表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/127

第15話

2章開始です

 すっかり季節は秋の装いをみせている。今は十月初め。


 夏休みも終わりあれから一ヶ月、真は何事も無く大学生活を送っている。まあ元々が避けながら生活を一年も送っていたので大した問題ではなかったりする。

 しかし、環境は大きく変わっていた。もちろん大きい理由は蒼空にある。

 大学内では有名であった蒼空が周りにいれば注目を集めることは必然と言うものだろう。

 アレからと言うものたびたび蒼空、七海、梓と頼んでもいないのに集まってくるので真にはどうすることもできなかったりする。そのことで真は日々頭を痛ませている。


 今はお昼時。

 大学のカフェテリアで真は食事をしていた。

 もちろん真の座っているテーブルには他の四人も座っている。

 いつもなら大勢の人で賑わっているカフェテリアなのだが、十月に入ってからは人は疎らになっている。


 「あんまり人居ないねー」


 梓が座っている席から周りをみてそう呟いている。

 人がいないのにはちゃんと理由がある。

 十月の半ばから始まる学園祭の為なのだ。他の大学では準備などでこんなに時間をかけることなどないのだが、この大学はそんな常識は通じない。

 一週間という長い期間もさることながら、この学園祭は大学自体が運営をしており、学生は参加することにより好きな単位をもらえるというおかしなサービスがついてあるのである。もちろん受講している単位に限るのだが。

 参加自体は学生の自主性を重んじているので強制ではないが単位が絡んでおりほとんどの学生は参加するのだ。

 他にもう一点最大の御褒美というか、ありえないものがあったりする。それは投票形式の出し物でトップを取ると賞金が出るというありえないものだった。

 参加するには五人以上で申し込みをすれば問題なく、出し物は自由。

 不正がないように投票できるのは外部から来た人しかできないようになっている。

 なぜ、ここまでするのかは訳がある。賞金の額が100万円出るからなのだ。

 単位まででて賞金が出る、学生が出ないわけがない。

 因みに、去年真が学園祭に出なかったのは趣味の為でもあったが、単純にめんどくさかっただけだったりする。


 「そうだねー」


 梓の呟きに七海も同意している。慧も言葉には出さないが頷いていた。

 真と蒼空は興味がないのかテーブルの上にある料理を黙々と食べている。

 三人と二人に別れてそれぞれ思い思いの事をしている。


 真は食べ終わると席を立ち上がる。

 

 「どうした真?」


 「午後からの講義は休講だからそろそろ帰るわ」


 慧の問いかけに真はあっさりとした態度で答えるとそのまま帰ってしまう。

 学園祭には全く興味のない真の様子を知っている慧は苦笑しながらその後姿を見ていた。

 去年と同じ感じだったことをふと思い出すようだ。

 

 真が見えなくなってから四人はその場で話し出した。


 「二人共エントリーは済ませたのか?」


 慧の言葉を向けられている七海と梓は笑顔で頷いている。

 エントリーとはもちろんコンテストの事だ。それに出場する為にエントリーをしなければならないのだ。

 エントリー自体は二ヵ月前から始まっているのだが締め切りは九月までしておけば問題はない。

 十月は学内のネットで学園祭が始まる前までに学生による投票で絞られ、上位十名がファイナリストとして学園祭期間中に開かれるミスコンに出場する。

 

 ここまでは大学でよく知られているレギュレーションなのだが一つあまり知られていないことがある。

 その事を知っているのは極一部のの人しか知らないので、真なんかは知るはずはない。


 「真が驚く顔がみものだな」


 どう見ても悪人ヨロシクと言わんばかりの笑みであった。

 七海と梓も人が悪そうな顔なのだが蒼空は違っていた。

 

 「本当にいいの?」


 表情にわずかながら憐憫の情がありそうな顔つきで慧に聞いてくる蒼空。

 真の知らないレギュレーションは早い話が裏技と言っても過言ではないものなのだ。

 その為、蒼空の中には真に対して申し訳ない気持ちがあるようだ。

 蒼空の言葉と表情に流石に慧も思うところがあったようで、決まりが悪いのか苦笑いしていた。

 そして、そのまま押し黙ってしまう。

 蒼空は慧の答えを待っているようだ。

 しかし、答えは慧ではなく七海と梓からもたらされた。


 「いいんじゃない。使えるものは使わないと。蒼空だって真君があそこでやってるところ見たいんでしょ?」


 「そうだよ。そのことは前に話し合って決めたでしょう?」


 梓と七海の言葉に蒼空は迷いながらも頷いている。

 それを見た慧は話を続ける。

  

