第19話
あの後、特に会話も無くなりそのまま蒼空を家まで送ると真は走って大学に戻った。
若干、いやかなり怒った表情で。走る歩幅は大きく傍から見ても全力なのは一目瞭然だ。
蒼空の家から大学まではそれなりの距離があり普通に歩いていけば二十分はかかろうかと言う距離を真は五、六分で走りぬけた。
真の目指す場所は決まっている。慧がいるところだ。
息を激しく乱しながらも大学の敷地、慧のいるところまできた真。
ちょうど片づけをしているようで学生がせわしく動いている。
今は声がかけ辛いと思い乱れている息を整える為にも待つことにする。
待つこと十分少々片づけがある程度終わったようで、真のほうも色々と整ったので目的の人物を見つけると近づいていった。
慧も真に気がついたのか声をかけてきた。
「よう、真。今日もかなり噂になっていた……ぞ。ってそんな顔してどうしたんだ?」
どう考えても普通じゃない真の顔を見て一歩二歩ほど後ずさりしながら慧は声をかけてくる。
真は下がった分以上に慧に近づくと周りには聞こえない、慧だけに聞こえる声で呟いた。
「この後時間はあるか? あるなら俺の家まで来てもらおうか」
どう考えても断わりづらい雰囲気であった。慧にはこの後、多少の用事は会ったのだがすぐにと言えるものではなかったのが怨まれるところだっただろう。
真の言葉に首を縦に二、三度大きく振ると肩を落とし着替えるためにスタッフ様の場所へ歩いていった。
少しして慧は着替えて戻ってきた。
「慧、おつかれ」「大山さん、お疲れ様です」「おつかれー」「慧、また明日なー」「お疲れ様でーす」「明日も頼むぞ」
帰り際、慧は他のスタッフからそれぞれ声をかけられるが慧の返事はとても暗いものだった。まるでこれからの運命をわかっているかの如く……。
真は慧をつれ家に向けて歩いている。
いつもなら話が弾みながら行ったりするのだが今日は会話がなかった。もちろん慧のほうから話しかけることもない。と言うか話しかけられる雰囲気ではなかった。
そのまま無言で歩き続け真に家に到着する。
部屋に入るなりすぐに慧はびくびくしながらも真に声をかけてきた。
「そ、それで何の用事なんだ……?」
真は聞いてきた慧を見て一瞬人生が終わってしまったような目をしていたので温情をかけてやろうかと思ったがすぐに考え直し本題を切り出す。
「ミスコンの事で聞きたいことがあるんだが……」
真の言葉に顔つきが動揺を携えたものになる慧。
それを見て蒼空から聞いたことが間違いないことを確信する真。
実のところその顔を見るまでは蒼空から聞いたとは言え真自身半信半疑だった。と言うか慧を信じたかった。
真は改めて慧がふざけると信じられないと認識することにした。
「ミスコンの何がき、聞きたいんだ?」
ここまで言ってとぼける慧に苛立ちを覚えながらもはっきりと聞くことにする。
「お前、俺に隠してることあるだろう? 蒼空から今日聞いたんだが」
真から決定的な言葉が出て完全にひきつった顔をする慧。
どう見ても犯罪が見破れた容疑者の顔だ。
「詳しく聞かせてもらおうか、慧……」
真のその言葉を最後にがっくりうなだられ話始める。
慧の語ったことはものの見事に蒼空と重なっており疑いようが無かった。
話の内容としては、クルールで真が約束したことについての事だ。当初の約束では七海と梓どちらかがミスコンに出場して予選投票を通過すれば真がクレールに出場すると言う約束だったのだが、蒼空から聞いた話しでは抜け道があったのだ。それは前回優勝者による推薦がもしくは予選参加者から選ぶことにより無条件で予選を突破できると言うものであった。蒼空がその権利を行使して七海か梓を推薦すれば約束を達成したことになるわけなのだが、権利を持っている本人のタレこみにより慧の企みは露と消えることに。
詳しく話を聞いて七海と梓も知っていることを確認した真は約束の変更を慧に伝えた。
その条件とはミスか準ミスに選ばれること、それ以外は許さないことを強い口調でしっかり慧に伝える真であった。
