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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第三章 信頼の章
35/115

PAST 35:手合わせ

 負ければ配下、勝てば自由。

 賭博が行われる戦闘が今にも勃発しようとしていた。無論、奴隷であってようやく自由を手に入れた修二は仇敵きゅうてきの配下に使えることは、屈辱と無念の極みである。

 睨み合う両者、合わせて六人の兵隊。

 異常な緊張感が漂う空間で捕獲用ネットに覆われた友佳は息を飲んでその光景を見守る。彼女の頬には冷や汗のようなものがうすら浮かんでいる。

 風のない空港ターミナル内でも風がゆっくりと吹き付けているようだった。

 「ゼヤアアァァ!」

 大きな掛け声と共に、依里茄が飛び出す。

 瞬間冷たく大きな音がした。依里茄の攻撃が殺斬に受け止められた音だった。

 「クッ……」

 依里茄は悔しそうに殺斬を睨みつける。一方の殺斬は依里茄の顔を無表情で眺めて、

 「一秒」

 と秒読みを開始した。

 「この裏切り者……」

 依里茄は眉間にしわを寄せる。

 「どうしたのですか? 三秒で私を倒すのでしょう? 時間はまってくれませんよ。あ、残念ですね。もうタイムオーバーです」

 「小賢しい真似を……これでもくらえっ!!」

 依里茄は一歩後退し、床を踏み込んで殺斬に突進。力いっぱい握り締めた刀剣を目にも止まらぬ速さで振りまくる。風を切る音がひっきり無しに周囲にとどろいた。


 しかし、目にも止まらぬ速さの斬撃は全て殺斬に弾かれた。


 依里茄にとってこの状況は予想外だ。殺斬の守備能力の高さに目が点になる。

 「残念です。最近、訓練を怠っているようですね。依里茄さん」

 挑発とも思える言動を依里茄にぶつけて、ニヤニヤと笑っている。


 「攻撃なし。貴殿は敗残だね」

 修二が相手している男が声に出して、ナイフで攻撃する。突いたり、切ったり、蹴ったり、殴ったりと多彩な攻撃を仕掛てくる。接近戦においては厄介な敵だと思いながらも修二は後退を続ける。

 「逃亡、即ち劣敗を懇願こんがんするあかしだね」

 今度はナイフを投げる。ナイフは微動だにしない修二の耳元を通り過ぎた。

 (動いてもいないのに外した、ナイフ投げが下手なのか?)

 最初はそう思っていた。

 「戦闘終了だな」

 これで、あいつは武器を失ったことになる。ということで武器を持つ修二が勝ち。

 すると、風を切る音が聞こえた。

 「そんなっ!?」

 ナイフが後ろから再び彼の手に巻き戻されている。

 (どういうこと!?)

 ナイフは修二の頬を掠めた。生暖かい血液がほおからしたたる。

 「油断禁物。早々に負傷だね」

 男はもてあそんでいた。

 相手は余裕の表情。

 その時、ふと、修二の視界には隆の姿が映る。彼が手に持ったアサルトライフルはいつの間にか彼の手元からなくなっている。そして、相手は忍者のような動きで隆の喉めがけて攻撃を繰り出している。

 興味なさげによそ見をしていると、相手のナイフが足元にざっくりと刺さる。

 「よそ見してる場合じゃないよね? 貴殿の相手は我なのだから」

 男は背中に手を回し、火器を取り出した。本業は接近戦ではなく遠距離戦のようだ。

 修二が呆気にとられていると、男は手にしたサブマシンガンで攻撃を開始する。フルオート射撃の容赦ない弾幕が修二を襲う。

 修二は大慌てで椅子に身を投げ入れて攻撃を回避した。

 プラスチック製の椅子が絶え間なく悲鳴を上げる。砕けた粒子と破片が宙を舞った。

 「オラオラオラァ! この程度で、我の相手は務まらん! 楽しませよ!」

 自信過剰かじょうな口調。銃を握ると性格が変わるたちのようだ。

 相手が遠距離とわかった修二は

 (これで、接近戦で戦う必要性はなくなったね)

 と悟る。現在の修二は接近戦より銃撃戦の方が得意な気がする。

 「イテッ……」

 修二の左手に激痛が走る。見ると、左手は若干じゃっかん血色に染まっている。さっきの衝撃で傷が開いたようだ。加えて新しい痛みもあり、サブマシンガンのこぼれ球に当たった可能性もある。

