第23話
学園祭五日目。
外からは鳥のさえずる声が窓越しに微かながら聞こえてきており天気もカーテン越しから差し込む光からお日様はしっかりと昇っているようである。
ベットの上で寝ていた真はあまり清清しい朝とはいえず、目を開け横になった状態で大きな欠伸を一つする。
昨日、結局一度は寝たものの数時間後に起きてしまい昨日の出来事を考えてしまいそのまま外が明るくなってきた頃まで起きていた。その後眠気に襲われ寝たのだが結局のところあまり眠れてはいない。
再度真は大きな欠伸をするとベットから上半身を起こし目を擦り自分の覚醒を促す。
このままベットに入ったままだと再度寝てしまいそうだと思い一念発起ぐらいの気持ちでベットから気持ち這いずる様に出て行く。
立ち上がりまずは時計を見て今の時間を確認し、問題がない時間だったので平野先生にアポイントを取るためメールで連絡をする。
今の時間は朝の七時を少しすぎたところ。流石にすぐには返事はこないと思った真は眠気を覚ますためにシャワーを浴びようと浴室へ準備をしていく。
シャワーを浴びようと服を脱ぎ出していた時扉の向こう側から微かに着信音が鳴っているのを感じたが先に眠気のほうを優先したので無視することにした。
浴室に入りシャワーをすぐに頭から被る。適度に暖められた温水の水流が真の眠気を少しづつ取り払っていくのを実感する。
二十分ぐらいかけてシャワーを浴び終わり、ドライヤーで髪を乾かし、上半身は裸、下半身にバスタオルを巻きつけそのままの格好で部屋のほうへ戻っていく。
部屋に戻るとすぐにスマホを手にとり画面を確認する。
そこにはしっかり着信の音が鳴った証拠が示されていた。しかし表示されていたのはメールの着信では通話の着信であった。
真は首をかしげながらの着信履歴から平野先生に電話をかけることにする。
受話口に耳を当てコールが一回鳴ったと思ったら電話の相手はすぐに出た。
「もしもし」
すぐに出た平野先生は電話の出るときの決まり文句を言ってきた。
真自体は電話の出る速さに苦笑いを覚えたのだが話すことが話すことだけに一瞬にして頭を切り替え真面目な表情になる。
「おはようございます。先ほどは出れなくてすいませんでした」
「ああ。別にそれはかまわないけどメールの内容……あれはなんだ?」
真に電話をかけても繋がらなかったことに謝罪をされたのだが平野先生はあまり気にしていないようで、気になっているのは真が送ったメールの内容のほうらしい。
因みにメールの内容は――
『昨日予想外の事態が起こり相談したいことができましたので今日の午前中に時間取れますか?』 だ。
なのにいきなり電話で来るとはよほどかなりの予想外の事があったと思ったのだろう。
「今すぐ話したいのは山々なんですが慧も交えて話したいのでとりあえず今日の午前中時間はありますか?」
「ん?そうなのか。……そうだな、十一時ぐらいなら空いてるから大丈夫だぞ」
「わかりました。では十一時に慧とそちらに行きます」
「わかった。けど来る前に今のうちに少し内容教ええてもらっていいか? 言われてすぐに考えが纏まるとは限らないからな」
「……わかりました」
言われてすぐに納得した真は平野先生に相談することをかいつまんで話すことに。
平野先生は真の話を時々相槌をうちながら聞いているのだが、話しを聞いていくにつれて声色が電話越しでも険しくなっていくのがわかるようであった。
「……それは予想外の出来事だな」
真の話を聞いた後の平野先生の第一声はこれだった。
声には出さないが真も心の中で平野先生の言葉に同意して頷く。
「とりあえずわかった。じゃあ後で来るの待っているぞ」
「はい」
そう言うと通話を切り、その後すぐに慧に連絡を取る。もちろん電話でだ。
電話帳から慧を探し出しすぐに電話をかける。
コール音が三回鳴ったときに慧が通話口からでる。
「おはようー」
元気一杯で嬉しそうな声で出てすぐに挨拶してくる慧。
なにがそんなに嬉しいのだろうか真にはよくわからないがとりあえず用件だけさっさと済ませてしまおうとさっさと話を始める。
