第86話 焔の宴と王の構想
裏庭には見覚えのない設備ができていた。
石造りの大きな焼き台。
長机。整然と並ぶ椅子。
そして、中央には豪華すぎる肉の山。
「……なんだこれ」
ユウが呆然と呟く。
グラナディスはすでに焼き場に立っていた。
「バーベキューだ」
当然のように言う。
「誰が作ったの?」
「知らん。気づいたらあった」
適当すぎる。
だが、火は完璧に整っている。
さらにテーブルには――
「……これ、高級ワインじゃない?」
シリューが瓶を持ち上げる。
見たこともないラベル。
グラナディスが肉をひっくり返しながら答える。
「領主が送ってきた」
「気が利くな」
その言葉と同時に、裏口が開く。
ドタドタと足音。
「アニキ!!」
オーガたちが合流してきた。
閉店後らしい。
タオルを首にかけたまま、全員集合する。
「よし、食え」
グラナディスが肉を皿に放る。
宴が始まった。
――しばらくして。
酒が回り、空気が緩む。
アリューが静かに口を開いた。
「……話がある」
場が少し静まる。
ギリューが顔を向ける。
アリューは焚火を見つめたまま、続けた。
「こいつの……ギリューの目の話だ」
空気が変わる。
「俺の父と叔父……そしてギリューは、同じ牢屋にいた」
ユウの表情が引き締まる。
「脱走を計画してた」
火がはぜる音だけが響く。
「だが、決行前日に――」
アリューの声が低くなる。
「衛兵に連れていかれた」
誰も口を挟まない。
「ギリューは……目をくり抜かれ、四肢を折られて捨てられた」
ギリューは黙っている。
拳を握っている。
「俺の父は、四肢を切断されて……最後に首を落とされた」
重い沈黙。
オーガたちも、言葉を失う。
「……そして」
アリューの目が鋭くなる。
「裏切ったのは、叔父だ」
ユウが息を呑む。
「今は――王国空軍の将軍」
その一言で、重さが増す。
「……勝てる相手じゃない」
アリューはそう締めた。
「個人じゃな」
沈黙。
だが。
次の瞬間――
「なら、個人じゃなきゃいい」
グラナディスが肉を返しながら言った。
全員が顔を向ける。
「この街は、ほぼ独立状態だ」
「……?」
ユウが首をかしげる。
「王国にも帝国にも属してない」
「後ろ盾は俺様」
グラナディスは笑う。
「領主はビビってるが、頭はいい」
「……それがどうした」
アリューが聞く。
グラナディスは、あっさり言った。
「お前が王になれ」
一瞬、空気が止まる。
「……は?」
「この街の王だ」
「軍を揃えろ」
「対抗勢力を作れ」
アリューの思考が止まる。
「え……えぇぇ!?」
ユウが吹き出す。
「ちょっと待って、急展開すぎる!」
だがグラナディスは本気だ。
「明日、領主に話しに行く」
「話は通る」
当然のように言う。
「ギリューも」
「シリューも」
「ユウも」
グラナディスが順に見る。
「仇、討ちたいだろ」
その言葉に三人の目が変わる。
ギリューは歯を食いしばる。
「……やる」
シリューも静かに頷く。
「協力する」
ユウはニヤリと笑った。
「面白くなってきたじゃん」
そして立ち上がる。
「じゃあさ」
全員の視線が集まる。
「ワイバーン空軍、作ろうよ」
「……は?」
今度はアリューが固まる。
「ザックル師匠も呼ぼう」
「村も再興してさ」
ユウの目が輝く。
「この街学校もあるし、ワイバーンに乗りたい子供、絶対いるよ」
シリューも口を開く。
「回復術師の育成も必要ね」
ギリューも笑った。
「俺は訓練担当だな」
オーガたちが拳を叩く。
「任せろアニキ!!」
一気に加速する。
誰も止めない。
誰も疑わない。
焚火の炎が揺れる。
その向こうで未来の話が、次々と形になっていく。
国家。
軍。
教育。
空軍。
すべてが、たった今酒の席で決まりつつあった。
アリューは呆然と呟く。
「……まだ領主に話してないよな?」
グラナディスは笑った。
「明日でいいだろ」
夜は更ける。
だが――
彼らの世界は、ここから大きく動き出す。




