第83話 変わりすぎた我が家
やがて一行は、チェリーの街へと戻ってきた。
見慣れたはずの景色。
だがどこか違う。
アリューが首をかしげる。
「……あれ?」
視線の先。
自分たちの家があるはずの場所。
そこにあったのは、妙に大きな建物だった。
「おかしいな……」
記憶を辿る。
「たしか、この辺だったはず……」
シリューも目を細める。
「いや、場所は合ってる」
ユウも周囲を見回す。
「でも……こんなの無かったよね?」
三人は一度上空で旋回する。
確認のために、ぐるりと街を見渡す。
他の風景は一致している。
道も、建物の配置も、記憶通り。
だからこそ違和感が強い。
「やっぱりここだよな……」
アリューが呟く。
そして。
もう一つ、決定的なものが目に入る。
家の裏側。
そこに広がる大きな露天風呂。
しかもワイバーンがそのまま入れそうな規模。
ユウが目を丸くする。
「……やっぱりあれ」
シリューも呆然とする。
「でかくなってる?」
アリューは確信する。
「……ここだ」
間違いない。
三人はゆっくりと高度を下げ、裏庭へと降りた。
着地。
ワイバーンたちが翼を畳む。
そして。
その視線の先。
露天風呂の中。
そこにいた。
「……」
沈黙。
そして。
「……ただいま」
アリューが言う。
風呂の中の存在が顔を上げる。
「おう!おかえり!」
グラナディスだった。
完全にくつろいでいる。
湯に浸かりながら、腕を広げる。
「どうだ?」
その一言に、空気が少し沈む。
アリューが目を伏せる。
「……父は」
一瞬詰まる。
「殺されてたよ」
静かな声。
シリューもユウも表情を落とす。
だが、グラナディスは首をかしげる。
「違う違う」
軽く手を振る。
「家だよ、家」
当然のように言う。
「見ろ」
三人がもう一度建物を見る。
改めて見ると明らかに大きい。
以前の三倍はある。
ユウが呟く。
「……でかくない?」
シリューも頷く。
「なんでこうなった」
グラナディスが胸を張る。
「温泉を拡張した」
誇らしげ。
「ついでに隣に大衆浴場も作った」
アリューが固まる。
「……は?」
グラナディスはさらに言う。
「俺が運営してる」
自信満々だった。
全員が無言になる。
理解が追いつかない。
五人とも、ぽかんとした顔で立ち尽くす。
ワイバーンから降りるのも、どこかぎこちない。
その時、グラナディスの視線が一人に止まる。
「……ん?」
じっと見る。
「お前……」
ゆっくりと立ち上がる。
当然のように裸のまま、ギリューの方へ歩いていく。
「目が無いのか?」
その言葉に、ユウとラ・セレールが同時に叫ぶ。
「きゃああ!」
だが、グラナディスは全く気にしない。
普通に歩く。
普通に近づく。
ギリューも苦笑するしかない。
「……まぁ、そういうことだ」
グラナディスは腕を組む。
じっと観察する。
そして。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと次の瞬間。
グラナディスの背中から羽だけ生えて、そのまま飛び上がった。
裸のまま。
一直線に空へ。
あまりにも自然な動きだった。
全員がそれを見上げる。
そして。
沈黙。
ユウがぽつりと言う。
「……なにあれ」
シリューも呟く。
「意味がわからん」
アリューは額を押さえる。
「いつものことだ」
ラ・セレールも呆然としている。
その横でワイバーンたちは勝手に動いていた。
まるで自分の家だと言わんばかりにのそのそと露天風呂へ向かう。
そして足を湯に入れる。
気持ちよさそうに、じっとする。
完全にくつろいでいる。
ギリューが小さく笑う。
「……いい場所だな」
その言葉に、三人も少しだけ力が抜けた。
色々ありすぎたが帰ってきたのだと、ようやく実感する。
ただし、思っていたより、ずっと騒がしい場所になっていたが。