「……おはよう。とりあえず平野先生に連絡付いたぞ」
「おっ、そうか。で、どうだった?」
「今日の十一時に先生のところに行くことになったから。とりあえずどうする?」
言葉足らずの会話だがそこは長年の付き合いだ、お互いにわかっている。
「そうだな……お前の家に行くわ」
「じゃあ待ってるわ」
「それじゃあ後でな」
「ああ。後でな」
「あっ、そうそう――」
用件だけ伝えるとすぐに通話をきる真。慧が何かを言おうとしていたが気にしないことに。
そっけないと思うが下手に慧と長話してると碌なことがない。
しかし、今回ばかりはそれを聞かなかったことに真は後々後悔することになるのだが……。
二人との電話で一時間ほど時間が経っていたようで時計を確認して気がつく。そして、更に今までシャワーを浴び終わった状態でいたことに今更ながら気がついた。
バスタオル一枚腰に巻いた状態では流石に寒かったようで意識するとすぐに大きなくしゃみをする。
体が冷えたのを感じた真はすぐに着替え慧を待つことにする。
着替えを済ませ簡単な朝ごはんを作って何をすることもなくボーっと時間が過ぎていく。
十時ちょっと過ぎ。
家のインターホンがなる。ドワホンを確認するがもちろん来客は慧だ。
オートロックを開けてあげ数分後、慧が部屋に入ってくる。
そして入ってくるなり文句を言ってくる慧。
「お前、途中で電話切るなよ。せっかくいいこと教えてやろうと思ったのに!」
「いい事って……お前が言うといい事じゃなくて碌なことじゃないんだよ!!」
不満な感じを前面に出しながら真に文句を言ってくる慧に、真は呆れたようで怒りながら慧よりも語調を強めに言い返す。
今までの経験上それは間違いではなかった。今までは……。
「そうか……。後でお前が文句言ってきたとしても知らないからな。せっかく今回はマジなのに……」
含みのある言い方、そして厭らしいほどの悪そうな笑み、一瞬それを見て聞こうかどうか迷ったのだが真も少し意地になっており言葉が口から出掛かるのを寸前で押しとどめ聞くのをやめる。
「お前の言葉は信用ならないから。過去の経験から学ばせてもらったし、どうせ大したことないんだろ?」
「……さあな。まあ後で後悔はするなよ。もう頼まれても教えてやらん」
真の言葉と態度に機嫌を悪くしたようでそれ以上は言うつもりもないようだ。
機嫌が悪くなるなんて珍しいなと思いつつも、真は時間も迫っていることだしそのまま出かけることに意識をむける。
「特にこれ以上なければ行くぞ」
「ふっ…………ああ」
鼻で笑ったあと慧は返事をしてそのまま玄関のほうへ向かってしまう。
慧の態度にイラっとしたがこれ以上こんなことで時間を浪費するわけにはいかないと思いとどまり真も慧の後に続いて玄関へ向かい部屋を出ることにした。
外へ出るとすぐに眩しい日差しが出迎えてくれた。
この季節としては予想以上に暑かったのだが先を急ぐためその思いは頭の隅に追いやり平野先生のところへ二人は歩み出す。
平野先生のところまで行く道中、真と慧は先ほどの家でのやり取りが引きずっているのか特に会話もなく大学病院へ行くことになった。
気まずい雰囲気だったが大学に近づくのにつれ少しずつであるが会話をするようになった。
「それで平野先生はなんて言っていたんだ?」
「電話では詳しい話ししてないから着いてから話すけど、とりあえず簡単には事情話しておいたから少しは何かあるのかもしれないけどどうだろうな……。実際のところ眼の事なんてわからない事だらけなんだから特にないかもな」
「それもそうだな」
歩きながら話しをしていてふと真はスマホを取り出し画面を確認する。
「やばいな……」
「どうした?」
「このままだと遅れるかもしれん。少し急ぐぞ」
時間を確認するともうすぐ十一時になろうかという時間になっていたので歩くスピードを速めて急ぐことにした。
急いだ甲斐があり何とか時間五分前に大学病院にたどり着いた。
そのまま慧はエレベーターで、真は階段を使い平野先生が待つ階まで上がっていく。
