が目の前に居たら驚く気持ちは分かる。
でもそんなに逃げなくても良いんじゃね?
俺は少し凹むが、それどころじゃない。
さっきの事を必死に説明し、子供達を手分けして起こした。
その間にもう一度扉まで戻り外を確認。
喋っていた男達は居ないが、出入り口の門が開いたままだ。
それを見た俺は直ぐに車のエンジンを掛け、出て来た順番に子供達を乗せる。
ちびっ子たちは目をこすり、とても眠そうだ。
「ケイコさん! 行きますよ!」
「分かったわ!」
俺達は急いで出発し、入って来た道路へゆっくりと進む。
ん? 人が居る!
倉庫へ入る際にあった切れ目近くに、男が1人立って居たんだ。
顔を見られたくないので、サンバイザ-を下ろし助手席のエリを伏せさせる。
そのまま速度を緩めず道路へ侵入。男は驚いて飛び退いている。
続くケイコさんも巧く抜けたようだ。
俺は車を一気に加速し距離をとった。
彼らの拠点が何処か分からない。近くなら追って来る可能性もあるだろう。
本当に考えが足りないよ。
従業員ならあの倉庫に食料がある事も知ってるよな。
たまたま俺達が先に入っただけなんだ。
そんな当たり前の事に気づけなかったのが悔しい。
顔は見られて無いだろうけど、車種は知られてしまったし。
クソッ。これで少なくとも、3つの集団から逃げないといけなくなった。
目的地はまだ遠い。本当に面倒な事になった。
戦うと言う選択肢がない以上、逃げる前提で行動を考えるべきだな。
俺は少し憂鬱になりながら、次の休憩ポイントへ車を走らる。
◇◇◇
予定してあった休憩場所には無事に着いた。
でも皆の雰囲気は暗い。
短いスパンで色々起こると不安になるからな。
こんな時にケイコさんと言う存在は大きい。
子供達に話しかけて、場を明るくしてくれるんだ。
残念ながら俺にそんな話術は無いから、これまで通り出来る事をやるしかない。
1時間程して、移動を再開。
予定では次の休憩場所で一夜を過ごすつもりである。
しかし今日も簡単には終わらない。
何故なら到着した場所の建物に問題があったんだ。
「これって自然発火ですかね?」
「たぶん違うと思うよ。ほらあっちの建物も燃えてるし」
休憩場所に選んだ場所は、火事で燃えたみたいなんだ。
そこだけなら不運にも火事になったって思うんだけどさ。
周辺の建物にも火事の跡がある。
ここでそのまま車で泊まる事も考えたが、何かが引っ掛かるので移動を決断。
もうすぐ夜になるので、ルート上で休める場所を探しながら走る。
しかし陽が落ち暗くなっても、都合の良い場所は見つからない。
道路は街灯も消えていて、車のライトだけが辺りを照らす。
俺達よりケイコさんの方が怖いんじゃないかな。
子供達には車内で食事を摂らせて、車を停車せずに走った。
既に時刻は午後8時。
段々と家の数が減り、川が見えて来た。
もう流石に休憩場所を見つけないと、夜に橋は渡りたくない。
目的地へ向かうまでに、1本だけ川を渡る必要があるんだ。
比較的大きな橋だけど、状況が分からないまま渡りたくない。
以前酷い事になったしな。
ん? あれは民家か?
左手に広がる田畑の向こうに建物が見える。
暗いので道が見えにくいが、その方向へ進む為の脇道を発見。
俺は後ろに合図をする為に、指示器を出してハンドルを切る。
この辺りは街から少し離れているので、農家もあるみたいだ。
近くに川もあるし水源には困らないんだろう。
脇道は少し狭いが舗装はされているので、寝てるであろう子供を起こす事は無い。
だって寝息が聞こえるし。
速度を落としつつ、民家への進入路を探す。
あった。
此処を曲がれば家に向える。
車をその道へゆっくり進ませるが、道は狭く速度は出せない。
脱輪しないように慎重に走る事数分。
目的の民家へ到着。
民家の手前が広くなっていて、方向転換も駐車も可能だ。
俺はホッとして車を停車。運転席から降りる。
まだエンジンは掛けたままだ。
続いて到着したケイコさんに車で待機して貰うように言い、金属バットを持って民家へ向かう。
ゾンビが居たらヤバいしな。
平屋の民家は真っ暗で静かだ。周辺も虫の声しかしない。
これなら動く気配は分かるだろう。
俺は民家を囲うブロック塀を金属バットで数回叩く。
コンッ! コンッ!
......返事は無い。されても困るけど。
暗いのでライタ-で灯を取り、家の敷地へ入り建物の周囲を調べる。
入って左手にある庭は雑草が高く伸び、人の気配が感じられない。
裏へまわって見ると埃の被ったトラクタ-が1台あった。
後は農作業の道具が転がっているだけだ。
俺は裏手で見つけた勝手口のノブを回す。
あれ? 開いてる。
音を出す必要が無い事に安堵し、そのまま扉を開けて侵入する。
暗い。
ライタ-は熱くなってしまい使えない。
幸い目が慣れて来たので、確認は出来ると思い家の中へ。
部屋は3つ。全て和室だ。比較的綺麗には見える。
そして台所。錆があり使われていない事がわかる。
「ここは何だろう? トイレか?」
小さめの扉を開けた瞬間。
⁉ 強烈な異臭が俺を襲う。
何とか服で口と鼻を塞ぎ目を凝らすと......。
そこには風呂に横たわる黒い物体があった。多分この家の持ち主だろう。
もう身体が腐って溶けていて、よく見れば骨なのか白い物も見える。
ゾンビ化もしていないので、俺は何もせずに扉を閉めた。
「とりあえず一晩だけなら大丈夫だろう」
俺は外に出て子供達とケイコさんを家の中へ入れた。
勿論、絶対開けるなと言って、あのお風呂の扉は封鎖したよ。
匂いが洩れないようにガムテ-プを貼って。
俺はこの時、あの兄妹に出会った時を思い出した。
この家の持ち主は、孤独に亡くなったみたいだけどな。
遺体を見た時にさ。
あのまま1人だったら、俺も孤独に死んでたかも知れないと思ったんだ。
寂しいよな。俺が見つけるまで1人だったんだぜ?
そう考えるとさ。皆と出会えて良かったなぁって実感したよ。
無事に目的地へ着いて生活が安定したら、ちゃんと皆にお礼を言わなきゃな。




