悪夢? うなされる夜。
「うぁああああ」
自分の叫び声で目が覚める俺。
「もう。どうしたの?」
「え⁉ 君がどうして俺の隣に⁉」
「何言ってるの貴方? 私と何時も一緒に寝ているじゃない。あーもしかして浮気でもしてる?」
「え? え? ん? どう言う事? ちょ、ちょっとトイレ行って来る」
自分の置かれている状況に困惑する俺。
その場は何とか誤魔化し、寝ていたベットから起き上がる。
ベット脇には二人で映った写真。
結婚式で撮影された物のようだった。
一体どう言う事だ? 俺は何時の間に結婚していたんだろう。
動揺で頭が回転しないまま、部屋を出て廊下へ出る。
記憶にない家のはずなんだが、身体は動きトイレに辿り着く。
俺の記憶がおかしいのか?
カチッ。カチッ。
電球が切れている様で灯がつかない。
それでも気持ちを落ち着かせる為に、暗いトイレに入った。
思い出すのは稲垣と二人でマンションを脱出し、出窓のある家に何とか辿り着いた事。
その後どうしたっけ? 疲れていた事は覚えている。
もしかしてその記憶が夢かなんかで、今のこの状況が現実なんだろうか?
ああ。それならあの恐ろしい現実など無かったんじゃないか?
俺はあの女性と結婚して、幸せな日々を過ごしているんじゃ。
でもどうやって出会い、結婚までしたのか思い出せない。
写真があったのだから、事実であるはずなんだけど。
いくら考えても思い出す事が出来ないので、俺はトイレから寝室に戻る事にした。
ギシギシ。
先程歩いた廊下が軋むような音を出す。不快な音だ。
それに妙に薄暗い。あれ? 廊下の電気付けてなかったっけ?
まぁ寝室まではすぐだ。早く戻ってもうひと眠りしよう。
ガチャ。
ドアを開け部屋の中に足を踏み入れる。
やはり暗い。だが徐々に暗闇にも目が慣れて来る。
うん。夢じゃない。ベットに人影がある。
俺は静かにベットに近づき、起こさない様に滑り込んだ。
しかし布団の中は妙に冷たく感じた。
それほど時間は経って居なかったはずなのだけど。
ブルっと寒気を感じて、人肌を感じようと寝ている女性の方へ身を動かす。
こちらに背を向けて寝ているので顔が見えない。
寝顔を見たら安心できるのだろうか?
ゴソッ。
「すまない。起こしてしまったかな。少し肌寒くて」
「......」
返事は無かったが、女性が身体をこちらへ向けた。
「⁉ き、君は⁉ は⁉ み、見るな! こっちを見るなぁああああ‼」
◇◇◇
「という夢を見たんだよ。お騒がせして、すみませんでした!」
「アハハハ。夢にまで見るとか惚れてるやん! いやあっちが出て来たのか? プププ」
俺の叫び声に驚いて飛んできた稲垣。
汗を滝の様に流して放心している俺。身体を揺すられても中々正気に戻れない。
何とか落ち着いて夢だった事に安堵するまで数十分。
んで稲垣に内容を話して笑われたんだよ。つらい。
お隣さんとの接点なんて、あの日まで無かったんだよ?
そりゃあゾンビになってから、日々見上げて来るから印象には残ってた。
でもさぁ。夢にまで出て来るか普通! それならもっとエッチな......ゲフンゲフン。
俺って稲垣の言う通り惚れちゃったんか?