 「とりあえずミスコンのほうはそれでいくから、ヨロシクね蒼空ちゃん」


 裏技は蒼空にしかできないことなので念押しの為頼んでおく慧。

 

 「…………わかった」


 未だに迷っているようだったが肯定の答えを聞いて胸をなでおろす慧。

 その後もミスコンの話、学園祭の話で盛り上がる三人と、何か考え込んでいる蒼空であった。





 真は大学の並木道を歩きながら帰路についていた。

 景色としては壮大かつ綺麗なものではあるが、真には興味がないので足早に歩いていく。

 大学の敷地を抜け一度家に戻るとすぐさま違う場所に向かう真。


 何処に向かうのかというとそれは……


 大学病院だった。

 先ほどまで歩いていた並木道を戻り大学病院に入っていく。

 もちろん行き先は心療内科だ。

 階段で心療内科の階まで行くと平野先生の部屋まで一直線だ。

 部屋の前まで来ると扉をノックする。

 中から声が聞こえたので扉を開け、中に入っていく。


 「今日は早かったな」


 真の姿を見るなりそんな事を言ってくる平野先生。

 その言葉にはちゃんと意味があって言っているのだ。

 

 平野先生に真の眼の力の事話してから一週間に三回は顔を出すことになった。

 もちろんそれにはちゃんと理由がある。

 早い話が眼の力を知るためだ。訪れるたびに色々な可能性について探っているが、流石に真が危険な状態になることはあまりしていないのだがローリスクハイリターンなどはありえないので、時々は危険なこともしてたりする。


 そんなこともあり真はよくここに来ているのだ。大抵はくるのが遅かったのだが今日は休講もあって早くこれたので平野先生が早かったなと言ったのであった。


 とりあえず椅子に座り出された飲み物を飲んで一息つく。

 その後、カウンセリングをおこない眼の力について色々と話し合う。

 ある程度話しが落ち着いたところで平野先生からとある提案がだされた。


 「おまえ、学園祭はどうするんだ?」


 「えっ!? なにが?」


 平野先生の言葉を聞いて何を言っているのかわからず聞き返してしまう真。

 そりゃあ主語が抜ければ聞き返すのは当然であろう。


 「だから学園祭期間中はどう過ごすんだ? 去年は参加もしないでいたから気になってな……」


 ようやく何が言っているのかわかった真は平野先生の言葉を聞き、どうするのか考えてなかったことを理解する。

 どうするか考え出す真。去年はある意味真にとっては充実した学園祭、と言っても参加して充実したわけではなく趣味の時間として充実していたと言う意味だ。

 去年の真は単位は特に必要としてなく、学園祭に参加すれば女性との接触が増えてしまうと思っていたところ、荻野から動画撮影しないかと誘われるまま参加した。

 そして学園祭の期間中、平均睡眠時間三時間というハードな動画撮影だったのだが終わったときの充実感はひとしおだったのを思い出す。

 因みにそのときの動画はRPGゲームを学園祭開催期間中にクリアするというもので、やっていたゲームは世間ではそこそこ有名なゲームであったりする。


 考えること一分ほど経ったところで真がどうするのか考えた事を平野先生に話し始めた。


 「とりあえず今回も学園祭はゆっくりすることにするけど……。けど何でそんな事を聞くんですか?」


 答えを言いながらも何で平野先生がそんな事を聞いてきたのか疑問に思っていた真はその事を聞いてみることにした。

 その答えはすぐに平野先生からもたらされる。


 「おまえ今回の学園祭でおまえ自身の中を一歩踏み出す気はないか?」


 またもや何を言っているのかわからなかった。いやわかりたくなかっただけかもしれないが、それでも真は平野先生に言っている意味を聞くことに。


 「はっ!? それはどういう意味なんですか?」


 真の声は多少の震えがあったが表情は何とか平静を保てていた。

 しかし、人の心理を携わるものとしては声の振るえだけでも真の状況はわかっていたようだ。


 「そのままの意味だが。早い話が女性との距離を少しでも縮めてみないかといっているんだ。おまえこのままじゃこの先大変なのはわかっているんだろ? だったらやるならこういう時しかないだろう」


 真にとってあまりの衝撃の言葉に声が出なくなってしまう。


 真自身そこの所は今まであんまり考えないようにしてきた。先に見えている未来は絶望しかないと見えているから。

 街を歩いているカップルを見ていて表面上は羨ましいとか思ってはいないが、心の中ではそういう状況に僅かながら憧れがあるのも事実だったりする。母親からも高校からも言われ続けてきたが真は頑なに反抗した。

