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第37話

 対面に座っている蒼空の鋭くも悲しげな視線が真に刺さっている。無言のプレッシャーとはこの事を言うのではないかと思われる程のものだ。

 助けてくれる者など真の周りには皆無であり、真と蒼空の推移を見守っているだけで何もすることはなさそうな雰囲気である。

 真としては蒼空が何を言わんとしているのかはなんとなく理解している。というか思い当たる節は一つしかない。

 それは、もちろんレイヤとの事の詳しい説明であろうというのは誰の目から見ても明らかであるし、慧も七海も梓もそれを望んでいるように見える。

 真としても説明もしくは言い訳をしたいのはやまやまであるのだが簡単に説明できる事でもない。

 これが簡単に説明できるものであるならば真としてはどんなに楽であっただろう。実際のところ神だの神の力だの完全に突拍子のないことの話しなので逆に信じてもらえるかどうかわからない。いやそれよりも信じる信じないか以前に聞いてくれるかどうかも怪しいものである。

  

 真は横目で真琴と楽しげに話をしているレイヤを視界に捉えると今すぐに頭でも引っ叩きたい衝動に駆られるが何とか我慢をし、大きく溜息を吐くしかなかった。

 そして、どうやって話したらいいものか頭を悩ませるのであった。


 



 五人がそんなやり取りをしている横では真琴とレイヤが話をしている。

 その話は多岐に亘りミスコンでの話やレイヤの私生活のの事、それに真の事などが楽しげに話されているようだった。どうやら真琴はレイヤの事が御気に召したようであった。それにそれなりの量のお酒も入っている。

 

 特に多いのが真に関しての話が主だった。

 真が主な話と言っても殆どが愚痴の様相を呈しておりレイヤはそれを只管聞いているような感じではある。

 その話の中で真琴が一言漏らす。


 「実は真が去年の正月は帰ってきてくれなかったのよ。何度も電話もメールもしたんだけど忙しいって言って結局帰ってこなくて寂しかったのよね。来年は帰ってきてくれるのかどうか心配で心配で。詩織も咲奈も彩子も泣いていたから尚更なのかしらね」


 「そうなんですか。お姉さん達を泣かせるなんてひどい話ですね」


 「そうなのよ。来年は何とかして帰ってきて欲しいんだけど何かいい方法はないものかしらねえ。家族の誰かが迎えに行ければいいのだけれどそれも出来ないし……」


 「いい方法ですか……」


 レイヤは真琴の言葉に考える仕草する。だがすぐに考えが出てきた様なのかすぐに真琴に対して考えた事を笑顔で話し始める。しかしその笑顔は邪な笑顔に近いものであったがほろ酔い気味の真琴には気が付かれる事は無かった。


 「それなら誰かに連れてきて貰うのはどうでしょうか? それなら真琴さんとかが来れなくても何とかなるのでは?」


 「それは去年慧君にお願いはしたのだけれど駄目だったのよね」

 

 レイヤの言葉の前に一瞬期待に満ちた顔をした真琴であったが話を聞いてすぐに落ち込んでしまう。

 しかし、レイヤの話はそこで終わりではなかった。

 

 「それなら私が連れて行きましょうか?」


 「……………………えっ!?」


 レイヤの突然の申し出に反応が遅れてしまう真琴。実際のところ今日出会ったばかりの人間にそんな事を言われれば当たり前の反応であろう。

 レイヤの発言にほろ酔いであった意識がある程度覚醒したようだ。


 「それは……ちょっとね……」


 流石に真琴には即断できない事柄である。これが慧とかであったのであれば顔も知ってるし問題ないのだが、初めて会ったそれも女の子という所に真琴は大いに引っかかっているのだ。

 もちろん引っかかっているのは真の病気の事である。もしもの事があってからでは帰って来るどころの騒ぎではなくなるのだ。そうなってしまっては今後、真が帰ってこなくなるという部分にも響いてくるかもしれないところなので真琴も慎重にならざおうえない。


 しかし、真琴の心配を他所にレイヤは自信ありげな顔で真琴に自身の考えた事を伝えてくる。

 それを聞いた真琴は初めは半信半疑な感じではあったのだが話を聞いていく内に次第にレイヤの考えを信じられるような気持ちに陥っていく。

 普通であれば初対面の人間を簡単に信じるのは唯のお人よしか馬鹿でしかないところであるが真琴はもちろんそのどちらにも含まれずそれなりにしっかりしており酔っ払っていてもそれは揺るぐことはないのだが、これにはもちろん訳がある。