 早めに対応策を考える必要性を迫られた。




 刃先に喉を追われる隆。思うように行動できていなかった。

 「あぶねえんだよ! 女のくせに!」

 隆は騒ぎながら、攻撃を回避する。少女の経験浅いワンパターン戦法に隆は苦い顔をする。

 「やれやれ……少しは大人しくしたらどうだ! カワイコちゃん!」

 少女の攻撃がスカったすきに腹部に鉄槌てっついを下す。重圧は一瞬で彼女の腹部から背中へと受け流され、

 「ウッ」

 と少女は苦悶くもんの声を上げる。

 しかし、少女は耐えて、右手に持っているククリで隆に攻撃を繰り出す。だが、ハリがなくなっている。隆はそれに感づいて、少女の足をすくう。

 「ウワッ!」

 少女は悲鳴を上げて倒れ込む。

 「許せよ!」

 隆は素早く少女の右手を蹴り、武器解除。

 「ウアアアァァァ!」

 少女は奇声をあげなら、左手に持っているもう一つの武器ダガーで隆を我武者羅がむしゃらに攻撃する。

 隆はすぐに後ろに飛んで攻撃を回避した。勢いだけでナイフは床にズッポリと刺さり、床に少しヒビが入る。

 「危ぶね~。てめえ、とんだ怪力娘だな」

 少し隆は焦っていた。少女はスッと立ち上がり、再び隆に攻撃を仕掛けた。

 「テヤッ!」

 覇気はきを一声で表現し、ナイフ一本で少女は隆へ向かっていく。

 攻撃。

 「フッ、見え見えだぜ」

 隆は瞬時に少女のナイフの軌道を読む。

 突き出された少女のナイフ、片足を一歩引いて、すれすれで回避する。バランスを崩した少女の手を掴み、隆は少女をそのまま投げ飛ばした。

 「許せよおおぉぉ!」

 半泣き。

 少女はたくさん並んだプラスチック製の客席に激突し、そのまま気を失った。

 「あ~あ、また女相手に派手にやっちまった。男として面目ないな俺」

 隆は頭を掻いていた。

 少女のキャップがポトリと頭から落ちる。

 綺麗な顔が隆の視界に入る。瞬間、隆にある記憶が蘇った。


 以前、月滅つきほろぼしの町で紛争に巻き込まれたときの事だった。つまり、同じような策略にハメられたあの日のこと。

 その時、ビル内で起きた出来事に登場する頬に傷入りの少女と彼女の顔が交差したのだ。

 (まさか?)

