争い始める人々と逃げる俺達
朝になって確認すると、子供達の熱は下がっていた。
でもエリから、もう1日休ませて欲しいと言われたんだ。
俺も病み上がりで無理をさせる気は無いので了承。
特に予定も無いので、ケイコさんと情報共有をする事になった。
大半は俺も知っている話だったんだが、興味深い話も聞くことが出来た。
食料不足になり避難所同士が争っていると言うのだ。
「私とメグミは移動しながら、その地域の避難所に寄っていたの。そこで聞いたんだけどね。違う避難所の人達ともめているって話を」
「食料の取り合いかぁ。あのドラマみたいに人間同士で戦うんですかね?」
「ええ。実際に暴力沙汰もあったらしいわ。調達に出た人が襲われたって」
「それはどの辺りで? ケイコさん達の移動距離なら近いんじゃないですか?」
「そうね。バイクで30分程度の距離かしら」
それを聞いて、俺は危機感を覚える。
その集団が車などを使用していれば、この葬儀場も安全とは言えない。
今日のうちに準備を整えて、明日出来るだけ早い時間に出発するべきだろう。
俺の考えをケイコさん含めリーダ-にも伝え、動ける人間で荷物の積み込みを行った。
燃料は放置車両から拝借。でも車にあまりスぺ-スは無い。
なので燃料を入れたタンクは、バイクの後ろに積んでもらう事に。
食料とかその他物資は、俺の車で運ぶから文句は出なかったけどな。
こう言った準備も人数が多いとあまり時間が掛からず終了。
そこで余った時間で、近辺に探索に出る事にした。
「なら私がバイクに乗せて行くわよ。何かあっても逃げやすいでしょ?」
「助かります。じゃあ行きましょうか」
◇◇◇
......どうしよう。
バイクの後ろに乗ったのは良いけど、女性に掴まって良いんだろうか?
「どうしたの? ほら此処に持つところあるでしょ?」
「え? あ、ああ。此処を持てばいいんですね」
あはは。シ-トにベルトみたいな物が付いてた。
邪な考えを持った俺が恥ずかしすぎる。
ブロロロロ。
身体に風を受けながら、飛ばされないように耐える俺。
バイク乗った事無いから、落ちそうだし怖いし寒い。
夏なら気持ちいいかも知れないけど、今は冬だし風も冷たいんだよ。
「ねぇ! どの辺りまで行く?」
「こ、この辺で大丈夫です!」
もうね。1分でも早く止めて欲しかったんだ。
普通の住宅なら無理なく入れると思うし。
俺とケイコさんはバイクを適当な電柱の陰に止め、近辺の探索に歩いて向かう。
何軒か回って少量のお米やカップ麺などを手に入れた。
しかしこの探索中、ガラの悪い集団を見つけたんだ。
ゾンビを警戒していたので、見つかる前に隠れる事が出来たよ。
「ケイコさん。直ぐに此処を離れましょう」
「そうね。あの連中あまり素行が良く無さそう」
俺とケイコさんは静かに距離を取る。
でもその際に、集団の話す声を聞いた。
「おっかしいなぁ。バイクの音聞いたんだけど」
「それ絶対子供連れのバイクだろ? まだこの辺りに居たんだな」
「バイクはやるよ。女は俺がもらう。子供はまぁ......」
ケイコさんも聞こえたようで表情が硬い。
やっぱりバイクは音が大きいから目立つよな。
帰りは押して行った方が良いだろう。
何とかバイクまで戻り、エンジンはかけずに二人で押して帰った。
もう明日出発とか言ってる場合じゃない。
戻ったら直ぐにでも葬儀場を出た方が良い。
◇◇◇
俺とケイコさんは無事に葬儀場へ到着。
エリ達に話をし、急いで皆を車へ乗せてもらう。
病み上がりの子には申し訳ないが。
子供達が車に乗った事を確認し、出入り口の車両を退かす。
そして俺の車が先に出て、ケイコさんのバイクがそれに続いた。
ルートは決めていたが、あの連中と距離を取りたいので変更。
もう速度は出せるだけ出して、先を急いだんだ。
と言っても重量オ-バ-のワゴン車だから、時速60キロが限界なんだけどな。
今いる近辺は比較的道幅が広いので、ゾンビが出て来ても問題ない。
そのまま暫く走ると、中央分離帯のある4車線道路に出た。
この道路は分離帯に網目のフェンスがあって、交差点以外は反転出来ないんだ。
しかし事故車両が多い。それは反対車線も同様だ。
パニック時に一斉に避難して襲われたのかも知れないな。
そんな事を考えながら少しスピ-ドを落とし、放置車両を縫うように走行する。
よそ見して事故とかシャレにならないからな。
たまにゾンビの姿も見るが、襲われる前に通過出来ている。
バックミラ-で後ろを確認すると、ケイコさんも巧くゾンビを避けているようだ。
「あそこに人が居る!」「ホントだ!」「車に乗ってるね」
車内で数人の子供が叫ぶ。
念の為に窓をカ-テンで閉めていたんだけど、コッソリ覗いていた様だ。
それを聞いて俺に緊張が走る。
何処だ? 何処に居る?
見つけた!
