第17話
とりあえず五人は何処に向かうなどは決めずに歩いていた。
目的地も無く目に付いたものに見て回る、そんな感じだ。
「あそこなんて何か面白そうじゃない?」
その中でも一番はしゃいでいるのは梓だった。共通するのは特になく、気になったものに対して興味を示す感じで歩いている。
他の四人は若干ではあるが振り回されている感じは否めなかった。
「蒼空さんは去年の学園祭は梓さんと一緒に周っていたって言ってたけど、去年もこんな感じだったの?」
一番付いていけてなかった真は小さな声で蒼空に先ほど聞いていたことに対して更に聞いてみたのだが蒼空は頷いて肯定していた。
その答えに真は溜息を漏らしていた。そして真以外の二人も溜息を付いていた。
後ろでそんな話をしているなど思っていない梓は一人楽しそうだった。
どんどん進んでいく梓を追い四人も仕方ない様子で付いていく。
少し進んでは止まり進んでは止まりを繰り返し、色々な出し物を見て周っていたのだがとあるところで足が完全に止まる。
その場所では腕相撲の出し物をやっているようだ
主催でやっているのはアームレスリング同好会で、勝ち抜き方式で五勝すれば景品をもらえるルールでやっていた。
相手になるのは同好会のメンバーで色々な人が挑戦しているようだが未だに勝ち抜いた人はいないようだ。
「ねえねえ真君。あれやってみてくれない?」
梓は真にやって欲しくお足を止めたようで、お願いをしてきた。
もちろんお願いしているのは腕相撲の事だ。
真としてはあまりの乗り気ではなかったのだが何度もお願いされたので仕方なくやる事になってしまった。
本当に嫌そうな顔で受付まで向かう真。念のため慧も後を付いていく。
受付に向かうとそこにいたのは慧にとって見知った顔がいた。
そこにいたのはCouleurで出合った横山が受付をやっており、向こうも慧の事に気がついたようだ。
「何しにきたんだ慧? まさかお前が参加するわけじゃないよな?」
「まさか! 参加するのは俺の横にいる真だよ」
慧に言われ横にいる真の姿を見た途端に横山の顔色が真っ青になる。
横山の顔色が変わったのを見た真と慧は何でかはわからなかったのだがその答えはすぐに横山からもたらされた。
その答えは横山の首からかけてあるのも見て真と慧は理解した。
「おまえいつからそれ持っているんだ?」
公の場で詳しいことは話せないが慧は気になったので横山に聞いてみることにしたようだ。
横山は真のほうを気にしつつも慧の方へ顔を向ける。
「きょ、去年の夏からだけど……お前は、し、知り合いなのか……」
真を指差し慧に聞いてくる横山。
横山の質問にしっかり肯定しておく慧。もちろん説明もしっかりとしておいた。
慧はこのお話しをお終いにして腕相撲の事に話を戻すことに。
「それで参加したいんだけど大丈夫か?」
「そ、それは問題ないんだけど……
だ、大丈夫なんだろうな」
後半は慧に耳元で小さな声で確認する横山。
ここまで顔が青くなることが未だにピンとこない慧は横山に聞きたいところだったがこんな場所では聞くことはできないので今は諦めることにした。
「問題はないんじゃない、そうだろ真?」
「……たぶんな」
「本当に大丈夫なんだろうな? 何かあってからじゃ遅いんだぞ!」
「そんな腕相撲ごときで何にもないって。寛も大袈裟だなー」
横山の心配など笑って跳ね除けている慧だったが横にいる真は若干顔が引き攣っているようだった。
その後、数回同じようなやり取りをした後とりあえず参加することが決定した。
受付を済ませ三人の元に一旦戻る真と慧。
参加できたことを告げるとなぜか七海が一番嬉しそうだった。
なぜ七海がと思った真だったが考えてもわからなかったので諦めることにした。
腕相撲は結構人気があるようで挑戦中の人が終わるのを今待っている状況なのだが、その間慧以外の四人は学園祭の事で話していた。
一人話していない慧は何をやっているのかというと横山と何かひそひそと話し合っているようだった。
そして、挑戦していた人が終わり真の順番が回ってきた。
それを見て横山は慧との話を切り上げてそのまま真の様子を見るようだ。
慧も横山の横まで並び様子を観戦することに。
「真君、頑張ってねー」
梓が声をあげて真を応援し、七海も手を振って嬉しそうに真の事を見ている。
真はそれを見てより一層やる気がなくなるのを自分の中で感じ取っていた。