その後、真の家では慧のお詫びの接待が始まり優雅な食事を堪能した真であった。
学園祭三日目。
今日は特に約束とかも無かったので普段どおり九時に起きてどうしようか真は考えていた。
ここ二日間は蒼空と過ごしてばかりで自分の時間を作れなかったので久しぶりに趣味の事をやりたいと思い立った真はとある人物に連絡をする。
もちろん連絡先の相手は荻野である。
連絡をとり問題ないことを確認した真は着替えるとすぐに荻野が住んでいる大学の寮へ向かう。
通いなれた道を歩き荻野のいる寮まで到着するとそのまま部屋へ直行する。
「お邪魔しまーす」
勝手知ったる何とやらで、わかりきっている真は部屋に入るなり遠慮なくどかどかと部屋に入っていく。
部屋に入ると見慣れた光景、PCやそれに関連する機器が所狭しと部屋を占領している。
それ以外にもフィギアやポスターなども壁や棚にあり荻野と言う男の全てをあらわしている。
その部屋のあるPCの一つの前に荻野は座っていた。
「久しぶりじゃのう、真」
この爺くさい喋り方をしているのが荻野であった。
荻野と言う男は大学内ではかなり有名な男で、噂的な話で言えば蒼空より有名だったりする。もちろんいい意味ではない。
話し方も作ったものではなく地なのだから余計に性質が悪い。
今でこそ真は慣れたものなのだが出合った当初は真自身扱いにはかなり困っていた。
なぜこんな男が真と知り合い友人になったにもちゃんと訳がある。
荻野の学部はメディア学部を専攻しており真にはない知識や技術を持っているところに真は憧れを持った。知り合う前から色々と噂は聞いていたのだがまずは会ってから決めようと真は思っており、いざ会ってみると噂ほどではないことがわかり今に至るのである。
「本当に久しぶりだなぁ……」
真は荻野の言葉に遠い目をしてしみじみと言葉をかみ締めていた。
眼の件があり碌に荻野に会えてなかったのは事実なのでそうなるのは仕方がないことであろう。
「今日はどうするんじゃ? 前の動画の続きをやるのか? それとも新しいのをやるかの?」
「そうだな……。とりあえず続き終わらせてから次のやろうぜ」
「わかったのじゃ」
真の言葉に頷きながら返事をすると準備を始める荻野。
付き合いが始まってから一年以上になるが未だに何をやっているのかあまりわかっていない真ではあるが荻野に任せておけば問題ないので何も言わず真は待つ。
準備が整い荻野と真はゲーム実況の動画の録画に熱中していくのであった。
何時間やっていたのだろう。
録画作業も終盤に指しかかろうかというときに突然真の携帯がなった。
携帯の着信音で現実に戻った真はふと部屋にある窓を見るとすっかり日は落ちており暗くなっていた。
おもむろに携帯を取り出し画面を見ると慧からの電話だった。
ボタンを押し電話に出る。
「もしもし――」
慧からの電話の中身としては昨日の事を全員で話をしないかと言う内容だった。
真としても望んでいたことなので依存は無かったのだが集まるのがこれからすぐにというところに難色を示していた。
いい感じで録画をしていたのに中途半端になることを真は嫌がっているのだ。
真の電話の内容を断片的に聞いていた荻野は、
「行くのなら行ってもいいぞい。別にこっちのは急ぐものでもないしのう」
荻野の言葉を聞いて真は目線で礼を送ると慧に了承の胸を伝えて通話を切った。
「なんかもう少しで終わりそうなのにすまんな。けど本当にいいのか?」
「さっきも言ったのじゃが急ぐものでもないし後でもいくらでもできるじゃろ?」
「そうだな」
そういうと真は帰る準備を始める。荻野はその間もPCに向かい編集作業をしていた。
「じゃあ、また今度な」
準備が整い慧の指定した場所に向かう真は荻野の部屋から出て行くのだった。
荻野の部屋を出た真は目的の場所までのんびりと歩いていくことにした。
なんせ待ち合わせの場所は慧が働いている場所、学園内の敷地にある寮からはそんなに離れていないからである。
場所へ向かう途中、真は昨日みた女性とすれ違うことに。