はっきりとは見えなかったが、ドアミラ-に反対車線で動く車両あり。
今の所、距離はだいぶ離れている。
すると後方を走っていたケイコさんがバイクを加速。
運転席の横まで来て、何かを叫んでいる。
直ぐに運転席の窓を下す。
「どうしました!?」
「私達を追って来るつもりよ! 急いで逃げないと!」
「分かりました! 出来ればケイコさんが先に行ってください!」
「わかったわ。隠れる場所があれば、そこに入るから!」
ケイコさんはそう言った後、加速して車の前へ出る。
俺もアクセルを深く踏み込み、バイクを見失わないように続いた。
追って来るにしても、あの辺りは暫く分離帯に隙間は無かった。
追いつかれる前に姿を隠せばやり過ごせるはず。
必死に運転しつつ、バックミラ-を何度も確認。
今の所相手の車は見えない。
ヤバい。ケイコさんが早すぎる。
ん? 今バイクが曲がった?
豆粒にしか見えないぐらい離されてしまったんだが、前方のバイクが道路を外れた様に見えたんだ。
俺はその地点へ向かって急ぐ。
するとケイコさんがバイクを降りて、こちらに手を振っているのが見えた。
そして腕を使って方向を示し、走って何処かへ行った。
「あそこを曲がれって事か」
ケイコさんが居た場所は、丁度歩道が切れていた。
俺は出来るだけ速度を落とし、ハンドルを左に切りながら切れ目へ車を突っ込む。
すると数メ-トル奥に、倉庫の様な建物が見える。
ケイコさんは建物の出入り口にある鉄の門を動かし、車一台分のスぺ-スを空けてくれた。
俺はそのまま車を中へ入れ、外から見えない位置に車両を停車。
直ぐに運転席を降り、ケイコさんを手伝う為に入口へ走る。
丁度ケイコさんがバイクを入れるタイミングだったので、俺は鉄の門を動かして閉めてから車へ戻る。
「はぁはぁ。よくこんな場所見つけましたね。車なら見落としてますよ」
「私もたまたま見えたのよ。一旦行き過ぎて戻ったわ。多分ここなら見つからないと思う」
「ですね。まだ追いつかれて無いですし。しかし此処は倉庫ですよね」
「うーん。見た感じはそうよね。でも建物の中は入れないかも。ほらシャッターが閉まってるし」
落ち着いて敷地内を見ると、シャッターが下りた場所が電車のホ-ムの様になっている。
そこに均等な幅で白線が引いてあるので、荷物の受け渡しをする場所だろう。
という事は中に物が置いてある可能性が高い。
そう思って建物の周囲を確認に回る。
駄目元でシャッターを上げてみるも動かない。
なので扉を1つ1つ確認していく。
しかしどの扉も鍵が閉まっていて開かない。
扉のピッキングは出来ないし、壊せるような道具も無い。
もう諦めようか。そう思っていた時。
「きゃあ! こっちに来るな!」
⁉ その声の方向を見ると、1体のゾンビが足を引き摺るように歩いているのが見えた。
ゾンビが向かっているのは子供達が居る車だ!
速度が遅いのが幸いだが、何人かの子供が恐怖で立ちすくんでいる。
俺も武器は持っていないが、ゾンビ目掛けてダッシュ!
その勢いのまま、ゾンビの胴体へ飛び蹴りを放つ。
ゾンビはその場で倒れるが、動き自体はまだ止まっていない。
ああ。ちょっと失敗だ。
ズボンに変な汁が飛び散った。
夏が暑かったし、ゾンビの身体が脆いんだよな。冬でも臭いし。
這いずるゾンビの頭を、何度も踏みつけ頭を潰す。
それでも動くから不思議だよなぁ。
もう噛まれる心配は無いが、念の為に腕も折っておく。
体液も出来るだけ避けてるし、ズボンは後で履き替えて捨てる。
靴は勿体ないから洗うけどな。
「ふぅ。コイツ何処から出て来たんだ?」
あっ⁉ もしかしてコイツって警備員?
入って来た門の方を見ると小さな小屋がある。
なら持ってるかも?
俺はゾンビの服を探る。
おほほ。あった!
これは自動販売機のパタ-ンやで!
ニコニコ顔で皆のいる方へ振り返る俺。
え? どうした?
ヒソヒソしながら遠巻きに見るの辞めて!
「えっと。皆どうした?」
「とうまさんさぁ。ゾンビと戦ってる時、笑ってたんだよ。何時もそうなの?」
「え⁉ 俺、必死でしたよ⁉ 今笑ってるのは、これを見つけたからで」
俺はそう言って皆に鍵の束を見せる。
あちゃ~。ドン引きされてるっぽい。
普段なら、ちびっ子が走って来るはずなのに。
トホホ。
俺は皆に近づくのは辞め、出入り口から見えない場所の扉へ向かった。
カチャリ。
何本か試すと扉の鍵は開く。
多分本当は警報でも鳴ると思う。今は電気が止まってるから鳴らないけど。
そのまま中へ入ると、のれんの様なビニ-ルが垂れ下がっている。
それを押しのけ更に進むと、だだっ広いスぺ-スがあり、大きな棚が整然と並んでいた。
高さは俺の身長の5倍ぐらい。
普通なら届かない位置にも、ダンボ-ルが置かれているのが分かる。
これが食品なら最高だな。それにこれだけ広いなら、ここで寝泊まりも出来そうだし。
そんな事を考えながら、倉庫内の安全確認をする。
ラックの後ろは見えないので、慎重に歩いて一周。
ゾンビの姿は無し。
最低でも今日、明日はこの場所から動かない方が良いだろう。
俺は皆を呼びに戻り中へ案内した。
皆が入った後、手分けしてダンボ-ルを調べて回る。
隅の方にリフトが数台あったが、残念ながらバッテリ-が上がっていた。
まぁ登れなくも無いんだけど、一番上とか取れないよ。
「あ! ポテチ!」「こっちのクッキ-あるよ!」「これお水?」
そんな子供達の声が聞こえる。
まだ天は俺達を見放していない様だ―――




