第29話
梓が終わった後もステージでは特技披露が続けられていた。
梓の後三人ほど出てきてそれぞれの自分の特技を披露していたが未だに梓以上の好感触のものはいない。
どれもが平凡な感じではあるがそれなりに盛り上がっている。
梓が終わって三人はと言うと特にすることも無く出てくる出場者を眺めているだけである。
特に慧と蒼空は二人で何かを話しながら見ているが真の耳には二人の言葉は入ってきてはいなかった。
真は考えることがありステージに顔を向けているが頭の中では色々な考えを巡らせていた。
その中でもっとも大きなウエイトを占めているのはもちろんレイヤの事である。
もっともで簡単な疑問が真の思考を大いに狂わせていた。
(なんであいつが俺の通っている大学にいるんだ? それも留学生だー、全く意味がわからんし何でミスコンに出てるのかも訳がわからねーじゃねーか……。そもそもあいつは旅行に行くから俺に力を受け渡したんじゃなかったか! 何か思い出してきたら腹が立ってきたな……。それにしても留学生とかなんでだ……)
こんな感じで真の思考は疑問が湧き、思い出し、腹が立ち、再度疑問に駆られており、答えが全く見つからず終わりのない思考のループに陥っていた。
しかし、その思考のループは断ち切られることになる……隣に座っている慧により。
「……お…………おい………………おい! 真! …………真って!!」
呼ぶ声と身体を揺さぶられ真は思考の世界から現実に戻ってくる。
内心苛立ちを覚えたのだがそんなことなどおくびも出さず呼んでいる慧の方に意識を向ける。
「どうした慧?」
「どうしたじゃないって……ステージのほう見てるみたいだったからてっきり聞いていたんだと思ったら何も反応ないから……。まあ、とりあえずそれは後で聞くとして、七海の出番みたいだぞ」
慧に言われてステージに意識を向けるとそこにはすでに七海が登場しておりこれから何かをやる前であった。
それを見た真は先程の考えることをやめ 友達 として見るためステージにいる七海のほうへ意識を持っていく。
しかし、ステージにいる七海の格好を見て内心戸惑ってしまうのである。
真の様子を見ていた慧そして蒼空は真の様子を気にかけつつもこれから始まる七海のステージのほうに目を向けるのだった。
◆
七海は司会者の紹介の後ステージに出てきたのだがやはりかなりの緊張と恥ずかしさがあるのを自分自身かなり自覚していた。
はじめのファッションショーのような感じや今の人前に出て何かを披露することなど普段から慣れていないことはどんなときでも緊張する。
ましてやこれからやろうとしていることは今までの自分ではありえないことをやろうとしていたのだ仕方ないことだろう。
ありえないこと……それは今七海がしている格好がそれに当たる。
七海は今の格好はというとわかりやすく言うと上半身はへそだしで下半身は動きやすいズボンで明らかにKA○Aの格好に似ていた。というかほぼまんまに近い。
司会者がこれからやる事について七海に聞いてくる。
七海は恥ずかしながらもこれからやること――自分の特技を司会者から向けられたマイクで会場の人達に説明をする。
「わ、私の特技は裁縫とダンスなのでこれからそのダンスを披露します……」
どんどん言葉は尻つぼみに声が小さくなっていったがマイクで喋っているのでそんなに聞こえない事はなかった。
そんな恥ずかしそうに話している七海をみて会場からは微かに笑い声も響いてはいた。
実際、恥ずかしながら話している七海は愛らしいものはある。
「おーっと! 裁縫とダンスですかぁー。それにしてもその格好はなかなか大胆な格好ですねー、その格好はこれから踊るために衣装と言うことでいいんですか?」
「そ、そうです……」
「ダンスの為にその格好はわかりますが裁縫のほうも見せていただけるんでしょうか?」
「それは……い、今着ている服が……そ、そうです」
