第18話
学園祭二日目
一日目と同じく蒼空と待ち合わせをしている真。時間も昨日と同じ時間。
ただし、同じ場所ではなく違う場所で。
その場所は待ち合わせ場所としてはあまりにもおかしい場所ではあったのだが真自身あまり気にならなかったのでそこにしたのだ。
待ち合わせの場所は大学病院の中、それも平野先生がいる部屋の前であった。
なぜ、こんな場所になったのかというと蒼空が平野先生に用事があったからだったりする。
真はまだ用事が終わっていない蒼空を待つため平野先生の部屋の前のベンチに腰掛けて待っていた。
何の用事かは知らないので待つしかなかった。
待つこと数分。
部屋の扉が開き蒼空が平野先生を伴って出てきた。
「またせたな」
「大丈夫ですよ」
声をかけてきた平野先生に問題ないことを伝えると真はベンチから立ち上がり蒼空を伴って出かけようとするが蒼空から声をかけられる。
「ちょっと準備があるからもう少し待ってて」
蒼空はそう言うとどこかかへ行ってしまう。
真はどうしていいのかわからず茫然と立ち尽くすだけだったが、真の横に来た平野先生に声をかけられ我を取り戻す。
「とりあえず待ってやれ」
真にとってはとても不安になるような笑顔を浮かべて話しかけてくる平野先生。
背中に寒気を感じながらも待つしか選択肢がなさそうなので待つことにする真。
少し時間がかかるということを平野先生から聞き、部屋の中で待つよう言われたので部屋の中に入り蒼空を待つことにした。
待っている間、事情を知っている平野先生に聞いてみたのだがのらりくらりとかわされてしまい結局聞くことは叶わなかった。
事情も聞けず真は蒼空が来るのを待つしできない。
待っている間なぜか知らないがカウンセリングがはじまってしまい、いい時間つぶしになったかどうかはなんともいえないところだったが時間がつぶれたのは確かだ。
カウンセリングを受けるのは別にかまわなかったのだが途中からなぜか今日のこれからの予定など事細かな話を聞かれてしまい真は困ってしまうのだった。
三十分ぐらい経っただろうか。
カウンセリングも終わりやることが無かった真は平野先生と他愛のない会話をしていたところ扉が開き蒼空が入ってきた。
真ははいってきた蒼空の姿を見て言葉を失ってしまう。
蒼空の格好が今日見たときの格好と変わっていたのだ。
はじめてみたときはジーンズにロングカーディガンの組み合わせで一見すると地味な感じにも見えなくなかった服装が、キャミソールワンピとストールをつけてお洒落な格好に変わっている。
色も暗めな感じの色から少し明るめでシックな色合いのものに変化していた。
どうしていいか、どう言葉をかければいいか真にはどうすることもできない。
平野先生のほうに助けを求めようと顔を向けるがどう見ても面白がっている顔にしか見えなかったので助けを求めるのは却下した。と言うか助けを求めると余計にめんどくさくなりそうだと真は感じ取った。
しかし、この部屋にいるのは真、蒼空、平野先生の三人しかおらず、必然的に自分で乗りきるしかない。
真は恐る恐る蒼空に何でこうなったか聞いてみることにした。
「あ、あの……なんで着替えてきたの……?」
「それよりも行こう」
真の質問など気にもしないですぐに出かけようと促してくる。
「あ、あの……」
「行こう」
もう一度聞こうとするのだが蒼空はすぐに行こうと急かしてくる。
真は聞くのは諦め、まあどちらかと言うとホッとしているのだがそのまま行くことにする。
後ろで平野先生が笑っているのが見えたが無視することにした。
二人はそのまま平野先生の部屋を後にして、病院を出る。
病院を出るとそのまま二人は学園祭の会場まで歩いていく。
やはりと言うか予想通り蒼空の姿は注目を集めていた。もちろん昨日よりも注目を集めているのは言うまでもない。
昨日より痛い視線を真は浴びることなったのだが、昨日があったので幾分は慣れたつもりだったのだが予想を裏切る視線の数だった。
もちろん真には男性の嫉妬の視線、蒼空には羨望の視線が送られてくる。
真は気になっているのだが蒼空はお構い無しに歩いていく。
「蒼空さんはこの視線のなか平然と歩いていくね?」
普通に歩いている蒼空を見て気になったので聞いてみる真。
「もう慣れたから」
「そんなんだ……」
悲しい答えに真はそれぐらいしか言えなかった。
そしてそれ以上は聞けず無言のまま二人は歩いていく。
少し歩いたところ、そこそこ人が集まっている場所にたどり着いた真と蒼空。
何をやっているのか気になった蒼空はここを見ていくと真に言ってきたので真もそれを了承し見てみることにした。
そこでやっているのはよく祭りとかで見る縁日のブースのようだった。もちろんやっているのは外部の人間ではなく大学の学生だ。
縁日のブースはよく見かける光景と一緒で、通路の脇に小さいテントが長く連なっておりその長さは三百メートルはあろうかと言う長さの中に一般的な縁日から変わったものまで所狭しと並んでいた。
二人は歩きながらそれぞれの店を見て周っていたのだが、蒼空がふと歩みを止めて立ち止まり一つの店の前をずっと見ている。
そのお店は光る玩具を売っている店でそれを蒼空はじっと見ていた。
真としてはあまり立ち止まって居たくは無かったのだが諦めてあまり人が来ない店と店の間のほうでその様子を眺めていることにした。
真は店を見てなんともいえない思いを抱いていた。
(何で学生がこんなもの販売しているんだ?)