真は腕相撲の特設リングの前に移動しようとすると慧が真の傍に寄ってきて何か耳打ちをしてきた。
一言二言何か言ったと思えばすぐに慧は後ろに下がり横山の横の位置まで戻っていった。
何かを言われた真の顔つきが一変していた。
やる気の無かった顔は真剣な目つきを携えており体からはオーラみたいものが見えるかのようだ。
その様子を一番に感じ取り慌てたのが言うまでも無く横山であった。
「お前何を言ってきたのよ?」
「何が?」
慌てた様子ではあるが声はひそひそと慧に真がああなったのか問いたてる横山だったが、慧は完全にとぼけたフリをしているのがにじみ出ているのわかるくらいの惚けっぷりだ。
「『何が?』 じゃねえよ!! お前が何か言ったら顔つきが変わったろうが!」
「わかる?」
「『わかる?』 じゃねえよ!! ふざけたことして先輩達に何かあったらタダじゃすまないからな。わかってるのか!?」
「やるのは俺じゃないんだからその言葉そっくりそのまま真に言ってみ? 多分だけど大丈夫なんじゃない……」
「い、言えるわけないだろう。おまえ馬鹿じゃないのか!?」
高圧的な態度で慧を脅しにかかるのだが、慧の言葉に一瞬にして顔が真っ青になり態度を一変させる。
慧はそれを見て大いに喜んでいた。
慧の態度を見て幾分か持ち直した横山はもう始まってしまうことだし確認だけすることにした。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「多分な……」
いまいち信用のない言葉だったが諦めることにしたようで。これから始まるであろう腕相撲の会場に視線を戻す横山。
一方、会場のほうでは準備が整っているようで今からすぐに始まりそうな様子だった。
真の目の前にある台はよくテレビなどで見るアームレスリングの台で結構本格的なんだなと感心している。
台を挟んだ反対側には何処からどう見ても普通の男の人がいた。それを見て真は心の中で溜息をついてしまう。
やる気満々の真には物足りない相手のように見えたのは間違いではなく、勝負開始一秒で片がついてしまった。相手の男はあまり悔しそうではなかった。
離れたところで見ていた横山は真の相手をしていた人が問題がないことに安堵の表情を浮かべていた。
勝ち抜き戦のようで次の対戦相手が準備をしている。
次の対戦相手も何処にでもいるような男だったのでこの勝負も一秒で決着がついてしまった。
その後、三人目、四人目と難なく勝っていく真。
その様子を見ていた周りのギャラリーはここまで来た人間がいないのか勝ち上がるたびにすごい盛り上がりをみせはじめていた。
七海と梓は大はしゃぎで喜んでいる。
真は声援に応えるどころか大きくなるに連れてどんどん気分が落ち込んでいくように感じていた。
それにはちゃんとした訳がある。
声援をおくられることなど普通はありえないのだが、真は格闘技場で王者だった男だ。その当時は常に声援を送られていたのでその当時の記憶を思い出していた。
大きくなるにつれて落ち込んでいっていたのだが真の目の前に最後の対戦相手が来ると気持ちを入れなおした。
そこにいたのは今まで勝ってきた人とは違いどう見ても本職の人だろうと突っ込みたくなるような太い腕、そして服の上からわかるほど隆起した筋肉がみてとれた。
そして、気持ちを入れ替えたのにはもう一つ訳があった。
真にとって見たことのある顔だったからだ。
何処で見た顔かというともちろんそれはクルールである。
そこの闘技場で戦った人で小林昴という名前の男だ。
この小林という男との出会いはおよそ一年前ぐらいのことで、もちろん真の圧勝で勝った男であった。
小林も真の事を覚えていたのか顔つきがかなり険しいものになっている。
「……久しぶりだな」
かなり含みのある言い方で真を見据え言ってくる。
「……そうですね」
真も小林の言葉など気にもせず普通に返す。一応年上の事は知っていたので敬語で話すことは忘れない。
もちろん二人は大学で接点など全く無く、もちろんクルールなどでも特にこれといったものはないし周りに話すことなどもできないのでこれが初めてと言っても過言ではなかった。
小林はかなり気合が入っているようでリベンジと捉えているような面持ちだ。真もそれを感じ取り本気で相手をすることを心の中で決める。