 単純な話でレイヤが持っている力を無駄に使っただけというだけである。魅了の力の応用で早い話が催眠暗示に近いやり方で、頭の意識下にある疑う気持ちを塗り替え強制的に信じさせるやり方だ。普通の催眠などは道具や下準備などが必要ではあるがそこは曲がりなりにも神であるレイヤだ。そんなのものは必要も無く一瞬でやり遂げてしまう。

 そんなレイヤの力もありすぐにその話は纏まってしまうのである。


 話しが決まってすぐに真琴は隣に居る真にその事を話そうと隣に視線を向けてみたのだがそこは真を中心に暗い雰囲気が漂っていたのであった。

 しかし、そんなことは気にしていられないとすぐに真に話しかける真琴であった。

 その行為が真にとって救いの手になるのか奈落に突き落とす手になるかは別ではあるが……。




 

 真は頭を抱えどうしよう悩みこんでいた。

 そんな中隣に居る真琴から不意に声をかけられる。


 「ねえ真。ちょっといいかしら?」


 「…………何?」


 俯き悩んでいた真は頭を上げて不機嫌そうな感じの顔を真琴のほうに向ける。

 真琴はそんな真の顔を気にもせずに話を続けてきた。


 「来年の正月こそは家に帰ってきてくれるのかい?」


 「帰らない」


 真琴との問い掛けに真は間髪いれず即答した。

 真の言葉に真琴はすぐに悲しげな顔をしてしまう。真はそんな母親の顔を見ても表情に変化は無く微動だにしていない。

 冷たいと思われるがこれにはしっかりとした訳があり真としては頷くわけにはいかないのだ。

 

 理由を知っている慧は何も言わなかった。それとなんとなく理解した節のある七海を何も言ってはこなかったのだが、事情を知らない梓がすぐに口を挟んできた。


 「えーっ、何で真君帰らないの? 真琴さんが可愛そうだよ」


 「……ちょっと理由があってね」


 その理由とやらを語ってあげたいところではあるがそれを語ることは身内の恥を教えてしまうことになるので真としてはあまり語りたくない事であったのでぼやかして答えたのだがそれで諦めない人間がすぐに突っ込んだ問い掛けをしてきた。


 「どんな理由?」


 聞いてきたのは蒼空だった。聞いているだけだと思っていた真にとっては少し驚いた顔で蒼空のほうに顔を向ける。

 蒼空は真にそんな顔を向けられたた事など動じることなく真が話してくれるのを待っているようであった。

 真は一瞬話してあげようかと思ったのだがすぐに切り替え話すことをやめようとその旨を話そうとしたのだが真の横から思いの寄らない援護が飛んできた。


 「真にも話したくないこともあるんだしここで聞かなくてもいいんじゃないかな。それに今は話したくないかもしれないけど後で話すかもしれないよな真?」


 「……ああ」


 話に加わってきた慧は対面に座っている七海、梓、蒼空に目を見てそのまま真琴のほうに目配せをしていた。

 それに気がついた七海と梓はわかってくれたようで軽く頷いていた。ただし蒼空だけは何も変化が無かったのでわかっているかどうかは怪しいところではあるが信じるしかない。

 しかし蒼空から再度聞いてくることは無かったのでわかってはいるのであろう。


 真としても話はこれで終わりだと思っていたのだが真琴の方は諦めていなく再度真琴に問いかけるようではなく、懇願するように話しかけてきた。


 「詩織たちも悲しがっていたのよ真。お願いだから次の正月だけでいいから帰ってきて」


 「俺はその姉さん達が嫌だから帰らないだよ!!」


 真はつい言葉を荒げてしまい向かい側にいた三人の注目を集めてしまう。特に蒼空なんかはかなり驚いているようで際ほどまでとは打って変わって大きく目を見開いていた。

 しかし話し合っている本人達はそのような事は気にしていられないようでそのまま話は続いていく。


 「真の言っていることもわかるわ。けど、帰ってきて欲しいのよ。それに健司さんも一度ぐらいは帰って来いって言ってるわ」


 「……父さんが」


 「そうなのよ。だからお願い真」


 父親の名前が出てきて流石に真の反応も変わったようだ。

 考え込むような仕草を見せる真だったが真の意思は揺るぐことは無かった。


 「父さんの言ってることはわかるけど……俺は帰らないよ」


 「……そう」


 目に見えて落ち込んでしまう真琴。それで話は終わりかと思ったのだが真琴の横に居るレイヤが真に話しかけてきた。


 「こんなに真琴さんがお願いしているのにそれはないんじゃないの真君? なんでそんなに帰りたくないのかはわからないけど一日だけでも帰ってもいいんじゃないかな。それで駄目だったら日帰りでもいいんだしそこまで否定しなくてもいいとは私は思うけど」