 と思って、少女の顔を確認してみるが、頬に傷はない。傷があれば本人さながらだ。

 「フッ、人違いか」

 隆は少女に背を向けた。


 「……」

 隆の後ろであざとい何かが動く。


 少女が気絶から回復し、隆を睨みつけていた。

 「まだ、私は戦えます」

 「……勘弁してくれ。俺は『暴力』を商売にしてる商売人じゃねえんだぞ?」

 「戦争、ですから」

 「……聞こえなかったのか? 俺は暴力を――――――」

 「うるさいです!」

 「……」

 少女は一方的に隆に食いかかる。隆はやれやれと手を揺すってみせた。




 「見つけトゥワァ!」

 修二の真正面から声。

 見ると、正面にサブマシンガンを持った男が立っている。

 「貴殿ンンッ! 我を侮辱ぶしょくしたな!」

 男が一人で叫んで、銃をぶっぱなす。

 修二にとっては迷惑な話だ。

 「ウオオオォォォ!」

 修二は雄叫びを上げて、横合いに身を投げて攻撃を回避する。着地と同時に全体重が負傷した左手にのしかかる。

 「ウガッ!」

 言葉にならない痛みに修二の動きは停止する。もう左手は使えない。

 「今度は逃げるんじゃねえぇぞぉ!」

 男がサブマシンガンを向ける。修二はそれを見て、体を起こし走り出す。


 お約束のように男は銃をぶっぱなした。


 しかし、銃弾は修二の軌道を追うようにして外れる。

 修二も負けじと走りながらアサルトライフルで攻撃する。

 狙いをさだめて、準備完了。引き金を人差し指でめ付ける。

 だが、目標に命中しない。弾丸は特定の空間を嫌がるように避け、インテリアや床に着弾する。

 「やりやがったなぁ? くそったれがァ!」

 男は声を張り上げて、修二と同様に走りながらの射撃を実行する。銃弾が交わりあい、修二の弾丸は標的の足を狙い、男の弾丸は標的の腕を狙う。

 こぼれ球は床や家具に次々と埋め込まれていく。

 互いにスピード勝負が始まった。




 「どうしたのですか? 震えてますよ? 依里茄さん」

 「いちいちうるさいやつだな」

 銀と黒の刀がチラチラと揺れて、互いに相手の出方を探っている。

 次の瞬間、依里茄は殺斬の一瞬の隙を見逃さなかった。

 「そこだ!」

 首筋に刀剣を押し込む。

 物凄い音が鳴る。攻撃はわずかながら殺斬るの髪の毛を切り落としただけで、押さえ込まれている。殺斬は無表情のまま簡単に依里茄の攻撃を防御している。

 「チッ……さそいか」

 依里茄は歯をみ締め不機嫌そうに殺斬を睨む。すると、依里茄の右肩から血が飛んだ。

 「なに?」

 攻撃を受けた感じは全くしなかった。何が起きているのか理解できない。

 「やっぱり、腕が落ちていますね……。一から鍛え直したほうが良いのではないでしょうか?」

 殺斬は無表情のままでそう言った。依里茄はもう我慢の限界だ。

 「この女狐ぇ!!」

 依里茄は殺斬に向かって高くジャンプする。そして、空中で体をひねり、全身全霊を刀にかける。

 「これでも食らえ!」

 依里茄の破壊力抜群な斬撃が殺斬に襲いかかる。殺斬は眉一つ動かさずに、まばたきと同時に物凄い轟音がなった。鉄と鉄が思い切りぶつかりあった音。

 二人は互いに背を向けた状態で静止する。

 しばらくすると、

 依里茄の右腕から血が滴り落ちる。

 「グッ」

 依里茄は刀を落とし、その場に跪いた。そして、殺斬もまた銀色の刀を落とす。

 「ンッ……」

 殺斬の眉が苦しそうに動く。彼女の左手はボロボロだった。


 「「殺斬様!」」

 戦闘を強制終了し、殺斬の側近がが一斉に主人の元へ向かう。勝負はお預けとなった。

 殺斬は平然と立ち上がり、側近に何か耳打ちすると武器を収めた。

 修二と隆も側近の真似をして、依里茄の元へ向かう。

 「大丈夫?」

 修二が依里茄に声をかける。依里茄は「平気だ」と答えると、気に入らないように立ち上がり、殺斬を睨んだ。

 「戦闘はここまでです」

