第94話
「行くぞ」
優樹はそう言うと身を屈める。
真は内心呆れていた。そんな解りやすい行動なんてと……
しかし、それは真も優樹の事を過小評価だったということを知ることに。
真の予想通り優樹は身を屈めた瞬間すぐさま真に向かって突進してきた。だが今までと違い物凄い勢いのあるスピードで突っ込んできたのである。
そのスピードを真は目で追いきれなかった。
そして、真は案の定モロに体当たりを食らってしまい倒されてしまう。すぐさま優樹は真が考える間もなく次の行動に移る。一緒に倒れたと思ったらすぐさまマウントのポジションを取りに来たのである。
流石に真でもマウントをとられてしまえば一方的にやられてしまう。そう思った真はマウントをとられないように必死に逃れようと優樹の顔面目がけ右フックを放つ。
だが優樹は怯むことは無く、むしろ優樹の顔面に拳を当てた真の方が苦痛に表情が歪む。
(いってー。なんて固い顔面だ)
なおも真に対してマウントを取りに来ようとする優樹に対し左右の拳を何回も顔面に入れていく。流石にそれには優樹の勢いも弱まったようで、僅かに力が緩んだ瞬間真はなんとか優樹から離れることに成功する。
離れたと同時にすぐさま立ち上がり、まだ起き上がれていない優樹に目がけ回し蹴りをお見舞いする。だが優樹は転がって躱し真から距離をとる。そして優樹の方もすぐさま立ち上がる。
「あんな態勢からでもいいパンチ放つじゃないか」
優樹はニヤッと笑いながら真によって殴られた所から流れ出る血を手の甲で拭うとそれを舐める。
静まり返っていた観客席からは大きな歓声が起こる。
だが、真は優樹の言葉も観客の歓声など無視をして、今度は真の方から距離を詰める。
踏み込み距離を詰めると左のジャブで牽制しつつ右のストレートやフック、蹴りなどを織り交ぜていく。
「おっと!?」
優樹の方も真の行動に虚を突かれる。何発かは真の拳を被弾してしまうが蹴りだけは余裕をもって躱していく。
真は躱されたのを見て一旦距離を置くことにしたようで少し離れる。
「やっぱりいいパンチ持ってるなぁ。流石に何発も貰うわけにはいかないか……」
優樹は真にしか聞こえないぐらいの声量で呟く。真は優樹の呟きなど聞こえないかのように自分の考えを纏めていく。
(やっぱり踏み込みのスピードに関してはこっちが分が悪いか。だが打撃にもっていけば何とか行ける可能性はあるってところかな)
そんなことを考えながら真はふと疑問に思う。
(そおいえばさっきから打撃の類が一切ないな……。なら……)
一秒にも満たない中、考えを纏めた真は再度距離を詰めて打撃にもっていく。今度は先程と違い単調なリズムで同じ行動を態と繰り返す。
単調ゆえに攻撃としては読まれやすいのであろう。最初の連打以降は優樹に余裕をもって躱され始める。
そして、今度は優樹の方が真の拳を掻い潜り距離を詰める。そこから腕をとろうと手を伸ばした瞬間
(いまだ!!)
ここまでの単調な攻撃は真の罠であった。
寝技にもっていこうとする優樹に対し真はあえて単調な攻撃をして掻い潜りやすくしていた。案の定攻撃に慣れた優樹が手を取ろうとした瞬間、真は攻撃に使っていなかった蹴りを放つ。
真の思惑通り行動をしてしまった優樹はモロに真の蹴りを食らって吹き飛ばされてしまう。
今までの攻撃は序盤ということもあり七〇パーセント程の力でやっていたが、今は鳴った蹴りは全力と言っていいほどの力を込めて放った。
そしてその蹴りは優樹の脇腹付近に命中し、そのまま吹き飛ばされる。
だが、優樹は吹き飛ばされ転がっていき止まったと思ったらすぐさま立ち上がる。
「いてえじゃねーかコノヤロウ」
今までにやついていた優樹の表情からそれが消え、怒気に満ち溢れている。
蹴りの食らった脇腹を摩りながらも優樹はダメージなど微塵もなさそうにする。それには真も目を見張ってしまう。
全力言っても過言では蹴りを放ち、何事もなさそうにしているのでは仕方がないことであろう。
普通にいえば真の全力を食らって何もないという方の方がおかしいのだ。真の全力の蹴り。それはある程度使い古されたサンドバックなどは破れてしまうほどの威力なのだから。
真は優樹の様子を確認し再度自分の考えを改め直す事になってしまうのであった。
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