 病気を盾に逃げてきた。絶対に叶うことはないと思い続けてきた。それが真の中の常識だと思っていた。

 しかし、平野先生は真の為に踏み出そうと言ってくれた。

 その気持ちは嬉しかったが流石に何をするかわからないことに躊躇してしまう自分に気がつき心の中で笑っていた。


 とりあえず何をするか具体的なことを聞くことにする。


 「何をして一歩踏み出すのか聞きたいんですけど……」


 「そりゃあもちろん女性との接触! ……………………といいたいところだが、それをやると救急車を呼ぶだけになりそうだからまずは距離を縮めることからだな。流石に一気にいくと悪化する恐れがあるからな」


 平野先生の最初の言葉に一瞬驚愕の表情をしていたが、後の言葉を聞いて胸をなでおろす。

 そして、まあそれぐらいならと真は気楽な気持ちになる。


 今のところ真の異性との距離は一メートルが限界ラインだ。それ以上になると顔が強張ってくる。

 それを縮めることは言葉にするのは簡単だが真にとっては難題だ。

 

 真と平野先生は具体的なことをこれから二時間にわたって話し合うのであった。

 そして帰り際に返事は明日まで待つということを告げられた。





 大学病院から出て家に着いたのはもう日が沈みそうな時間であった。


 家に入るなり真は盛大な溜息をつく。まあ帰っている道でも溜息をついていたのだが。

 平野先生との話し合いは大方纏まったのだがそれによりまた一つ大きな難問が出てきたのだ。その事を思い浮かべるたびに真は溜息をついていた。


 とりあえず服を着替えることにする真。

 着替え終わるとまずは晩御飯の準備を始めることにした。と言っても慧のようにうまく作れるわけではないのでこれぞ男の一人暮らしの手料理だというものである。


 準備が終わり食べ始めるが、どうも暗い雰囲気なってしまう。

 一緒にご飯を食べようものなら気まずいことこの上ないだろう。

 もそもそと一人でご飯を租借するがどうも喉に通るご飯がおいしくなかった。普段と変わらないご飯なのだが……。


 あらかたご飯も食べ終わり片付けるのだが何をやっても暗い空気はまとわりついていた。

 その後、何もすることが無く何をしていても重たい溜息しか出なかったのでそのまま寝ることにする真だった。


 



 次の日。


 目を開けるとまだ外は薄暗かった。

 枕元においてある携帯で時間を確認すると、四時だった。

 流石に二十一時ぐらいに寝ればこんな時間にも起きよう。

 二度寝をしようと布団にもぐりこんで目を閉じるのだがやけに目が冴えており寝れなかった。


 仕方がないので布団から出て起き上がりテレビをつける。

 しかし、やっているのは通販番組ぐらいしかやっていなかったのでどうしようかと考える。

 そのままテレビを消し携帯をいじって暇をつぶすことにする。

 

 携帯で色々なサイトにアクセスしているうちにふと真は何かを思いつくと、文字を入力して検索をかける。

 そこに表示されていたのは昨日から真が悩んでいる事柄について書いてあるサイトだった。

 何かの役に立つかも知れないと真は色々な項目をタップして開いていく。

 開いたサイトをスライドして読み進めていくとそれなりに役に立つことが書いてあったようで、真は真剣な目つきで読み進めていく。

 

 そのまま見ていると気がついたら日が昇って朝になっていた。

 カーテンの向こう側からは眩しいくらいの陽の光がわかるほどだ。


 大学にいく準備をして家を出る。

 今日は休講はなく夕方まで講義がある。


 大学に着くと講義に出席し、いつものように一日を過ごしていく。

 今日は四人とも連絡も無かったので出会うことなくそのまま一人ですごす。


 全ての講義が終わりそのまま平野先生のいる大学病院へ向かう。

 

 部屋の前まで来るといつものように扉をノックして部屋の中に入る。

 そして中にはいつものように椅子に座っている平野先生がいた。


 「どうするか決まったのか?」


 真の姿を確認するなりすぐに聞いてきた。

 何かというともちろん昨日の事の答えである。


 実際のところまだ真の中では答えは出ていなかった。

 もちろん真の中での葛藤が答えを出すのを躊躇っているからだ。

 平野先生の提案してくれた案はリスクが大きかったが、もし前に一歩踏み出すにはこれしかないと言えるものだった。

 リスクのほうは下手をしなくても実行すれば今後の大学生活を大きく変化させるのは間違い無しと言えるものだった。

 踏み出すほうに関しても精神的な成長が望める見込みがありそうなのは予想できる。まあ真の状態が状態だけに結果はどう転ぶかわからないのだが……。

 それでもやってみる価値はありそうだと感じられるものだった。

 

