第20話
学園祭四日目。
朝靄のかかった窓の外を見て真は大きな欠伸をして目を擦り眠気を覚ました。時刻は六時ちょっとすぎ。
今日の真は昨日と同じで特に予定も無かった。
昨日はあの後、ミスコンの話しが終わった後は他の会話に興じただけで今日の予定に関しての話も無く居酒屋を出ると解散した。
家に帰った真は特に何をすることもなくそのまま寝てしまった。その為こんな時間に目を覚ましたと言うわけだ。
未だに完全に眠気が取れなかったのでシャワーを浴びて覚まそうと真は浴室に向かった。
シャワーを浴び終え眠気が完全に覚めた真はスマホを確認するとランプが光っており着信があることを告げていた。
まだ七時にもなっていないのに誰だろうと訝しげながら確認をすると、そこに表示されていたのはメールの着信で、発信者は蒼空であった。
なぜ真が蒼空の連絡先を知っているのかと言うと……
◆
それは昨日の帰り際の事。
五人全員が程よく酔っ払っており店を出てすぐの事。
急に七海が言い出した。
「そういえばさぁ。私達って真の連絡先知らないんだけど……。教えてくれない?」
七海だけは程よくではなくかなり酔っ払っていた。元々お酒に弱いと言うのもあるが実力で予選を突破できそうということもあり嬉しくてかなりお酒が進んでいたのである。
「そういえばそうだね~」
「知りたいかも」
七海よりわりかしまともな梓が笑いながら同意している。蒼空もそれに続く。
真はどうしようか迷っているようで躊躇っているようだったのだが慧から更に説得が入る。
「別に連絡先ぐらいいいんじゃないのか? あって困るものじゃないし、もうそんな間柄でもないだろう?」
「そうだよねー」
慧の言葉に頷きながら真に近づこうとしてくる七海だったがすぐに梓に体を抱きかかえられ止められていた。
真のほうも一瞬近づいてきそうな七海に警戒しつつも最終的に慧に言われしぶしぶ連絡先を教えることになった。
◆
そんなやり取りがあり蒼空が真の連絡先を知っているのだ。
真がスマホにきたメールに目を通すとそこには蒼空からお誘いのメールであった。
お誘いとはもちろん学園祭のお誘いだ。
それを見た真はどうしようか悩んでしまう。
今日の予定はなく、することもない。出かけることに何も問題はない。問題なのは蒼空から誘われていることに問題があるのだ。
そんな事を思っていた真はふと自分の内側に目を向けてみると、そこには蒼空からメールが来たことに対する嬉しさのようなものがあることに気がついた。
はっきりとは真自身もわかってはいない。嬉しさのようなものと感じたのはそれに似た感じだっただけで確定してるものではない。
真は自分の中にある感情を確かめるべく蒼空に今日のお誘いに対する返事を返信するのだった。
蒼空と待ち合わせの時間はお昼ちょっと前の予定で場所は大学入口のところ。
真はその時間に合わせて十分前ぐらいには付くように行動していた。
待ち合わせの場所に行く途中、真はふと足を止めとある方向に視線を向ける。
真の視線の先にはファーストフードの店があった。朝ごはんを食べていない真は少しお腹に何か入れようかと店に向かおうとしたのだが、道路に向いている窓際の席に見たことのある人物を見つけて歩みを止める。
そこには慧ともう一人女性が一緒に食事をしていたのだが、真が気になっているのは慧のほうではなく女性のほうだ。
その女性はこの学園祭期間中によく見かける金髪の女性だった。
なぜ慧と女性が一緒にいるのか疑問に思いながらも興味をそそるものだったので外から少し眺めていることにする真。
見た感じでは恋人同士のような感じではなく普通に話をしているように見え、その状況に変化は無かった。
真が見ていることは慧は気がついてなさそうなのだが、女性のほうは気が付いているようで不自然にならない程度で真のほうに視線を送っていた。
五分ぐらい眺めていたのだが蒼空との約束の時間に遅れると感じた真は慧に後で確認することを思いながらもその場所を後にする。
先ほどの五分が大きかったようで待ち合わせ場所についたのはピッタリくらいの時間であった。
すでに蒼空は来ているようで何処にいるのかもわかりやすかった。早い話が学園祭に来客している視線が集まっている方向に向かえばいいのだ。
案の定そこには蒼空が待っていた。
近づいていくと蒼空も真の姿に気がついたようで多少なりの笑顔でこちらを向いてきた。
そして蒼空が顔を向けた先にいる真にも視線が集まる。それを感じ取った真は苦笑いをするしかなかった。
「待たせちゃってごめんね」
蒼空に近づいた真はすぐに謝罪の言葉の述べるが蒼空は首を横に振り
「時間はちょうどなんだから問題ない」
「けど……」
「大丈夫」
そう言うと蒼空は真に背を向けると大学敷地内に向けて歩き出した。
まだ言うことはあったのだが真は遅れて蒼空の後について行く。
