第83話
フレイヤの言葉に従い真はゆっくりと閉じた瞼を開けていく。
すると真の目の前にはフレイヤの顔が眼前にあった。その距離は少しでも前に顔を出せばキスでもしそうなほどの距離だ。
ただし真にとってはそんなことはどうでもいいことであった。真の顔の眼前にフレイヤの顔がある事の方が問題なのであった。
心拍数は跳ね上がり焦りを覚えた真はとっさに大声を出そうと口を開こうとするが唇は真一文字に閉じたまま開くことはなかった。
「ちょっとだけ我慢しててねー」
「うぅーん、うぅーん」
閉じた口で真は必死にしゃべろうとするのだがそれは訳の分からない力にすべてを拒否された。
その間もフレイヤは真の顔を、正確には目を見ている。
「どうやら大丈夫そうね」
それだけ言うとフレイヤは真から離れていく。
それを確認した真はほっと胸を撫でおろす。
「これでどうかしら兄さん」
「どれどれ……」
「うぅーん、うぅーん」
フレイヤが離れたと思ったら今度はファンが真の前に顔を持ってきて真の目を確認する。
今度は違う意味で真は焦りを覚える。
流石に真もそのケはないのだから。
「うん。どうやら大丈夫そうだね。お疲れさまフレイヤ」
ファンの言葉にフレイヤはあからさまに胸を撫でおろし椅子に座る。
「うぅーん、うぅーん」
何かを言いたそうに真は必死にしゃべろうとするのだが口が開かず若干ではあるが途方に暮れそうになる。
それに気が付いたファンがフレイヤに声を掛ける。
「そろそろ解放してあげてもいいんじゃないかい、フレイヤ」
「あっ!? 忘れていたわ。ごめんね真君」
フレイヤの言葉と同時に真の口が急に開かれる。
「何すんだよ!!」
口が開いての第一声はそれだった。
「何って?」
「急に近づいてきて顔を近くまで寄せるとか意味わからないことしてるんじゃねえよ!」
「確認する為だったんだから仕方がないじゃない」
「別に確認なんてそこからでもできるじゃねのかよ!!」
「見えなくはないけど近づいた方が分かりやすいでしょ?」
「俺はそういうことを言っているんじゃなくて――」
解放された真はしゃべるたびにヒートアップするに対し真に怒鳴られているフレイヤの方は淡々と真の言葉に対して返事を返していく。
止まらない真に歯止めをかけたのはファンだった。
「まあまあ、少しは落ち着いて真君」
「うぅーん、うぅーん!!」
ファンがそういうとまたもや真の口は開かなくなってしまった。
ファンのその行為がさらに真に油を注いだのだがいかんせん真の口は開かずどうすることも出来なくなってしまう。
「いいかい真君? これから今後の事や眼の事をしっかりと説明したいんだけど、今の君の状況じゃあゆっくりと説明できないんだよ。仕方ないからこのまま説明してもいいけど大人しく聞いてくれるのなら解放してあげてもいいんだよ。もし大人しく聞く気があるんならそう思ってくれたまえ」
真はそれでも収まることはなく心の中は罵声に満ち溢れていた。
「どうやらまだダメなようだね。……仕方がないそのまま――」
「ちょっと待って兄さん」
「どうしたフレイヤ?」
「少し待ってもらえないかしら」
「ん? どうしてだい?」
「こんなことを招いた責任は私にあるから説明も私に任せてもらえないかしら? それに真君にはしっかりとした状態で聞いてもらいたいし……」
「フレイヤがそういうのなら従おうじゃないか」
ファンは話し終わるのと同時に指を鳴らす。
同時に現れたのは新しくなったティーセットだった。
「ゆっくり待とうじゃないか」
ファンはそう言うと新しいカップに口をつけるのであった。
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