第77話
当日まであと三日
いつものように本番を想定したトレーニングに励みジムを後にする真。ジムを出て少し歩いたところで会いたくのない人物に出会ってしまう。いやこの場合は見つかってしまったというのが適切かもしれない。
「おい、こんなところで何をしているんだ真?」
後ろから声を掛けられた真。その聞き覚えのある声に一瞬振り向きたくなかったので振り向くことに躊躇してしまったが泣く泣く後ろを振り向き声を掛けてきた人物の顔を見る。
「オーナーこそこんなところで何をしているんですか?」
声を掛けてきたのは真のバイト先のオーナーである優志であった。
顔を見た瞬間なんとか真は自制心を働かせ顔を変化させずに話すことに成功する。そして、真が優志に聞いたことは強ち変な事でもなかったりする。
今、真が歩いている場所はバイト先に近いわけでもなくどちらかというと反対側の方向にある。それに周りは住宅街のような感じでむしろ優志にとってはあまり似合わない場所であったりする。
「俺の質問に質問で返すなんて言い根性しているな。まあ、いいか。俺の家がこの近くにあるから買い物に出かけようとしていたんだよ。で、お前は何をしているんだこんなところで?」
優志の言葉に真は驚きを隠せていなかった。
まあ、元々バイトだけの繋がりであったので家とか聞いていなかったので仕方が無いことなのかもしれない。
しかし、真は驚きながらも優志の恰好を見て再度認識する。この場所が似合わないなと。
この時の優志の恰好は白いスーツを着てサングラスをかけ胸元のボタンを三つ程外した格好をしているのだ。パッと見だけで言えば繁華街にいるホストのようなのだから。
そんなことを思いながらも真は向けられた質問に答える為驚きた表情を仕舞い気持ちを落ち着かせてから話す。
「自分はトレーニングしてきた帰りですよオーナー……」
そこまで言って真はハッとあることを思い出す。忘れもしない慧のあの言葉を。
「そうなん「それよりオーナーに聞きたいことがあったんですけどいいですか?」
「急になんだ真」
言葉を被せてきた真に対して起こる様子もなく聞いてくる真。反対に真の方は思い出した時から多少怒り気味な感じである。
「この前、慧に試合の事教えましたよねオーナー? 顔を合わせてないからって勝手なことしないでほしいんですけど」
実は真は試合の事が決まってから一度もバイトには出ていないのだ。これにはちゃんとした訳というか契約みたいなものがあり、試合が決まるとその間は準備期間といものが与えられその間は出なくていいことになっているのだ。
ちなみにこれは真だけの専用の契約事項だったりする。
「そういえばそんなこともあったかな……」
明らかに優志は気まずそうにしていた。それを見て真は攻勢をかける。
「何で話しちゃうんですか。言いましたよね。極力俺の知り合いや友達なんかには簡単に教えないでくださいって。どうして教えたのかちょうどいいし、この場でしっかり説明してください」
「と、とりあえず落ち着けって、なっ」
優志が焦っている所など滅多に見れない物なのだが真はそれどころではないくらいヒートアップしていた。
「いいから話してください」
「わかったから。実はな――」
そう言って話し始める優志。それを真剣かつ多少の怒気を発散させながら聞く真。いつもの主従関係が逆転している瞬間だった。
話を聞き終えた真は溜息しか出なかった。
聞けば聞くほど下らなかったからだった。どうやら優志と慧は本当に偶然出会ったようで、さらに聞くと話しかけてきたのは慧の方からのようで、そのまましつこく色々と聞いてきたらしい。
そして、最終的にポロッと優志の口が滑り話してしまったということだ。
(今度会ったらどうしてくれようか)
そう思いながら慧に対し怒りをほとばらせる真。その様子を見ていた優志が意外なことを言ってきた。
「そう怒ることもないと思うぞ。慧君って言ったか、彼はお前の事を心配しながら聞いてきたんだから。終わった後の心配とか俺の親父の強さとか聞いてきてたからな。だからそう怒らないでやってたらいいんじゃないか」
「……そうですか」
「そうそう、そういえば親父っていえば――」
優志が何かを話そうとしたとき真の後ろから声がかけられその続きを聞くことはかなわなかった
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