そのまま蒼空の後についていくだけなので蒼空が何処に向かっているのか全くわからない真であったが進むに連れてなんとなく向かっている先の予想が付いた。
着いてみると予想通りというかなんというか……。そこは慧がいる店だった。
しかし、真には今現在慧がいない事はわかっていたのだが蒼空は知っているのかなと思い表情を伺ってみると、あまり気にしてないようでそのまま店の入口まで歩いていく。
「ご飯ここで食べよう」
蒼空はその言葉を真に言うと店の中に入っていく。
中に入ると真と蒼空の事は知れ渡っているのか店員が全員こちらに注目していた。蒼空はそのままテーブルに向かうと座ってしまったので真もそのままテーブルにつく。周りを見渡すとなかには真も見知った顔、と言っても慧を介してなのでそれほど仲がいいとはいえないのだが、その中の一人の男性が注文取りに来るがてら真に話しかけてきた。
「慧はまだ来てないけどいいのかい神代君?」
真はここに慧がいないのは知っていたのだがわざと知らない振りをして聞いてみることにする。
「慧いないんだ……。どこにいるのか知っています?」
「さあ……。慧は十五時過ぎからの出番だからそれまでは出てこないはずだよ。まあ、あいつの事だからどこかで女の子と一緒にいるんじゃないかな」
真は注文をとりにきた男性の話を聞いて困ったようで苦笑いを浮かべるような表情をしてしまう。
慧の行動はここまでわかりやすいものなのだったのかと言う思いと、事前に状況を知っている分返事に困ったたという事が重なり言葉がすぐに出てこなかった。
「慧がいなくても問題ない。ご飯食べに来ただけだから」
真がどう言おうか考えているところに反対の席に座っていた蒼空からバッサリ用件だけ言われた。
何しにここまできたかわからなかったがその一言でホッと心の中で安心する真。
しかし、すぐに真は思ったことに疑問を覚えてしまう。何に対してホッとしているのかがわからなかった。
考えているのは一瞬、黙りこんで考えている真の打ち破ったのは注文をとりにきた男性の言葉だった。
「そうなんだ。じゃあ伊吹さんは何を頼むの?」
蒼空の言葉をうけ注文を聞こうとする男性の顔は驚くほど崩れており真が見てても引くくらい気持ち悪かった。
先ほどの考えは男性の顔の気持ち悪さにより霧散してしまう。
意識をそちらにむけて真も何を頼むか考えるためメニューを手にとりどれにするか選ぶことに。
蒼空は座ってすぐにメニューを見ていたこともあり注文は決まっているようだった。
真もすぐに決めるべくメニューに目を通すが何を選んでいいかわからず目をさらっと通して見たら一つ気になるメニューに目が留まった。
そのメニューの名前は『カルツォーネ』。よく慧が真の家でよく作っていたものだったので覚えていた。
気になった真は注文を聞きに来た男性に聞いてみることに。
「このカルツォーネってもしかして慧が提案したもの?」
「よくわかったなー。そうそう慧が何を出すか決めるときに提案して決まった料理だよ。というかこの店の半分ぐらいは慧の提案で決まったものだぞ」
「慧らしいな……。とりあえず俺はこれにするかな」
「了解。じゃあカルツォーネとイカとマトとチーズのパスタを一つずつだな」
「ああ」
注文をとると男性は厨房のほうへ伝えるため蒼空のほうを一瞬見ると寂しそうな後姿で去っていった。
その後姿をみて笑いそうなるのをこらえてる真に蒼空が話しかけてきた。
「よくカルツォーネの事わかったね?」
「よく慧が家に来たときによく作ってくれたからね。それで知ってたんだよ」
「そうなんだ。慧はよく真の家にいくの?」
真は蒼空の言葉に違和感を覚えた。
いつもであれば一つの質問に対して納得して終わるところが今回はその後にまた質問をしてきたからである。
そんな事を感じつつも蒼空の新たな質問に答える真。
「蒼空達と知り合う前は結構頻繁に来ていたかな。最近はそんなに来てないけどね」
「そっか」
蒼空はそれ以上聞いてこなかったが逆に真が気になったことがあったので聞いてみることにした。
「なんで蒼空はそんなこと聞くの?」
真は気がついてなかったが声色は少し苛立っている感じだった。
蒼空は真の声色に気がついたのか不思議そうな顔をしていたがすぐに真の聞いたことに答える。
「気になっただけだけど。なんで?」
「…………」
蒼空は真の表情の変化と聞いてきたことに対する疑問を逆に聞いてきた。
しかし、真はすぐには答えられなかった。
真自身気になったのは間違いないのだが何でと聞かれると聞いたこと対する根っこの部分が何なのかわからない。まるでその思考は靄がかかっているように真には窺い知れないものだった。
「ねえ、なんで?」
蒼空は珍しくというか初めてしつこく聞いてきた。いつもの蒼空じゃないようだ。
真もそれには驚いたが自分の中の問題のほうに思考の針を傾ける。
だが、いくら考えようとも答えは見つからない。