綺麗だなぁと思いつつもそんな態度などおくびも出さずすれ違うはずだったのだが、すれ違った一瞬目に多少の刺激があり痛みが走る。
手で目を抑え痛みに耐えると真はすぐにすれちがった女性のほうに顔を向けるとすでにその女性は向いたほうにはいなかった。
多少の訝しさを覚えるがあまり深く考えることはなくそのまま向き直ると約束の場所へ歩いていく。
真を捉えてはなさない視線には全く気がつかずに……。
荻野の寮から歩いて十分ぐらいで場所に着いた。
そこにはすでに蒼空、七海、梓ががおり三人は固まって何かを話しているようだ。
真は三人を視界に捕らえるとそこに近づいていく。
近づいてくる真にすぐに三人は気がついたようで声をかけてくる。しかしその言葉は歓迎するものでなかった……。七海と梓は。
「なんで知っちゃったのかなぁ」
「せっかく見れると思ったのに……」
七海は非難を浴びせ、梓は悲しげに真に訴えてくる。蒼空はよくみれば申し訳なさそうな表情だ。
真は七海と梓の言葉にふと疑問に思う。普通に考えれば真に教えた蒼空が攻められるのが普通なんだが七海と梓にその様子がないし、知っててとぼけているって言う感じでもない。状況がいまいちつかめない真は二人に聞いてみることにした。
「二人共俺が知ったのもう知ってるんだ?」
直接聞かないで遠まわしに聞いてみることにする真。本当に知らないのなら蒼空に悪いことをしてしまうと考えそういう言い方での質問をした。
「慧が教えてくれたんだよ。なんか俺が口を滑らせて真に教えたって連絡きたんだよね」
「私のところにも来たよ」
二人の答えになんとなく真は納得してしまう。慧はそういう奴なのだ。
話してしまったのは蒼空なのだがそのまま二人に言ってしまうと蒼空の立場や二人が蒼空に対する態度が変わってしまう危惧しての事なのだろうと真は想像ながらも納得した。
付き合いが長いとお互いの事がよくわかるとはこの事ではないだろうか。
四人でそんな事を話していると慧がようやく現れた。
もちろん二人からは非難の的である。
「ちょっと慧! 何で教えちゃうのさ!! 内緒にしておけば見れたのにー」
「そうだよー、慧君口軽すぎー」
結構な声量で慧に向けて話しているので周りにいる人達は何事かとこちらに視線を向けてくる。
流石に慧も周りの様子に気がついたのだろう二人を宥めている。
蒼空はそのやり取りを見て何かを言いたそうにしているが慧に目で止められてしまう。
それを見て蒼空は真のほうに顔を向けるが真も慧の考えに同意して首を横に振り蒼空に言わなくていい旨を伝える。
慧にワーワー言っていた二人も多少落ち着いてきたのでとりあえず慧は場所を移動しようと全員に促してくる。
慧の言葉に四人は移動することする。
とりあえず五人は大学から出て行き向かった先は初めて五人で会った居酒屋に移動した。
慧いわく元々その予定だったらしくきっちりと予約がされていたのだった。
居酒屋に入ると予約していたのは個室でそれぞれ順に部屋の中に入っていく。
「ごめん。二人共」
全員が座るなり慧は開口一番七海と梓に謝った。
慧のその言葉に真、七海、梓の三人は驚きの表情で慧を見たのだが、蒼空だけはどうしていいかわからないそんな感じだ。
この行動が功を奏したのか七海と梓は文句を言わず謝罪を受け入れたようだ。
七海と梓の様子を見てホッと胸をなでおろすような顔をした後、真と蒼空のほうに顔を向ける。その顔は満面の笑みである。
その後料理と飲み物の注文をしてまったりとした時間が過ぎ、ある程度落ち着いたところで慧が話をきりだしてきた。
「昨日、真と話したんだけど約束の条件変更することになったから。流石に真に知られてそのままって言うわけにはいかないから……」
「まあ、しょうがない……かな」
「そうだね……」
「うん」
七海、梓、蒼空はそれぞれある程度仕方ないと割り切りをつけているようで慧の話にもすぐに納得している。
真の方は三人の様子を心配そうに見ていたが特に文句もなさそうなので一安心していた。
