第85話 青竜の憩いと五人の弟子
「……なあ、グラナディス」
アリューが腕を組んで言った。
「この家……誰か住んでるのか?」
グラナディスはあっさり答えた。
「ああ、お前の弟子だ」
「……は?」
全員の動きが止まる。
「弟子?」
ユウが首をかしげる。
「そんなのいたっけ?」
シリューも眉をひそめる。
グラナディスはニヤリと笑った。
「今、大衆浴場で働いてる」
「見に行くか?」
「……驚くぞ」
そう言いながら、ようやくパンツを履く。
「先に履けよ……」
ユウが呆れる。
グラナディスは気にせずTシャツをかぶる。
そこには大きく文字。
青竜の憩い
アリューが指さす。
「それ……作ったのか?」
「ああ、スタッフ全員これだ」
さらにズボンを履き終え、さっさと歩き出す。
五人もついていく。
裏庭へ。
そこから直接、大衆浴場の裏口へと入っていく。
扉を開けた瞬間、熱気と賑わいが押し寄せた。
まず目に入ったのは売店。
そして。
店員。
「……オーガ?」
アリューの目が見開かれる。
そのオーガと、目が合う。
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「アニキィ!!」
店内に響く大声。
「ご無沙汰してます!!」
ドタドタと駆け寄ってくる。
「ここで働かせてもらってます!グランの旦那に許可もらいやした!」
勢いがすごい。
その声に反応して受付から、さらに三体のオークが走ってくる。
そして。
その場で跪いた。
「アニキ……!」
「お帰りで……!」
完全に部下である。
ユウが小声で言う。
「……何これ」
シリューも困惑している。
アリューは額を押さえた。
「いや……ちょっと待て」
グラナディスが腕を組む。
「お前らがいなくなってから、ギルドから討伐依頼が来てな」
「ああ?」
「お前らいないだろ」
「だから俺が行って、片付けてきてやるって言ったんだ」
さらっと言う。
「そしたらこいつらがいてな」
オーガとオークたちを親指で指す。
「話を聞いたら、“アニキを探してる”って言うんだよ」
オーガが大きく頷く。
「はい!!」
「でな、雷撃魔法を使って、ワイバーンに乗るって話を聞いてな」
グラナディスがニヤリと笑う。
「それ、アリューだろってな」
アリューがため息をつく。
「……まあ、そうだな」
「だから連れてきた」
あまりにも雑な流れだった。
だがオーガたちの目は本気だ。
尊敬と忠誠が混じっている。
「で、だ」
グラナディスが話を続ける。
「この街の領主……サルデル子爵だっけか」
「サルダル子爵!」
オークの一体が訂正する。
「おう、それだ」
まったく覚えていない。
「そいつに懇願されてな」
「前に追放した伯爵がいたろ」
「ああ……」
アリューが頷く。
「あれで後ろ盾がなくなってな」
「王国からの徴税も止まって、逆に不安になったらしい」
「それで、この街の後ろ盾になってくれって頼まれてな」
ユウが呆れた顔をする。
「軽く引き受けたの?」
「まあな」
当然のように言う。
「その代わり、家を拡張していいか、温泉を広げていいかって聞いたら」
「全部OKだとよ」
シリューが周囲を見渡す。
「……それでこれか」
「資金も全部あっち持ちだ」
グラナディスは満足そうだ。
「で、ついでに考えた」
にやりと笑う。
「このオーガたち使えば、俺くつろぎ放題じゃねえかってな」
オーガたちが一斉に胸を叩く。
「お任せくださいアニキ!!」
完全に従業員である。
その時、奥からさらに足音。
頭にタオルを巻いたオーガが走ってくる。
「アニキィ!!」
これで五体。
オーガ五人衆、全員集合。
店内の客たちがざわつく。
「あれ……」
「ワイバーンライダーじゃないか?」
「しかもオーガが……」
視線が一斉に集まる。
アリューは軽く頭をかく。
「……なんか、すごいことになってるな」
ユウが笑う。
「完全に顔役だね」
シリューは小さく息を吐いた。
「静かに暮らす気は、最初からなかったな」
グラナディスは腕を組み、満足そうに言った。
「いいだろ?」
湯気の向こう。
賑わう大衆浴場。
そして新たに増えた“弟子たち”。
この街は、もう完全に彼らの拠点になっていた。