長い時間、実際の時間としてはそんなに長くなく数秒だが、真は蒼空に素直に今の自分の状況を教えることにした。
「実のところ俺にも何で聞いたかよくわかってない。ただ気になったのは確かだから聞いたんだよ……」
「そう……なんだ」
真の言葉を聞いて言葉につまるものの微笑をたたえて真を見つめる蒼空。
蒼空のその表情を見た瞬間真を胸はズキリと痛みが走る。胸を押さえ自分に起こったことに驚きを覚える真。
急に胸を押さえた真を見て怪訝な顔で蒼空は聞いてくる。
「どうしたの? 大丈夫?」
「いや……なんでもないよ」
覗き込むように聞いてくる蒼空に少し距離を開ける真。
その行動を見た蒼空は一瞬悲しそうな表情になるがそれはすぐになくなってしまう。
店員が注文した料理を持ってきたからだ。
「イカとマトとチーズのパスタどうぞー」
持ってきたのは注文を受けに来た男性ではなく女性の店員。
意外と距離が真に近かったのでさりげなく真は距離をあける。
女性の店員は真の様子など気にも留めずに蒼空に話しかけてきた。
「伊吹先輩ですよね? もし良かったら私と握手してください」
「わかった」
女性店員のわがままにも快く応えてる蒼空。
そんな事をしている後ろから先ほどの男性の店員が真のほうの料理を持ってきた。
そして、女性店員が蒼空と握手しているのをみて羨ましそうな視線で女性店員を見るのであった。
運ばれてきた料理を食べたのはすぐではなかった。
その後、他の女性店員が蒼空と写真を撮ったり握手したりとしていたので食べれたのは五分ほどたってからだった。
真はその時改めて蒼空は有名な人なんだと再認識する。そして、蒼空の事を遠くに感じる感覚にとらわれるのだった。
真がそんな気持ちを抱いてるとは知らない蒼空は落ち着いたので真に食べようと促してくる。
相槌をうつが真のそれは若干よそよそしかった。まあ実際のところ真は無意識だったのだが。
それに気がついた蒼空は食べようとしていた手を止め真を見つめてくる。
「なんか真が変。どうしたの?」
「えっ!? なにが?」
真はすでに食べ始めており蒼空の言葉に本当にわかっていないようでキョトンとした表情のままそのまま食べ続けている。
「なんでもない……」
真の表情をみて理解したのか蒼空は止めていた手を動かして料理を食べることにした。
首をかしげ蒼空を見るがよくわからない真は料理を食べることに集中する。
真が先に料理を食べ終わり追加で飲み物を注文する。もちろん蒼空の分もだ。
飲み物が来ると同時ぐらい蒼空も食べ終わりとりあえずゆっくりとした時間が流れる。
その後、これからどうするかを話し合い行っていない所を見て周る事になった。
店を後にすると行っていないエリアへと足を向ける真と蒼空。
向かった先はサークル棟でそこでは様々なサークルがそれぞれの特色を生かしたものをやっており、中には変わったものもあったが二人はさらっと見て周る事に留まりじっくり見ることはなかった。
その後も色々回ったがいかんせん真の病気の事もあり行く場所が限定されてしまうこともあり最終的に行きついた先がカフェテリアだったりする。
いつも二人が飲んでいる飲み物を注文し、いつものように席に座る。
席に座るなり真は蒼空に謝っていた。
「なんか俺のせいでごめんね」
「なにが?」
「俺の病気のせいで行くところ限られちゃうからなんか申し訳なくて……」
「気にしてないから大丈夫。それに意外と楽しんでる」
「そう……なんだ」
意外な言葉がでてきて真は言葉をつまらせてしまう。
一緒にいたがそこまで楽しんでいる表情、楽しむ要素があった様には思えなかったが本人が言っているのだから間違いはないだろう。
言葉を聞いてすぐには驚いたが蒼空は嘘をつくようなことはしないことを短い付き合いながらも感じ取っていた真は納得することにした。
「真はどうだったの? 楽しかった?」
「うーん……。そうだね俺も楽しかったよ。けど……」
「けど?」
「今日は色々と考えたりすることがあって目まぐるしかったかも……」
「そう?」
「そうだね。うん」
「そうなんだ……」
真は苦笑いを浮かべながらも思い出しながら言っていたのであろう時折難しい顔をしながらである。
蒼空は真のそれを見て嬉しげでありながらも悲しそうだった。
空を見ると結構いい時間であることがわかるように夕焼けで赤く染まっていた。
真はこの後どうするか蒼空に尋ねると
「まだ行きたいばし……、来て欲しい場所があるんだけどいい?」
行きたい場所といいかけ首を振り言い直す蒼空。
前にも行きたい場所があると言って連れて行かれたこともあり真は二つ返事で頷いた。
「で? どこにいきたいの?」
「付いて来て」
蒼空はそう言うと立ち上がりどこかへ向けて歩み始める。
真は蒼空が答えてくれなかったのでついていくしかなかったのであった。
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