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脱出

第2章開始。

 生きる為にマンションから脱出する事を決めた俺達二人。

 考えられる限りの準備は済ませた。

 もうこの場所に戻れないと考えると、持ち出したい物は沢山あった。


 だが欲張りすぎると動きが鈍くなるので、泣く泣く断念した物も多い。


「よし。これぐらいなら大丈夫だろう」

「いやいや。とうま。本当にテントも持って行くのか?」

「俺の唯一の趣味道具なんだよ! 多少重くても全部持って行くんだよ! ノートパソコンは諦めたじゃないか!」

「......パソコンは外じゃ使えないんだろう? まぁ大丈夫なら良いけどよ。衣類とか俺も借りてるしさ。でもな。お前のこだわってる山キャンプ道具を何処で使うんだよ?」

「もしかしたら山に逃げるかも知れないじゃん! そう言うお前がリュックに忍ばせてる、〇秘本はどうなんだよ!」

「あほか! 俺の宝もんなんだよ! 何があっても絶対持って行くからな!」



 思い入れのある物って誰にでもあるんだよ。

 俺にとって山登りとお1人様キャンプ道具は、亡き母親との繋がりだから譲れん。

 それに稲垣にだけは文句を言われたくない! 執着する所間違ってるだろ? (白い目)


 とまぁ少し揉めたりもしたが、いよいよ脱出開始だ。





◇◇◇






「稲垣。じゃあやるぞ」

「ああ。奴らの移動が確認出来たら動こう」


 俺は2階のベランダを走り、アルミ製の箱を思いっきり投げた。



カンカンカン!



 投げた箱は川の土手にあるコンクリート部分で跳ねて甲高い音を出す。

 集まっていたゾンビ達はその音に反応し、ゾロゾロと移動を開始する。

 しかしまだ動きの悪いゾンビが居る。


「やっぱりこれだけじゃ厳しいよな」

「ふふん。とうま。だから言っただろう。そろそろ鳴るぞ! 時間が無いから早く1階へ移動しろ」


 その声に急かされる様に梯子を下りだした次の瞬間。




タタタタァアアアアアン! タ・タ・タ・タァアアアアアン!



 土手に落ちた箱から流れ出す場違いな音楽。

 連続して流れるその音に、ゾンビ達は走り出す。

 稲垣が箱の中に自分の携帯を張り付けたんだ。

 アラ-ムをセットしてな。

 

 何度も本当に携帯を使って良いか確認したんだけど、稲垣の意思は硬かったんだよ。

 家族との写真とかもあっただろうにな。


 そんな事を考えつつ、俺と稲垣は1階ベランダの柵を飛び降りた。


 その勢いのままゾンビの群れと反対方向へわき目もふらずダッシュ!

 

「くそしんどい! 稲垣。目印あったっけ?」

「このまま200メ-トル走れば、左手に出窓の付いた家があるはず。〇-グルマップで何度も確認したからあるはず」

「わかった。これで家に入れなかったら泣くぞ」

「はぁはぁ。天に祈って走れ!」


 たった200メートル。その距離が何キロも離れた場所に感じるんだ。

 後ろを振り返らず意識を左側に向け走る。

 すると特徴的な出窓のある家が見えた。


 一目散にその家の裏手にある柵へ向かって土手を登る。

 しかしここで問題発生。

 柵を掴むまでは良かったが、背負った荷物が重くて直ぐに上がれない。


「だから言っただろ。ほら早く上がれ!」

「すまん。上がれぇえええ!」


 リュックを後ろから持ち上げて貰い、何とか柵を越える事が出来た。

 腹ばいの状態で落ちたけどな。カッコ悪すぎる俺。グスン。

 そんな俺を跨ぐように柵から飛び降りる稲垣。コイツ無駄に運動神経あるよね。


「顎が痛い。やっぱ荷物持ち過ぎたわ」

「しっ。静かに。ゆっくり立ってコッチ来て見てみろ」


 稲垣が緊張した感じで手招きするので、俺は痛みも忘れて慌てて立ち上がった。

 そして静かに稲垣に近づき、指差す方向をそっと覗く。

 

