第84話
あれからどれくらい経っただろうか……
ファンはもうすでに三杯目を飲もうとしていた。
真はその間も口を開けないなりに、そして動けないなりに暴れていた。
普通の人なら何を言っているのかわからないが、フレイヤとファンには真が何を思っているのか丸聞こえなのだ。
流石に二人とも若干うんざりしてきたようだ。
「よくここまで暴れるものだね。普通に羽交い絞めとかして抑えていたらすぐにでも外されてしまいそうだよ。まあそれでもここにいれば時間なんてたっぷりあるんだしのんびり待とうじゃないか」
「……そうね」
「そうやって頑張っていても今は真君は聞く耳持ちそうにないんだからフレイヤも一杯飲んで落ち着いたらどうだい?」
「……そうね」
「はぁ……。しかたないな……」
ファンの方はのんびりと待っていたがフレイヤの方は違っていた。懸命に真の心に語り掛け真の怒気を鎮めようとしていたのであった。
しかし、それはどうやら今の真にとっては逆効果でしかないのだがフレイヤはそんなことなどお構いなしに頑張っているのである。
そんなフレイヤを見かねてかファンはあることをする。それは椅子方立ち上がったと思えば気が付けば真の座っている椅子の目の前に瞬時に移動してきたのである。
「んー!?」
それには流石に真も驚く。真の眼には全くと言っていいほど移動した形跡や軌跡などは見えなかったのだから。
そしてファンは真の頭に掌をのせてきた。
「ちょっと兄さん!?」
ファンの行為にフレイヤは真が聞いたことない声量で叫ぶ。
しかし、真がはっきりと記憶に残っているのはここまでであった。なぜならファンが頭に手をのせた瞬間真の意識は一瞬にしてなくなったからである。
「フレイヤには悪いけど埒があかなそうだからこっちで話そうか」
「…………はい」
ファンの言葉にフレイヤは落ち込んだ様子でありながらも素直に返事をするのであった。
「んん……」
ぼんやりとする意識からよみがえった真。ゆっくりとではあるが真は目を開ける。どうやら真はイスにではなく横たわっていたようで上半身だけを起こす。
「ここは……。それに喋れる……」
目を完全に開けた真はそれだけ言うと言葉を失ってしまう。目の前に広がっている光景は蝋燭が一本だけ灯っており、それ以外は一寸先も見えない漆黒の世界だったからだ。
「ようやく目覚めたようだね」
「お前はファン!!」
「そんなに大きな声を出さなくてもいいよ。今この場所にいるのは君と僕の二人だけなんだから」
いつの間にかファンは真の目の前にいた。多少の驚きはあったもののファンの言葉を聞き真は周りを見渡してみるがどうやらその言葉に偽りは無いようだった。
「……ここはどこだ?」
「ここは僕がつかさどる世界。と言っていいのかな。まあ詳しいことは話せないんだけどね」
軽く笑いながら話すファンに真は寒気を一瞬にして覚え、体には瞬時に鳥肌がたっていく。傍から見れば笑っているようだが、その笑みには一切の喜びのようなものは感じられない笑みであった。
「君が思っていることはもっともだが今はそのことは置いておいてくれるかな。まあパッと見どうやら多少は落ち着いてくれたみたいだから連れてきた甲斐はあったようだがね。これで少しは話を聞いてくれる気になってくれたかな?」
「……ああ」
「それはよかった。じゃあすぐにここからさっきの場所に戻ろうか。これ以上君がここにいるとまずいことになるからね」
真はファンの言葉に同意して一つ頷くが
「一言だけ言っていいか?」
「何かな?」
「こういうのはお願いじゃなくて脅しっていうんだからな」
「おや? 僕は一言もお願いとは言ってないけどね」
「屁理屈を言って……。まあいいか」
「納得してもらったようだからすぐに戻ろうか」
そして再度真の頭に手を載せると真は二度目の意識を手放すことになった。
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