七海の言葉に会場からは『おぉー』と驚きの声と歓声の声が入り混じりながら会場に木霊する。
会場の様子を七海は恥ずかしながらも嬉しそうに見つめる。
ざわつきが無くなり会場が落ち着いてきたところで司会者が七海に披露をしてもらうように促してくる。
七海は司会者の言葉に頷くと目を閉じ心を落ち着かせる。頭の中では色々な思いがあったのだがそれらを全て振り払い大きく息を吐き出し目を開ける。
まだ緊張があったが目を開いて前を見つめると少し遠くの二階席に見知った顔を見つける。
もちろんそこにいたのは真、慧、蒼空だ。
その三人の姿を見た瞬間、七海の中にある緊張は綺麗さっぱり無くなる。
そして次の瞬間音楽が鳴り始める。
音楽に合わせてリズムをとりそのまま集中していく七海。
そして、先程までとは打って変わってあふれんばかりの笑顔で会場を虜にしていくのであった。
◆
三人は音楽がかかり踊り始めた七海を見てそれぞれがそれぞれの驚きの表情を見せていた。このことは七海は誰にも言っていなかったので三人揃って初耳なことだ。
特に驚きの度合いが顕著であったのは慧であった。
これにはちゃんと訳がある。学友として一年以上の付き合いがあり、幼い頃の事も知っていた慧にとって初めて見る姿であったからだ。
幼い頃の七海は活発な印象はあったのだがまさかダンスまで踊れるとなるとは思っていなく、ステージで音楽に合わせて踊っている七海は決して下手とはいえないレベルである。そして裁縫というか服まで自作できると言うことなど全くもって知らなかったことだ。
歯学部である以上はある程度の手先の器用さも必要な要素、長い目で考えれば手先の器用さだけではないのだがあれば越したことはない要素でもあるが、実習の時などはそれなりに器用にこなしている七海に嫉妬すら抱いていたこともあったのぐらいなのだ。
実際のところは慧が不器用すぎると言うことも否定はできないのだが、それは慧自信認めていないところである。
閑話休題
ステージでは七海の披露が続いている中、真はふと視線をステージから外し一階席のほうに目を向ける。
一階席にいる観客達は手拍子で七海の踊りを盛り上げる。真が注目しているのはそこではなかった。目の錯覚かと思い目を擦り再度真が見ていた場所を注視して見てみる。
しかし、再度見てもそれは変わる事はなく真はどうしていいかわからなくなってしまう。
困惑している真を他所に慧が話しかけてきた。
「まさか七海にあんな特技があるなんて驚きだよなー?」
「そ、そうだな……」
「……ん? どうしたんだ真?」
「いや……なんでもない……」
「そうか……」
真は自分が見てしまった事をないものと考えることにした。
どのみち避けられないことではあるのだが……。
そのまま気持ちを切り替え慧との話を続ける。そして蒼空のほうを見てみると蒼空も驚いているようだったので二人に気になったことを聞いてみることにする真。
「二人共驚いているようだけどどっちも七海からこの事って聞いていないの?」
「俺は聞いてないぞ」
「聞いてない」
二人の答えを聞いた真はステージで踊っている七海に目を向ける。
そして改めてイメージを思い直すことにした。
いままで思い描いていたイメージにプラスして秘密主義もしくは抱え込むタイプと言うことを。
「そうなんだ……。なんか梓ちゃんといい七海といい新しい発見が目白押しだな。それに俺は蒼空の事も」
「そうだな。どっちも知らないことだから驚いてばかりだわ」
真の言葉に慧も激しく同意している。
蒼空も同様の思いらしく頷いていてその顔は嬉しそうでもあった。
そんな蒼空の顔をみて気恥ずかしくなった真は顔を逸らしステージのほうに目を向けつつも先程見つけたところに目を動かして確認する。
しかし、そこにはすでに真が見つけたものはなかった。目を凝らし視線を巡らせるが何度見渡しても見つかることはない。
