↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤翼のワイダー  作者: 忍絵 奉公


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/96

第92話 王の巡察と、はじまりの距離


この街の土地は――

もともと、すべて領主の所有だった。

申請した者に対して、安価で貸し出される仕組み。

又貸しは禁止。

不要になれば返納。

シンプルで、管理しやすい制度。

だが国となった今、その仕組みも変わろうとしていた。


中央広場のすぐ横。

木材と石材の音が響く。

新たな建物が、急ピッチで建設されていた。

「銀行と両替所、か……」

アリューは遠くからそれを眺める。

「宰相、やるねぇ」

王国では銀行は遠い存在だった。

わざわざ王都まで行かなければならず、支店もない。

商人にとっても、民にとっても不便だった。

だがこの街は違う。

新たな商売を促すため。

そしてタイクーンから来る者たちのため。

通貨の違い、価値の違いを埋める場所。

国としての“血流”を作る施設だった。

見えないが、確実に重要な一歩。


一方、その頃。

「よし、行くぞ」

グラナディスが立ち上がる。

隣にはオーガのリーダー。

「魔物狩り兼――勧誘だ」

にやりと笑う。

「力のあるやつは、こっちに引き込む」

実に彼らしい発想。

「さて、行くか」

そのまま森へ向かった。

“戦力補強”が、すでに始まっていた。


「私も……ワイバーンに乗れるかな?」

ラ・セレールの、ぽつりとした一言。

それが、流れを変えた。

「なら――」

シリューがすぐに反応する。

「大人の希望者は、私が引率する」

「じゃあ生徒は俺だな」

ギリューも続く。

役割が決まる。

「事前打ち合わせ、してくる」

「俺もだ」

二人はすぐに動き出した。

この国の人間は決断が早い。


そして。

家に残されたのはアリューとユウ。

静かになる室内。

少しだけ、気まずい空気。

「……俺たち、何する?」

アリューが頭をかく。

ユウは肩をすくめる。

「王なんだから、ゆっくりしてれば?」

軽く言う。

だがその直後。

ユウの顔がぱっと明るくなる。

「あ、それなら」

少し前に出て。

「巡察、行こうよ」

自分で言ったその一言。

ユウの胸が、ドクンと鳴る。

(巡察……)

(つまり――)

(デート……!?)

表情には出さない。

だが内心は、大騒ぎだった。


街へ出る二人。

昼の喧騒は少し落ち着き、

それでも活気は変わらない。

「あ、アリュー様!」

「王様だ!」

次々に声がかかる。

頭を下げる人々。

笑顔。

期待。

視線。

全部が、二人に集まる。

アリューは気さくに手を振る。

「どう?困ってることない?」

自然な声。

もう、完全に“王”だった。

その隣で、ユウは少しだけ距離を保ちながら歩く。

(……近い)

(でも遠い)

腕が触れそうで、触れない。

(腕、組みたいな……)

ちらりと横を見る。

アリューの横顔。

真剣で、優しくて。

(手……つないでほしい……)

一歩、近づく。

でも――

「王様ー!」

「応援してます!」

また声が飛ぶ。

ビクッと離れる。

(む、無理……!)

顔が少し赤くなる。

周囲の視線が多すぎる。

恥ずかしい。

とてもじゃないが、そんなことできない。

アリューは気づいていない。

普通に歩いている。

「ここ、前より店増えたよね」

「そうだね……」

ユウは少しだけ頬を膨らませる。

(気づいてよ……)

でも言えない。

言えないから、また少しだけ近づく。

袖が、かすかに触れる。

それだけで心臓が跳ねる。

(……これでいいか)

小さく息をつく。


その時。

アリューがふと立ち止まる。

「ん?」

前方を見る。

そこには建設中の銀行。

「……これも、国なんだな」

ぽつりと呟く。

ユウも隣に立つ。

「うん」

同じ景色を見る。

木材の音。

人の声。

未来を作る音。

「忙しくなるね」

ユウが言う。

「だね」

アリューは笑う。

「でも――」

少しだけ真面目な顔。

「守るよ」

その言葉。

ユウは、少しだけ驚く。

「この街も」

「みんなも」

「……ユウも」

最後の一言は、少しだけ小さかった。

でもちゃんと聞こえた。

ユウの顔が、一気に赤くなる。

「……ばか」

小さく呟く。

でも。

今度は逃げなかった。

そっとほんの少しだけ。

袖をつまむ。

アリューは気づかない。

でもそれでいい。

その距離は確実に、さっきより近かった。


ワイダーチェリー。

国は動き出し。

人も動き出す。

そして小さな想いもまた、

ゆっくりと、動き始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。