二人は台を挟みあい手を繋ぎ準備を始める。審判をしている男も何かを感じ取ったのだろ先の四戦と違い本気な感じでしっかりとセットしていく。
二人共握る手に力がこもり、台のほうも微かながら音を出している。
準備が終わり次第に緊張感が増していく中審判から開始の合図が告げられた。
始まるとすぐに小林のほうに若干傾くが、真も負けておらずすぐに持ち直し中央まで戻すが単純な力比べでは真には不利なようで少しずつではあるが小林側に傾きつつあった。
二人共筋肉が痙攣を起こしているように震えている。
小林が勝負をつけにきたようで体ごと傾け体重をかけて一気にもっていこうとするがそれを真が阻止する。
だがそこは体格、力の差が出たのだろう真の抵抗もむなしく負けてしまう。
真が負けたことにより周りからは悲鳴に近い声が上がるがその後すぐに拍手が送られる。
勝った小林も嬉しそうだった。
真としても絶対勝ちたいわけじゃなかったのでこの結果には多少の不満が残るが概ね満足のいくものだ。
不満の原因は慧が耳打ちした内容なのだが終わってしまったものは仕方ないと諦めることにしたのだった。
四人の元に戻った真は意外なことに驚きの表情に迎えられることになる。
中でも一番驚いているのは蒼空であったるする。
「本当に強かったんだ……」
疑っていたようで本当に驚いている。
真はそれに苦笑いでしか応えることしかできなかった。
その後、真の要望でこの場所から離れることになった。
注目を集めてしまい囲まれていたというのが大きな理由だ。
五人は歩きながら先ほどの話に盛り上がっている。
驚きが薄れてくると次第に興奮してきたのか話しにも力が篭っているようで、特に顕著だったのが梓だったるする。
「真君すごいねー。最後の腕の太っとい人に負けちゃったけど四人連続で勝つところなんてすごかったよー。この前行ったクルールのオーナーさん? だっけ、その人が言ってた事半信半疑だったけどアレをみせられたら信じるしかないよね! ねー七海、蒼空」
「そうだねー。真があそこまですごいとは思わなかった……」
「うん。すごかった」
三人ともすごく興奮の度合いが話していくうちに増していくのだが、真としてはどう応えていいかわからなくなっていた。
真自身、自慢したくもないし見せびらかしたいとも思っていない。病気の結果自衛の為しかたなかったことの結果なのだ。
そうしようか迷っているところに慧から助け舟が出された。
「真が困っているんだから三人とも少しは落ち着けよ」
溜息混じりに慧が三人を宥めようとするのだがそれでも止まる気配は無かった。
なので時間が興奮を冷ましてくれるまで真と慧は待つことにした。
その後、何とか真と慧の願いは叶い次第に三人は落ち着きを取り戻している。
歩きながら色々と見て周っていたのだが気がつけばかなり陽が落ちてきており見物客はボチボチ疎らになってきていた。
結構歩き回っていたこともありそこそこの疲労感もあったのでいつものカフェテリアで少し休憩することを提案してきた慧の案に四人は賛成して向かうことに。
カフェテリアに到着するとすぐによほど疲れていたのか七海と梓が席を確保しに行き、蒼空がその後をゆっくりマイペースで付いていく。時間帯や人も減ってきたこともあり席はそれなりに空いている。
真と慧はいつも注文している飲み物を頼むためカウンターまで歩いていく。もちろん注文は全員分だ。
それぞれの飲み物を持って席に戻る真と慧。
席に近づくと三人は先ほどの腕相撲の事について盛り上がっていた。
「なんか真君の印象180度変わったんだけど七海と蒼空はどうだったの?」
「そうだねー。なんか少し格好よかったかも……」
「そうだね」
三人共の好印象の感想を聞いてしまい真としては少し恥ずかしくもあり嬉しくもあった。
慧も同様な感想を抱いているのであろうテーブルの上に飲み物を置くと真の肩を少し強めに叩いてくる。
真と慧も席に着くとそのまま話の続きが始まる。
「ねえねえ、真君。なんであんなに強いのに…………バイトなんてやってるの?」
梓が好奇心旺盛に真に聞こうとしたのだが途中制約の事を思い出したのであろう言葉が一瞬つまってしまい最後のほうなんかは聞き取りずらいぐらい声が小さくなっていた。
真も一瞬ギクッとしたのだが言わなかったので安堵の表情を浮かべながらも梓の質問に答え手あげることにする。
