第84話 奪われた視界、与えられた光
五人は家の中へと足を踏み入れた。
そして――
全員が言葉を失った。
「……広すぎない?」
ユウがぽつりと呟く。
以前の面影は、確かにある。
だが、それはもはや“別物”だった。
リビングは大きく拡張され、開放感のある空間に変わっている。
奥には広いキッチン。設備も明らかに充実していた。
シリューが歩きながら壁に触れる。
「本気で改築したな……」
さらに奥へ進む。
風呂場。
そこには湯が溢れ続ける巨大な浴槽。
「これ……温泉引いてる?」
アリューが呟く。
湯気が立ち込め、常に新しい湯が流れ込んでいる。
「やりたい放題だな……」
ユウが半笑いで言った。
だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。
階段を上がる。
二階。
並ぶ扉、扉、扉――
「……多くない?」
シリューが数える。
「一、二、三……」
「……二十一部屋あるぞ」
全員が沈黙する。
明らかに多すぎる。
アリューが一つの扉を開ける。
中は寝室。
だが――
「……誰か使ってる?」
ベッドの布団は捲れたまま。
テーブルの上には飲みかけのお茶。
生活感。
別の部屋も同じだった。
六部屋ほどに、人が住んでいる痕跡がある。
「……誰だよ」
ユウが眉をひそめる。
「勝手に住んでるのか?」
シリューも警戒する。
アリューは首を振る。
「いや……そんな気配は」
その時だった。
――ガチャ
玄関の扉が開く音。
全員の表情が変わる。
「誰だ!」
すぐに階段を駆け下りる。
構える。
そしてそこにいたのは、グラナディスだった。
「……なんだ」
一瞬、力が抜ける。
だが、すぐに違和感に気づく。
「……血?」
ユウが呟く。
グラナディスの手。
そこには、べっとりと血がついていた。
そして何かを持っている。
グラナディスは平然と言った。
「おい、目なし」
ギリューが反応する。
「……はい」
グラナディスはニヤリと笑う。
「いいものやる」
そう言って。
手に持っていたものを掲げる。
それは――
「……目?」
誰かが呟いた。
生々しい。
まだ血の温もりが残っていそうな。
「今とれたての、ゴブリンキングの目だ」
あまりにも軽い口調だった。
「は?」
誰も理解が追いつかない。
だが次の瞬間。
グラナディスは一切の迷いなく動いた。
「ほら」
ギリューの顔を掴む。
そして。
その目玉を空洞に押し込んだ。
「ぐあああああああ!」
ギリューが叫ぶ。
全員が固まる。
だがグラナディスは止まらない。
「シリュー!」
「……っ!」
「手を貸せ!」
一瞬ためらう。
だがすぐに覚悟を決めて近づく。
「お前は回復魔法を、全力でかけろ」
短く指示。
「俺が合図したらすぐだ」
グラナディスの手が光る。
青い、きらめく魔力。
それがギリューの目に集まっていく。
「……いくぞ」
空気が張り詰める。
「今だ!」
「――っ!」
シリューが両手をかざす。
緑の光。
ありったけの回復魔法。
一気に流し込む。
「うあああああああ!!」
ギリューが叫ぶ。
「痛えのか……気持ちいいのか……わかんねぇ……!」
身体が震える。
だが、光は止まらない。
青と緑が交差する。
そして――
「よし」
グラナディスが手を離した。
静寂。
ゆっくりとギリューが顔を上げる。
そこには目があった。
しっかりと、はまっている。
まるで最初からそこにあったかのように。
ギリューが瞬きをする。
「……」
そして。
「……見える」
小さく呟く。
次の瞬間。
「見える!!見えるぞ!!」
叫んだ。
そのままアリューに飛びつく。
「アリュー!!」
強く抱きしめる。
「こんなに立派になって……!」
アリューが戸惑いながらも笑う。
「いきなり親みたいなこと言うな」
ギリューは離れない。
次にシリューとユウにも抱きつく。
「ありがとう……!」
ユウが苦笑する。
「ちょっと苦しいって!」
シリューも小さく息をつく。
「……成功か」
少しだけ、安堵の色。
その光景を見ていたラ・セレール。
何も言わずただ、ぽろりと涙をこぼした。
それは静かで、あたたかい涙だった。