 依里茄、修二、隆、友佳の四人はいぶかしげな表情を殺斬に向ける。

 「終わり? それはどういうことだ?」

 修二が左手を抑えながら尋ねる。

 「殺すまで戦闘するのがお前ら帝国側のやり方じゃなかったのか?」

 隆が確認するように尋ねた。

 すると、二人の側近の顔がムッとなったが、殺斬だけは表情を変えない。

 「私は何もあなた方を『殺す』とは行っていません。『お手合せ願う』と言っただけですよ」

 「それで仁義を全うしたつもりとは、笑えるねぇ。帝国軍さんよぉ?」

 「仁義ですか? 帝国にそんなものはございませんよ。お忘れですか? 傭兵さん」

 「ああ?」

 反論しようとする隆を無視して、殺斬は依里茄の方を向く。

 「依里茄さん、言われたことをお忘れなく……あなた達は『忠誠を誓う軍隊に殺されます』このままいけばの話ですがね」

 「裏切り者……誰が裏切り者の言うことなんて信じるか」

 依里茄は精神的にショックを受けているようだった。

 「ならそう唱えればいいです。私は第三部隊消滅を心からお祈りしていますから」

 「勝手に言えよ。クソまみれが。黙って悪色に染められればいいんだ! お前なんて……」

 依里茄の一言に、殺斬は黙り込んだ。しかし、少しすると、


 「それは間違ってますよ。依里茄さん。“裏切りは正義です”」


 と言った。

 本当に依里茄の軍隊が消滅するように、錯覚させるような冷たく悲しい言いぶりだった。

 「あなた達はもう行きなさい」

 殺斬は隣にいた二人の側近を無理に解散させ、会話が聞こえないように遠くへ向かわせた。

 すると、今度は修二と隆を交互に見渡す。物色した後、落とした刀を拾い、それを鞘におさめながら、

 「あなたたちにも言っておくことがあります」

 と言った。

 殺斬は修二と隆に背を向けたままで、ひと呼吸置くと、

 「北へ向かってみてください。そうすればあなた方が望むものがあるはずです……」

 と言って、殺斬は去っていった。その足取りは重く、落胆した人間のようだった。

 「何なんだ? あいつ?」

 「不思議な人だったな。なんて言えば良いのか分からないけど、空奈にそっくりのような……」

 「やはりか。やはりお前もそう思ったか修二。実は俺もそう思ってた」

 言って、悩むように隆は頭を抱える。裏切られたショックが裏切り者を通して伝わったのだろう。

 「北へ向かってみるか……」

 「信じるの? あいつのことを? 『裏切りが正義』だの訳の分からないことを言っている『あいつ』を?」

 「修二の言うとおりだ囚人」

 依里茄が介入する。

 依里茄は気づかぬうちに友佳の元へ足を運び、捕獲用ネットの網を自分の黒い刀で丁寧に切っていた。

 「あいつを信じてはいけない。あいつは私達の軍隊を壊滅的危機に追いやった人間だ。信じれば必ずお前たちが後悔することになる。私達のように……」

 今まできつい態度をとっていた依里茄がここまで落胆していた。憐憫れんびんで切ない。

 「隊長……」

 友佳の力のない声が静かな室内に響く。天真爛漫てんしんらんまんな彼女の面影はどこにもない。

 その時、また鳴動が聞こえた。

 「まただ。さっきと同じ揺れ……一体何が起きてるの?」

 修二が戸惑いを隠せない声でそう言った。

 「第五部隊の連中だ。あいつらは派手な戦闘を好む、手当たり次第に壁を破壊して歩っているに違いない」

 沈黙が覆う。

 修二は先刻さきの戦闘はパッとしない戦闘だったと振り返る。

 『お手合せ』を願う『裏切り者』呼ばわりの帝国兵士。

 修二は殺斬の姿が脳裏にこびりついて離れない。

 「そんなに爆破してたら、この建物だってもたねえだろ?」

 「……だろうな」

 「チェッ。呑気なやつだ。この後に及んで『だろうな』かよ」

 「悪いか? 私は第五部隊ではないので詳しい事情は知らない。そういう時の一番妥当な答え方だろう? 当たりもなければ外れもないわ。無難な言い回しだとは思わないのか囚人」