「それでどんな感じになったの?」
三人を代表してなのか七海がどのようになったのか聞いてきた。
慧は三人に真と昨日話したことをしっかりと伝える。
本戦出場ではなくミスか準ミスに選ばれることを伝えたときに七海と梓は多少の文句を言ったのだが真がそれとなく不満を漏らしたところ、最終的にその案で纏まった。
どう見ても仕方ないといった感じは否めなかったが仕方ないところであろう。
その後、七海と梓の話はどちらが蒼空に推薦してもらうかの話になっていて、二人は今現在の予選の状況をスマホで確認していた。
真と慧と蒼空は三人でお酒を飲みながら他愛のない話をしていたのだが、
「慧、ありがとう」
真と慧にしか聞こえないような小さな声で急に感謝の言葉を言ってきた蒼空。話の流れとしてはかなり違和感のあるところであったがそれが蒼空なのだろう。
慧もそれを聞いてかなり照れているようで、真はそれを見て言いようのない気持ちが胸の中にあったのだが悟られぬようそっと蓋をして押し込めた。
長年の付き合いであった慧にも気がつかれてはいないようで真は心の中で安堵の溜息を吐く。
真、慧、蒼空でそんな話をしていたのもつかの間、七海と梓の話し合いが終わったようで蒼空に二人が話しかけてきた。
「推薦をもらうのは私のほうね。蒼空よろしくね」
そう蒼空に言ってきたのは梓だ。
「何でそうなったんだ?」
なぜそうなったのか疑問をもった真だったが慧も気になっていたようで先に聞いてくれた。
慧の質問の答えは先ほどまで七海と梓が見ていたスマホに答えがあり、それを慧に画面を向けて差し出してきた。見ていたのは七海のスマホで差し出すときものすごく嬉しそうな顔つきだった。
「なるほどね……。まあ、普通に考えればそうなるだろうね」
スマホを受け取った慧は画面に映っているものを見て納得していた。
真が何が映っているのか気になったたところ慧からスマホを渡される。
そして、映っているものを見てすぐに真も納得した。
そこに映っていたのはミスコン予選の投票の途中経過であった。
表示されているのは上位十人の顔だけで投票数や順位などは書かれていない。これは最終予選に先入観も持たせない措置で、順位や投票数などがわかってしまうと必然的に数字どおりに見てしまう可能性を考慮しての事だ。
学校からの主催でやっていることもありかなり細かくやっておりそれを管理する委員会もあるくらいで、正式名称『双葉大学ミスコンテスト管理委員会』――通称ミス管が行っている。
このミス管は大学の学生、先生から構成されており誰が選ばれたのかは当日まで秘密とされておりそれを見てもミスコンには大学にとって重要なものであると言うのがわかるであろう。
渡されたスマホには途中経過ながらも十人の顔が乗っておりその中に七海が入っていた。梓は入っていなかったので蒼空に推薦してもらうのは梓で間違いはないだろう。
「そうだな……」
真は慧の言葉に同意しながらも返事は上の空だった。
慧は真の様子にすぐ気がついたようでどうしたのかと聞いてきた。
「どうしたんだ真? なんか変なのでも映っていたか?」
「いや……なんでもない」
どう見てもなんでもなくはないのだが真がそれ以上は語らないとわかり慧はそのまま流すことにした。
当の真は映っているある一点を見ていた。それは十人の中にいる一人の人物だった。
その人物とは昨日見かけた女性であった。昨日はそのまま碌に気にもしないで行ってしまったのだが、写真ではあるが再度見ると真の中に引っ掛かりが大きくなるのを感じられるようだった。
「そろそろ返してもらっていい?」
考えに集中していた真は七海の言葉に慌てて慧経由でスマホを七海に返す。
すぐに真は考えるのをやめそのまま今の時間を楽しむことにしたのだが真は、いや、ここにいる五人は知る由も無かった。その女性が今後深く関わっていく未来など……。
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