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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
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幸せはここにある ③

おばちゃんに見送られながら美好を後にした。遅い時間になり、歩いている人はほとんどいない。

4人はまるで学生のように横に並んで他愛無い会話をしながら、駅へと向かった。

改札を通り健吾と楓は下りホーム、隼人と咲季は上りホームと違う為、一度立ち止まり健吾が咲季に声をかけた。


「じゃあ俺達は向こうなんで。今井さんは帰り大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫大丈夫」


そう答えたと同時に隼人も言葉を挟んだ。


「大丈夫だよ、僕が送るから」


その言葉を聞くとすぐに咲季が慌てた様子を見せた。


「大丈夫だってば!いつも飲んで帰る時はもっと遅かったりするんだから」


そんな咲季の訴えに隼人は「はいはい」と幼子に言い聞かせるように苦笑した。そして咲季の背中を支えるように押しながら歩き出し、健吾と楓に「じゃあ、またね」と笑顔を見せて、階段を下りて行った。

それでも「ちょっと!」と咲季の怒った声が聞こえてきたけど、隼人になら任せて大丈夫だろうと健吾と楓は目と目を合わせて笑いながら歩き出す。

ホームに立って楓は咲季と隼人のいる方を見ると、まだ何かもめている様に見えた。


「ねぇ、咲季先輩と澤田くんまだ何かもめてるみたいだよ」


そんな楓の言葉に健吾は呆れた顔を見せる。


「隼人が今井さんをからかって怒らせているんじゃねーの?あいつああ見えて結構Sなとこあるし。人の事からかって笑ったりするしな」


「そう?私にはそんな感じに見えなかったけどな~。いつも優しかったし」


「まあ、あいつも人選んでいるんじゃん?」


健吾が可笑しそうに言っているのを聞いて、楓は隼人の今まで自分への優しかった言葉や態度を思い出していた。


「何か意外だな」


「うん、あいつは意外なことだらけで色々と驚かされるよ」


「そうなの?」


「だって、あんなにもてていくらでも選び放題なのに片思いしてるらしいしさ」


「ん・・あ~そういえばそんなこと聞いたことあるな。やっぱり澤田くん好きな人いたの?」


そう、前に澤田くんと話した時にそんなこと言っていた。ハッキリとは言ってなかったけど、あの澤田くんが片思いだなんてやっぱり意外。


「そうだろ~。しかもその片思いの相手は嘘つきだって言っていたし。どんな人だよって思わない?本当あいつの考えていることは、さっぱり分かんねー」


「ふ~ん、でもさ何かいいんじゃない?澤田くんもちゃんと好きな人がいるなんてさ。彼女がいないなんてもったいないって咲季先輩といつも言っていたんだ」


「嘘つきとかそういうのは本当か分からないけど、俺もあいつがどんな人好きになったのか見てみたいな」


そんなことを話しているうちに、電車が来たので2人で乗り込んだ。そして並んで座り肩を寄せる。

この空間を楽しみ、触れた指先は優しく包まれることで温もりを得る。そして嬉しさでつい口元がほころぶ。

そんな甘い時間を過ごしていると、メールの着信音が聞こえた。


「ちょっとごめんね」


つながれた手を解きバッグから携帯を取り出して見ると、送信者は英輔だった。

『さっきはありがとう。資料そろったから明日までに間に合うよ』と、さっき美好にいた時電話で話した明日必要な資料作成のことについてだった。かなり急いでいた様子だったので、間に合ったと書いてあったので思わず「あ、よかった」と声に出てしまった。