 刺々とげとげしい依里茄のきつい性格がむき出しになる。きつい言い方だった。隆は空奈以上に強気の女と出会いお手上げ状態のようだ。依里茄は不敵な笑みを浮かべる。

 「まいったなぁ。ここまできついとは七味唐辛子みてえな女だ」

 「ありがとう。シュウジン……。とっても嬉しいぞ」

 隆は目で修二に救いを求めていた。

 「まあいい。もう一度言っておく、あいつを信じちゃいけない」

 依里茄は言って、視線を再び反らす。

 「囚人、それから修二。お前らはもうこの戦場から離脱しろ。私たちが上に『死んだ』と報告しておいてやる」

 いきなりの発言に修二と隆は互いに目を合わせた。

 「お前たちは救わなければならないモノがあるのだろう? 第五部隊に見つかったらもう逃げられなくなる。だから今のうちに逃ろ」

 第三部隊隊長の依里茄らしからぬ物言いだった。

 殺斬の言っていた『壊滅』の意味がわかったような気がする。

 修二なりに考えると、敵をかばって懺悔ざんげを受けるという意味。

 「いきなり、どうして……?」

 「一緒に戦ってくれたせめてものの礼だ」

 と言って、依里茄は視線を友佳に移す。


 「こんな無様で情けない軍隊のために戦ってくれてありがとう」


 依里茄の声は寂しそうだった。その一言が逃げようとする二人の心に歯止めをかけていた。

 修二の胸にその言葉はこだまする。諦めて負けを認めているような一言だった。

 哀憐あいれんな瞳とは一変し、依里茄は少し柔らかな視線を修司と隆に向けた。

 「ほら、私の気が変わらないうちにとっとと行け」

 言うと、依里茄は寂しそうに見つめる友佳の頭を撫でていた。隆は修二の様子を確認する。そこで感情を読み取ったのか、

 「唐突だなおい」

 と言った。

 「……」

 依里茄は黙ったまま隆を見た。

 「残念だが、俺はそのおいしい話はいただかねえよ」

 「なんだと? どういう思考回路だ? 何故敵に情けを――――――」


 「『俺はお前らとは違う』」


 隆は依里茄の言葉を遮ってそう言った。その一言に依里茄は不思議そうな視線を向けた。

 「俺はお前らの助けは必要としない。俺はゲリラだから」

 「どういう理屈だ。私は釈放すると言っているのだぞ? それを、受け入れないっていうの?」

 「ったりめえよ。お前らの助けなんて、俺にとってはありがた迷惑だ」

 「そ。馬鹿野郎だな、お前も……」

 依里茄が言ったその時だった。

 けたたましい大きな爆発が修二の後方で起きた。吹き飛ばされた壁の破片が廊下に虚しく転がる。破られた壁から軍人が次々と飛び出してくる。

 「ヒエェ! 助けてくれぇ!」

 「出口はどこだァ!」

 「おお! あそこに出口があるぞ! 急げ!!」

 腰抜け状態になった兵士たちが大慌てで出口へと急ぐ。まるでこちらが見えていない。何かから必死で逃げているようだ。

 「何事だ?」

 依里茄がきょとんと声を漏らす。

 腰抜け兵士の中に紛れて第三部隊の女性兵士の姿があった。女性兵士は依里茄の方にやってくる。中には人を抱えている人間もいた。

 抱えられている人の中には咲希の姿があった。

 「咲希姉……あんな姿になっちゃってぇ」

 友佳がいやらしい瞳を向けて、哀れんでいる。依里茄はその兵士たちと言葉を交わすと、兵士は出口へ向かった。

 「何を命令したんだ第三部隊の隊長さんよ?」

 隆が皮肉混じりでそう言った。

 「『逃げろ』と。それと、触手の刃物を携えた恐ろしい者がこちらに向かってるらしい。お前らも――――――」

 「ボォアッ!」

 兵士の悲鳴が依里茄の言葉を遮った。

 壁から血が吹き出す。どす黒い紅色の血液を目にした友佳が、気の毒そうに目をらした。

 すると、血を見て依里茄が何かに気づく。

 「智恵利は? 智恵利はどこだ!?」

 智恵利のことだ。依里茄は『裏切り者』との再開で周りが見えなくなっていたのだ。

 「きっと無事だろうよ」

 と隆が言う。

 その時、壁から赤色に染まった女性とサングラスをかけた男性が何かと交戦しながら壁から出てきた。女性の正体は智恵理だった。遠方から見ると、大怪我しているようにも見える。

 依里茄は気絶しそうになる。

 しかし、大怪我をしているわりに智恵理はピンピンしている。

 銀色の線が壁から出てきた二人を襲う。火花が散ると同時に、

 「オオアッ!!」

 と、大きな銃を抱えたサングラスの男が壁の破片に足を取られて転んだ。修二はすかさず持ってたアサルトライフルを構え、片手で銃を発砲する(ワンハンドショット)。

 けたたましい銃声とともに、線は銃弾の雨から逃げるように壁の中に消える。

 その隙に、智恵利は転んだ男を連れて修二たちの方に退却する。しかし、退却完了前に触手が智恵利たちを襲う。

 「危ない!!」

 友佳が叫ぶと、修二はアサルトライフルを再び触手に向けて発砲する。

 三発発命中し、一本の触手の軌道がずれたが、残るもう三本の触手の勢いは止まらない。

 「ウオッ! 触手がきやがるぜ!!」

 男が慌てる。見ると、男は手に持っていたはずの銃をいつの間にかなくしている。

 「分かってる! もう少し待って!」

 智恵利が声をかける。

 修二の心の中で焦る気持ちが増大する。すると、壊れた壁の方で轟音と共に大爆発が起き、ガラスが吹き飛んだ。

 「ニャハハハ。どんなもんだい」

 友佳が得意そうに笑っている。しかし、一本だけ生き残っていた。

 「ありゃりゃ……」

 友佳の得意げな顔がしょげた。

 智恵利と男は既に触手に背をむけて歩いている。

 このまま触手が直進を続ければ、男と智恵理が串刺しになってしまう。


 考える修二の足が何かに触れた。短ドスだ。

 修二は短ドスを拾い上げて触手に向かって突進する。退却する二人は修二に目が行く。修二は智恵利と男の横を通り過ぎ、短ドスを振りかざす。

 「ウオリヤァ!」

 二人に衝突するギリギリの位置で触手を弾いた。

 ずっぽりと触手は軌道が逸れ、修正が間に合わず客席に突っ込んだ。ベリべりと触手は客席を抉り、停止する。

 感覚的な攻撃だったがこれほどまでにうまくいくとは思っていなかった。

 残りの三本が壁の方へ帰っていく。

 その頃には二人の退却は依里茄の位置まで完了する。

 「後ろは任せろ。最後まで気を抜かないでよ」

 と、依里茄は横を通り過ぎる智恵利に言った。

 「頼りにしてるよ」

 と智恵利は依里茄にウィンクして先を急いだ。


 そして、ついに……


 やつが姿を現した。


 「僕は、才能ある人間が嫌いだ。修二……」



 マガ・ローターが『手合わせ』を願った。

みなさん、お久しぶりですね。


長らくお待たせしました。

ようやく35話目です。


楽しんでいただけたら幸いです。

読者の皆様には感謝、感謝です!

今後も、ガバエンをよろしくお願いします。

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