第95話 規格外の狩人
森の奥へ――
グラナディスは、迷いなく進んでいた。
「まじ、速いっす」
オーガリーダーが必死に後ろからついていく。
足場は悪い。
木々は密集している。
だがグラナディスは、まるで道が見えているかのように進む。
「……いたな」
ふと立ち止まる。
視線の先。
そこには巨大な影。
体長、三メートル近く。
ヒグマ。
ただの獣ではない。
筋肉は膨れ上がり、毛並みの隙間から熱が揺らぐ。
その前に立つのはトレント。
木の魔物。
枝を鞭のようにしならせ、振るっている。
ビシッ!!
鋭い音。
枝がヒグマの体を打つ。
だが
「……効いてねぇな」
オーガリーダーが呟く。
ヒグマは避けない。
受ける。
ただ、受ける。
そして――
「……あれ、国民第六号になるか?」
グラナディスがぼそりと言う。
「無理ですよ」
即答。
「魔獣は」
オーガリーダーが首を振る。
「興奮すると――」
その瞬間。
ヒグマの体が、ぼうっと赤く染まる。
「ほら」
次の瞬間――
ボオッ!!
全身に火が灯る。
燃えている。
だが苦しんでいない。
むしろ怒りが増している。
「全身から火、出すんで、トレントは相性最悪っすね」
オーガリーダーが続ける。
トレントは枝を振るう。
だが――
叩いた瞬間、すぐに引く。
燃え移らないように。
「なるほどな」
グラナディスが腕を組む。
戦いは拮抗していた。
だが長引けば、どちらかが崩れる。
その時。
「よし」
グラナディスが一歩踏み出す。
「……は?」
オーガリーダーが目を見開く。
「ちょっと待て――」
止める間もない。
グラナディスはそのまま、戦場に突っ込んだ。
軽くジャンプ。
ヒグマの懐へ。
「おいおいおい!」
オーガリーダーが叫ぶ。
だが遅い。
グラナディスは、ヒグマの頭に・・ゴン。
軽く叩いた。
それだけ。
それだけなのにヒグマの目が、ぐるりと回る。
「……え?」
次の瞬間。
ドサッ。
巨体が崩れ落ちた。
「……は?」
死んだのか気絶したのか。
一撃。
それで終わり。
「次」
グラナディスは振り向く。
トレント。
枝が唸る。
ビシッ!!
振り下ろされる。
だが――
「遅ぇ」
グラナディスは、その枝を素手で掴んだ。
「……嘘だろ」
オーガリーダーが呟く。
枝は止まる。
ピクリとも動かない。
「よっと」
そのまま引き抜く。
ズボッ!!
地面が盛り上がる。
根が、引きちぎられる。
「え?」
トレントが引き抜かれた。
そのまま。
振りかぶる。
「おらぁ!」
ドォン!!
地面に叩きつける。
衝撃。
土煙。
そして動かない。
トレントは、沈黙した。
静寂。
風の音だけが残る。
「……おい」
グラナディスが言う。
「魔石、取れ」
「……あ、はい」
オーガリーダーは我に返る。
ナイフを取り出す。
ヒグマへ。
腹を裂く。
ザクッ。
中を探る。
「……あった」
取り出す。
赤い魔石。
約4センチ。
熱を帯びている。
「こっちは火属性か」
「だな」
グラナディスが頷く。
次はトレント。
だが・・
「……どこだ?」
オーガリーダーが困る。
「見当たらねぇ」
木の塊。
どこに核があるのか分からない。
「貸せ」
グラナディスが前に出る。
トレントの中心を見る。
「ここだ」
迷いがない。
次の瞬間、ズボッ。
素手で突っ込んだ。
「はい!?」
木の幹に。
硬い中心に。
腕が、めり込む。
ゴゴッ。
何かを掴む。
そしてバキバキといって、引き抜く。
「ほらよ」
手の中にあったのは透き通った緑。
約3.5センチ。
美しい魔石。
「……マジかよ」
オーガリーダーは呆然とする。
「この人……」
言葉が出ない。
「ありえねぇ……」
グラナディスは気にしない。
魔石を放り渡す。
「使えそうか?」
「……十分すぎる」
オーガリーダーが答える。
だがその目はまだ驚きのままだった。
(おそろしい、アニキの師匠……)
(強さの次元が違う……)
グラナディスは森の奥を見る。
「まだいるな」
ニヤリと笑う。
「行くぞ」
「……はぁ」
オーガリーダーは息をつく。
だが口元は少しだけ笑っていた。
「とんでもねぇな、この国は」
戦力。
人材。
そしてこの化け物。
森の奥へ。
二人はさらに進む。
狩りは続く。
勧誘も続く。
そしてこの国の“力”は、確実に、増えていく。