真がそう思うのも無理はないだろう。
普通に考えて学園祭などで学生がやるものは食べ物の販売などほとんどであり何かを販売、それも下手したら普通のお店とかで売っているようなものがあるのがありえないことであろう。
外部の人間、それを商売としてやっている人間ならいざ知らず、唯の大学生が売るには違和感が半端無い物だ。
真がそんな事を考えている横では蒼空は所狭しと並んでいる玩具を興味深く見ていた。
見た感じなんだか嬉しそうにも見えた。
男子学生店員は蒼空の事を知っているのだろう、いや知らないわけはない。かなり驚きもあるのだろうしかし蒼空を見て嬉しそうに応対をしていた。
「ねえ真。これどうかな?」
蒼空は商品の一つを身に着けると真に感想を求めてきたのだが、真はその姿を見て唖然としてしまう。
蒼空が手にとっ身に着けたものは光るウサギのカチューシャだった。
あまりの普段とのギャップに言葉が出てこない真。
蒼空は何も言わない真をじっと見ていたがすぐに違うのをつけて再度真に聞いてきた。
次につけたのは妖精の羽と書いてある玩具だ。
カチューシャと同じく光るようでそれを背中につけて、正確には紐が付いておりそれを肩にかけるようになっている。
店員はその姿を見て勝手に携帯のカメラで取っていたのだがそんなことなど気にしないで蒼空は真に意見を求めてくる。
慧ならいざ知らず真にそんなハードルの高い事等できるはずも無く押し黙ったまま俯いてしまう。
何も言わない真を見て若干不機嫌そうな表情を浮かべる蒼空であったがそれでも真の答えを待っているようでジッと真のほうを向いて顔を動かさない。
見つめられている真は意を決して顔を上げると蒼空に言葉をかける。
「な、何で蒼空さんはそんなのをつけて俺に聞いてくるの?」
真としては困惑しておりそれを聞かないとどうしようもない心理状態だった。
しかし蒼空としては求めている求めている答えでなかったので蒼空としては珍しく頬を膨らませ明らかに不機嫌になっていた。
真は蒼空の態度を見て失敗したと思ったのだったがそれを聞かないことには先に進めない状態だった。
しかし、不機嫌ながらも蒼空は真の疑問に答えてくれた。
「聞いてみたくなったんだけだけど……何で真は答えてくれないの?」
「なんというか……蒼空さんが――」
「蒼空って呼んで」
「……わかった」
真がが頷いて答えたのを見て蒼空は機嫌がよくなったようだ。
それを見て真はホッとすると先ほどの続きを話し出す。
「蒼空がそんなこと聞いてくるとは思ってなかったからどう言っていいかわからなかったんだよ……。それにそんなことするキャラじゃないと思ってたから……」
真は思っている事を蒼空にありのままを話した。
蒼空も真の言葉を聞いて少し考え込むのだがすぐに納得したようだ。
「けど、真に聞いてみたかった……」
悲しそうな顔になり真を見つめる蒼空。
真も見つめられて多少たじろぐのだが、蒼空の表情を感じ取り答えてあげることを決心する。
「…………ウサギのほうが良かったよ」
「わかった」
真の言葉を聞くと蒼空は店のほうを向くと店員にウサギのカチューシャをお願いし、買ってしまう。
まさか買うとは思っていなかった真は驚きを隠せなかった。
「それ買うんだ……」
蒼空は頷くと店員から渡された商品を嬉しそうに受け取っていた。
「行こう」
蒼空はそう言うと再び歩き出す。真も後ろをついていく。
その後も色々な店を見ては足を止める蒼空。
買っていくのは定番のものがほとんどで、ワタアメ、たこ焼き、焼き鳥、クレープなど食べ物中心だった。
食べ歩きながらどんどん進んでいくと終わりがきたようで露天のブースを抜けた。そのまま二人は歩みを進め違うところを目指していく。
もちろん目的の場所など無く目に付いたものを見ていく感じだ。
しばらく歩き回ったところで蒼空が疲れてきたということなどで座れる場所を探していると何かのイベントをやっていた会場のところにたどり着いた。
そこには座って休めるスペースもあったため開いている場所を見つけそこに座ることにした。
今は特にイベントはやっていなく人はまばらであった。
そこには飲み物売っているところ、まあ缶ジュースではあるが買いに行くため真は席を立ち買いに行くことに。
飲み物を二つ買い席に戻り蒼空に渡す。
真はプルタブを開け少し飲む蒼空のほうに視線を向ける。
そして今日の蒼空について考え込む。
普通に考えて今日の蒼空はおかしかった。
着替えてくることに始まり、普段からはありえない玩具に興味を持ち、極めつけは感情の多さである。
はっきり言って蒼空との付き合いは長くはないがある程度の人となりはわかっているつもりだと真は思っていたのだが今日を見てしまうと印象がまるっきり違うように見えてしまっていた。
いままでこれほど感情が表に出ることが無く何を考えているかわからない印象が普通の女の子のように見えてしまう。
