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第22話

 真が目を覚ますと目の前には見知らぬ天井があった。

 どうやらなにかの上で横たわっており大きく息を鼻で吸い込むとフローラルな香りが真の嗅覚を刺激してくる。


 「……目が覚めた?」


 横のほうから当然声をかけられ真は視線を声のしたほうに向けるとそこには蒼空がいた。

 まだ意識がはっきりしていない真は何が起こっているのかわからないでいた。そこで真は蒼空に聞いてみることにする。

 

 「ここは何処?」


 「私の家」


 蒼空の言葉に視線をキョロキョロと動かし確認をする。確認をしたところで次の質問を蒼空に投げかける。


 「なんでこういう状況になってるの?」


 今の真の状況はベットに寝ておりそこに横たわっている。周りを見渡したとき見たことない、といっても記憶が曖昧なのではっきりとはしないのだが頭の中にある記憶の引き出しの中には見たことがないところであった。と言っても今日一日だけの記憶なのだが。


 「皿を片付けようとして私の体勢がくずれたのを助けようとしてくれてそのまま気を失った。その後私の部屋に運んでベットに寝かせたの」


 「……ああ」


 蒼空の話を聞いているうちに次第に記憶がはっきりしてきたようで真は思い出したかのように頷いている。

 意識もはっきりしてきたようなので起き上がろうとするのだが蒼空に止められてしまう。

 

 「まだそのままで。今何か飲み物持ってくるから待ってて」


 蒼空はそう言うと部屋から出て行ってしまう。

 蒼空が出て行ったのを見届けると真はベットから上半身を起こし状況を思い出す。


 あの時はなぜか知らないが体が勝手に反応し、触れもしない女性の体を自ら触りにいってしまった。今までの人生の中で自ら行くことなどまずなかった。

 しかし、今回は違った。

 蒼空が倒れようとした瞬間にはすぐに手を差し伸べたのだがすぐに気を失ってしまう。

 その状況を思い出し苦笑いをしてしまう。


 そんな表情をしているときに蒼空が飲み物を持って部屋に入ってきた。


 「どうしたの?」


 「ん? なにが?」


 その言葉は真の今の表情に対してのものだったのだが真は何を聴かれているのかわかってないようで首をかしげている。

 

 「なんでそんな顔してるの?」


 「ああ。さっきの事思い出していたんだ。助けようとして気を失っちゃったからそれを思い出して情けなくなっちゃってさ……。何をやっているんだろうと思ってて。」


 苦笑いから一転して話しをしていくにつれ落ち込んでいく真。

 蒼空は真の話を聞いて納得したのか優しげな笑みを浮かべた。

 

 「仕方ないことだから、気にしないで」


 優しい言葉をかけられて真は更に落ち込んでしまう。

 蒼空は真の様子を気にするがそれよりも気になっているあるようで気にしつつも真に聞いてくる。


 「真が眼鏡かけてない顔見るのはじめてかも……」


 蒼空の言葉に真は表情を凍りつかせる。

 頭の中が真っ白になりどうしていいかわからなくなる。

 茫然としている真を見て心配したのだろう蒼空が伺うように尋ねてきた。


 「……どうしたの?」


 蒼空の言葉に我に返ると真は蒼空に答えをかえさず急に立ち上がると眼鏡を探し出す。

 急に動いたせいか一瞬ふらつくが踏みとどまりまわりを見渡す。

 

 「眼鏡はどこにある?」


 「向こうの部屋にあると思う。真はそこにいて。持ってくるから」


 会話として成立してないのだが真としては疑問に答えるよりも重要なことなので切羽詰った様子で蒼空に聞く。語調も幾分荒めだ。

 蒼空は真の様子に驚きつつも聞かれたことに答える。そして急いだ感じで部屋から出て行く。


 眼鏡のありかがわかったことで一安心した真はふとあることに気がついた。

 起きてから蒼空と何度も目をあわせているのだがいつものように魅了されていないことに。

 なぜなんだろうと考える間もなく蒼空が眼鏡を持って部屋に入ってくる。


 「ここに置くね」


 蒼空は持ってきた眼鏡をベットの上に置くと距離をとり眼鏡の置いたところから離れる。

 真は蒼空に気遣いに気がつくがまずは先に眼鏡をかけることを優先しベットの上に置かれている眼鏡を取るとすぐに自分にかける。

 

 「迷惑かけてごめんね。どうもありがとう」


 「何が?」


 かけてすぐに蒼空に自分の病気の事で気を使ってもらってありがたかったのでお礼を言ったのだがいまいち蒼空には伝わっていなかったようだ。

 改めて詳しく話しながら言うことにするが真は無意識のうちに苦笑いを浮かべていた。


 とりあえず説明を交えながらお礼を言った真は次なる疑問に頭を切り替える。


 真は先ほどまで眼鏡をかけていなかった。それにもかかわらず蒼空には変化を感じられない、と言うよりいつもどおりの態度にしか感じなかった。

 今までの普通の反応としては――真に眼を向けられ視線があえばまず正気を失ったような目になり、その後すぐに真に対して身体的接触、突き詰めて言えば性的行為に及ぶかのごとく迫ってくるのが常である。