エレベーターに人の足がかなうはずもなく真が平野先生の部屋があるフロアについたころにはすでに慧は平野先生の部屋の前でベンチに座って待っていた。
「いつもの事とはいえお前もよくやるなー。俺だったら階段とか絶対に無理だわ」
「はぁ、しかたない……はぁ、ことなんだから……はぁ、どうすることもできないだろう」
流石に階段はきついのでそれなりに息も絶え絶えになりながら慧の言葉に言い訳をしておく。
いくら身体を鍛えたとしても八階もの建物を上るのはそれなりにきついものがある。
「まあ、そうだな……とりあえず中に入ろうぜ」
慧は立ち上がると扉をノックして扉を開ける。
真は少し深呼吸して息を整えると慧の後に続いて中に入っていく。
中に入るといつもの椅子に座り平野先生が出迎えてくれた。まあ、出迎えると言うよりはただ座っているだけなのかもしれないが。
「時間通りだな。とりあえず早速で悪いんだが詳しい話を聞かせてもらおうか」
平野先生は入ってきた二人をさっさと座らせ真から詳しい聞こうとする。しかし、真はまだ完全に息が整ってないのを慧は見ていた。
慧は部屋に備えられている飲み物を用意するために一度は座ろうとしたのを止め、準備を始める。
「飲み物の用意するんで少し待ってもらっていいですか?」
「そうだな。少し焦りすぎてるかもしれん……。大山、頼む」
平野先生の言葉に頷くと慧は慣れた手つきで三人分を用意していく。
出来上がった飲み物をそれぞれの前に置いていき、最後に自分の分を手に持ちそのまま真の隣に座る。場所としては平野先生の向かい側に真と慧が座る形だ。
まずは飲み物を飲み一旦落ち着くことに。
それぞれがそれぞれの飲み物を各自飲み終わり再度慧が作り直す。それを二人の前に置き自分の分は手に持ちテーブルに座りなおすと平野先生が口を開いた。
「神代、そろそろ落ち着いたし話してくれるか?」
その言葉をかわきりに真は平野先生に詳しい説明をする。慧も真の横で真剣な表情で話に耳を傾ける。
話すこと数十分。
詳しい説明を話し終わり真は幾分の疲れがあったので目の前にある飲み物を一口飲み気分を落ち着かせる。
話を聞き終わった二人は難しそうな顔、特に平野先生の方が険しい感じが多い顔で悩ましげに唸っていた。
流石にどう検討ををつけていいのかわからない感じだ。
「とりあえず……どう解釈すればいいのか情報が少なすぎてなんとも言えないな。おまえ自身の気持ちの変化とかはないわけだろ?」
「……そうですね」
「そしたらなぜ伊吹には変化がないのかまったくわからんな。元々が前例のないことだから仕方にと言えば仕方ないが」
結局のところ平野先生に相談をしても答えは出ることはなかった。
真としてはある程度の予想はしていたのだが淡い期待があったのも事実。しかし現実はその淡い期待も許してはくれないらしい。
真が平野先生の言葉を聞いて落ち込んでいる。こんなときに碌なことを言わないのが慧であり、今回もその例には漏れなかった。
「じゃあ、やっぱり実際に調べてみるしか方法がないんですよね平野先生?」
「……まあ、……そうだな。………………それはいいとして何でお前はそのことに対して嬉しそうに聞いて来るんだ?」
「えっ!?」
慧は平野先生の言葉を受けすぐに顔に手を当て取る作ろうとするがそんなものはとっくに遅かった。
真は慧の言葉を聞いてすぐに目を見開き驚愕の表情で慧のほうを見たのだが、真も慧の顔が嬉しそうにしているのを見て見る見る驚愕の表情は怒りの表情に変わっていった。
「『えっ!?』 じゃねえんだよ!!」
流石にこのときの真の反応は素早く言葉を聞いて言葉を言うと同時に慧の頭を平手で少々強く引っ叩いた。結構……いやかなりいい音もしている。
それなりに強く叩いたのを実感していた真の横では頭を抱え座りながらも蹲っている慧がいる。
目の前で見ていた平野先生も頭を叩いた音と慧の状態を見て目を丸くしていた。
「いってーなー。少しは加減しろよな!!」
「わかってやってるんならいちいち言わなくていいから」
