第68話
扉を開けると次々に部屋に入ってくる。ちゃんと真は扉を開けた瞬間すぐに退避をしている。
先頭を慧が入ってきて、その後ろから詩織、彩子、咲奈の順だ。
慧は入ってすぐ真の顔を見るなり「すまん……」と本当に申し訳なさそうな顔で小声で囁いてきた。真にはその言葉で慧にとっても思い掛けない出来事なんだというのがひしひしと感じられた。
しかし、そんな事を感じられたのは一瞬ですぐさまその場は真にとっての地獄と化す。
姉達がこの状況で大人しくしてるはずがない。実家に帰ったときは真琴が最大のストッパーになっていたし、一緒に行った蒼空達も意外と大きなストッパーになっていたのは間違いなかった。こんな姉達でもわずかばかりの世間の目というものを気にするのだ。
だがしかし、この場でストッパーとなりえる者は慧しかおらず、慧に対して姉達は遠慮することなどはないのだ。
三人の姉達は真の姿を見るなりとびかからん勢いで接近してきた。真は最悪の状況をイメージしたのだがその状況は慧のファインプレーにより訪れることはなかった。
慧は近づこうとしていた姉部隊の進路を遮ったのである。それにより部隊の進軍は一時的に止まり(時間にしては一秒程でしかない)、その隙に真は部屋にあるクローゼットの中に逃げ込むことに成功したのだ。
クローゼットは折れ戸になっており真は支点になっている部分を足でつっかえ棒のように抑えており外から開けなくした。
クローゼットの中で籠城を決め込んだ真と、こじ開けようとする姉達三人。それなりに大きな声で真に罵詈雑言を言い、頑張って開けようとする姉達であるがなかなか開く気配は感じられない。三対一なら破られそうなものであるがそこがその通りいかないのが神代家だったりする。
この場合真の力が強いのかと言えばそうではない。真の普段を考えればそんな風に感じるかもしれないが本当の所は逆であったりする。
真の姉達の力が尋常じゃなくらい弱いのだ。
可愛い感じでいえば儚い、悪く言えばヘタレなのである。
この事実を知っている慧はその為真に加勢することはなく後ろから安心してみている。
そんな慧の状況など見えるはずのない真はクローゼットの中で慧が止めてくれる、物理的な意味ではなく言葉的な意味ではあるが、待っていたりする。
姉達との攻防が三分程続いて流石に何もしようとしない慧に気が付いた真は中から慧に向け叫ぶ。
「慧!! いい加減なんとかしろって!!」
真の言葉にハッとなった慧は行動を開始する。と言ってもやることは力づくではなく言葉でしかないのだが。
姉達の後ろから慧の説得する声が聞こえてきたのだがどうやら姉達は一向に収まる感じはなかった。どうやら久しぶりすぎてタカが外れてしまっているように感じられた。
真はこのままではどうにもならないと感じ始め、隙間から入ってくる光を頼りに周りを見回す。しかし、打開できるものが都合よく転がっているはずもなく今度は空いてる手を服のポケットに入れる。ポケットに入っていたのはスマホだけであった。
縋る様な気持ちでスマホを取り出し思いついたことをすぐに実行に移す真。
思いついたこと、一番最初に浮かんだのは真琴に電話をしなんとかこの場を納めてもらうことだった。
電話の着信履歴から真琴を選ぶとすぐさま耳にスマホを当てる。
だが無情にも受話器の向こう側から聞こえてきた音声は……
「プップップッ……おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりませんでした」
であった。
スマホを投げつけようかと一瞬思ったがなんとか真は思い留まる。そしてすぐに次の手段をとる。
再度電話帳を開き電話を掛ける。電話をかけた相手は慧だ。
扉の向こう側から着信音が聞こえてくる。
「どうした、真?」
電話をとった慧は何時ものように普通な感じで電話に出た。それには流石に真は叫ばずにはいられなかったが差し迫っている現状を優先して声を抑える。
「どうしたじゃないだろ。いい加減なんとかしろよ」
「なんとかって言ってもこの状況じゃなあ……。止めるのは無理そうなんだよ」
「何でよ?」
「詩織さん達を見ればわかるよ」
慧の言葉と声は何か達観したものであったが、現状を見ることなど真には到底できるはずもない。
真は考え付いた案を慧に伝えることにした。
「この際誰でもいいから誰か連れてきてくれ。そしたら多少、というか姉さん達はなんとかなるから」
「わかった。誰でもいいんだな?」
慧の言葉に一瞬考えすぐに返す。
「梓は変に共感してしまうかもしれないから梓以外で頼む」
「わかった」
そう言うと電話を切り慧は部屋から出ていく。
これで何とかなると選んだこの選択は真にとって悪手以外の何物でもなかった。
ストッパーとなるべく慧がいなくなったことで姉達は恐ろしいぐらい勢いを増したのである。それに加え力も多少上がったようだ。まあそれでも真を崩すにはいかないのだが、言葉の方が変な方向に向いて行っていた。
これには流石に真の方も危機感を増すことになる。
真は再度スマホを出すとこの状況を打開できそうな人物を思い浮かべる。
そして思い浮かんだ人物にすぐさま電話を掛ける。
コール音が三回ほど鳴って電話から声が聞こえてきた。
「もしもし。どうしたの真」
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