「何が?」


私の突然の言葉に健吾が不思議そうに聞いてきた。


「あ・・ごめん。さっき探し物で英輔が電話してきたけど、無事仕事が終わったって報告くれたの」


と健吾に伝えると、一瞬間を置いて


「そっか、よかったな」


そう言って視線を前の窓の方に移した。


「健吾?」


何となく気になって健吾の瞳を見る。私の呼びかけに健吾も視線を私の方へ戻して『ん?』っと柔らかい声と瞳を見せた。その瞳が愛おしくてつい見つめてしまう。

そんな時間がどれ位続いたのか、電車のアナウンスで健吾が降りる駅の到着を知った。

そして電車が止まると同時に、私の手を握ってきた健吾に軽く引っ張られて私も電車を降りた。

最近はこんな感じで健吾のアパートに誘われる。でもいつもは「行こう」とか何かしら声をかけてきたりするのが普通だったので何かが違う。

いつもの事だけど、今日はいつもと少し違う。それでもつないだ手は変わらず包み込むように優しく温かい。

少し考えてたどり着く答えはやっぱりひとつ。『英輔の存在』

一口に言ってしまえば『やきもち』なのだろう。

でもそれを健吾は見せない様に努力してくれるその気持ちが、私の心をたまらなくくすぐる。

何も言わずに私の手を握って電車を降りる健吾の行動に、私はまた愛を感じてしまう。

だから英輔とのやり取りに微塵の心配もないことだと言葉に表するよりも、態度や行動で愛を返す。

つないでいた手を解くと健吾が反応して私の顔を見る。そんな健吾の顔を見ながら彼の腕に手を絡ませて抱きつくように顔を寄せる。


「やきもち焼き~」


からかうように瞳を向けると健吾はキュッと唇に力を入れて眉を寄せる。


「うるせー」


弱々しくしく返してくる。自分の気持ちを悟られて複雑なのだろう。

でもそういう気持ちは私にも十分理解できるから甘えて返す。


「健吾、早く帰ろう」


私にできる最大の可愛い笑顔で健吾に身体を寄せる。

きっと私が思っているよりもずっと健吾は独占欲が強いのだろう。でもそんな健吾の独占欲すらも私は幸せを感じてしまっているのだから、やっぱり私はずるいのかもしれない。



健吾のアパートに着けば、待てないという勢いで私をベッドへと誘導する。

着ている服も愛撫のように優しく脱がされていく。脱いだ肌へ唇を寄せながら。時々甘い痛みも残しながら・・


「俺の」


私を抱きしめながら熱い唇で耳元にささやく健吾の言葉がたまらなく私を酔わせる。

初めて抱かれた時に健吾が発した言葉をまた聞いて、あの時と同じ様に私も答える。健吾が嫉妬と戦っているから。


「うん・・全部健吾の」


そう心から思うから私の身体の全てを健吾に預ける。

こんなにも愛おしくて甘い気持ちになれるなら、全てを健吾にあげたい。

そう思えるくらいに甘いキスと温もりを健吾がくれる。


「・・気持ちいい」


思わず声に出てしまう位に甘くて優しくて、時に強引な愛撫。でもそれすらも身体は応えてしまう。

私の発する声に健吾は切なく淫靡な視線を私の瞳にからませる。捕らえた瞳を離さず、また唇を食む。

肌に伝わる彼の温度と私の温度が重なって、私達は一つの熱になって蕩けていった。



気だるい身体を優しく包まれて、さっきとは違う温もりに包まれる。肌と柔らかい毛布の感触は私好みに馴染んでくれる。

そうして心地いい眠りに落ちそうになった時、健吾が背中に回した両手に少し力を入れた。


「ここにあるから」


ふいに言われて夢心地から少し意識が戻る。


「・・ん?」


健吾の肩に預けていた頭を上げて健吾の顔を見ると、柔らかい笑みを見せて


「楓と俺の幸せはここにあるよ」


そう言ってまた私をギュッと抱きしめた。そしておでこに唇を寄せて、


「そばにいても離れていても、いつも俺達の幸せはここにあるから。それはずっと変わらない」


甘い愛の告白のように言ってくれた。


「うん」


嬉しくて胸がつまってその一言しか答えられず、また健吾の胸元に抱きついて何度もうなづいて返した。

ずっとここにいたい。例えそばにいられない距離があっても必ずその間には幸せが挟まれているから、私はそれを大切にする。

やっと2人で見つけた幸せだから、それをいつまでもずっと大切に守っていきたい。  





長いお話になりましたが最後まで読んで頂きましてありがとうございました。

健吾と楓のお話はとりあえずここで終わりますが、side storyでこれからも登場しますのでよかったら読んで下さい。

そして健吾と楓の番外編でまた投稿できましたら☆☆☆

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