 すると表通りを歩く複数のゾンビの姿が見えた。

 それを見て、俺は血の気を失い叫びそうになる口を手で押さえた。

 大きな音を立てれば、ゾンビに気づかれる恐れがある事に気づいたからだ。


 今すぐ身を隠す為に、住宅内へ入りたい。

 そう思うのだが、ここでも問題が発生した。

 裏手から入れる場所が無いんだ。


 俺は稲垣に小声で話しかける。


「ど、どうしたら良いんだ?」

「慌てるな。この住宅は表側に登り階段のある玄関。西側は今覗いた通り柵の付いた小窓しかない。でだ。東側に中庭があるんだが、そっちへ回れば入れるはずだ。ついて来い」


 稲垣はそう言ってから、姿勢を低くして移動を開始。

 俺もそれを見習って後ろから続く。

 通路は少し狭かったが、それを抜ければ縁側の付いた庭に出た。


 稲垣はすぐさま縁側にある掃き出し窓に手を掛けるが開かない。

 流石に開けっ放しで出て行く事はないだろう。

 助かったのは、シャッタ-が閉められていなかった事。


 閉まってたら、その時点でどうしようもなかったよ。

 稲垣は慣れた手つきでガラスを割り、静かに住宅内へ侵入。

 俺も続いて土足のまま中へ入った。


「稲垣どうする? シャッタ-閉めるか?」

「そうだな。一息つきたいから、音を立てない様に閉めようか」


 俺はリュックを降ろし、室内に置いてあるシャッタ-用の棒を取る。

 そして時間を掛けてゆっくりとシャッタ-を閉めた。




◇◇◇





 その場にへたり込み数分。

 運動不足とは言え、趣味で山に登っていたとは思えない体たらく。

 普段はちゃらんぽらんの稲垣と比べ、情けなさ過ぎて泣けてくる。

 そんな俺に稲垣が声を掛けて来た。


「とうま。とりあえず1階にはゾンビも人間も居ないわ。音出したくないし2階へ移動しようぜ」

「わかった。俺も落ち着いたよ。何から何まですまん」

「へへへ。やる時はやる男だからな。俺がしんどい時は頼むわな」

「ちょっと見直したわ。じゃあ上がるか」


  

 俺達は階段をあがり、出窓のある部屋へ移動した。

 不思議な事に各部屋のドアが開いていたので、びくっとしたのは内緒だ。


 

「誰かが物色した訳じゃ無いみたいだな」

「家を出る前に持って行く物選別したんじゃね? 俺ん家も急いだから同じ様な状態になってると思う」

「そっか。きっとバタバタしたんだろうな」

「とうまのマンションみたいに安全じゃ無かったしな。とにかく目に付く物入れて家出たんだろう」


 

 そんな会話をしながら出窓を覗いた俺はゾッとする。



「な、なぁ。俺の目おかしいのか? 知り合いが見えるんだが」

「ん? 嘘だろ⁉ アレってとうまの知り合いだった奴じゃん! 怖っ!」

「や、やっぱりそうだよな? スト-カ-かよ!」

「あははは。もう彼女で良いんじゃね? ブハハ」


 うん。お隣さんがさ。こっちを見上げてるんだよね。

 もう絶対見えてるじゃん! 何で!? あの音に反応してたじゃん!

 人生で初めてモテた相手が、ゾンビとか嫌だぁああああ。


 稲垣は腹を抱えて転げまわってるし! 蹴ってやるか。くそっ!

 室内が暗くなるのはの嫌だけど、速攻でカ-テン閉めた。

 見なかった事にしよう。アレはきっと幻。


「おい。笑いすぎだ。ボケ」

「はぁはぁ。ちょっと笑いつかれた。しかし着いて来るか? もう嫁にもらえよ」

「知らんっ。俺は何も見なかった」

「ププププ」



 駄目だ。稲垣が使い物にならん。

 俺はそんな稲垣を一人残し、取り敢えず2階の他の部屋を見て回る事にした。

 全部で4部屋あるんだけど、出窓のあった部屋は多分夫婦の寝室だと思う。

 キレイに整えられたダブルベットがあったしな。

 

 他の3つの部屋が子供部屋っぽい。

 一番落ち着いた色使いの部屋に写真が飾ってあったよ。

 温和そうな両親と男、女、女の家族みたいだ。


 家もそれなりに大きいし、絵に描いたような幸せな家庭。

 ちょっと羨ましく感じたよ。

 息子さんの部屋がちょうど玄関側だったから、コッソリと外を見てみた。


 まばらに歩き回るゾンビ達。見える範囲だけでも20体ぐらいは居る。

 暫く見ていたんだけど、少し面白い光景が見えたんだ。


 猫がゾンビ前を走り抜けたんだけどな。

 全く反応しなかったんだよ。

 おかしいだろ? 動く物に反応していないんだ。


 まさか動物は襲われないのか?

 一体何を基準としているんだろうか?

 疑問は色々と湧いてくるが、考えても答えは出ず。

 後で稲垣にも意見を聞く事にし、忘れない様に携帯のメモに書き込んでおいた。


 その後1階に下りて台所を物色。

 床下収納に水とお酒類。台所収納に粉類とお菓子を発見。

 お米も少し残っていた。


 比較的安全な場所だけど、やはり残されている食料は少ない。

 一応報告の為、稲垣のいる部屋に戻った。


「稲垣。食料は少し見つかったよ。今日はもう此処でゆっくりするんだよな?」

「そうだな。色々探して準備を整えたら、次に目をつけている家へ移動する予定だな」

「だよなぁ。こんなドキドキをずっと繰り返すのか......」

「じっとしていれば安全だけどな。食料無いと生きて行けねぇしな。腹をくくるしかないぞ」


 俺ががっくりと肩を落とし、床に寝ころんだ。

 ああ。精神的に辛い。今だけはゆっくりさせてくれ。


中条 斗真 28歳。

彼女いない歴年齢と同じ。

嫁はゾンビ? (遠い目)

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