 レイヤの言葉に真の向かい側に座っている七海、梓、蒼空は同意しているようで三人ともが頷いていた。

 真は顔は動かさず慧の方に視線だけ向けてみると慧も頷いている。

 心の中で舌打ちをしながらも真はこの場に流れる空気から自分の不利を覚る。そして、真の中で答えは出掛かっているのだが見透かすようにレイヤが心の声で話しかけてきた。


 (悩む必要はないと思うんだけどなー)


 (うるせえな。余計なこと言いやがって。どうしてくれるんだよこれ)


 (帰ればいいだけの話でしょ。諦めて帰ればいいんだよ)


 (はあ。わかったよ。けど覚えていろよ)


 「わかったよ。帰るよ母さん」


 「本当!? 本当にいいの?」


 「……ああ」


 投げ遣りな感じで真は答えるのだが真琴はそんなことは気にもせず真が帰ってくることを単純に喜んでいる。

 溜息を吐きながら真は正月の事に対策をめぐらせようとするのだが真琴の言葉にそれはできなくなってしまう。


 「ありがとうねレイヤちゃん。まさか真が帰ってきてくれるとは思っていなかったのに本当にありがとう。御礼に何かしたいのだけど……何がいいかしら……」


 「別にいいですよ。そんな御礼なんて」


 「そんな事ないわよ。本当に真が帰ってくるとは思っていなかったからとても嬉しいのよ。……そうねえ、さっき正月の話したときに何処にも行かないって言ってたじゃない。それなら正月は家に来て過ごすなんてどうかしら?」


 「はあ!?」


 真は今までの人生の中であげたことがないような声をあげてしまう。

 しかし、真琴はそんな真を無視して話を続ける。


 「それがいいわ。いいでしょレイヤちゃん?」


 「かまいませんけど」


 「ちょっと待て!! 俺を無視して話を進めるなよ母さん。何でそういう話になるんだよ。おかしいだろ」


 「理由はさっき言ったじゃない。それに大勢に過ごすほうが楽しいわよ。そうだあなた達もいかがかしら?」


 こうなってしまうと真琴は聞く耳を持たなくなってしまう。自分が考えた事で間違いないと判断したものに関しては譲ることがないのだ。こうなってしまうと成り行きを見守るしか方法はない。

 真琴は向かい側に座っている三人にも話を持ちかける。そしてその話にすぐに返事をした人物がいた。


 「いきます」


 蒼空であった。どんどん話しが進んでいく事に真は頭を抱えるしかなく、隣では慧が口を押さえて震えていた。

 七海と梓はすぐに返事をした蒼空の事を驚きの表情と呆れてる表情を入り混じったような顔で見つめていた。

 

 「あなた達はどうかしら?」

 

 「それってご迷惑ではないんでしょうか?」


 七海が尤もなことを真琴に問いかける。しかし、そんなことなど真琴は一蹴する。


 「大丈夫よ。さっきも言ったけど大勢って楽しいじゃない。全然迷惑じゃないわよ」


 「私は実家に帰るんで遠慮しておきます」


 梓は否定の言葉を述べる。七海はどうやら悩んでいるようで真の方を見て目で確認をしてきた。

 真は七海の視線を感じ好きにしてくれと言わんばかりの視線を送ると盛大に溜息をついてしまう。

完全に諦めの境地に居るようだ。


 「……ちょっと考えさせてください」


 「わかったわ。決まったら真にでも言ってちょうだいね。……慧君は聞かなくても来るわよね?」


 「はい。行きますよ」


 「来るときしっかりと真を連れて来てちょうだいね」


 「わかりました」


 こうしてなぜか正月はこのような感じで過ごすことが決定してしまった。

 途中からは真は一言も発することなく状況の成り行きを見守っているだけだった。


 話が纏まりそのまま食事はお開きとなりそれぞれが仕度をして店から出ようとしたところにレイヤが何かを思い出したのか突然声をあげる。

 

 「あっ!?」


 「どうかしたのか?」


 「……なんでもない」


 レイヤの近くにいた真が何があったのか聞いてみるのだがレイヤはなんでもないという。しかし、その顔はどう見てもなんでもない風ではなかったのだが本人がそう言っているのでそのまま流すことにした。

 店を出るとそれぞれが帰路につくのであった。





 その頃……。


 ミスコンの会場の建物の道に正座で座っているファンが叫んでいた。


 「愛しの妹よ。私はいつまでこうしてればいいのだー!!」


 ファンは結局レイヤが迎えにいくまで正座でいたのはここだけの話である。


お読みいただきありがとうございます。



閑幕を挟み学園祭編は終了となります。

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