 しかし、蒼空は違った。いつものように真に接している。

 真自身としては覚醒した直後だったので意識がはっきりとしてはおらず、間違いなく蒼空と眼が合ったとは確信はない。

 だが、やり取りの中で眼があわなかったわけがないとも思っている。


 色々と考えるのだが意識が曖昧であった真には答えはでなかった。

 とりあえず真がするべきこと、それは事情をわかっている人間、この場合だと平野先生に相談をするしか方法はないと結論づける。

 

 真がうんうん唸りながら考えている傍では蒼空が不思議そうに真を見ている。

 まあ、なにを考えているかわからないのだからそう見ても仕方がないことだろう。

 

 真は考えるのが終わり意識を周りに向けると真の事を蒼空が不思議そうにじっと見つめていた。

 それを見て真はあまりにも考えに集中しすぎていた思い気恥ずかしくなる。


 「何か考えていたけど、どうかしたの?」


 蒼空にしてみればもっともであろう疑問を投げかけられるのだが、真としては答えることができないことであったのでごまかすことにする。


 「ちょっとね……」


 「そう……」


 真の答えを寂しげな顔で聞く蒼空。それを見て真はなぜか申し訳ない気持ちになってしまうのだがどうすることもできなかった。

 どうしようか考えてる真だったのだが蒼空の次の言葉に驚いてしまう。


 「真が目が覚めたのは良かったけどこの後どうするの?」


 「はっ? なにが?」


 「もう結構いい時間になってるけど……まだ駄目そうならいても大丈夫だよ」


 蒼空の言ってることがいまいち掴めていない真であったが自分のポケットに入っていたスマホを取り出し時間を確認して目を見開いてしまう。

 スマホの指し示していた時間はすでに二十三時近くまで経っており、あと一時間程で日付が変わろうかと言う時間であった。

 それを見て真は大いに慌てた。

 不可抗力……とはいえないがこんな遅い時間までいる予定では無く、ご飯を食べ終わったらすぐに帰ろうと思っていた。それがこんな遅くまで、それも女性の家にいることが真の心を狼狽させる。


 「ごめん。大丈夫だしすぐに帰るね」


 慌てて真は帰り支度を始める。

 忘れ物がないか確認してすぐに帰ろうとするが……。


 「もう帰っちゃうんだ……」


 微かな声、呟きに似た感じで蒼空は言葉を漏らす。その言葉を発したときの顔は今までにないくらい寂しげで落ち込んでいるようである。

 真も普通なら聞こえないぐらいの声量であったがなぜかそのときだけは耳にはっきりと聞こえており、蒼空の顔も見てしまった。


 部屋から帰ろうとした真の足は止まってしまう。

 しかし、今の真にはどうしていいかわからない。


 「本当にごめんね」


 真はそれだけ言うと足早に蒼空の部屋から出て行くのであった。





 マンションの外に出た真は少しの間、蒼空の部屋を外から眺めていたがそのままその場を後にする。

 真は気がついていながらも歩みを止めない。窓から蒼空がこちらを見ていたことに……。


 窓から見えていた蒼空の姿に後ろ髪を引かれつつも真は歩きながら考え出す。

 もちろん考えることは眼の事についでだ。


 しかし、先ほども考えていたのだが自分では答えはすぐに出せない。時間が遅すぎて平野先生には連絡はできない。

 真は今の時間でも問題のない人物、慧に連絡をするべくスマホを取り出し電話をかける。


 電話をかけるがコール音が鳴るばかりで慧は電話に出なかった。

 事情を知っている人間が居ない以上真にはこれ以上どうすることもできないので素直に家路へ向かうことにする。

 

 歩いている間もあーでもなこーでもないと考えを巡らせているうちにいつの間にか家の近くまで来ていた。

 そして、そろそろ家に着こうかというところでスマホから音楽が鳴り出す。この音は電話のほうの着信音だ。


 スマホを取り出し画面を確認すると相手は慧であった。

 すぐに通話ボタンを押す真。


 「もしもし……」


 「さっきは悪いな。ちょっと人と会ってて出れなかったんだわ。それでどうしたんだ?」


 電話の向こうからは慧の機嫌のよさそうな声が聞こえたきた。まずは自分の事の報告をと思っていた真とは慧の様子が気になり聞いてみることにする。


 「何か嬉しそうな感じだけど、何かあったのか?」


 「ちょっとなー。まあ明日にはわかることだから楽しみにしてろよ」


 「すごい気になるんだけど……」


 「まあ明日まで待てって。それより何の用事で電話かけてきたんだ?」


 「……」


 電話をかけておきながらすぐには話せない真。そう思ったのも一瞬で、すぐに頭を切り替え今日あった出来事を話す。


 「実は――」


 とりあえず話をしたところは、不可抗力で気を失ってしまったこと。その後、蒼空と眼があったのだが何も起きなかったことを事細かに慧に説明した。

 流石に眼の話をしたので聞いていた慧も真剣だった。


 「――と言うことなんだけどどう思う?」


 「………………………………」


 慧はすぐに言葉が出てこないようだ。真自身不可思議なことと思っていたのだがいまいち確信は持てなかった。しかし、慧のこの反応で自分の思いは間違って無かったと確信する。