その後もぎゃあぎゃあと二人で言い合っているところに流石に見るに見かねて平野先生が止めてくれた。止めなければどれだけ続いていたのかわからない。
平野先生は二人の前に新しい飲み物を置き呆れた表情で二人に言ってきた。
「ここじゃなくて違うところでやってくれ。流石に疲れる。わかったか? ………………たく何で俺がこんなことをしなきゃならん」
最後の言葉は声が小さくて聞き取れなかったが平野先生の傲慢な物言いに二人して微妙な表情をするがこれまでの付き合いでどういう人間なのかわかっているので反論はせずに言われたことに素直に頷く。
二人が頷いたのを見て平野先生が先ほどの話に戻してきた。
「それで話は戻すが……大山の言っていることが全てだとは言わないがそれをやらない限り 眼の力一生ついて回ることになるかもしれないんだからな。お前がそのままでいいのなら実験みたいなことはすることもないが、何とかしたいのであればやる以外の方法はないと思え」
ここぞとばかりに医者のような顔つき(まあ実際は本当の医者なんだが)で真を説得しにかかる平野先生。慧と違い顔そのものは真剣だ。
平野先生の言葉に考え込んでしまう真。
真にだってわが身可愛さはある。しかしこのままでしておきたくないというのも真としての本音だ。この二つの間で揺れ動く真は答えを出せずにいた。
「今すぐこの場でどうするか決めろとは言ってないからよく考えて決めろ。普通に考えればお前の事を考えるとやめさせておきたいのは本音なんだが、わからない以上は身体張ってもらうしかないからな……」
「…………」
申し訳なさそうに話してくる平野先生を見て真も更に深く考えてしまい何もいえなくなってしまう。
しばしの沈黙が流れる中、慧が急に声を発した。
「あっ!?」
何かと思い慧の方に顔を向けるとスマホを取り出し画面を確認していた。
それだけでは何かわからなかったので慧に確認する真。
「いきなりどうしたんだ?」
「そろそろ約束の時間だぞ」
約束の時間とは蒼空との待ち合わせの時間である。集まるのは真と慧と蒼空の三人だけで七海と梓はいない。
実は事前の予選情報で七海は予選突破は間違いなかったのだが梓のほうは微妙な感じではあったが何とか予選を突破したのだ。
その為、今日のミスコンに出場するために二人は待ち合わせの場所にはいない。
因みに、蒼空も前回グランプリに輝いている関係上出席するはずだと思われがちだが必要なのは引継ぎ式の時に必要なだけであって大会に審査員とかで出る必要はなかった。
これはミスコンにでる出場者の中に友人がいてその人に意図的に審査を甘くするのを防ぐためだ。唯一許されているのが推薦することであるが、これも引っかかりそうではあるが予選を突破できるだけであって本戦を簡単に勝ち抜けるものではないのでそこは許されているのである。
「もうそんな時間か……」
真もスマホを取り出し画面で時間を確認する。見るとすでに時間は十二時近くまできていた。
約束の時間は十二時半に待ち合わせをしており今いる場所からは歩いて十分ぐらいはかかる。
時間を考えればそろそろ準備をして出たほうがいい。
「ん……なんかあるのか?」
状況をわかっていない平野先生にミスコンの事を説明し理解してもらう。
話しを聞いてそこに蒼空がいることがわかると平野先生はとんでもないことを言い出してきた。
「伊吹がいるんならちょうどいいんじゃないのか。一度眼鏡外して確認だけでもしてみれば。何かあっても大山いるんだし確認だけでもしてみろ」
「はっ?」
「だから蒼空がちょうどいるんだから確認してみろ」
「いきなりは無理ですよ!!」
「そうか……まあできたらでいいから」
「……はあ。わかりました」
重そうな雰囲気で立ち上がると真と慧は一礼をして部屋から出て行く。
部屋を出てすぐに慧に肩に手を置かれると
「とりあえず行くか」
「そうだな」
重たい気持ちのまま真の足取りは重くそのまま病院を後にするのであった。
お読みいただきありがとうございます