嫌な予感を覚えた真だったが現状どうすることもできないので頭の片隅に追いやるとステージいる七海を見る。
どうやらそろそろ終わりそうだなと思っていたのだがその通りだった。
音楽が鳴り止み七海も踊るのが終了した。
梓ほどではないがそれなりに拍手喝采のようだ。
七海はステージに出てきたときと打って変わって踊りきった満足感、達成感でとてもいい表情をしている。
梓と同じく会場にはそれなりに好印象を残したに違いない。
司会者の言葉でそのままステージから消えていく七海。
七海がいなくなるまで見送った真は席を立ちどこかに行こうとする。
「何処に行くんだ真?」
「ちょっとトイレ……」
気になった慧がすぐに声をかけてくるが真の言うことを聞くとすぐに慧も立ち上がる。
「俺もいくわ。そうだ蒼空ちゃんなんか飲みたいものある? ついでに買ってくるよ」
「ファ○タ買ってきて」
「わかったよー」
そう言うと真と慧は二階席の扉から一階にあるトイレにいく。
トイレを済まし自販機の前で何を買うか悩んでいる真に慧が声をかけてくる。
「これ終わったら真はどうするんだ?」
「どうするって何がだ?」
要領の得ない慧の質問に質問で返す真。
真の中では慧が何が言いたいのか大体わかっていたのだがあえてそうした。
「だからミスコン終わった後どうするのかって」
「蒼空にご飯おごるんだからどこかに食べに行くんじゃないのか?」
「…………だよな」
思っていた通りの質問だったので用意していた答えを返す真。
それにしては慧の返事の歯切れが悪い。気になった真はすぐに慧に聞いてみることに。
「……なんかあるのか?」
「い、いや……なんでもないんだ」
少し慌て気味に話す慧を真は見逃さない。気になるから怪しいと思い始めた真は慧を問い詰めようとしたのだがそれは不意に終わる。
「何してるのこんなところで?」
真の後ろから声がしたので振り向くとそこには七海と梓がステージに上がったときの格好で立っていた。声をかけてきたのは若干梓より前に出ている七海のようだ。
梓の格好はいいとして七海の格好は流石にこの近距離では直視できないようですぐに顔を向きなおし問いかけられたことに答える真。
「ちょ、ちょっと……飲み物を買いに……」
まるで再ほどの七海のような話し方で最後の方は聞き取りづらかった。
七海の格好は今の真には刺激が強かったようである。
七海と梓は真の聞こえなかった部分を再度聞こうとしてきたがそこは慧が話せない真の代わりに答えてくれた。
そして、そのまま自販機の前でミスコンの話になっていく。
先に話の中心になったのは先程終えたばかりの七海のほうからだった。
「どうだったあたしのダンス? うまく踊れていたかな?」
「どうだったの前にちゃんと教えろよな!! 流石に俺らや蒼空ちゃんも驚いていたんだから」
「そりゃー驚いてもらうために秘密にしてたんだよ。簡単に教えたら面白くないでしょ? それに何やろうか結構ギリギリまで悩んでいたんだから仕方ないでしょー」
「七海ちゃんそうだったの!? 前に一回聞いたときに決まっているような感じだったのに違ってたんだ?」
「うん……。あの時は少し見え張ってて言えなかったの……ごめんね梓ちゃん」
「別にいいよー」
「梓ちゃんのほうもすごかったね。蒼空ちゃんは知ってるみたいだったけどあんなことできるとは思わなかったよ!」
「えへへ」
慧に言われて可愛らしい笑顔ではにかむ梓。
その後も先程の話で大いに盛り上がりを見せていく三人。
その話に少し加わりたい真だったがいかんせん七海の格好が全てを邪魔しておりどうしても加わることができない。
少し持て余し気味になってきた真に再度後ろから声をかけられる。
「何してるの真?」
名前を呼ばれ振り向く真。慧達三人も話をやめて声のしたほうに一斉に顔を向ける。
そこにいたのは…………。
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