 少しの間無言が続く。時間にしては数分もだ。

 あまりにも長かったので真は慧に声をかけてみることに。


 「おーい。どうなんだ?」


 「はっ!? 考え込んでた……すまん。いまいち信じられなくてな……」


 慧の言葉はもっともであろう。真自身も信じられなかったのだから。

 眼の力を調べるために二人でいろいろなことをしたが、基本的に眼の力に魅了されると間違いなく真に惹かれていく。それは何度も確認したことだし、真自身もそのおかげで大変な目にあってきた。

 しかし、今日その定説は覆されたのだ。考えが纏まらなかったり驚いたりするのは無理もないことであろう。


 「その気持ちは俺もわかる……。とりあえず何でだと思う?」


 「流石になんとも言えないな。今の段階では調べてみるしか方法がないと思うけど……けど、何で蒼空ちゃんは問題ないんだろうな?」


 「それを今考える為にお前に聞いているんだって……」


 「それもそうだな」


 「まあ俺達で考えてもこれ以上はわからないか……。とりあえず明日平野先生のところに行くけどおまえも来るか?」


 「そうだな。行くのはいいけど明日はミスコンあるけどそっちはどうするんだ?」


 慧に言われて真はハッとなる。

 約束の履行を確認するためにも真は元々ミスコンの会場に行く予定だったのだが流石に今日の出来事は頬って置くことはできない。

 

 「明日のミスコンって何時からだっけ?」


 「午後の一時からだな。まあ、午前中に平野先生のところに行けば何とかなるかな。後は平野先生が空いているかどうかだけど明日聞いてみるしかないな」


 「そうだな。俺はそれでかまわないけどお前のほうは大丈夫なのか?」


 「何が?」


 「なんか用事あるみたいなこと言ってなかったか、さっき」


 「ああ……。用事って程のものじゃないから大丈夫だぞ。まあミスコンのときにちょっとあるだけだから」


 ものすごい含みのある言い方なのだが先ほど聞いても答えなかったこと思い出しこれ以上の追求はすることを諦める真。


 「じゃあ、平野先生に連絡取って問題なかったらお前に連絡するわ」


 「OK。連絡待ってるわ。じゃあまた明日な」


 「ああ」

 

 その言葉を最後に通話を切る真。

 

 真はその後部屋でベットに入ると明日の予定を思い描きながら眠りに落ちていくのであった。



 ◆



 通話を終わりスマホをテーブルの上に置き、慧は色々と考えていた。


 真の眼の事、蒼空の様子の事、でも一番は明日のミスコンの事である。

 それはもちろん電話で話していたことに他ならない。

 明日の状況を思い描くだけで慧の顔には厭らしい笑みがこぼれる。


 因みに、慧の仕込みは二つある。

 一つは真にとっては嫌がらせに近いものではあるがこちらは相手側からのたっての要望なのでどうすることもできない。もう一つのほうはこれも相手側からの要望であるがこちらのほうは疑問を持たずにはいられない案件だ。

 唯、その疑問よりどうなるかの楽しみのほうが勝っていたので細かいことは気にしないことにした。

 

 (またこんなことしたら真に怨まれるな……)


 そう思いながら慧はテーブルに置いたスマホを手に取るとメールをとラインを送ることにする。

 

 ラインのほうは相手のほうからすぐに返事が着て、明日の待ち合わせや予定の事を連絡して終了する。

 メールのほうは送った時間が遅かったのかなかなか返事が来ない。

 とりあえずテーブルにスマホを置きなおしベットに横たわる。


 (ちょっと遅かったかなぁ)


 返事を待つ間てもちぶたさになった慧は仕方ないので真から連絡をもらったことを考えることにする。


 状況は詳しく聞いた、そして真が連絡してきたことにも納得した。

 真から聞いた眼の力の解除条件と頭の中で照らし合わせてみたがどうもそれでは無いとわかる。ならなぜなのか? 結局頭の中で堂々巡りを繰り返し答えは出ない。


 なぜここまで真に対して親身になって考えているのか、それは友達だから……いや、違う。面白いからに他ならないと言う理由からだったりする。

 そんな事を考え思い描いていると不意にスマホから着信音が鳴る。

 この音はメールの着信音だ。


 慧は飛び起きるとテーブルからスマホをとり差出人を確認する。

 画面には送った相手からの返信だった。


 慧はその後メールでやり取りをかわし最後にとあるメールを送る。


 ――明日、楽しみに待っていますよ真琴さん。


 それを送ったときの慧の顔は人には見せられないくらい笑顔で歪んでいたのだった。

お読みいただきありがとうございます

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