第93話
会場には歓声と銅鑼の音が鳴り響いている。
いつもの真であればめんどくさそうな顔つきにもかかわらず自分から相手に向かっていき一分とたたずに試合を終わらせてしまうのだが今回は違う。もともと相手がかなりの強敵と真自身で認識している為迂闊に前には出て行かない。どうやって行こうかと考えを巡らせていたところに優樹の方から予想外の行動に出てきた。
慎重になっていた真とは違い優樹は構えを解いたと思ったらそのまま真に近づいてきたのである。腕はだらりと下げ無防備な状態でだ。
流石に真はこれには一瞬面を食らったような顔つきになってしまい、併せて僅かながらの隙を生んでしまう。
その真の一瞬の隙をついて優樹が真に対して一気に距離を縮め懐近くまで入ってくる。その一瞬の飛び込みに二度目の驚きに捕らわれるが、流石に二度目はそれほどでもないにしても僅かな隙になってしまう。
懐まで飛び込んできた優樹の次の行動は真の腕を取りにきた。
腕をとられた瞬間真の背中に大量の冷や汗が流れるような感覚になる。その事により真の精神はニュートラル近くまで回復する。そして、この後の優樹の行動が読めない以上真はすぐさま取られた腕を振りほどき、離れた瞬間すぐに距離を始まる前と同じくらいまで戻す。
「なかなかやるじゃないか。様子見だったけど簡単に振りほどかれるとは思わなかったぞ」
優樹は足を止め嬉しそうというか無邪気そうな顔で真に声を掛けてきた。
真は優樹の言葉には応えず、今の一瞬の攻防を振り返り目の前の優樹を分析していた。
(腕力は俺の方が上だが一瞬の踏み込みは向こうの方が上か…………。様子見と言ったが上がってもこっちを超えることは無いだろう。やっぱり問題は踏み込みの速さか……)
真は本気で相手を分析をし始める。
実は真は単純に強いだけでここでの連戦連勝を続けている訳では無い。一番大きくウエイトを占めているのがこの分析する事に他ならない。
普段からもそうだが人を分析、まあ分析と言っても一〇〇パーセント全てが解る訳じゃ無いし、性格とか精神的なものが解る訳じゃ無い。解るのは身体的な力。動きや腕力など今までの経験からある程度予測をし仮説から徐々に正確な所まで導いていく。
これは前から変わらず基本的に一番初めは真から仕掛けることは無い。まずは相手に先に手を出させて料理していくのが真のスタイルだ。まあ今までの相手は分析をし数発殴ったら終わってしまう様な相手ばかりであったが。
分析を続ける真はある仮説を立てていた。
(もしかしたらトータル的にいったら俺と同じぐらいになるんじゃないか。いや、もしかしたら……)
考えを巡らせている間優樹の方は色々と喋っていたのだが真は自分の考えに集中していて最初の言葉以外は全く耳に入ってなかった。
「じゃあ喋ってばっかりもあれだし、次は半分ぐらいで行くぞ」
優樹はそう言うと今度は先程とは違い一気には来ないで真の周りを円を描くように回りだす。
優樹が動き出すのを見て真は考えるのを止め、相手の動きに集中する。円を描くように動く優樹を身体全体で追うのでは無く首を巡らし目で追っていく。
しかしその状態では自分の真後ろに来た時には一瞬視界から外れてしまう。その視界が外れたところの優樹は三周ほど回った時に狙ってきた。
真の真後ろにちょうど行った瞬間先程と同じように一瞬で距離を詰めてきた。
しかし、これは真の予想通りであった。と言うより真自身の罠のようなものである。優樹が距離を詰めてきたときに真はすぐに判断して後ろに蹴りを放つ。
優樹は自分が踏み込んだ勢いの分だけ真の蹴りを受けてしまう。かなりの勢いで距離を詰めたのであろう。真自身としてはそこまで力を込めていなかったのだが優樹はかなり派手に吹っ飛んだ。
周りの観客からは派手に吹っ飛んだことにより大歓声が巻き起こる。歓声というよりブーイングの方が割合が多いように感じるがそれは仕方がないことだ。
傍から見れば何時もの様に真がすぐに終わらせてしまった見えてしまっているからだ。
だが、真は自身はそんなことは思っていなかった。
(感触としては悪くなかったけど当たった感覚はどうも腕に当たったような感覚だったな)
真の思っていることは正しかった。
優樹は吹き飛ばされたと思うと数回転がり直ぐに立ち上がったのだ。勇樹がすぐに立ち上がったのを見て観客からは再度大きな歓声が巻き起こる。今度は正真正銘の歓声だ。
そして優樹は腕を抑えながら真に近づいてくる。
「いってーな。お前の腕力はどうなっているんだ?」
「……いや。今のはあなたの踏み込みがすごかったからじゃ」
普段の真なら話しかけられても応える事は無いのだが、あまりにも呆れた言葉を言ってくるものなのでついつい返してしまう。
「そうか。それもそうだな」
真に言われて優樹は今更ながら気がついいたようだ。本気で笑っている。
だがすぐに笑いを止め
「いくぞ」
そう言うと優樹は身体の重心を落とし身構えるのであった。
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