いやいやいやいや。断じてそれは無い。
確かにゾンビじゃ無かったら、綺麗な人だとチョットだけ思ったけども。
それでも一目ぼれとかした覚えはない。
しかも今はゾンビだし。無い無い。
ホントダヨ-。(棒)
「まぁ冗談はさておき。とうまも俺も精神的にやられてるかもな」
「いや稲垣は元気じゃん。俺は役にも立ってないし情けないわ」
「そんな事ねぇよ。少なくとも俺は助けられてると思ってる」
「何処がだよ。何も出来てねぇって」
「......とりあえずさ。それぞれが出来る事をすれば良いんだ。焦る必要も無いしな。ほら。適当に飯食って何か使えそうな物探そうぜ」
「うう。わかった。着替えて飯食う」
汗に濡れた服を着替え、昨日見つけたクッキー系のお菓子を朝食にする。
腹持ちの良いものが食べたいが、贅沢を言える状況じゃない。
食事が終われば、二手に分かれて家の中を調べる事になった。
俺は2階を担当し稲垣は1階だ。
男用の衣類は結構ある。
洗濯も出来ないので下着やシャツは貴重だ。
まだ9月なので厚い上着はまだ必要が無い。
女の子の部屋は物色しません。だめ。ぜったい。
食料は子供部屋からスナック類が見つかった。
この家にはWI-FIも繋がっていなかったのが少しショック。
一応武器になりそうな物も探したが、あっても文房具程度だった。
見つけたものを出窓のある部屋に集め、俺は1階に下りて稲垣の様子を見に行く。
「どうだ? 何かあったか?」
「玄関の下駄箱にゴルフバック。後は草刈り用の鎌ぐらいだな。草刈りカッタ-もあったけど、電気式だし使えないな」
「そうか。俺でもゴルフクラブくらいなら使えそうだな」
「いや。とうまは鎌を持っておけよ。荷物重たいんだし、軽い方が良いだろ」
確かに身軽な方が良いか。
でも長物の方が安心感あるんだけどなぁ。
まぁ迷惑掛けたくないから、言う事聞いておくべきか。
鎌でゾンビに攻撃する想像が出来ないんだけどな。
カッコ良く使うイメ-ジはあっても、恐怖で動けない気がしてしまう。
そんな後ろ向きな俺の前では、稲垣がブンブンとゴルフクラブを振り回している。
室内で振り回すのやめれ。当たったらどうすんだよ!
にへらと笑う顔を殴ってやりたくなる。
「んで。今日動くのか?」
「そうだな。あまり一箇所に長居しない方が良いと思うぜ。今なら道路にまばらに居るけど、何かの拍子で集まって来たらヤバいだろ」
「だよなぁ。わかった。次はどの家に向かうんだっけか?」
「オイオイ。とうま。ちゃんと説明しただろ? ほれ。この地図を見よ」
稲垣はそう言って書き写した地図を胸元から取り出す。
そうそう。脱出作戦を考えた時、二人で段取り確認してたっけ。
昨日必死過ぎて覚えてないっす。
地図を見ると。現在いる家から矢印で数字が書いてある。
稲垣が〇-グルマップで調べて選んだんだよ。
選ぶ基準はゾンビに対しての防犯性。
先ず門扉がある家。それも今いる家の様に階段がある方が望ましい。
少しでも時間が稼げれば、逃げるチャンスも生まれて来るしな。
そして身を隠せるスぺ-スがある事。
出来れば塀は高い方が良い。
後は家の中へ侵入する際に時間が掛からない家。
そんな都合の良い家をかなり時間を掛けて選び、移動経路を考えたんだ。
同じ作りの家が多いから、良く見つけたものだと思う。
隣同士並んでいたら楽なんだけどなぁ。
とりあえず最終的な目的地も考えてあるが、そこまで無事に辿り着ければ良いのだけど。
「思い出したか? 今この家だから、次に向かうのは此処」
「結構離れてるな。苦労しそうだ」
「まぁ出来るだけ表通りから見えない場所を通るつもりだ。1か所だけ走り抜ける必要があるが」
「あはは。今度は迷惑掛けない様に頑張るわ」
纏まった物資が手に入るまでは、危険な移動を繰り返すしかないんだ。
今度は何事も無ければ良いのだけど。
嫁ゾンビはヒロイン枠?