実際、今真の目の前では買ったカチューシャを取り出して頭につけたりしているのだ。
気になってしまった真は素直に蒼空に聞くことにする。
「蒼空。ちょっと聞いていいかな?」
「何?」
蒼空は手を止めて真のほうに顔を向ける。その表情は今まで見てきた蒼空そのものであった。
「今日の蒼空っていつもと違って見えるんだけど何かあったの?」
「…………」
真の質問に蒼空も黙ってしまい何も言わない。
数分の沈黙が流れる。
真としても蒼空が答えてくれるまで待つつもりだったのだがどうも蒼空は答えたくないと判断をして諦めることにしたのだが一つ気になることがあったのでそれだけは答えてもらおうと質問の内容を変えて再度蒼空に聞いてみることにした。
「答えたくないのならそれでいいけど……これだけは教えて欲しいんだけど、今日の蒼空の変化って平野先生が関わっているの?」
「……うん」
蒼空が答えてくれたことで真は心の中でやっぱりかと思い舌打ちをする。
待ち合わせの場所からしておかしいとは思っていたのだが、あの人が関わると碌なことがないなと思っているところに平野先生に対して蒼空からフォローが入る。
「平野先生には私が頼んだことだから、悪く思わないで」
「えっ!?」
「悪く思わないで……」
「何で俺がそう思っていると思ったの?」
「真、顔に出ている」
「本当に!?」
蒼空は頷いていた。
そんなに顔に出ているのかと確認の意味で自分の顔を触る真だがそんなことでわかるはずも無く苦笑いを浮かべてしまう。
「何を頼んだかはわからないけど先生が関わっているのが知れてよかったよ」
「聞いたらダメだから」
「聞かないし、どうせあの人は教えてもくれないから大丈夫だよ」
真の言葉に安心したのかホッと一息つく蒼空。
ここまで安心している蒼空を見てかなり、いやすごく気になった真だったがどうせ無駄だろうと悟りそれ以上は考えないことにすることに。
「そろそろ行こうか?」
それなりの時間話していたこともありそれなりに休憩もできたことだったので真は蒼空に次へ行くことを確認する。
蒼空は頷くと出していたカチューシャをしまい出る準備をする。
真のほうも残っていたジュースを全部飲み干すと席から立ち上がり何処へいくか周りに視線を巡らす。
ふとそこに真と蒼空のほうに今までとは違う視線を送っている人物がおり真の視線はその人物のほうで止まる。
真の視線の先、少し離れているテーブルに座っている人物は視線を向けても逸らさずまっすぐこちらに向けてくる。
そこに座っているのは金髪の女性で日本人ではなく年齢も同じぐらいに見える。
真はその女性をみて何か引っかかるものを覚えたが、どうしても思い出せないので後で考えようと後回しにすることにした。
考えを押し込めると真は蒼空を連れ立って再び学園祭を見て周るのであった。
休憩を終えた真と蒼空は様々な学園祭のイベントを見て周り、ある程度時間も経過しており最後にどこか行こうと真が提案すると蒼空は行きたい場所を言ってきた。
「会場に行きたい」
「会場?」
「そう会場……」
何を言ってるのかさっぱりな真は皆目見当も付かず歩き出した蒼空の後を付いていく。
しばらく歩き蒼空の向かった先は体育館だった。
体育館の前に立てかけてある看板、そこには大学祭期間中のスケジュールが書いてあったのだが、それを見て真は固まってしまった。
真が見つけたのは六日目のところに書いてある文字。しっかり双大ミスコンの文字が書かれていた。
ここでようやく蒼空が行きたい会場と言うのを理解したと同時に嫌な約束まで思い出してしまった。
蒼空は中に入らず体育館の前で立ち止まると真に話しかけてきた。
「真に話しておきたいことがある」
そう話を切り出した蒼空の言葉に警戒をしつつも真は耳を傾ける。
そして、話を聞くに連れて目つきが鋭くなり額には青筋が浮かんでいた。
全てを聞き終わると高ぶっている感情を抑えるため一息つき、蒼空に問いかける。
「なんで蒼空はその事を俺に教えてくれたの?」
実際のところ聞いた話しは真にとっては嫌な話ではあるが当日まで黙っていればばれることは無かった事柄だ。
そしてそれが当日ばれたとしても後の祭りで、真としてはどうすることもできなかっただろう……。
まあ、慧一人であったのなら何とかなったとは思われるが。
それをなぜこのタイミングで、そしてなぜ教えてくれるのか真にはわからなかった。だから真は蒼空に問いかける、その理由を。
「真を騙すようなことはしたくないから……」
今日一番のもの悲しそうな表情で真に話してくれた蒼空。
その表情を見た真は自分の心の内に何か引っ掛かりを覚えていくのであった。
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