「あそこでバイトしてるのは最初からバイトの募集してたからその為に入ったんだけどちょっとやらかしてそのままやる事になったんだよね」
苦笑いを浮かべるしかない記憶を思い出しながらも答えてると、真の横で震えてる慧の姿が目に入った。視線をそちらに向けると慧も視線に気がついたのか体ごと真の反対側に向ける。
三人がいなければ頭を思いっきり叩きたい衝動に駆られるが何とか自制して視線を戻す。
実のところやらかしたことは結構有名なことであり警察沙汰までなっていたりするのだが、オーナーの取り計らいもあり真には特にこれといってお咎めは無かった。
その代わりに地下へ出場することになってしまったのだが……。
遠い目をして当時を思い出していた真に当時の事など知らない梓は聞いてくるのかと思いきや先に聞いてきたのは蒼空だった。
「やらかしたって何をしたの?」
慧、七海、梓、そして真も蒼空が聞くなど思っても見てなかったのでかなり驚いており、真なんかは言葉が出てこないようであった。
「?? どうしたの四人とも?」
蒼空は四人の様子に気がついたのか首をかしげ全員に向けて聞いてくる。
すぐに持ち直した梓が蒼空の質問に代表して、いや一番長い付き合いだからこそ答えるようだ。
「蒼空が自分から聞くなんてどうしたのかなーと思って驚いているんだけど。本当にどうしたの?」
「言われてみればそうかも……」
自分の事はわからないとはよく言ったもので蒼空自身どうしたのかわかっていないようで梓は表情を隠すことなく呆れていた。
三人も呆れてはいたものの梓ほどの付き合いがあるわけでもないので心の中でとどめている様だ。若干表情に漏れでそうではあったが。
蒼空はなぜ聞いたのかを考えているようで心ここにあらずの状態になってしまったので七海が先ほどの蒼空の質問の続きを促す。
「それで話は戻すけどどうなの真?」
七海の言葉に蒼空は考え込むのをすぐに止め真がこれから話すであろう話に耳を傾ける。
真としてはあまり話したくなかったのだが今の雰囲気では話すしかない状況であった。
「実は――」
そう切り出すと真は話し始めた。
バイトを数ヶ月たった頃の話で、仕事にもある程度馴れてきていつものように仕事をしていたところある程度時間が過ぎた時にそれは起こった。
お酒が出される店で若者が集まりやすい環境なら何が起きたのか予想も付きやすい。
早い話がお酒で酔った若者が暴れたのである。その数二十人前後。
二十人前後のグループではなく十人前後のグループが二つの揉め事であり、かなりエキサイトしていたのである。
そこに運悪く仕事で警備をしていたのが真であったのだが、真はその揉め事をたった一人で収めてしまったのだ。もちろん実力行使で。
事の顛末はそんなところであった。
事情を知らない三人はかなり驚いているようで言葉が出てこないようだが、慧は事情を知っている――真がそのときはどうしていいかわからず慧に相談したから――ので先ほどと同じく体を震わせていた。先程よりももっとわかりやすく。
さすがに真は我慢ならなかったので全力ではないが慧の頭を平手で引っ叩いた。かなり痛かったのであろう慧は頭を抑え違う意味で体を震わせていた。
真と慧のやり取りを見て三人は笑い出し驚きからも解放されたようだ。
その後は他愛のない話、明日以降の話をして解散することになった。
そしてなぜか話の流れで明日も蒼空と学園祭を周る事になってしまい真は頭を抱えることになったのはここだけの話だ。
解散してから家にたどり着いた蒼空は部屋に入るなり考えに耽ることに。
あの時なぜ自分があんなことを聞いたのか本当に自分ではわかってなかった。
蒼空は自分の中にある気持ちの根源を考えるが、経験に無くそれは蒼空の引き出しの中に入ってはいない。
今まで人に興味を持つことなどまず無く、ましてや異性など皆無だった。
しかし、真は違う。男といえば蒼空の姿を見るなりありきたりな言葉をかけ近寄ってくるのがほとんどであったが真はむしろとうざかっていく。
今はその理由を知っているが初めて会ったときはそのことに戸惑いを覚えたのも確かだった。
それだけでは今蒼空の中にある気持ちには説明が付かないことは理解はしているがその先の答えがわからない。
蒼空は決心する。
この気持ちの答えを必ず見つけようと…………。
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