 平野先生の質問には沈黙をもって返す真。

 真の今の心情がわかっているのだろう下手なことは言わず平野先生も真の答えを黙って待っていた。


 考えること数十分

 真は答えを出した。


 「や、やってみたいと思います……」


 決意の篭っていない言葉で最後の方は聞こえないくらい声が小さくなっていた。

 それでも平野先生には聞こえたようで決意を決めた真を見て喜んでおりいいえ笑顔で真の肩を力強く叩いてきた。


 「そうか。ならとりあえずお膳立てはしておくから明日またここに来てくれ。後はおまえしだいだ、まあ何とかなるだろう」


 「そこは平野先生が伝えてもらうことは――」


 真はとても自信なさげに平野先生に頼もうとしたが言葉を遮られる。


 「何を言っているのよお前は!! それも含めてだろ! とりあえずは明日ゼミで来るはずだからそのときにな」


 「わ、わかりました……」


 「それじゃあまた明日待っているぞ」


 そう言うと平野先生はそのまま部屋から出て行ってしまった。

 真はしばらく項垂れていたがいつまでもここにいても仕方ないので帰ることにした。





 次の日


 いつもどうりの一日を過ごし、とうとうその時がきてしまった

 時刻は夕方近くで真は講義のおこなわれていた教室から大学病院への道のりを歩いていた。

 一歩一歩が重く、どう見えても重たい雰囲気を纏っていた。ドナドナがバックに流れていればなおよしと言わんばかりの落ち込みようだった。


 ゆっくり歩いていてもいつかはついてしまうもので、気がつけば病院の前まで来ていた。

 そこからの真は長かった。

 何がというと、中に一向に入らなかったのである。そんな事をしているうちに中から見知った人物が出てきた。


 「何してるの真」


 声をかけてきたのは蒼空であった。

 

 「い、いや……、その……」


 何を言っていいのかわからなくなって何をしているかもわからなくなってしまう真。

 そんな事をしている真を蒼空の後ろから笑い声が聞こえていた。

 声のした方へ目を向けるとそこには平野先生がいた。尚且つお腹を抱えて笑っていた。


 流石にそれを見た真はイラッときたのだがそのことにより平常心を取り戻していた。

 蒼空は何がそんなに可笑しいのかわからないようで平野先生のほうを見て首を傾げていた。

 平野先生は笑いが落ち着いてきたところで真に話かけたきた。


 「すまん、すまん。真。とりあえず今日は来てもらって何なんだけど俺のほうで用事が入ったから今日は来なくていいわ。そのまま帰ってくれ」

 

 ニヤニヤとした顔で言われても説得力がなかったが、素直にしたがって頷いて返事をしておく真。


 「それで、そのまま伊吹のやつでも送ってくれや。もういい時間だしな」


 空模様を確認するとそんな事を言ってくる平野先生。

 蒼空を見ると特に気にしてもいないようだったが


 「よろしく、真」


 真のほうを向いて蒼空が言ってきた言葉に真も一瞬驚くが、どうも流れができているようでそのまま了承して蒼空を送ることになった。


 真と蒼空はそのまま大学を後にして蒼空の家の方向に歩いていく。


 そのまま他愛のない会話をしながら歩いているととある場所まで来ていた。

 そこは蒼空と二度目にあった空き地のところであった。


 なんでこんな所に来ているのかというと、それは真の為に蒼空が提案してくれたことであった。

 真の病気の為にあえて人どうりの少ないところで帰ろうといってくれたので真はそれに乗ることにした。

 女の子一人ではこんなところ、こんな時簡に歩かせるわけにいかないのだが真がいるので問題は無かった。


 蒼空は立ち止まると方向を変え空き地の中へ入っていく。

 真は疑問に思いながらもそのまま蒼空の後についていく。


 ある程度中に入ったところで蒼空が真の方へ向き聞いてくる。


 「平野先生からなにか用事があるって聞いてたんだけど何?」

 

 蒼空の言葉に驚きもあったが割合的には平野先生に対して怒りがこみ上げてくるほうが強かった。

 そして蒼空の質問にはどういっていいか考えてしまい押し黙ってしまう真。

 そんな真に再度聞いてくる蒼空。


 数秒の静寂の中、真が蒼空にシンプルに用件を切り出す。

 というか真のボキャブラリーではこれが精一杯だった。


 









 「俺と学園祭を一緒にまわらないか?」

 

お読みいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