第63話
バイトが終わり真はバイト先の建物から憂鬱な感じで出てきた。
時間はもうすぐ日付が変わりそうな時間である。
吐く息はいまだ白く大きなモヤのような物が一瞬出来上がる。真はそれほどの盛大な溜息をついた。
傍から見ても意気消沈しているのがわかるようである。
オーナーの優志から聞かされた話しは結局のところ断る事は出来なかったからだ。
真には拒否権はなくとりあえず少し考える時間をくださいとお願いをして多少の猶予を貰っただけである。
なぜこんな話になってしまったのか歩きながら考えるが答え等出てくるはずも無くとぼとぼした足どりで家までの道を歩いていく。
すると、五分程歩いたであろうか、十字路になっている横の道の脇に人が佇んでいた。道には街灯は無く顔を窺い知れなかった真はそのままスルーしようとしたところにその人物から声を掛けられた。
その声を聞いた瞬間、真はそこにいた人物が誰なのか瞬時に理解をし、その人物に視線を向ける。
そこにいたのは蒼空であった。
蒼空は真に声をかけ、真の元に近づいてきた。
「こんなところでどうしたの蒼空? 何かの買い物の帰りかい?」
こんな所にいる蒼空に疑問を持った真は思ったことを質問するが頭の中ですぐにその質問はおかしい事に気がつく。
真のバイト先は真の家からは元より、蒼空の家からも反対側に位置しているのだ。それにバイト先の周りには買い物するところ等は無く、あるとしたらコンビニぐらいだ。コンビニだってわざわざこんなところまで来なくても蒼空の家の近くのほうが何軒もあったりするので、ここまで来る必要性は感じなかった。
一瞬過ぎった真のそんな考えに対して蒼空は違う形で答えを教えてくれた。
「真を待ってた」
「はっ!?!?」
蒼空の答えは真にとっては意味がわからないものだった。
いきなり来て何の用事があって待っていたのかわからなかったからだ。
どう反応していいかわからず困っている真だったのだが蒼空はそれ以上は何も言わず真の様子を伺うだけであった。
数秒の空白の後、思考能力の復活した真はフル回転で頭の中で色々な考えを巡らせる。だが真ごときが予想できるはずも無かった。
その間も白い息を吐きながら待っている蒼空を見て真に今言える言葉はコレだけだった。
「ここにいても寒いだけだから帰ろうか……」
家までも道を真は何も言わず歩く真。その後ろには蒼空がいて、これまた何も言わない。
こんな状況がかれこれ十分程続いていた。
この沈黙を破ったのは真でもなく蒼空でもなかった。
「後ろにいるのはお前の彼女か何かか?」
暗闇から突然掛けられたことで驚きながらも咄嗟に構える真。どこかで聞いた事があるようだと感じながらも声のしたほうへ視線を向ける。
そこにはちょうど街灯があり声の掛けてきた人物の姿が見えていた。
「あなたは!?」
真はその人物の姿を見た瞬間咄嗟に声を荒げる。
声を掛けてきたのは正月に実家に帰ったときに出会った優志の父親であった。
「その様子だと優志のやつから話は聞いているようだな。前にあったとき名乗ってなかったから自己紹介ぐらいしておこうと思ってな来てみたんだがどうやら邪魔だったようだな」
「いえ…………そんなことは「邪魔」」
真が否定の言葉を言おうとしたのだがいつの間にか真の横に来ていた蒼空に言葉を遮られ、尚且つ蒼空からありえない言葉まで飛び出してきた。
「はははははははっ。そうか邪魔だったか。じゃあまた今度の機会と言う事で今回は退散させてもらうか」
そう言うと優志の父親は振り返り去ろうとする。
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
真は引きとめようとしたのだが優志の父親は振り返ることなく手を振りその場から去ってしまった。
去っていくのを呆然と見送っていた真に蒼空が話しかけてきた。
「帰ろう」
そう言うと蒼空は先頭に立って歩いていく。しかし真はまだ動けないでいた。
少し歩いたところに真の状態に気が付いた蒼空が後ろを振り向き再度声を掛けてくる。
「はやく帰ろう」
蒼空のその言葉に我を取り戻した真は言葉通り蒼空の後についていって家路につくのであった
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