第93話 おまかせの罠と、師匠の記憶
巡察の途中――
「……あ」
ユウが立ち止まる。
小さな木の看板。
湯気。
いい匂い。
「定食屋だ」
アリューも気づく。
「入ってみる?」
「うん」
自然な流れだった。
店内は素朴だった。
木の机。
少し年季の入った椅子。
だが、妙に落ち着く空気。
「いらっしゃい」
店主が顔を出す。
無愛想でもなく、愛想がいいわけでもない。
ただ――“普通”。
「注文は?」
壁のメニューを見る。
……が。
「え?」
ユウが固まる。
そこに書かれていたのはおまかせ(時価)
それだけ。
しかもその下に、
A
B
C
D
E
F
G
アルファベットが並んでいる。
「……なんだこれ」
アリューが眉をひそめる。
「説明、ないね」
「ないな」
二人は顔を見合わせる。
一度入った店。
なんとなく、出づらい。
「どうする?」
「……」
少し考えて。
アリューがニヤリと笑う。
「せっかくだしさ」
「うん?」
「最初と最後、いってみよう」
冒険心。
ユウも笑う。
「いいね、それ」
「じゃあ――」
アリューが手を上げる。
「おまかせA」
「……私はGで」
店主は無言で頷いた。
料理を待つ時間。
ふと。
アリューの表情が変わる。
「あ……」
「どうしたの?」
「ザックル師匠」
ユウが首を傾げる。
「あ・・師匠!」
「そうだ、声かけに行かなきゃ」
思い出したように言う。
「……確か」
少し考える。
「ここから、三時間くらいだったよな」
「確かそれくらい?」
「うん、でも――」
少し笑う。
「寄り道しなければ」
ユウは呆れた顔。
「今日、寄り道してるけどね」
「……まあ、それはそれ」
軽く流す。
だが、その目は少しだけ真剣だった。
「帰ったらすぐ行こう」
「うん」
ユウも頷く。
師匠が今どうしてるか気になった。
「おまちどう」
最初に出てきたのは――A。
皿に乗っていたのは、
オークの薄切り肉。
ご飯。
キャベツの千切り。
シンプル。
だが――うまそうだ。
「……普通にうまそうだな」
「うん」
二人は箸を取る。
一口。
「……うまっ」
アリューが素直に言う。
「これでA?」
ユウも驚く。
十分に満足できる味。
だが――
「G、おまち」
次に出てきたものを見て。
二人は固まった。
そこには――
オークの角煮。
とんかつ。
薄切り肉。
キャベツの千切り。
ミニトマト。
味噌汁。
ご飯(大盛)。
そして――
豪華なパフェ。
「……え?」
ユウが目を瞬かせる。
「……多くない?」
アリューも引いている。
「これ……G?」
「たぶん」
皿の数が違う。
量が違う。
明らかに――別次元。
「なるほどな……」
アリューが腕を組む。
「下に行くほど豪華になるタイプか」
「それ、罠じゃない?」
ユウが苦笑する。
食べ始める。
Aは順調に消える。
問題は――G。
「……無理かも」
ユウが弱音を吐く。
それでも食べる。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
そして――
すっと。
とんかつ半分が、アリューの皿へ。
「……ん?」
さらに。
角煮の八割が移動。
「ちょっと待て」
「お願い」
ユウが真顔で言う。
「食べて」
「いや量が――」
「王でしょ」
謎理論。
「関係ある?」
「ある」
押し切られる。
「……はぁ」
アリューは苦笑しながら食べる。
結果――
なんとか完食。
「……もう無理」
ユウが机に突っ伏す。
「お腹いっぱい……」
完全にダウン。
――だが。
その直後。
スプーンを手に取る。
「ん?」
パフェへ。
「……おいしい」
もぐもぐ。
もりもり。
「……食うんかい」
アリューが呆れる。
「別腹」
即答。
さっきまでの苦しそうな顔はどこへやら。
幸せそうに食べている。
「……すごいな」
「でしょ」
誇らしげ。
店を出る頃には、完全に満腹だった。
「……やりすぎた」
アリューが腹を押さえる。
「Gは危険」
ユウも真剣に言う。
二人は顔を見合わせて笑った。
家に戻る。
少しだけ休憩。
そして――
「行くか」
アリューが立ち上がる。
「ザックル師匠」
ユウも立つ。
「アルフェリスは、……留守番がいいと思う」
ユウが言う。
「移動、長いし」
「確かに」
アリューも納得する。
「じゃあ――」
外へ出る。
そこにいたのはブモー。
大きな体。
頼れる存在。
「頼むぞ」
アリューが軽く叩く。
「ブモー!」
力強い返事。
二人は乗る。
二人騎乗。
距離が――近い。
「……」
ユウの心臓が少し早くなる。
だが今度は街中じゃない。
人の目も少ない。
ほんの少しだけ。
体を預ける。
「出発!」
アリューの声。
ブモーが走り出す。
風を切る。
夕焼けの道を二人は進む。
師匠のもとへ。
そして新しい何かへ。




